じーー。

見つめる先には、准教授の為に作ったお弁当があった。

自分の部屋の戻った私は、机の上に置かれていた飾り気も何もないお弁当をただ見つめていた。

本当に恥ずかしかった。

女子達が一生懸命作ったと思われるカラフルで美味しそうなおかずたち

私のなんか、准教授の好きそうな食堂のメニューをそのまま入れたが、味には自信があった。

お弁当の蓋を開けてジー―っと見つめるが、やっぱりなんか落ち込む

誰かの為にお弁当を作るなんて初めてで、元彼のユル君の時は、自分の家族以外の人が作るのは食べれないと言っていたので、一回もお弁当を作った事がなかった。

准教授が世界一美味しいと言ってくれたから、鼻高々になってた。

お弁当に必要な色が完璧で、私の弁当はなんか茶色が多かった。

お弁当の蓋を閉めまた溜息を吐く。

さて、このお弁当はどうしよう。

准教授の為に作ったのに、准教授に食べて貰えなかったお弁当。

こうなったら、自分で食べようか?と悩んでいると

携帯のLINEの音が鳴った。

私は携帯を持ち上げると、画面表示にはガンヒョンの名前と「今どこ?」と言う言葉が

直ぐに返事をしようと開き「家にいるよ」同じ言葉のスタンプ

「分かった。」真面目な顔をしたスタンプが画面に出た








ガンヒョンと私はじーっとお互いを見つめ合う。

「イ・シン准教授って、年のわりに結構若そうだね。でも、アンタのタイプじゃないね」私の好みを良く知っているガンヒョンが突っ込む。

「うん。タイプじゃない。」

「進むのも止めるのも、今のうちだよ」ガンヒョンの目力が凄い

「何言ってるのよーっ。そんな私、まさか、嫌々。」色々な言葉が呟かれた。

「で、どうするの?」

「どうするのって?どうにもならないよ。でもね、正直ちょっと憧れっていうのはあったかもしれない。

大人の男性とまともに話すのは初めてだったからねー。」

小さい頃からの付き合いの商店街のおにーさん達は別物よ。

お弁当を持ち上げ、私の顔の前に止まった。

「誰も引き取り手のないお弁当、ガンヒョン食べてくれる?」ニッコリと笑う。

「えっ?それは無理」お腹を擦る。

「どうして?麻婆豆腐丼しか食べてないでしょう?」あの大食いのガンヒョンがあれだけでお腹いっぱいになるとは、思えない。

「えへへっ、イ・シン准教授の部屋にあったお弁当を全部食べちゃいましたー。」最後は申し訳ない言葉が軽かった。

「えっ?えっ?あの量を一人で食べたの?」ブカブカだったパーカーがそう言えばゆとりがなくなっている。

「食べちゃいましたー、で、あそこにいたチャラい人に今度ご飯に連れて行ってあげると誘われてしまいました。」

優しく笑う

「チャラいって、あの整形外科のギョン院長に?」驚き過ぎて「ガンヒョンのタイプじゃないよ?」彼女はダンディなおじさまがタイプなのに。

「ふふふっ、なんかねー。ちょっとアリかなーって。自分の好みのタイプじゃないけどね。」真顔な彼女

「へーーっ。そんなガンヒョン、初めてだー。」

「そうだね。前の恋が辛かったから。」

ガンヒョンのダンディな元カレは海外に行くことになり、一緒に行かないか?と誘われたが、韓国から離れることが出来なかったガンヒョンは別れを選んだ。

「付き合うとかじゃなく、なんかあの院長さんと一緒にいれば楽しそうだと思って。」ちょっと横を見ながら言う彼女。

私と同い年な筈なのに、落ち着きのある彼女

高校の時からの付き合いの私達

色んな事を学び、遊び、何度もお互いの家に泊り彼氏の事を相談し合って過ごしてきた。

そして、辛い別れを経験をした彼女は、私の別れにも一緒に泣いてくれた。

前の恋を引き摺って次の恋なんかしないのかなーと勝手に思っていたが、前向きな彼女に頭が下がる。

「そっかーっ。そうだね。お友達としてはあの人は良いかもね。」ガンヒョンはタイプじゃない男には絶対になびかないから、私は安心して同意した。

ずーっと持っていたお弁当を、テーブルの上に置き「じゃあ、私が食べるよ。」箸を持って食べようとしたら

「ちょっと待ったー!」突然ガンヒョンが食べようとした手を止めた。

「どうしたのよ?」ビックリした私は理由を聞いた。

「私はちゃんと院長さんの事を言ったわ。チェギョン、もう一度聞くよ。イ・シン准教授の事どう思っているの?」ガンヒョンの真面目な目

「イ・シン准教授?」カレの大人な対応にちょっとだけ心が動かされてしまったが

「ガンヒョン、何とも思ってない。」ちゃんと彼女の目を見て言った。

ジー――っと私の目を見るガンヒョンは

「よし!じゃあ、お弁当は食べちゃっいましょうー。」

私は、お弁当の中身を箸で掴み「いただきます!」と大きく口を開けた。











ピンポーン

夜7時に鳴り響くチャイムの音。

洗い物をしていた私は手を止めて、玄関先に向かった。

ママはお風呂で、チェジュンはまだ学校から帰ってこないから、自分が出るしかなかった。

「どちら様ですかー?」我が家の玄関は木のドアなので誰か分からないので声を掛けた。

「こんばんは。イ・シンです。」

「准教授?」なんで今頃こんな時間、私は慌てて鍵を開けて扉を開けた。

そこには昼と同じスーツ姿の准教授が立っていた。

まったく―、改めて見てもモデルみたいにスーツを着こなすんだね―、ちょっとばかり見惚れちゃうじゃない。

「今日の昼に食べれなかったお弁当を食べに来たのだが?」見上げた先には、少し自信のなさそうな顔

「お弁当ですかーっ?」

「そうだ。キミのお友達に伝えて貰ったはずだが?」

「お弁当は食べちゃいました。」ニッコリと笑う

「!!」驚く顔

「准教授に食べて貰えるような素晴らしいお弁当ではなかったので、食べちゃいましたー。」明るく言う私を准教授はをジーっと見つめてくる。

そして大きくため息を吐きながら「僕にとっては世界一のお弁当だ。」

「准教授、お世辞はいいですよー。」笑う。

「僕はキミを怒らせてしまったのか?」真っすぐに私を見る

「はい?」

「昨日までのキミとは、態度がなんか違う。」更に私を見つめる

「違いませんよ。」ニッコリ

ジーっと見つめてくる

「准教授、そんなに見ても何も変わりませんよ。」何とか平常心を

「僕は経済学を教えているが、心理学も少しだけやったことがある。キミの態度は僕が習った項目の中にあった。」准教授の真っ直ぐな目は私の目を離さない。

そんなに見つめないでよー、頬が熱くなっていく。

「そういう態度をとる女性は」准教授の切れ長の目に吸い込まれて、フラーッとカレに凭れ掛かってしまいそうになった時

「あれ?准教授だー!」外から聞こえてくるチェジュンのデカイ声。その後バタバタとかけて来て

「准教授ー!」キラキラビームを発しながら側にきた。

野球部に入っているチェジュンは、泥だらけのユニフォーム姿な為大人しく准教授を見上げている

「チェジュン、ダメよ。准教授には触っちゃダメよ。」子供に言うように窘める

「ブタ!子供じゃないぞ。その位分かるって。イ・シン准教授ご飯食べましたかー?」
チェジュンのキラキラビームは、准教授に刺さっている。

「嫌ッ、まだだが。」私を見る。

「ブタ!夜飯准教授も食べて行っても良いか?」あーーっ、キラキラビームが角度を変え私にもやって来た

「ママに聞かないと。」私の言葉も聞かずに、チェジュンは家の中に入りバタバタと走って行き、大きな声でママを探している

「ちょっと、チェジュンママはお風呂よー」私はチェジュンに教えてあげた

「食べていきますか?」どうせ、私が反対したってチェジュンとママの意見には勝てない

「嫌、遠慮しておく」

「パパの恩人さんなんですもの、ママはオーケー出しますよ。どうぞ。」ニッコリと笑いながら招き入れた。

















「ごちそうさまでした。」准教授が箸を下した。

夜ご飯はチェジュンの分だけだったので、急遽作ったチャプチェ

何時もの作り方で作った料理は、チェジュンの大好物。

チェジュンは、美味いと連発しながら食べていたが、准教授はあまり箸が進んでいなかった。

好きじゃなかったのかなーとチャプチェの具材を確かめた。

准教授がいつも食べている野菜しか入っていないのに、なんでだろう?と考えていたら

「では、これからまた大学に戻らないといけないので。」立ち上がる准教授

「えーーーっ!もっと話していたいのに―、仕方ないなー。」チェジュンが駄々を言っていたがママに「小学生じゃないんだからー。」呆れながら立ち上がろうとしたチェジュンの服を引っ張った。

「何すんだよー。」ママが「ほらッ、チェギョン。アンタが准教授を送りなさい。」

オホホホーっと笑いながら、私の背中を叩いた。

「何、痛いよ。ママ!」背中を擦りながら、嫌々立ち上がった。











玄関先で、准教授が靴を履くために靴ベラを使っていたのを受け取り、持ってあげていた鞄を准教授に差し出した。

准教授がいつもと違って1段下がっているため、私と准教授との身長差があまり無い。

「今日のご飯あまり箸が進んでいなかったんですが?チャプチェは苦手でしたか?」

一向にカバンを受け取ってくれない。

私の顔をジーッと見つめる。

「嫌、嫌いでは無い。」だから、そんなに見ないでよ。

「口に合わなかったのかなー?」独り言のように呟いていると

「今日の料理は、世界一の味ではなかった。何か変えたのか?」辺りが暗くなったので顔を上げると、准教授の顔が直ぐ側にあった。

驚く間も無く私の頬を大きな両手で挟み、見上げている私の下唇を優しく咬んだ。



えっ?今私、キスされてる?

咬まれた下唇から上唇と准教授の唇は私の唇と重なり合う

ちょっ、ちょっと―、何してるのよー!!

私の手はバンバンと准教授の身体を叩くが、固い体はビクともしない

止まらないキスは何度も角度を変えながら、交じり合う私達の唇。

愛撫するように重なり合っていた唇は、段々荒くなっていく。

唇と唇の隙間から洩れる息は熱く、言葉にならない声が溢れ出す。

カレの唇の隙間から息を吸おうとしたら、准教授の舌先がゆっくりと私の舌に絡まり始めた。


突然のキスが嫌だったはずなのに、カレの導く舌先に私の舌先が応じ始める

唾液が溢れ出し淫らな音を奏で、私の頭の中はどっか遠い宇宙空間にいるみたいな気分。

こんな、こんなエロいキスした事ないよー。



カレの舌先に絡みつけられ、もうこのままどうにでもなっちゃいそうになった時、急に私の身体の力が抜けた。



ガタンっ!



膝から崩れてしまった私は咄嗟に出た准教授の右手に支えて貰ったが、准教授のカバンが下に落ちてしまった

「なんだよー、デカイ音したけどどうしたんだよー。」チェジュンが音で玄関にやって来た

すると、私が玄関先で座り込んでいたいた為

「ブタ!どうしたんだよ?」慌てて私の傍に寄ってくる。

真っ赤な顔で息を荒くしている私を見て「オイ、ブタ!顔真っ赤だぞ。」

ゥ――――っ、腰が抜けるって初めてでーっ、どんな顔して見上げれば良いのよー!

「チェジュン、おねーさんは躓いてこけたんだ。だから大丈夫だ。」

私の頭をポンポンと優しく撫でる

「そうだ、言うのを忘れていたんだが、明日から二週間出張に行く。キミ達二人に会えない日々は辛いだろうな。」

自分の鞄を持ち上げスーツの上着のよれをを直した。

あんなに濃厚なキスをしていた癖に、何事もなかったように話している准教授

「じゃあ、チェギョンさん。さっきの答え2週間後に聞きに来ます。」

私とチェジュンに手を上げて玄関のドアを開けて行ってしまった。







「ブタ―。准教授が聞いていたのってなんだよ?」

聞きに来ますって、なんだっけ?

まだ頭の中が甘い麻痺にやられてしまって、うまく機能できないでいる

ゆっくりと准教授の言葉を一つ一つ思い浮かべる。


「今日の料理は、世界一の味ではなかった。何か変えたのか?」


'当てはまるワードが見つかり、この答を伝えたくても2週間待たなくてはいけなくなった。