「ヒョリンとインは、雪のせいでソウルに着陸出来ず、急遽釜山に変更になって今着いたみたいだ。で、KTXに乗って、こっちに向かうそうだ。」

オレは携帯をコートの内ポケットに入れ、溜息をつく。

「無事に韓国に着いたんなら、良かったね。」

「ああ。」そうだ。ヒョリンに会ったら言わないといけない事がある。

「ガンヒョン、君に聞きたいことがある。チェギョンの家は何処にある?」

「チェギョンの家・・ライバルなんかに簡単に教えないわ。」フンッとそっぽを向くガンヒョン

「頼む。明日には光州に行ってチェギョンにオレのキモチを伝えに行く。」

「チェギョンは純情なんだから、イ・シンさんのキモチを聞いてビックリして嫌いになるかもよ。」メガネが光る

「1回くらい嫌われたって、気にしない。何度だってトライするのみ。」こんな格好していて信憑性はないけどな。

「教えてあげるけど、もう遅いから明日にしてください。」

「遅いって・・・」携帯を見るともう9時になろうとしていた

「本当だ、もうこんな時間か。」人様の家に訪問するのにはもう遅い時間だ。

チェギョンの住所を教えて貰い「ガンヒョン、とても助かった。感謝する。」

「ふん。私のキモチが変わらないうちに、もう行ってください。」ギョンはどうしてもガンヒョンとパーティに行きたかったが、ガンヒョンに何度も断られて、トボトボと歩いている。

ガンヒョンのバイト先で騒いでしまい「騒いでしまい済まなかった。」と謝った。





ギョンとファンに送られてオレは自分の家に着いた

「光州に行くのは明日だろう?少しは顔出して行けよ。」大学の仲間たちのクリスマスパーティはもう始まっている

「いや、今日は止めとく。インとヒョリンを出迎えないとな。」真面目な顔

「わかった。じゃっ、又なー!」女装いや、コスプレ姿の二人はオレを置いて行った。

そういうオレも完全女装の形をしていて、二人のことを言えないけどなっ。取り敢えず、インとヒョリンが来るまでに着替えないとこんな姿のままじゃ真剣な話も出来やしない、慌てて中に入った。








ソウルタワーのロープウェイ乗り場に車を止め、ジーっと待っていたら一台の車がやってきた。

オレは分厚いダウンを着込み外に出た。

着込んでいるのに、寒さが半端ない。そして少し歩くとキュウッキュウッとブーツの底が雪を掴む音がする。

「シン!」車から降りて走ってくる久々なヒョリンの姿。

その姿を見ても、チェギョンに対する気持ちと全然違う事を感じた。

駆け寄りオレに抱きつこうとしていたのを、手で止める。

「ストップ。」

「シン。パリから駆けつけようやく会えたのよ。」早口で喋りオレに近づこうとする

「ヒョリン、今何時か分かるか?」ロープウェイの場所にある大きな時計を見上げる。

「午前12時40分よ。」時計には雪が積もり辛うじて数字が見える

「クリスマスは終わった。カップル達の大事なイベントを又二人で迎えることが出来なかった。」見上げるソウルタワーの輝きは終わり、武骨な鉄塔にしか見えなかった。

「だって。この雪のせいでソウルに降りれなかったのよ。釜山から駆けつけるのに時間が掛かったわ。」

「確かにそれは仕方ないが、オレとお前はカップルとしては運がないらしいな。ソウルタワーの南京錠も外れて下に落ちてしまったし。」フーッと溜息を吐く

「そんな事ないわよ。シンと私は離れていても心は繋がっているって、ついこの間シンが言ってくれたわ。」

「そうだな。そんな事も言ってたな。それはきっと暗示だな。そう言っていないと二人の関係は終わりそうだったから。」ソウルタワーで一人待つ長い時間は寂しかったという記憶しかない。

「何時もお前の事をずーっと待ってた。バレエの練習に夢中になり遅くなっても此処でよく待ってた。

オレは物分かりの良い彼氏を演じながらも、心の中ではバレエなんかよりオレの傍にいて、言葉を交わし、体を寄せ合う事でもっともっと仲を深めたいと思っていた。

でも、お前は何かあると幼馴染のインに甘えたり相談しているのを見て、なんで彼氏のオレじゃないんだって嫉妬してた。

二人で本当の事を言いあえずに、お互い良いカップルを演じようと無理していた。」

「シンが将来この国の皇太子としてデビューするには妻と一緒と言う掟を聞かされ、それに見合うためには私にはバレエしかなかった。だから必死になってバレエをやっていたのに、シンも理解していたじゃない?」縋るヒョリン。

「バレエに夢中になり過ぎて、オレを置いてパリに行ってしまい、終いには浮気までしてしまった。」車から降りてこちに来るインの姿が見えた

「だって、ようやく昇級試験に合格して、お祝いのパーティーで羽目を外してしまい朝起きたらパートナー役のルイと…。ごめんなさい。シンもうこんな事はないから。許して。」辛そうな表情

「それはもう良い。過ぎた事だ。オレはそんな事を言いたいんじゃない。」しっかりとヒョリンを見る

「ヒョリン、オレとお前の道はもう同じ方向を見ていない。お前はバレエのエトワールを目指すと良い、オレは皇太子を辞退して、ソウルタワーで出会ったエトワールと共に歩きたいと思う。」

「皇太子を辞めるの?そんな事許されないわ。シンが皇太子になって私が隣に立つために今まで頑張ってきたのにー!それからソウルタワーで出会ったエトワールって、どういう事よ!」

ヒョリンが今まで見た事もない凄い形相でオレの傍にグイッと来ようとしたのを、インが止める

「落ち着けって。ヒョリン。」

「落ち着いてなんかいられないわ!浮気がバレてしまい、どうやって言い訳したらいいのか、インに相談してたのに。皇太子じゃなくなったらどうすんのよ!

私がシンの為に一生懸命やっていた事が、全てがオジャンになってしまうのよ、それに他の女を好きになるなんて、ありえない!」

バシッとヒョリンの右手がオレの頬を直撃した

「!!」突然の事で避ける事が出来なかった。

「ヒョリン!」オレの後ろの方から声が聞こえ、バタバタと近寄ってきた。

「止めろって。」ギョンがヒョリンの右手を止める。インは左手を止める

左頬を抑えながら「お前達クリスマスパーティ終わってない筈だぞ。」ジンジンと痛みが増す

「シンとヒョリンの行方を見届けてあげないとって、慌てて来たんだけど・・。遅かったね。」しかめっ面をしているオレを覗き込んでくる

「彼女として彼氏への最後のプレゼントだ。しっかりと受け取ったぞ。」頬を抑えながら自分の車の方に向かう

「シン!待ちなさいよ!本当に私と別れるつもりなの?何の為にここまで来たのよ!浮気をした女は何処にいるのよ!?」

捕まれている手を振り払いオレの元に来ようともがいているヒョリン

「お前気がついてないかもしれないけど、オレの相手の事よりも皇太子の辞退を優先したな。お前がオレの事を本気で好きじゃなかったと言うのを、ちゃん理解出来た。

それと、浮気じゃないぞ。本気の恋だから、あと一つ女じゃなくてオトコだから。」

車のドアを開け中に乗り込んだ

「オトコ・・・?」意外な言葉を残されたヒョリンは魂が抜けたように静かになった。









次の朝、ガンヒョンから教えて貰った住所をナビにセットして、チェギョンの家まで着いた。

チェギョンから連絡が着ているかと思い、携帯を開いてもアイツらのラインばかりで、肝心なチェギョンのは無かった。

でも、まー。アイツらはあの後ヒョリンを連れ出し、ずーっと酒やカラオケに付き合ってあげたそうだ。

後でなんか奢ってやらないとな。

もう一度、チェギョンとのラインを見ても既読が無い事に、深い溜息をつきガックリとしていると、隣の家、嫌、美容室の扉が開いた。

出てきた男子と目が合い、茶髪の女子みたいな・・・何処かで会った事があるような。

二人で見つめ合い時間が止まる。

先に言葉が出てきたのは「シン?」茶髪の男が呟いた。