「マジで,これ着るのか・・。」

オレの呟きは、このざわついている部屋では誰にも聞こえない。

オレの与えられたウィッグと短いワンピとブーツ。

フランスから遅れてやってくるインを除くファンとギョンとオレは、大学の奴らのクリスマスパーティーに出る為オレの部屋に集まっていた

ファンは元々小柄だから、出来上がった姿にはなんら違和感もなかった。

ギョンは背が高く、厚塗りメイクでウィックを被ったら、あぁって感じな出来映え

でも、本当に全身脱毛してきたので、お前の根性には脱帽だ。

オレも勇気を出して服を着替えだした。

宮の決まり事では、肌を人前で出してはいけないというのがあるけれど、ミニワンピとブーツの間がギリあるくらいだからセーフだろう・・。

ファンからメイクをして貰い、ウィッグを被ったら目の前に知らないヤツがいた。

「これがオレ?」

「シンはアジアン顔が強いから、シャープなメイクにしてみたよ。」

ファンよ、なぜメイクが上手いんだ。

ギョンと二人で並ぶと、2m近くになるので「圧巻だねー。」ファンが見上げる。

「どうだ!」ギョンはニセパイを寄せ、ブルンブルンと震わす

「止めろ。神聖なモノが穢れる。」男子にとってはそこは神の領域だ

「おっ。シンも男子だねー。」ニヤニヤ笑うギョン

「当たり前だ。」そんな言葉を交わしながらも、携帯のLINEの表示が気になる

「ガンヒョンとチェギョン、今日は来るんだろうなー。」

ギョンはこんなに頑張ったからには、ガンヒョンに見せたくてたまらないみたいだ。

何を勘違いしているのか、この頑張りでガンヒョンのキモチを自分に向かせたいそうで…無理だろうな。

「ラインしているんだが、出ない。」何度送っても既読がない。

「俺こんなに頑張ったのに、ガンヒョンが来ないと意味が無いー。」泣きそうな顔になる。

その顔を見ながら、オレだってチェギョンが来ないとつまらない。

こんな風に仲間とはしゃぐクリスマスなんてもう出来ないかもしれない。それに好きなオトコを呼んで一緒にクリスマスを迎えたい。

「もうそろそろ行かないと、時間に遅れるよ。」

ファンは自分の押しアニメキャラの格好をしたままコートを着る。

外は雪が少し残り、段々温度が氷点下に下がろうとしていた。

「女子達は毎日こんな服着ながら、過ごしているなんて大変だな。」コートを着始め襟を立てた。

「なー、シンー、ガンヒョンはー。?」下がるギョンを払いながら外に出た。

止んでいた雪が又降り出してきた。

キョロキョロ見渡しても、二人の姿が見えない。

ラインの既読がつかないから、電話を掛けた。

何度鳴らしても出ない。

「シンもう行くよー。」ファンの声に応じて仕方なく車に乗る。

窓ガラスから外を見上げ、クリスマスに雪が降るなんて、タイミングが良いが、あまり積もって欲しくないなー。段々と風も出てきて、天候が悪くなりそうだ。

ミニワンピの裾から冷たい風が入ってきて凍えるようだったが、車の暖房はその冷たい脚をほぐしてくれるように暖かかった。

何度見ても携帯は、何も表示してくれない。

「悪い、ソウルタワーに行ってもいいか?」焦るオレは運転しているギョンに言う。

「女子はパーティに遅れて行くのが当たり前だからな。俺達が迎えに行ってあげないと。」にやーと笑うギョンの口がグロスで大きく裂けて見えた。








目指すソウルタワーのゴンドラに乗ると、カップル達の目線が痛かったが、オレとギョンはヒールのせいですごい高さから見下ろし、皆を黙らせていたが、ファンは一人真っ赤になって「なんで僕まで行くんだよー」と恥ずかしがっていた。

チェギョンのいるチケット売り場に辿り着いたが、見知らぬ女が立っていた。

「オイ、チェギョンは?何処だ?」焦るオレはそいつの胸元を掴みそうになり、ファンに止められた。

「チェギョンは少しの間休むって連絡がき」話の途中で、オレの目が見開く

「理由は?あー、お前よりガンヒョンの方が分かるだろう?彼女は来ているのか?」自分の恰好を忘れて、ガンガンオトコのままの話し方を通す。

「ガンヒョンって、チェギョンの友達の?」

「そうだ!」ギョンがバタバタと3人分のチケットを買ってきて目の前の店員に渡す。

「行くぞ。」オレとギョンはガンヒョンを目指し、ファンはさっきの女に頭を下げて謝っていたが、無理矢理連れて行った

「こっちだ。」ガンヒョンの働いている場所がわかるギョンは、まるでご主人様に会いに行く犬のように走る。

オレも負けずと走るが、履いた事もなかったブーツのヒールに何度もこけそうになったがこんな所でコケるわけにはいかず踏ん張る

2m近いオレ達が女の格好して、通路を掛けていくので皆ビビッて道を開けてくれる。


目的のフロアに着き、ガンヒョンの場所に急ぐ

女の恰好をした三人が血相を変えて突き進んでくる姿に、ぬいぐるみを整理整頓していたガンヒョンが「ギャーー―っ」叫び逃げる。

「ガンヒョン,俺達だって。」

ギョンが慌てて言うが、恐ろしいモノ達に追いかけられるガンヒョンは逃げ出す

「ガンヒョン、待ってって!」オレの腕の長さで彼女を止めた

恐怖で顔が歪んでしまっているガンヒョン

「オイ、チェギョンは?何度ラインしたのに全然出ないんだが?」焦るオレは早口になる

「チェギョン?・・・・・・もしかして貴方達って・・。」

オレはウィッグを取り「イ・シンだ。」堂々と言ったが、目の前のガンヒョンは目を見開き間が抜けていたが、ようやく理解で、クスクス止まらない彼女の笑い

「ガンヒョン、笑っていないでチェギョンは?」

話をちゃんと進めようと真顔で言っても、どうやら彼女のツボに入ったようで、小さな笑いは止まらない

「私も良く分からないですよ。何度電話してもチェギョンが出ないから、家に電話したらおばさんが出て釜山の親戚の店を手伝いに行ったって。出掛けるんだったら、一言私に言っててよね。」とちょっと怒っている

「ソウルには居ないってことか。」ガクッと項垂れる。

「イ、シンさん。何度も私の彼にちょっかいかけないでって言ってるのに。」

笑いをやめて、言葉は真剣になる。

「ガンヒョン、君には申し訳ないが、オレはチェギョンの事が好きになったんだ。」

ミニワンピだが、股を開け腹に力を込めて正々堂々とハッキリと言い切った。

オレを見上げるガンヒョンは「チェギョンはオトコなのに?世間が許さないわよ。」腕組みをして威厳たっぷりだ。

「そんなの関係ない。二人の気持ちが真剣なら。」

「ちょっと!私の彼氏よ。それにチェギョンは貴方のこと好きじゃないかもよ。」

食らいつくガンヒョンにちょっとだけ負けそうになるが

「好きになって貰う!」拳に力を入れる。

「チェギョンは見た目は女子みたいだけど、オトコなんですよ。好きになるって事は男同士でって事なんですよ。出来るんですか!」ガンヒョンの真剣な目はオレを射る

一瞬の迷いもなく「女とかやった事ないが、好きなオトコの為なら乗り越えてみせる!」

オトコとオンナがやるもんだと教え込まれてきた人生、禁断の男子との営み、未知なる世界を二人なら超えられる。

「イ、シンさんには彼女が居て、チェギョンには私がいるのよ。」

彼女?・・すっかり忘れていたアイツ

「彼女とは別れる。オレの友達が彼女と話しをして連れてきてくれる。」

「彼女とは、別れるってそんな簡単に別れたら、チェギョンの事もすぐに捨てるんでしょ。」疑いの目

「違う、チェギョンは全然違うんだ。」

言葉では言い表せれないほどチェギョンへの想いが急速に溢れている。

ソウルタワーで出会った誠実なオトコ、シン・チェギョン。

一目で気に入り、限定販売のテディベアを渡し、そしてオレの小さい時からの親友アルフレッドを昨日渡した。

チェギョンと繋がっていたくて、無理矢理渡したが後悔はしていない。

こんな事、高校の時からの彼女のヒョリンにした事がなかった。

「ガンヒョン、信じてくれ。オレは一生チェギョンの事を幸せにする。」

会えないチェギョンの事を思い浮かべ優しく笑った。

ジー―ッと真剣な目で見上げているガンヒョンが溜息をついた。

「まっ、この事はチェギョンが釜山から帰って来てから3人で話し合いましょう。チェギョンがどちらを選ぶのか、ワイロは無しで。」クイッとメガネを直した奥の目がギラリと光った

急に、携帯のラインが鳴った。

「悪い。」ガンヒョンの前を離れた。

「ガンヒョン、チェギョンと別れて、オレと付き合ってくれ、そうすると全て上手くいく」隣で黙って居たギョンがニコニコ笑う。

「嫌よ!アンタお金持ちだし、女にだらしなそうって何度も言ってるでしょ。」

しっしっと追っ払う

「今日はガンヒョンの為に、全身脱毛して女装を完璧にしてきたんだ。どうだ?好きになってしまわないか?」

何時もは小さい目がマスカラアイシャドー、つけ睫毛で数倍にも大きくなったんじゃないかと。

「全身脱毛って、男子にもあるの?」嫌そうな顔

「そう、ケツまで全部。凄い痛かったがガンヒョンの為に頑張った。」エッヘンとえばる

「その頑張りって、何か違うわ。」眉間の皺が深くなり、フーッと溜息をつく

ラインを見終わったシンに引っ張られるギョン。

「まーまー、ガンヒョンさん、君とは今日初めてだね。僕はファンって言うんだ。宜しく。長年友達やってるけどギョンは良い奴だよ。まー確かにこの間まで女癖は悪かったけど、こんなに女子の事を好きになったのを初めて見るよ。だから考えてやってくれないか?」ニコッと笑う。「後ー、ちょっといいかな?」ファンはガンヒョンを誘い出し部屋の隅に移動した。

「ガンヒョンさん、チェギョンが女の子って事をバラさないって、シンの本気を探ってるの?」ヒソヒソと話す。

「えっ!ファンさんは知ってるんですか?」

「あんな可愛い女の子、オトコって思うのは、素直なシンと馬鹿なギョンだけだよ。」ニコーッと笑う。

「ファンさん、ギョンさんの事。」怪しむ

「愛があるから、大丈夫ー。で、どうなの?試すも何もあの二人お互い好き合ってるよね。僕もチェギョンには、カマをかけて彼女いる奴を好きになってはダメだよって、忠告したんだけど。」ねーという顔をする

「何度も諦めようとしていたけど、あれは無理ですね。」二人の意見は一致する。

「シンはチェギョンがオトコだろうと、自分の気持ちを真剣に伝えるみたいだし。」

「チェギョンも諦める事が出来ないから、きっとダメ元で伝えると思うし。」二人は笑いあう。

「我々は少しばかりのアドバイスをして、この恋が実るのを待ちましょう。まー、チェギョンちゃんが早く釜山から帰ってきてくれないとね。」ニヤニヤ。

「ファン、インから連絡がきた。」シンの声がフロアに響いた。