「皇太子を辞めるとはどう言うことか!」

父上の驚きのあまり普段聞いた事がない高いトーンの声

「シン、貴方は五歳の時から皇太子の教育を叩きこまれた完璧な皇太子ですよ。」母上の厳しい顔

「そうですよ。皆がどんなにこの時を待っていたのかー。」おばあ様の悲しそうな顔

オレは、本当の事を言わないでおこうと思ってここに挑んだが。

やはり本当の事を言わないとこの人達は納得しないだろう。

シッカリと三人の顔を見つめ、堂々と言い始めた

「五才の頃から、私は皇太子の教育を叩きこまれ、この年になるまで母上に似た綺麗で賢い女性を妃に迎え立派な皇太子として国民の前に立つものだと思っていました。

それが出来なくなり、本当に心苦しいです。

私、イ・シンは運命の人に出会ってしまいました。」

深々とお辞儀をした。

「運命の人とは。シン、何時も冷静沈着なお前が、心搔き乱すほどの人なのか?」

おばあ様が食らいついてきた

「シンが運命と言う言葉を言うなんて、」父と母は顔を合わせ驚いている。

「その人を思い出すだけで、心搔き乱すどころか、顔まで緩みます。」

三人を説得するにはここを乗り切らないと。

「運命の人とは、どんな女なのだ?」女。やっぱりだよなー。今は性別を黙っておこう

「可愛いですよ。まだ高1で勉強はお世辞に出来るとは言えない方です。」

口元に手を当て咳を一つ鳴らす。

「頭の良し悪しは、何とかチェ尚官に叩きこませれば良いだろうに、なぜ皇太子になれないのだ?」

「高校1年生、15・6さいなら皇太子妃として大丈夫だろう?」

三人の問いかけが1時間ぐらい続き、オレもとうとう言い返す言葉が尽き、ボロッと言葉が出てしまった・

「オトコなんです。」シーンとした部屋に響くオレの声

性別を言わずに乗り切ろうとしたのに、オレもまだまだだなーって落ち込む

「男と言いましたか?」おばあ様、驚きのあまり目が落ちそうです

「おとこ・・・。」呟いたまま顔が固まってしまった母上

凄い形相でオレを睨む父上

三人の目線を一点集中で受け止めているオレの口が開いた

「オレの運命の人はオトコなんです。だから皇太子にはなれません!」

オレの本気の態度を見せる為、姿勢を良くし腹から声を出した

母上とおばあ様の声から落胆する声にもならない言葉が漏れる

どのくらい時間が経ったんだろう、何も突っ込まれないので、心配になってきた、

「シン本気なんですか?5歳の頃から皇太子の教育を受け、これ程までに立派に成長した貴方が皇太子を辞退するとはよっぽどの事なんですね。」

何時もにこやかな顔ではなく真剣な表情のおばあ様

「はい。」チェギョンに対するキモチは、半端じゃない!

「急な事で、我々どうしたら良いのか話し合わないといけない。とにかく皇太子を辞退という事は保留だ。」

「何でこんな事になった事か、大学に入学して一人暮らしをさせたのがいけなかったかも。」辛そうな顔の母上

「運命の相手の名前は?どこに住んで居る?」

「それはまだ言えません。言ってしまうと、皆様が変な行動に出てしまいますからね。」名前なんて教えてしまったら、チェギョンをどっか遠くに行かせてしまうに違いない

「おやっ、シンも分かるようになりましたね。では、皇太子辞退も運命の相手が男って言うのも、ひとまず保留です。許嫁には会って貰いますよ。

あのお方の言葉は絶対ですからね。」口元は笑っているが、目が笑っていないおばあ様

「会いたくはないですが、おじい様のお言葉は絶対なのでお断りは出来ません。会うだけですからね。」念を押す

「直ぐに許嫁を探し出し、男よりも女の方が良いと思わせますよ。」何時もの優しい顔の戻ったおばあ様

「歴代の皇太子の中には、表ざたにはなっていないが男色もいた。それでも皇太子妃を娶り子をなした。お前もそれで。」

「そんな事をしては、オレの運命の人と皇太子妃になった二人が悲しみます。オレはそういう選択はしたくありません。」父上と母上をきつく見る

父と母は愛のある結婚ではなかったので、夫婦仲は良くなかった。

「まーまー、結果はまだ先です。取り敢えずは許嫁に会う事です。」

おばあ様の言葉を受け「承知いたしました」と深々と頭を下げた。






バタン。

車の扉を閉めた音にハッとした。

ヤバっ、無意識に車に戻ったって事かーっ。深い溜息が出てしまう

あのお三方の元からよく無事に帰って来たものだ。

ハンドルを強く握りしめる。

エンジンスタートのボタンを押すと、静かに車のエンジンが動き出す

「ハッキリと言ってしまったが、悔いはない。」

真っすぐに見つめる宮の庭に雪が降り始める。

灰色の重苦しい雲からシンシンと落ちてくる雪は、昨日までの雪に覆い被っていく。

雪の落ちてくる光景を見ていたら、無性にチェギョンに会いたくなった


此処に来る前にチェギョンに会って来たというのに、又会いたくなるとは。

ヒョリンの時にはこんな事はなかった。

彼女のバレエを邪魔しないよう、できるだけ気を使っていた付き合って来た。

それが、チェギョンに飽きられようが、怒られようが、顔が見たくて仕方がない。

ギリギリ、バイトの時間まで間に合うな。

宮配給のハイグレードのドイツ車を走らせ、南山に向かった









チェギョンの顔が見れるだけで良いので、チケットも買わずに行こうとしたら、チェギョンの傍に男がいた。

オレの足がギュッと立ち止まってしまう。

明らかにオレより年上の男はチェギョンと話をしていて、チェギョンの輝く頭に触ろうとしていた

「チェギョン!」

ソウルタワーを見終え、ロープウェーに向かっている客達が溢れている場所で、オレは腹の底から声を出した。

皆の視線が、オレの元に飛び込んできた

何十、嫌百以上の目がオレを見つめている

まだ皇太子とは世間に公表していないので、誰もオレの事を知らないのに視線が集中する

慌ててチェギョンの元に近づき、大人の穢れた手で、綺麗な髪を触らせないよう阻止した

「シン兄貴!」突然の事でチェギョンの目が飛び出しそうに見開いていた

「お客様、いかがなされましたか?」自分の行動を止められたその男は作り笑顔で問う。

「チェギョンには触るな。」静かに言う言葉と真剣な目

ソウルタワーの従業員と睨み合いが続いたが、チェギョンが止めに入る

「シン兄貴!何やってるのさ」オレの手を取り、従業員から離れさせた

急に現れたオレにチェギョンは怒りまくる

「こんな皆がいるところで、派手な事しない!高1のボクでも分かるのに、大学生のシン兄貴は分かるだろう?」何時も下がっている眉毛が、グンと跳ね上がっていて…可愛い

怒っているチェギョンを見下ろし、ニヤついてしまい慌てて口元を隠した

「何で笑うのさーっ!!」

真っ赤なサンタの恰好をしているチェギョンの頬まで真っ赤になっている

「お取込み中申し訳ないんだが,俺はチェギョンに報告しに来ただけだからな。」

向かいの男はオレをニヤニヤしながら言う

「報告?」ニヤつかれているのがむかつくが、話の続きを聞きたい

「チェギョンが作成したクリスマスのディスプレイが1位に選ばれたんですよ。」

紙を広げると、大きな1位の文字とあの時のクリスマスディスプレが写っていた。

「このディスプレイ・・チェギョンのだったのか?」顔を近づけ目が大きく開く

「そうだよ。ここのディスプレイを担当させて貰ったんだ。色々なテディベアを使わせてもらって、本当に楽しかった。」

「そうだったのか、すまなかった。」向かいの従業員に詫びを入れる

「分かって貰えたのなら、全然OKですよ。あっ、チェギョン少し早いが、もう上に上がるお客様もいないから早めに上がっても良いよ。」

「えt?良いんですか?」

「チェギョンはこれから忙しそうだからな。」ニヤニヤ傍にいるオレを見ながら笑う。

オレとチェギョンは顔を見合わせて、言葉にならない口元で頬が熱くなるのを感じた。

チェギョンはオレの傍にいずらくなり「じゃあ、シン兄貴ー。バイトも終わるから・・。」モジモジと離れようとするチェギョンの手を掴み

「待ってる。」それを言うだけで精いっぱいだ。

オレを見上げる情けない下がった眉毛に大きな目。寒さ故なのかいつもより頬の色が熱く感じる

馬鹿野郎―ッ、そんな顔されたr今すぐにもキスしたくなるじゃないか。

自分のキモチもチェギョンに伝えていないのに、焦るなオレ!

深く息を吐きゆっくりと落ち着きを取り戻そうとする。

「シン兄貴。もう着替えに行かないと。」オレの傍から逃げ出そうとチェギョンの声がする。

本当に、本物の恋って全然違うんだな。

チェギョンが男だろうが、好きなものは好きなんだ。

「チェギョン、待ってるから。」

「ダメだよ。ガンヒョンと一緒に帰るんだ。だから無理。」俯き表情が見えない

「あっ。」又忘れてた。チェギョンには彼女がいた事を。それでもオレのキモチは止まらない

「そうだよなー。済まない。じゃあ、明日のクリスマスパーティーは絶対に来てくれ。」少しの時間でもいいからチェギョンの傍にいたい、必死の言葉

「分からない。じゃあ、シン兄貴もう帰るよ。」

チェギョンが無理矢理オレの傍から離れ従業員の扉の中に消えようとした時に、オレの足が動き出す

チェギョンの後を追いかけ、従業員の入り口の扉を開けた。

オレが後から付いてきたのが分かったチェギョンの驚いた顔。慌てて一人通れるくらいの足早に通路に透明な素材でできた扉に逃げ込んだ。

足早に扉を開け又後を付いて行く

焦るチェギョンは又同じような扉に逃げ込む

そして鍵をかけようとした時に、オレの長いリーチの腕が先に扉を無理あけた

そして誰にもオレ達の事を邪魔されたくなくて扉に鍵を掛け、小さな空間に二人っきりになった

口元をキュッと食いしばりオレを見上げる目は潤み始めている。

「シン兄貴―ッ、何でこんな事するんだよ。」後ろの壁にピタッとくっつき逃げ場のないチェギョン

オレの右足が一歩前に出ると、チェギョンが後ろ向きになり壁にくっつく。

オレはチェギョンの後ろ姿に触れないように、両手を壁に着きチェギョンの背に立った

「明日、ちゃんと来いよ。」サンタの帽子の下で真っ赤になっている耳元に呟く言葉に、チェギョンが自分の口元に手を当て声が出ないようにしていたのに一瞬声が出てしまった。

まるで女のような可愛い声に、オレの理性がぶっ飛びそうになるが、グッと我慢した

「返事は?」わざと低く呟く声は、チェギョンにオレの存在を分からせる為にやる。

「行く・・。」ビクンと跳ねる体を感じたオレは、満足のいく言葉を聞き、もう意地悪は止めてチェギョンから離れた

ヘナヘナと崩れていくチェギョンを見下ろしながら

「チェギョンはお利口さんだ。じゃあ、明日な。」鍵を開けて狭い空間から離れた