「会えなくて死にそう―。」机の上に顔を埋める

「へ―っ、この間まで二度と恋なんかしないって」

「ガンヒョン、もうその言葉は撤回します。前の恋を忘れるには新しい恋をすれば良い。これに訂正しておいて。」

あっさりと意見を覆した私に「これは本気だね?」ニヤ―っと笑う。

「うん。ビックリするぐらい本気。」

だって、キスだけであんなに、胸だけであんなに狂わせられたのは初めてでー。

早く一週間が経たないかなーと願っている私がいる

「約束の1週間まであと二日。最近、チェギョンが益々可愛くなったって、皆言ってるよー。」

「えっ?本当~?でも、まだまだ頑張らないと!毎晩フラフープ回していてウエスト引き締めてるんだよね。」フラフープを回している振りをした。

「フラフ―プ?マジで?」

「そう、後は顔をマッサージしてパックを貼って、体にクリームを塗って。何時准教授に会っても良いよーに頑張ってます。」

「健気だねー。そんな事しなくても准教授だけへの想いで可愛くなっているのにー。

ほんと、准教授って最高のお宝をゲットしたわよ。」

頭をポンポンしようと

「ガンヒョン、だからーそこは准教授だけなの!」咄嗟に止めた

「はっ、そうだった。ごめんごめん。」許してと手を合わせた。

「で、院長さんとは?どう?」年上の彼氏と毎日デートしているガンヒョンに聞く

ガンヒョンも、毎日好きな人と会い体を重ねている為、ホルモンが活発しまくりで、何もかも艶やかに輝いている。

「毎日、体が結ばれるというのは本当に幸せ。ギョンったら―っ自分の病院のリハビリ室で体を鍛えて、毎日私の要望に応えられるオトコにならないとって、頑張っているみたい。」

「リハビリ室でー?なんか想像できるねー。」クスクスと笑いあう。

「そう言えば、おじさん退院したんだよねー。」

「うん。すっかり元気になって食堂を毎日掃除して、体力付ける為に散歩も始めたんだよ。これも、院長さんのお陰です。」ペコリと頭を下げる。

「それは、ギョンにやってよー。ところで話は変わるけど、准教授と毎日連絡とり合ってるの?」

「うん?」

「電話し合ってるんでしょ?」

「ううん。」

「えっ?なんで?」

「だって、お仕事の邪魔しちゃいけないかなーって。毎日准教授から渡された名刺眺めて電話の数字もう暗記しちゃったよ。」

「あんた、馬鹿か!ちゃんと電話しなさい!あっちは電話掛けてくれるのを待ってるよ。」

「えっ?そうなのかなー?」自信なさげな声

「そうだよ。准教授はアンタの電話番号知らないんだからね。声聞きたくても聞けないんだから。」ガンヒョンの声はマジに怒った時の声だ

「うん。わかったよー。」

「名刺は?家にあるの?」

「ここにあるよ。」おずおずとカバンのポーチから出す。

「電話、今すぐに掛けなさい!」側にあった私の携帯を取り上げ凄い形相で言う。

「わかったって、掛けるからその顔止めてよ。」携帯を取り、暗記した電話番号を打ち込んだ。

電話の繋がるときの音がした。

私の心臓がバクバクとなって、倒れそう。

「はい。」わー!准教授の声だー。発した溜息に

「チェギョンか?」即答の声

「ハッハイ!」もう電話を待っている手が震えそうだ。

「ようやく電話掛けてくれたな。一生電話貰えないかと思ってた。」

クスクスと笑う声は、ちょっと感じが違う

「ごめんなさい。出張だから邪魔しちゃダメだと思ってー。」

「邪魔じゃないさ、会えないから電話はかけて欲しい。」

ボソッという言葉は照れ臭そうにいう。

うーーっ。こんな言葉言われちゃったら、ヘロヘロと崩れそう。

「准教授。もうあの時の答え言っても良いですか?」

もう自分の気持ちを准教授に伝えたくて、気持ちが焦る。

釜山で綺麗なおねーさんたちに、誘惑されたら大変だもの。

「ダメだ。」

「えっ?言っちゃダメなんですか?」ダメと言われてしまい凹む

「電話の声って、自分の生の声じゃないって知ってるか?キミの耳に聞こえる声は僕の声に似たデータの声だ。

だから、チェギョンのキモチは電話ではなくちゃんと本人を目の前にして聞きたい。

二日後に会いに行くよ。」

知らなかった、だから電話だと声が違うねーって言い合っていたのを思い出す。

「会いに来てくれるんですか?」

「ああ、行くよ。」

「准教授・・・。」余りの嬉しさに言葉が詰まる

「そうだ、そろそろ准教授て言うの止めてくれないか。」

「なんですか!准教授じゃなくなったんですか?」

「嫌そうじゃない。もう僕の名前で呼んだらどうだ?」

「名前?」イ・シンッて呼ぶのー?

「次会うまでに、ちゃんと言えるようにしておきなさい。じゃあ、今度は僕から電話掛けるから。」電話は切れてしまった。

「どうしよう。」ブツブツ呟く。

私から離れていたガンヒョンが近づいてくる。

「どうしたの?」

「ガンヒョン、どうしようー!名前で呼びなさいだって。」真っ赤になり携帯を握りしめる。

「呼んだら良いじゃん。私だって歳が離れていまいが、自分の彼氏だから名前で呼んでるよ。」

「シン。・・・・・・鼻血出そう!」試しに呼んだだけで、一人バタバタと暴れてしまう。

「どうしよう、ご本人目の前にしたら鼻血が噴水になってしまうかも?」真面目な顔

「ちょっと―、興奮度を言い表すの分かるけど、ちょっとお下品だよ。」呆れた顔

「だって、名前だよ?本人目の前にして名前なんてーっ。」バタバタと暴れる

「全く―ッ、恋で人ってこんなに変わるんだねー。」飽きれた顔から、仕方ないなーと言う顔

「えへへへっ。本当だね。」

ちゃんとお互いの気持ちを言い合っていないけど、2度目の恋は運命の恋だと思っている。







「あー、あ。そんなにいっぱい書いちゃってー。」呆れるガンヒョンの声

講義が終わり、ノートを閉じようとしたら、ガンヒョンが後ろから覗いていた

「イ・シン准教授の名前、どんだけ書いてるのよー。」

指差された場所には、色々な准教授の名前があった。

「だって、他の人が呼ばない名前で呼びたいじゃん。」また、書く。

「チェギョン、それはやめときなさい。」指差された文字は、シーたんだった。

「ダメ?」ガンヒョンを見上げる。

「あの准教授をそれで呼ぶのは、いくら本人が良くても、周りが引く!」

ガンヒョンの冷たい目が痛く

ブー―っ。私の頬が大きく膨らんだ。











准教授がソウルに戻ってくる日。

講義が終わり、バタバタと片付けていると

「あれ?まだ時間じゃないのよね?」ガンヒョンも片付けをしている

「うん。早いけど。もう先に行って待ってる。」カバンを背中に背負い歩き出そうと

「恋する女子は大変だ。まだ2時間もあるよ。」綺麗に笑う

「少しでも早く会いたいから。」

気持ちに気づいてからまだそんなに経っていないのに、加速力が半端ないキモチ

「ふふっ。じゃあ、ちゃんとキモチ伝えて来なさい。」

ガンヒョンに見送られた私は、教室を飛び出した。

正門を出て待ち合わせの場所に向かっていると、男の人が話しかけてきた。

「チェギョン、最近あの彼氏と別れたんだって?」

サークル仲間のキム・ジュンが現れた。

「ビックリー、いきなり何言ってるのー。」

私は、早く准教授に会いたくて早歩きで移動しているのに。

「だからー、お前今フリーなんだろう?」急いでる私の目の前に立ち塞がる

「もう、急いでるの!」それでも避けて行こうとしたら、又前に立つ

「ちょっと!邪魔だよ。待ち合わせに遅くなるよ。」

見上げるサークル仲間の背は私よりちょっと大きいくらいだ。

「だから―っ、フリーなんだろう?じゃあ俺と付き合わないか?」真剣な顔

キム・ジュンの言葉に唖然となる。

「チェギョン。入学式の時から好きなんだ。お前がずーっとフリーになる時を待ってたんだ。」

「キム・ジュン。なんて言ったら良いのか。」

彼が私にそんな気持ちを持っていてくれたなんて、全然分からなかった。

「ずーっとチェギョンの事好きだった。」大人しくて真面目なキム・ジュン。

そんな彼が私に勇気を出して告白をしてくれるなんて凄い事だと思う、でも。

「キム・ジュン。貴方のキモチありがとう。でも、私には好きな人がいるの。だからごめんなさい。」深々と頭を下げる。

「えっ?好きな人がいるのか?」悲しい顔で辛そう

「うん。だからキム・ジュンのキモチが凄く分かるよ。好きな人への自分の気持ちを伝える事がどんだけ勇気が必要だってことを。

私はその勇気を出して伝えてくれたキム・ジュンを尊敬する」

真っすぐにキム・ジュンを見上げる。

「お前、どんだけ。」口に手を当て言葉を詰まらせる

「キム・ジュン。こんな私の事好きになってくれてありがとう。」

「チェギョン、どうやっても無理か?」

「うん。サークルの仲間でいて下さい。私にとってキム・ジュンは頼りになるサークル仲間なんだから―。」

「くそーーっ。両想いにはなれなかったかー。」下を向き悔しそう。

「じゃあ、もう行かないとー。」歩き出しキム・ジュンに手を振る

「急いでたのに、引き留めて悪かったな。」右手だけを上げる

キム・ジュン、きっと良い人が見つかるよ。

私もこれから好きな人にキモチ伝えに行くんだ。もう心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしてる。

歩き出すと足が自然に早歩きになっていく。

早く、早く、一秒でも早く准教授に会いたい。

「チェギョン!」

この声は!街中の色々な音に囲まれながらも、一瞬で聞き取れてしまう大好きな声

呼ばれた方向に顔を向けると

「准教授?」なんでここにいるの?待ち合わせは、准教授お勧めのハッピンスの美味しい店で1時間30分後だよ。

反対方向の車線に止めている准教授の高級車があった。

「シン君!」

准教授が僕の名前を呼んで欲しいとお願いされた日からずーっと考えていた呼び方。

年なんて関係ない、好きな人の名前を特別な呼び方で呼んであげたい。

私の呼び方に驚いていたシン君は、やがて嬉しそうに笑う。

「シン君!そこで待ってて今そこまで行くから。」

横断歩道のある所まで戻りシン君を目指す。

会いたい会いたい、ずーっと願っていた人がすぐ傍にいる。

人生で一番早く走ったんじゃない?ってくらいのスピードでシン君の元に辿り着く。

「チェギョン、そんなに慌てなくても僕は逃げない。」

息を荒くしながら見上げるシン君は夕日を背中に背負って眩しい

「シン君。人生で初めて呼ばれた。」ゆっくりと優しく言う

「シン様も、シンさんも、シン先生もどれもしっくりこなかったの。嫌でした?」

さっきまでの勢いは急に萎んでしまう。

やはり、シンちゃんが良かったかなー。

カレの手がゆっくりと伸びてきて

「嫌、キミは僕の想像できない言葉を考え付く、実に面白い。チェギョンが呼ぶ特別な名前だ。」ぽんぽんと頭を撫でられた。

「えへへっ。シン君。」シン君に頭を撫でて貰えて、てへーッと蕩けそう

「さっきソウルに着いたばかりで早かったが、待ち合わせの場所に行こうとしてた。」体はうずうずと落ち着かない

「キミと僕との偶然が何回も重なり合うと、これを運命と言うのかな?」

優しい笑顔に胸の鼓動が早くなる

シン君も運命って言ってくれた。もうもう、私のキモチ言っても良いですかーーー!

シン君の顔をまじまじと見つめ、色々なパーツの形大きさ全てを自分の脳に覚えさせた

「シン君、私は」シン君に自分のキモチを言おうとしたら、手で口が塞がれた

「まだ、早い。」ニヤリと笑う。

ふがふが、押さえられた口で文句を言うが

「38才の僕、キミは20才になったばかりだ。それでも良いのか?」

聞いているのに、なぜか自信満々な顔

塞がれたまま頭を上、下とブンブン振る。

「僕は若いキミを十分に満足させることが出来ないが、それでも良いのか?」

38才ーの男子って、アッチの方はやっぱそんなにしないんだろうな。私も痛くて好きじゃないしー。

大きく頭を上下に振った。

優しく笑うシン君に見惚れてしまっていたら

「車を止めて呼び止めようとしたら、キミは、男に話しかけられていた。どうするのだろうと見ていたら、キミは頭を下げ、どうやら告白と言うモノをされていたみたいだったが、ごめんなさいという態度が良く伝わっていた。

僕が一目で恋に堕ちてしまった可愛いチェギョンは、これからもモテ続ける

そこで、僕からの提案だ。シン・チェギョン。僕と結婚しよう。」

私の口を塞いでいたシン君の手が離れた。

「(O_O)」思考停止。

「シン・チェギョン。」何度も呼ばれて、フッと気がついた。

「オイ。意識飛ばしてたな。」クスクス笑う。

「ビックリしちゃってー。」結婚という言葉は、私の中には全く無かった。

「どうする?」意味深な顔。

「する!シン君と結婚する!」

目の前の人のことを全く知らないが、自分の直感を信じよう。

「だって、私達は運命だもの。」見上げる視線は、シン君を離さない。

「ずーっと待ってた。」優しく笑いながら、頭をぽんぽんと撫でられた。

ギュッと抱きつき、カレの顔を見上げる。

「大好き。」ようやく伝えられた言葉

「本当にイイんだな?」まだ問いかけられる。

「うん。」見上げる私の頬を両手で包み込み、カレの顔が近づいてくる。

一週間前のキスが蘇り、体が喜びで震え出す。

あのキスをして貰えるものだと思っていたが

「チェギョンここでは不味い。」

カレの手が離れて行き、私の手を握り車に誘導された。