「シン兄貴!」

外の寒さから逃げるように慌てて玄関の扉を開けて中に入っていくと

「静かに入ってこい」ギロリと睨まれる

いつも冷静でシュッとした綺麗な佇まいなイ・シン兄貴が、一人掛けのソファに座っていた

「ごめんなさい。」頭をペコッと下げてソファに座る

「ふん。」雑誌を開きながら私の謝りを聞いていた

私はカバンから一枚の紙取り出し「ジャーーン!」と両腕を伸ばしシン兄貴に見せた

「オレが教えたんだ。それ位取れなくてどうする?」

イシン兄貴の目の前にテストの答案用紙を近づけた。d

90点の大きな赤い字が光り輝いている

「初めてだよ。先生もどうしたんだ?って驚いていたよ。」自分の点を見てニヤつく

「お前はの見込みが早いから、教え方でグングン伸びていく。これからは容赦なくやっていくぞ。」口元が片方だけニヤリと上がる。

「ヒー――っ!!」あの教え方より酷くなるの?恐ろしい。(泣)

ひょんなことから兄貴達の仲間になった私。

それも男として。(泣)

日曜日にはイ・シン兄貴の家に集まりテディベアの修理や情報と忙しく

バイトの休みの木曜日にイ・シン兄貴に勉強を教わっている。

ある時、イシン兄貴のアルフレッドの服を作ってあげたら、皆んなから褒められた。

「なんだこの丁寧な裁縫は!」4人共驚き私を褒め称えた。

元々芸術学校には、デザイナー志望で入ったので裁縫は得意だった。

イ・シン兄貴が「デザイナーでも頭が良くてはならない、お前の成績教えろ。」

言った言葉に答えた数字に、何時も冷静なシン兄貴の目が驚き口も大きく開いた。

「お前なー、男だったら頭良くないと生きていけないぞ。」

たださえ鋭い目なのにあの時の目は鬼みたいに怖かった。

で、それからバイトの休みの木曜日に、時間のある限りとことん勉強を教わる。

その繰り返しをしていた成果が今日実を結んだ。

何度も点数を見て、ニヤニヤしてしていると

「いつまでニヤついているんだ、悪いがお茶お願い出来るか?」

雑誌から目を離さずに言う。

「了解です!」

スクッと立ち上がりパタパタとキッチンに向い、お茶の準備をし始めた。

ここに来てから皆んなからお茶の淹れ方を教わり、今では皆んなから美味い!と褒められるまで上達した。

お茶の葉を出していると、リビングから携帯のベルがした。

「はい。」静かな部屋にシン兄貴の声が響く

あーーっ、あの人からの電話の時間だったんだ。

イ・シン兄貴の彼女さんがパリからの愛を伝える時間。パリとの時差が在る為、この時間になってしまう。

そして、私はこの時間が嫌いだ。

電気ケトルが沸騰して取手を掴み、ゆっくりとコップにお湯を注ぎ込む

流れていくお湯に集中しないと。

コポコポコポっと流れているお湯を眺めていても、やはり耳は自然に二人の会話を聞いてしまう

日々の出来事を色々と話、最後に自分達のキモチを言い合う

私が傍にいるからってイ・シン兄貴の声は自然に小さくなる

「離れていても、心は繋がっている」

良くある好きだーとか愛してるというワードじゃない

シン兄貴が呟く言葉の方が想いが詰まっていて、聞いている私がギュー―っとなってしまう。

思わずギューッとなるところを掴み、まただ。

彼らの愛の語らいを聞いているとこんな風に胸が苦しくなる

本当に辛い

「じゃあ、また。」シン兄貴の言葉と共に電話が切れた。

「チェギョン、お茶は?」

シン兄貴がキッチンの方に歩いて来て、私が胸元を抑えている姿にビックリしている

「どうした?」

私の傍に寄り背中を触ろうとするシン兄貴

「ダメ!」

私の声が止める。だってパーカーの上からも私の下着の形が分ってしまう

ビクッとしたシン兄貴は「ダメってなんだ。大丈夫なのか?」心配そうな顔で見下ろす。

「大丈夫だよ。何でもないよ。」

手を胸元から離して、ゆっくりと振り向き、何ともないように満点の笑顔を見せた

ジーッと私を見下ろしていたが「そっか、大丈夫なら。」準備していたお茶をトレイに乗せリビングに持って行った。