「おはよう。」

目が覚めて、ボーっとしていたらガンヒョンの声がした。

半分起きていない私は、なんで自分の部屋にガンヒョンがいるのか?マークを何度も出していたが

「あっ!昨日ガンヒョンの家に泊ったんだ。」

突然昨日のことを思い出し、一気に体を起こした。

「よーく寝てたよ。」ガンヒョンの指先には時計が見える。

「え?11時?」

腫れぼったい目を何度も目を擦っても11時にしか見えない。

「こんなに寝たの初めてでー。」

ボサボサの髪の毛をグシャグシャと掻き乱す。

「そんなにグチャグチャしない。」ガンヒョンの手は私の手を捕まえる。

「もー、そのくせ治らないなー。凄くグチャグチャするのに、なぜか髪質は衰えない。」羨ましいと頷いている。

「ガンヒョン。」

布団から出てキャミソール姿の私はパーカーを羽織る。

「私どうしたらいいと思う?」

下着のままだった私は慌ててジーンズを履く

「まっ。チェギョンが男なら私は本気で彼氏にしたいよ。」マヂな顔。

「ガンヒョンー。」ちゃんと答えて欲しい。

「ごめん、ごめん。私の意見としては、もうそこには行かない方が良いよ。」

「そっかー。それが正論だよねー。」ペタンと布団に横になる。

「ファンにーさんに、シンにーさんを好きになるなと言われて、それでもカレの側にいたくてオトコになりきろうとしたのに」顔に手を当てて、段々頬が熱くなるのを感じる。

「無理。」

カレの何気ない行動に、いちいち赤くなり、ドキドキと心臓が早くなってしまう。

ファンにーさん、もうこの気持ちは止められない。

「まぢかー。」ガンヒョンの声は淡々と深い溜息を吐く

「でも、チェギョン。あの男の人には彼女がいて、いずれは結婚するんでしょう?チェギョンの初めての恋を辛い恋にはさせたくないよ。だから行っちゃダメ。」

「シンにーさんの事しか頭に無いのに?」ガンヒョンは真剣な顔で頷く。

暫く二人で言葉も交わさずに、見つめ合っていた

ガンヒョンの言う事は正しい。

絶対に正論だ。

でも、でも。


「チェギョン、バイトに行く時間だよ。」ガンヒョンの目線は時計を見つめる。

今日のバイトのシフトは午後の1時から始まる。後もう少しでここを出ないといけない

そして、後数日でクリスマスがやってこようとしている。

あのブースごとにクリスマスの飾り付けをしたのが選ばれる日も近い

色んなブースでクリスマスの飾り付けを頑張っていて、その中でもガンヒョンと私は美術科の腕を競っていた

そう言えばシン兄さんと出会ったのも、飾り付けの頃だった。

彼女さんがパリに留学した為、ソウルタワーでシン兄さんを見る事がなくなってしまったが、奇跡が起こり私はソウルタワーでなくともシン兄さんに会えた。

一気に燃え上がる私の恋心

叶わぬ恋がこんなに苦しい事だったって知らなかった。

何も知らず過ごしていた日々。

幼かった私は恋と言うモノに関心がなかった、幼馴染のユル兄さんは本当の兄だと思いながら接していたし。

同級生も先輩も、先生も皆心奪われることがなかった。

急にシン兄さんの顔がドンっと現れる。

圧倒的な存在感。ふにゃふにゃと体が溶けそうになる

カレの顔も声もあのスラリとした体型もゾクゾクする声も何もかも好き過ぎて、堪らない。


「チェギョン・・、あんた大丈夫?一気に女の顔になっちゃってるよ。」

私の顔を覗き込み「これだと男って通じない。」真顔なガンヒョンは私の顔をギュッとガンヒョンの手は包み込む

「チェギョンには明るい爽やかな男と付き合って欲しいな。」

ガンヒョンの声が小さく呟いた。







雪がチラチラと舞う中、バイト先に向かうバスから降りて歩いていると駐車場からシン兄さんが現れた。

「えっ?なんで?」ビックリして言葉が続かない。

分厚いコートを着ていたシン兄さんは、グイッとリュックを出し

「お前の忘れもんだ。」白い息が溢れ出す。

「えっ?あっ。バイト終わったら取りに行こうと思ってた。」

シン兄さんからリュックを受け取る。

「届けようと電話しようとしたらリュックの中に携帯が入っていて、お前に連絡が出来なかった。」私の頭をくしゃくしゃと撫でる

私は髪の隙間からシン兄さんを見上げて、あーーっやっぱり大好きだ-と噛み締めていると

「すいません。もうチェギョンにそんな事しないでください。」

ガンヒョンはシン兄さんを見上げて言った。

ガンヒョン・・。

「私の彼氏の自慢の髪の毛ぐしゃぐしゃとするの嫌なんですけど。」

シン兄さんの目付きにも負けずに言う

「彼氏?」シン兄さんの掠れた声。

「そうです。幾ら男同士とはいえ止めて下さい。」

ガンヒョンから二度も注意されたシン兄さん。

こんな光景を見た事もなく私は、ただオロオロと二人の間を行き来する。

「チェギョン、昨日と同じ服?」縛り出したような声

「昨日、チェギョンは私の家に泊りました。」シン兄さんの様子がおかしい。

「シン兄貴。どうしたんですか?」私は傍に寄る。

「キミ達は高1なのに、もう泊まる仲なのか?」シン兄さんの真剣な目

「えっ?ガンヒョンのとこには中学校の時から」聞かれたので素直に言う

「そうです。私達はそんな仲なんです。」ガンヒョンが胸を張る。

「そっかー」何時もの自信満々な声では無く、力がない。

「シン兄貴ー。」なんだろう、急にどうしたんだろう。

「私達、これからバイトなんです。失礼します。」

ガンヒョンは私の手をガッチリと握り慌てて走り出した。

「ガンヒョン!」

一人佇むシン兄さんを置いていってしまった

「チェギョン。ここで戻っちゃダメだからね。」ガンヒョンの手が熱い

段々小さくなっていくシン兄さん

走った私達は、仕事場の入り口に着く

「チェギョン、もうあの人と会わないように、LINEしなさい。」

私よりちょっとだけ身長のあるガンヒョンは、扉の傍にいた私に壁ドンをして見下ろしながら言う

真剣なガンヒョンの気迫に押され、仕方なく「ハイ」と呟いた









昨日慌てて帰ってしまったチェギョン。

皆が帰った後、ソファの横にチェギョンのバックを見つけた

オレの携帯を鳴らし、忘れているという事を伝えようとしたら、バックの中から鳴り出した

「チェギョン、すまない」

バックのファスナーを開けると、今日教えた苦手な科目の教科書とチェギョンのハッピーが入っていた。

チェギョンにあげたレアなテディベアのハッピー

チェギョンが手作りで、サーモンピンク色、あーなんか日本の食べ物の明太子のような色のベストを着ている。

この子はソウルタワーの売店で一目惚れした可愛い子だった。

一瞬でこの子だ。

髪の毛が異常に輝く可愛い男子、オレがあげたレアな子を大事にもってくれると確信した。

ハッピー。

バックの中から、ハッピーを取り出し、じーっと見つめる

「お前のご主人様、可愛くて仕方ないんだ。」

ハッピーの手を握り「男なのに、チェギョンは男なのに。」ギュッと握る

何も言わないハッピーを抱き上げる。

自分の気持ちに正直になっても良いよな。

ハッピーの鼻に自分の唇を押し当てた。





チェギョンにリュックを届けようと、ソウルタワーの開店時間前からこの駐車場で待っていた

何度も、会っていたチェギョンのバイトの時間は夕方からだったが、それでもいつ始まるか分からなかったので、何時間前から来ていた

良くヒョリンとここで待ち合わせをして小説を読み始めると集中してしまい、ヒョリンに何度か注意された

「もうシンったら―、私達熟年カップルみたいよ、」

クスクス笑う彼女の笑顔を綺麗だと思ったが、心臓が高鳴るなんてなかったと思い出す。

チェギョン、アイツの事を思い出すとドキドキ心臓が暴れ出す

一気に好きだと確信した途端、想いは加速していく

チェギョンが男だろうが関係ない。

オレのキモチを受け止めて欲しい。グッと運転席で握り拳を強めるが

でもまー、アイツはまだ高1だからそんなヘビーな事を受け入れられないかもしれない。

どんな顔するんだろうか、真っ赤になっオロオロすのか、それとも拒絶。

男のオレが男のチェギョンに好きだってキモチを言うんだ

心の覚悟をして待っていたら、意外と早くチェギョンがやって来た。

オレは慌てて車を降りてチェギョンの前に飛び出した。




「忘れてた。」オレはチェギョンの彼女にグサリと矢を放たれてしまい、項垂れてしまう。

どれくらい項垂れていたのか、寒さでジンジンと指先が冷えて来た、慌ててポケットの中に避難させてやる

「チェギョンにはあの彼女がいたんだな、それ前から泊っているって、マジかよー。オレでさえ高3の時だったのに、中坊でご卒業か―。オレより先輩じゃん。」

思わず苦笑いしてしまう。

「どうするオレ?」見上げた空には、粉雪が舞い降りてオレの顔に消えていく

雪の冷たさが、気持ちを整えていく

空を見上げたまま大きな口を開けて、降りて来た雪を閉じ込める

「よし。オレのキモチは変わらない。」

男のチェギョンに惚れたんだ。もう何もかも乗り越えてやる。

誰に何を言われようが、チェギョンに好きになって貰えるように頑張るのみ。

ずーっと立ち止まっていた足はズンズンとソウルタワーへ向かって行く

アイツが入場入り口に立つまで、ここで待機しようとしていたら、赤いモノがモコモコとやって来た

「チェギョンサンタかよー。」

サンタの恰好をしたチェギョンに胸が高鳴り、ギューッと胸が締め付けられる

「やられたーっ。こんなんに可愛いなんて。」胸元を掴みだす

オレの目線はチェギョンサンタを離さない。赤いサンタの帽子を何度か直しながら、お客の世話をし始めた

チケット売り場でチケットを買った客たちは、そのままチェギョンのいる入口に流れていく

チェギョンの彼女がいないこの場所なら、チェギョンと話できる。


ソウルタワーへの客が落ちつた頃、オレは椅子に座っていたのを止めて、チェギョンの元に歩き出した。

サンタチェギョンはオレの姿を見て驚き、ウロウロと顔を振り回す

何やってるんだ―ッ、そのしぐさにますます気持ちが高まる

「シン兄貴、さっき帰ったんじゃー。」

ようやくチェギョンの傍に近づくことが出来て、ホッとする

「チェギョン。ソウルタワーの展望台に行きたいんだ。」

チェギョンに聞こえるように、一文字ごと丁寧に語った