「あ、松本先生、美味しそうなもの食べてますね。」
「これ?昨夜、従兄が作ってくれたんです。見た目と違って、味が無いんですよ。」
「ジャガイモなんて、いい色に染みてるのに。」
「このソースをかけると・・・うん。美味しい。」
「松本先生、本当においしそうに食べますよね。」
「だって、本当に美味しいから。ジャガイモは、北海道から届いたばかりの新ものですからね。」
「あ、そう言えば・・・お食事中にごめんなさい。13時に、刑事事件の相談に被疑者の御友人という方がいらっしゃるようです。こちらがその事件の概要です。」
「ありがとう。この件、あの人知ってるの?」
「佐田先生には、資料お渡ししていますよ。」
「何か言ってた?」
「『松本へ渡しておけ。』とだけ。」
「ふうん。じゃあ、金にならない案件なのかなぁ?」
「さぁ、そこまでは知りませんが。」
「13時ね。ありがとう。」
俺の名は、松本潤。
ここ、斑目法律事務所で、刑事事件専門ルームの弁護士をしている。
以前は個人事務所でやっていたけど、2年前に斑目先生にスカウトされて今に至るってとこかな。
さっき僕と話していたのは、中塚さんと言って、プロレスと食べものには目が無い、ここのパラリーガル。
佐田先生は、ここの刑事事件専門ルームの室長。
まぁ、民事も兼任してるから、最近はあんまり口出しして来ないけど、有名人絡みの事件や多額の金が動く案件には目が無い。
その佐田先生がスル―したってことは、これはどっちでも無いってことだね。
13時ピッタリに、その被疑者の友人という人は、この事務所にやってきた。
「斑目法律事務所の、松本です。よろしく・・・・って、先輩?」
「久しぶりだな、松本。」
「どうして櫻井先輩が・・・。」
「松本、お前、弁護士になったんだな。」
「は、はい。・・・あの、まずは座って下さい。」
「ああ、ありがとう。松本が引き受けてくれたら、心強いな。」
俺の前に現れたのは・・・櫻井翔。
俺の、中学・高校の先輩。
櫻井先輩は生徒会会長で、俺は書記だった。
家が同じ方向だったというのもあって、生徒会の仕事が終わった後は、一緒によく帰っていた。
憧れの先輩で・・・俺がずっと好きだった人。
だけど、その当時櫻井先輩には、付き合っている人が居た。
だから、僕はそっと見ていることしか出来なかったんだ。
僕の想いは、ずっと封印したままだった。