陽が落ちるのが、早くなってきた晩秋。

「まだ、こんな時間なのにもう暗くなってきた。」

街灯の灯りも点き始め私の吐き出す息も白い。

「あともう少しで12月だ。そしたらここもクリスマスモードに変身だね。」

社内の壁に貼っていたクリスマスのディスプレイの応援の募集。

バイトの私達にも、クリスマスディスプレイを手伝わせるという企画。

そりゃーっ、芸術学校に通っている私の腕が鳴る。

「チェギョン、この企画やる?」後ろからガンヒョンの声がする。

「あっ、ガンヒョン!」ギュッと彼女の腕に自分の腕を絡める。

親友のガンヒョン。

彼女も此処でバイトをしている。

お土産コーナーの綺麗処は、少しの日本語と中国語を話せ、重宝されている。

彼女は私より背が大きく、綺麗な栗色のストレートを持つアジアンビューティー。

あの3月の髪の毛募集の時にバッサリと切ってやると言っていたガンヒョンは、父親の猛反発により阻止された。

でも、私もガンヒョンのロングヘアには憧れているので、切らないでくれて本当に嬉しかった。


「チェギョン、この募集やるよねー?」ニヤリと笑う。

「当たり前だよー。」ニヤリと笑う。

「我々、芸術学校への挑戦状だね。」二人で頭をくっつけニヤニヤが止まらない。

「クリスマステーマか―、ありきたりなのは、ダメだからね」

「OK!負けないよー。」

私達はそのまま、事務所に届を出して、お互いの持ち場に戻った。






よし、今日もあともう少し。

9時20分。

夜は更に冷え込み、いくら入口の傍にいるからって、寒いものは寒い。

明日からは、冬用のジャンパーを着よっと。

こんなに寒くても、カップル達が溢れている。

皆、綺麗なイルミネーションを見上げて幸せそうー。

良いなー。

お客も来ないので色々なカップル達を見ているが、何だろう…良いなーと思うが自分は彼氏と言うのが欲しい訳でもない。

今は、ガンヒョンや学校の友達たちと遊ぶのが楽しくて、そんな存在要らないもんねー。

まっ、強がってみたんだけど、誰も私なんか相手にしてくれないだけ。

彼氏かー。

髪の毛短くしてから、もっと男扱いされてしまって、今じゃガンヒョンの彼氏と皆から言われているほどだ。

深い溜息が出てしまう。

ボーッとしていたら「オイ。」低い男の人の声がした。

私は慌てて顔を上げると「あっ!」この間の男の人。

「客が来たのに、ボーっとしているんて、なんて奴だ。」

サングラスを掛けているのに、見下されている感がたっぷり。

「ちょっ。ちょっとボーっとしていただけです!」

見下され感が嫌で、慌てて仕事をし始める。

「お客様、チケットの確認を致します。」差し出した指先は、寒さで赤くなっている。

「チケットより、この間借りたお金を返しに来た。」

カレはコートに手を入れ、何やらごそごそと動かしている。

するとカレの顔の表情が変わっていく。

澄ました顔が段々焦る顔に変わって「お客様、いかがなされました?」営業スマイルは絶やさない。

「あっ・・嫌っ確かここに入れて来た筈なのに。」まだ手は止まらない。

私はその様子を黙って見ていたが、段々笑ってきた。

この人見た目と違って、良い人かもしれないなー。

「車に置き忘れてきたかもしれない。ちょっと待ってろ。」慌てて行こうとしたが時計を見てどうしようかと悩んでいる。

「お客様、もしか。今日も上に上がるんですか?」

「ああ・・でも、お前にお金を返さないと―。」駆け出そうとした時に。

「お客様、後で良いですよ・・次回の時にしましょう。今は時間がないですから。」

私の方が駆け出し、チケット売り場にチケットを買いに行った。

「はい、どうぞ。もう時間がありませんよ。さっさと上がて下さい!」チケットを切りさっと持たせた。

「嫌、今日こそはお金を返さないと!」それでもなお、私に言ってくる。

「お客様ー。時間!」壁の時計を指さし、慌てさせる。

グッと堪えながら「じゃっ、次回は絶対に持ってくるから!」軽く手を上げ、走って行ってしまった。

「何、あの人ーっ。お金返しに来て、お金忘れて来るなんて。」クスクス笑いが止まらない。

すると辺りが暗くなったチケット売り場の照明が消えた。

間に合って良かったー。カレが又上に上がれたようで、ホッとしたー。

身元の分からない人に、2回もチケット代を出すなんて有り得ない.。

でも、なーっなんかやりたかったんだ。閉店の為に色んな片づけをしながらさっきの人を思う。

あのサングラスの奥は、キッと優しい瞳をしているんじゃないかなーって。

ボーッしていたら、ここの担当の社員さんが「こらっ。仕事怠けてるぞ。」ニヤニヤ笑いながら近づいて来た。

「えっ!いえ、そんな事ないです。」慌てて掃除用具の傍に行こうと歩き出した。

「あはははっ、からかいがある。」ニヤニヤまだ笑う。

「えっ?そんな―、遊ばないでくださいよー。」担当のキムさんが、私に紙を渡す。

「ほらっ。今日、届けだしただろう?シン・チェギョン。これやるんだったら、遅い帰りになるんだぞ?大丈夫か?」

「大丈夫ですよ!親友のガンヒョンと一緒に自分達の腕試しをするんです。これは、お金の為じゃないですよー。」ボキボキと指を鳴らす。

「二日間で仕上げる仕事だから、勉強に支障はないかー。でも、程々にな。」

私の頭をグシャッグシャっと撫でる。

「わーーっ、やめてください。」キムさんは笑う。

キムさんは、30才。

中々のイケメンで、某K-POPのアイドルに似ていて、女子従業員のファンが多い。

そういう私は・・そんなキムさんより身長がデカイ。

K-POPのアイドルが皆身長がデカイからって、韓国の男が皆デカイって訳じゃないのよ。

アイドル達が特別なの。女子より小さい男がいっぱいー。

「じゃあ、シン・チェギョンはテディベアのミュージアムの担当になったから、宜しくな。」使用しても良い材料が書かれている紙を渡された。

「えっ?あそこですか?」目が輝き出す。「あんな凄い所を任されるなんて。マジですか!?」

テディベアミュージアムは、韓国の文化をテディベアを使って案内している、私にとって最高に大好きな場所だ。

毎日見たいくらいだが、なんせ入場料が別にとられるので、たまにしか入れない。

そこに2日間入れれるんだから、夢のようだ。

「じゃあ、明日から宜しくな。」キムさんはファイルを片手に持ち行ってしまった。

「はい、分かりましたー!」渡された紙をギュッと握りしめ「帰ってから作戦練るぞー―。」ヤル気倍増で、就業時間のベルを待ちわびた。








次の日「オイ。持って来たぞ。」私のバイトしている場所に、身長のデカイ男の人が立つ。

「あっ。いらっしゃいませ。」営業スマイル。

「借りていた、2回分の入場料だ。」数十枚の10000ウォン紙幣を私に差し出す。

「おーーっ。有難うございます。」差し出されたお金を受け取る。

「二回分の利子もつけといた。」数えると10000ウォン札が3枚多い。

「いりませんよ!その分だけ返してくれれば。」多い分を差し出す。

「何言ってるんだ。借りた分の利子はちゃんと返す。」

見下ろす瞳はサングラスに隠れて良く見えないが、今は威圧している目なんだろうなー、だってなんかこの人威圧力が半端ない!!

「それにしても、利子としては多いです」威圧なんか関係ない

「じゃあ、200ウォンを下さいそれが利子ってことで良いです」30000ウォンを返す。

「200ウォン?持ってない。」シーンとなるこの場所。

「じゃあ、次回で。今日も上るんですよね?チケット下さい。」ニッコリと笑う。

チケットを差し出した手に、利子分を重ねる。

「お客様、どうぞお入りください。」

「まったく、初めてだよ。お前みたいな奴。じゃあ、利子は次回に持ってくる。」呆れた声

「はい。了解しました」その姿を見えなくなるまで、見続けた。







入口の仕事が終わり、私はクリスマスコーデの為に上に上がった。

テディベアミュージアムの前に立ち、ワクワク感が溜らない。

「よし!やってやるーー!」

中に入ると使っても良い物を物色していく。

「わー―っ、一度触ってみたかったんだー。」韓服を着たテディベアを抱き上げニヤニヤが止まらない。

「これもあれも使いたい!」

ワクワクと色んな子を抱き上げていると、閉館のお知らせの曲が流れ始め、色んな人達が出口に向かって流れ始めている。

そうそう、カップルばかり。( ̄▽ ̄)

目線をそっち合わせたら、さっきのお兄さんと目が合った。

「!」テディベアを何個も抱きしめウハウハしている私を、じーっと見ている

ボン!真っ赤に染まった顔をテディベアで隠して、お兄さんを見ると。

あっ。口元が笑っている?

へーっ、そんな風に笑うんだー。もっと見ようと顔を上げたら、お兄さんの横には女の人の姿が見えた。

明るい色のカールが綺麗に輝いてる。

顔が見えないけど、きっと綺麗な人に違いない。

デートだったんだ。

そうだよねー、こんなところに1人でなんか来ないもんなー。

ボーッとしている内に、お兄さんは行ってしまった。

ハッと気が付き「そんな暇はないよ。さっさとやらないと。」手に持ったテディベアを持ちテディベアミュージアムの奥に進んでいった。