最初に光州の住所をお断りされてから毎日チェギョンの家に通い詰めているが、光州の住所を教えて貰えず、一緒にいるユルに慰めて貰ってばかりいた。

オレの家に皆で集まって、テディベアの事を語り合っても、チェギョンのいない場所は寂しかった。

インはパリに帰ってしまったヒョリンを追いかけて行き、暫くは戻ってこないと連絡が着た。

前から薄々感づいていたが、インは小さい頃からヒョリンの事が好きだったが、オレとヒョリンが付き合うようになり自分のキモチを隠していたそうだ。

インの初恋が実り、今はパリで二人で暮らすと時差のある街から今日の朝メールが届いた。

ファンは毎日のように、オレの家でお菓子を作り、ガンヒョンへの告白をお断り続けられているギョンに振舞っていた。

ファンも、家の家業を継がないといけないのに、パティシエの夢を捨てれないと悩んでいる

オレもチェギョンと会えずに辛い日々を過ごしていたが、チェギョンに会えない日々がキモチを深め、帰ってきたら直ぐにオレのキモチを伝えるつもりだ

どのくらい好きで、どんな事も二人なら乗り越えられると何度も何度も伝えるつもりだ。

チェギョンの兄貴代わりのユルへは、オレの本当の気持ちを伝えずにいた。

なんせ、同性愛者の恋はまだ快く思われていないのは現実問題で、可愛いチェギョンの兄代わりのユルが許す訳がない

フーッと溜息を吐いていると、手は何時もの習慣のアルフレットを掴もうと探し続けていた。

チェギョンにオレの分身として持って貰いたかった親友のアルフレット。

急に皇太子になってしまい不安な顔をしているオレに、おじい様が与えてくださったテディベア。

小さい頃からずーっと大事にしていたアルフレッドを、思い切ってチェギョンに預けてしまうほど繋がりが欲しかった。

アルフレッドを探していた手を止め、側にあった紅茶のカップを持ち上げ、ふと思う。

アルフレッドはチェギョンから可愛がられているのだろうか?そして、ハッピーと仲良くやってるのか、ふと顔を上げクスッと笑ってしまう。

オレが選んだチェギョンだぞ、心配する事なんかない。アイツなら大丈夫。

突然テーブルに置いてあった携帯のベルが鳴りひびく。

画面にはコン内官と言う表示が出ていたので、通話ボタンを押し出てみると

「お久し振りです。殿下。お元気だったでしょうか?」久々な声に安堵を覚えるが

「元気だが、何用だ?」

「皇太后の指示に寄り、妙後日にお迎えに向かいます。」

「来年以降じゃないのか?」

「いえ、殿下の許婚のお嬢様と対面させるそうです。」

「オレは皇太子を辞退すると申し出た筈だが。」目を瞑り深い溜息を吐く。

「それはまだ未定のままです。又、近くになられたらお電話差し上げます。」

声だけで、コン内官が頭を下げているのが分かる。

「では、失礼致します。」携帯をテープルに置く。

「やはり、話は進んでいなかったか。」だよなー、真の皇太子になる為に、膨大な時間と費用それを国の税金で賄ってきたのを台無しにしてしまうなんて、誰が許すもんか。

でも、男のチェギョンを好きなのに、偽りの気持ちで許婚と婚姻するのは絶対に嫌だ。

お祖母様と両親に、誠意を持って皇太子辞退を説得しに行かないとな。









コン内官の出迎えの車に乗り、通い慣れた宮に行くものだと思っていたら

「コン内官、この道だと別方向だが?」

ソウルの中心部には向かわず漢江沿いの道をずーっと西に向かって走り続ける

「皇太后様の御要望です。」ニッコリと笑って前を向く

おばあ様のご希望だったら何も言えない。ここは諦めてこのドライブを楽しむしかない。

進む度ににビルの数が減り、段々畑が増えてくる。

ソウルの中心部から離れると、昔ながらの光景が広がる。

クリスマスからチェギョンと会えないでいたのでずーっと苛立っていたが、こういう風景を見ていると少し心が落ち着く。

海沿いに出て走っていると、昔来たことがあった場所に辿り着いた。

車から降りると一人の男性が近づいてきた。

「お久し振りです」深々と頭を下げてる男は、昔見た事のある白髪の男性

白髪でイメージが変わってしまったが、顔自体はあまり変わっていなかった。

「お車の移動,お疲れ様でした。どうぞ、こちらでお休みください」

招き出された右手は、古い建物への誘導となる

久々なスーツを着ているオレは革靴を脱ぎ、磨き上げられた床の上に足を下した。

シーンと静まり返ったこの家に、オレの床を踏み進む音が響く

最近、靴を履いて生活している為か、自分の足で木に触れるという心地良さ。

韓国の伝統家具達に囲まれた場所を奥へ奥へと進み、まるで過去へトリップしてしまった感覚。

「どうぞ、こちらでお待ち下さい。」部屋の扉を開けると誰もいない。

お祖母様や両親がいるもんだと思っていたので、予想外だ。

「今日はお一人で許婚のお方とご対面だそうです。」

ソファを進められ、ゆっくりと座った

「では、女官にお茶を持って来てもらいましょう。」

お辞儀をして退室した後に、コン内官が入ってきた。

「殿下の許嫁のお方は、隣の部屋で支度中です。少々お待ちください。」

「分かりました。」

オレはチェギョンに告白をして一緒になるんだ。申し訳ないが許嫁さんとはなかった事に。

「殿下、許嫁のお嬢様の名前とお年はー・・・。」コン内官が続きを言おうとしたのを

「いりません、覚える気がないので省略で良いです。今日はあの三人の御方達のメンツの為に来ただけですから。」

どうせ今日限りの対面だ。

「お年は少し若いですが、とても可愛いお方ですよ。」

ニコニコと褒めるコン内官を見上げるが。オレのチェギョンの可愛らしさには勝てない。

「失礼します。」この屋敷の女官がお茶を持って来た

お茶の支度を整えたら「では、私達は退室します。」

そそくさと出て行こうとしたのをオレは呼び止めた

「オレは許嫁の支度が終わるまでここで待っていれば良いのですか?」

「はい。」一言を言い残して、コン内官と女官はこの部屋を出て行った。

コン内官の違和感を感じながらも、仕方ないここは黙って許嫁が来るのを待っていよう。

女官が持ってきたお茶を一口飲むと「うん?変わった香りが残る」微かな漢方の香り

「風邪引いてないが。」高校の時にオレの体調を見計らっては、お茶の種類を変えていたコン内官

「このお茶は初めて飲む。」一口飲んだら急に喉が渇き、グイグイと飲み干す

飲み終わり、携帯を出してチェギョンからラインが着ていないのか確かめようとしたが

「熱い。」体の奥底から湧き上がる熱がオレの身体を支配していく

「おかしいぞ・・何だこの熱さは・・?」

ネクタイを外して、ワイシャツのボタンを何か所か外す。

「熱い・・」はあ・・はあ・・と息が苦しい。部屋を出て誰かに水を貰おうと立ち上がった

廊下に出ると、隣の部屋から2人の女官達が足早に出て行った。

「オイ。ちょっと待て。」呼び止めたのに、二人共逃げるようにいなくなった。

追いかけようと歩き出すと隣の部屋の引き戸が少し開いていた。

許嫁がどんな女だろうか・・、少し見てやろうと扉の隙間から中を覗いた

一人掛けの椅子に韓服を着た女が後姿でいた。

眩いばかりの髪を三つ編みにして背筋を伸ばして座っている姿

この位置では、顔が見えないので、体を少しずらしと横顔が分る。

「!!」白い抜けるような肌に、赤くぷっくりした唇。俯き加減の目線が又幼さを感じ・・髪の毛が光り輝く艶やかな・・・その髪を見るとチェギョンを思い出す

「幻覚か・・?」オレの知っているチェギョンはオトコだ。こんな所にいる筈もない

チェギョンに会いたくて、会いたくて、許嫁がチェギョンに見えてしまっているだけじゃないのか?

椅子に座っていた許嫁は、パタパタと顔を仰ぎ、荒い息をし出した

韓服の裾をヒラヒラと動かしていたが、立ち上がり裾を持ち上げ、中の下着の服を脱ぎ捨てた

白くて細い足が現れた途端、オレの理性がぶっ飛びそうになる

いかん。許嫁がいくらチェギョンに似ているからって、あれは幻だ。ブルブルと頭を振り理性理性と呪文のように唱えていると

「熱い・・。」許嫁は韓服の長い紐を外した

あのお茶を飲んでから喉の渇きが収まらずに、荒い息を繰り返し、何時も冷静な行動を心掛けていた理性のブレーキの歯車が噛み合わなくなり、全身の血が暴走し始める

チェギョンに似た女を食らおうとするオトコになったオレは、目の前の引き戸を力強く開いて、中にずかずかと入って行き

驚き振り向こうとした許嫁を抑え込み、無理矢理本当はむしゃぶりつきたかった赤いぷっくりした唇に自分の唇を押し当て、彼女の舌に自分の舌を絡ませた。

乾ききっていた喉は、彼女のオレの唾液が絡まり、もっともっと欲しがる

2人の舌が交わり、荒い息が絶えまなく続き、オレの腕から逃げようとバタバタと暴れている許嫁を抑え込みながら、体を弄る。

女の身体にまだなりきっていない少女のような体。

白くて細い足は適度な柔らかさに、無我夢中に触り続ける

乱れた韓服の隙間から中に滑り込もうと手が動き出した途端

「嫌ー―っ止めてー!」バシッと頬を叩かれた

ジンジンと熱くなり始める頬を抑え、ハッ!理性を失い、本能のまま動いていたオレを、許嫁の強烈なビンタがオレの頬をHITする。

「いってー。」

ヒョリンに叩かれた頬と同じ場所を叩かれたオレは大きな声を出してしまった。

名も顔も知らない許嫁を手籠めにしようと止められたオレは、理性を取り戻し恐る恐る顔をあげると

ボロボロと泣き続ける、会いたくて会いたくてずーっと恋焦がれたチェギョンがいた。

「・・シン兄貴・・何でこんな事するの?」

輝く三つ編みの毛はずれて床に落ちていた

「・・チェギョン・・か?」

どういう事だ?あまりの驚きに熱い体が一瞬に冷めきってしまった

「女の体だった・・・・チェギョンお前女だったのか?」取れたカツラと同じ輝きの髪の毛の持ち主

目からは涙が溢れぐしゃぐしゃだが、やはりチェギョンだった

泣きながら乱れた韓服を体の中心に集め、立ち上がってバタバタとこの部屋を出て行ってしまった。

放心状態で床に座り込んでいるオレの傍には、チェギョンが付けていた光り輝く三つ編みのウィッグが落ちていた

ウィッグを持ち上げ「チェギョンは女だった。」

チェギョンと同じ髪質を撫でながら呟くと、目線の先にチェギョン愛用のバックが置いてあった。

ノロノロと立ち上がりバックを持ち上たら、中からハッピーとアルフレッドが出て来た

「ハッピー、アルフレッド・・。」チェギョンはこの二人を大事に連れて歩いていてくれた。

丁寧に取り出すとハッピーは紺のブレザーにスカートを履き中にはジャージも履いていた。

アルフレッドは同じブレザーに生成り色のスラックスを履いて。

ハッピーとアルフレッドを並べると、二つのぬいぐるみはピタッと寄り添いあう。

二人のようにチェギョンと仲良くなりたかったのに。

幼いチェギョンに、男の性を見せつけてしまったオレは、ハッピーとアルフレッドをギューっと抱きしめ

「ハッピー、アルフレッド。オレはチェギョンに酷い事をしてしまった。」小さな声は震え、そして涙声に変わっていった。