今日の講義が終わり、ガンヒョンを家に連れて来た。

ママは大抵パパの病室にいるし、チェジュンは中学校。

何時もはイ・シン准教授がやってきてご飯を食べていくのだが、今日は来れないという事で、朝早く起きてお弁当用の仕込みをしておいた。

ガンヒョンにご飯を食べさせてると

「うーん。やっぱりアンタの料理美味いわ。」今日は麻婆豆腐丼を食べさせた。

「もしかしたら、おじさんのより美味しいかも。」細いのに大食いな彼女

大盛にした丼をあっと言う間に食べ切った。

「何時もながら、凄いね。」

「いっぱい食べても、お腹が満腹になる事はないの。」まだまだ食べたいような顔

「どこかに私のお腹を満足させてくれる男はいないかしら。」手を組み天を仰ぐ。

「もー―っ、ガンヒョンったら。」ふざけて言っているいるように聞こえるが、結構マジかも。

「で、どこに持って行こうとしているの?」話を変え、私がせっせと料理を仕上げているのを覗きに来た。

「うーんと。」バタバタと完成させていく。

「お弁当?」某有名な鍋に似たお弁当箱

私はそこにカレの好きそうな料理を詰め終わり、蓋を閉めた。

韓国は、お弁当よりも出来立てを食べる習慣があるから、お弁当なんか食べないかもしれないけど。

それでも、私の作った料理を美味しいと言ってくれてる准教授の為に持って行ってあげたい。

で、一人では心細いのでガンヒョンに付いて来てもらおうと、ご飯で釣った。

「美味しそうだね。」ニヤニヤなガンヒョン。

「何変な顔。」丁寧に包み紙バックに詰め込んだ

「私二度と恋なんかしない!って、この間言ってなかったっけ?」ニヤニヤ

「なっ、何言ってるのよ!その言葉は合ってるわよ。」焦る私。

「へ――っ、そう。その誓いはあっという間に破られたね。そうそう、恋を忘れるには又恋をすれば良いって誰かが言ってた。」私の肩をバンバンと叩く。

「恋、恋って、恋なんか―ッ。だって、イ・シン准教授は大人でーっ、こんな子供なんか相手にしないし。」モジモジとする。

「へ―っ、イ・シン准教授って言うんだー。准教授ってしか聞いてなかったから、新しい情報だね。恋をすると人は憶病になる。そして、大胆にもなる。」

「も―ーッ、良いから行こうよ。」片付けをし玄関の戸締りをして、私はガンヒョンとバスに乗った。









「凄い!さすが韓国一の大学」

韓国最高峰の〇〇〇大学、ここの〇〇〇科のイ・シン准教授

ガンヒョンと初めてここに来たが、あまりの厳格な建物に私達は動けないでいた。

「やっぱ風格が違うね」ガンヒョンの言葉に声が出ず頷く私

でも。

少しでも温かいお弁当を届けたい私は、勇気を出して足を踏み出した。

大学の案内板を見ながら准教授のいる科を目指す。

此処の大学の学生じゃない私達は、ウロウロしながら歩いていると、道行く人たちに変な目で見られていく。

「ガンヒョン、やっぱ部外者ってバレてるのかな?」

「何、ビビってるのよ!堂々としていれば言われないって。」ガンヒョンってばカッコイイ

「ほらっ、そろそろじゃない?」天井に下がっている案内表示には、准教授の居る所が近いと教えてくれる。

私達の大学のように、准教授、教授に部屋があるのを祈り、その場所に着いた。

「あっ、あった。」ようやくたどり着いた場所、私はまだ温かいだろうと思われる紙バックを胸元で抱きしめた。

ガンヒョンは勝手に、ドアをノックする。

「どうぞ。」中から准教授の声がした。

「失礼します。」ガンヒョンが先に中に入り次に私が続いた。

「!」私が現れてビックリし過ぎて声も出ず、キンパを持とうとして固まった准教授がいた。

准教授の机の上、ソファのテーブルの上には、カラフルな入れ物に入った女子力高めの弁当、オードブルがはみ出しそうに置かれていた。

高そうなソファ二脚には二人の男の人が向かい合って座っていた。

仕事が忙しくて食べにいけないと勝手に想像してたから。

目の前の溢れ余っている食べ物の数を見て驚いた

私の見た目重視よりお腹重視のお弁当なんか持って来てしまって、全然可愛くもオシャレでもない。

バカだなー。

一人で勝手に浮かれちゃって、何やってるんだろう。

「えーっと、今日は食べに来られないと言っていたので。勝手に作って勝手に来てしまいました。」ごめんなさいと言う言葉も付けて頭を下げた。

「おっ君は、シンさんとこの可愛い娘さんだ。」振り向いた人はうちのパパがお世話になっているギョン整形外科の院長先生。

私服もチャラい。

「なに?あのお前が噂していたシンの訳ありな子か?」私から見える人は今までに見た事もない人だった。

大きな目が印象的で、高価そうなスーツを着て、ビシッと髪の毛はセットされていた。

「おっ、想像していたのより可愛い子じゃないかー。」

「だろう?でも、もう一人綺麗な女の子がいるけど君は誰かな?」ニヤニヤ笑う。

やっぱ、この院長って苦手。

「ギョン、そのくらいにしておけ。」ジロリと准教授は睨んだ

「ヘイヘイ。」仕方がないなーとブツブツ言っている。本当にこの人は医者の資格あるのだろうか?

「チェギョンさん、来る時には電話しなさい。」キンパを持つのを止め、私の傍に来て紙バックを受け取ろうとしたのに私は、ギュッと紙バックを抑え込んだ

「?」不思議そうな顔

だってこんなお弁当なくても、困らないほどの食べ物があるじゃ無い。

絶対にこのお弁当は、恥ずかしくて准教授には渡せない。

ギュッと掴んでいた紙バックを後ろに隠した

その後恐る恐る見上げると、准教授なんか怒ってる。

一度も私の前では怒った事は無かったが、静かに怒っているのが分かった。

それでも勇気を出して「電話は緊急用で掛けちゃいけないと思って。」最後の方は小さい声になる。

見上げると眉間に皺が寄ってる。そうだよねー、大人の男性に確認もせずに急にお弁当持ってくるなんて、

なんか、中学生みたいなことをしてしまった私は、段々恥ずかしくて恥ずかしくてここに来たことを後悔していた。

「すみませんでした!」此処に入った時には高揚していた頬は、今もう熱が冷め漫画のように縦線が入り、真っ青になっていたに違いない。

ガンヒョンの手を取り「お邪魔しましたー!」慌ててこの部屋を飛び出して行こうとしたら

側にいたイ・シン准教授が私の手を掴もうとしたが、一瞬の隙を見てガンヒョンが私をこの部屋から出させた。

「チェギョン、行きなさい。」ドンと准教授の扉は閉まってしまった。

「ガンヒョン!」後ろを気にしながら走り出したが

あっという間に扉が開き、イ・シン准教授が現れた。

「!!」ごめん、ガンヒョン!ガンヒョンを置いていくのは心残りだが、今はもうこの大学から逃げたかった。

来た道を走っていると、准教授が早足で追いかけてくる。

「ヤバっ」捕まりたくない私はスピードアップで歩いている人達を抜いていく

「シン・チェギョン!止まれ!」聞いた事もない大きな声が響き渡る。

止まる訳ないじゃん!私の足は益々速く走ろうとしたら

准教授の声に周りの人達がざわつき、女子達が群がっていく

「准教授、どうしたんですか?」「シン・チェギョンって誰ー?」「私の作ったお弁当どうでしたか?」女子達に囲まれて、准教授は動けなくなっていた。

一瞬私は立ち止まりその様子を見て、あーっ准教授は大学でモテてるんだなーとしみじみと噛み締めた。










准教授の部屋に残ってしまった私、ガンヒョンです。

見知らぬおじ様達と睨み合っていたが、目の前の凄い料理の数に私のお腹が鳴りだした

こんな静まった所で、なに鳴らしてるのよ。

「アハハハッ、君お腹減ってるの?」チャラそうなおじさんが言う。

「だったら、ここのご飯食べていいよ」紳士そうなおじさんも言う。

「良いんですか?」本当は私もさっさとここを飛び出さないといけなかったのだが。

食欲に負けた。

「じゃあっ、お言葉に甘えて。」メガネのずれを直し、長い髪の毛を手首にはめていた輪ゴムで纏めて、椅子に座った

大食いの私は、端から着々と箸を進めていくと、おじ様たちが驚いている。

「君、凄いね。」あまりの豪快さに「驚くばかりだよ。その細い体のどこに入っていくんだい?」ポカーンとする。

ムシャムシャっ。

「ところで、食べながらで良いんだけど、あの子の名前はシン・チェギョンちゃんで良いのかな?」

「はい。」もぐもぐ

「事情は知ってる?」

「うーん、あまり知りません。」ハグハグ

「そっかーっ。俺達もそんなになー。でも、あのシンが女の子を追いかけて行ったんだぜ!」

「そうそう、動画で撮っておくべきだった。」本当に悔しそうな顔

「そんなに珍しい事なんですか?」パクパク

「そうだよー。勉強、勉強と周りの事なんか我関せずだったのな。」

「まさか、女子を追いかけるなんて。あのシ・チェギョンちゃんって何者なんだい?」

「普通の大学生ですよ。」

「ふーん。大学生かーっ。良いなー若いって。俺達おじさんはついていけないねー。」スーツの人が言う。

「そっ?俺は全然大丈夫だな。むしろ君みたいな子、凄くタイプだなー。」チャラい男が言う。

「お世辞でもありがとうございます。普通私のこんな姿見ると、男達は皆引くんですけどね。」まだまだ箸は止まらない。

「俺、ギョンって言うんだ。今度ご飯ご試走するけど、どう?」カルイよ、おじさん。

「遠慮しておきます。」即答

「好きなだけ食べても良いよ。俺は君の食べっぷりを見ていたいから。」小さい目がクシャッと笑い、人の良さそうな笑顔になる。

あれ?この笑顔嫌いじゃない。メガネを直し、もう一度見直した。

「年、何才ですか?職業は?奥さんは?」奥さんがいたら、二人っきりはまずいでしょっ。

「年は、さっきのイ・シン、コイツはカン・イン、皆38才、職業は整形外科を経営している。シン・チェギョンさんのお父さんが入院している所だよ。

そして、奥さんはいない。ずーっと独身生活を楽しんでましたー。」ニッコリと笑う彼の顔には皺が出ている。

でも、その皺も悪くない。

38才、私20才。年齢的には無理だけど、このおじさんなんか気になるなー。

「電話番号は・・・・・・・・。君の携帯に登録したいなー。」

「今度会えたら、かんがえてみます。」全てのお弁当を食べた後、急に思い出す。

「今頃なんですけどー。全部食べちゃって大丈夫なんですかー?」真顔

「えっ?それ今頃聞く?あははははっ、やっぱ君良いねー。」隣の人の肩をバンバン叩く。

「月に一度、俺達がここに集まるって知れ渡っているから、可愛いお嬢さん達が俺達の為に作ってきているんだ。

まーっ、独身のシンとギョンの為だと思うけどね。」大きな目のカン・インさんが言う。

「全部食べてくれた方が助かるよ。シンには、シン・チェギョンさんの作ったお弁当があれば大丈夫だろう。」

「そうそう、その子の弁当があれば大丈夫!」にこやかに笑うおじさん達

どうだろう。

チェギョンはお弁当渡したくなかったみたいだから、准教授には渡らないんじゃないかなー。

「君、シン・チェギョンちゃんの為にシンの事知りたくないかい?俺と食事に行ったら色んな情報教えてあげるよ。」その言葉に私の片方の眉毛が上がった。

「おいしい話ですね。」食べ終わったので、纏めていたゴムを外す。

「まっ、シンの情報だけじゃなくても俺は君に会いたいんだけどね。」カバンから名刺を取り出し、私に差し出した。

「とりあえず、貰っておきます」年上なので、礼儀をもって頂いた。

ガチャっ。

扉が開く音がした。

疲れ切った准教授が立っていた。

「あれ?シン・チェギョンちゃんは?」一人で立っているのが不思議そうに言う

「逃げられた。」疲労感たっぷりな顔

やっぱりね。チェギョンの足は結構速いのよ。毎回イタズラされても捕まえられないんだから。

「じゃっ。私はこれで失礼します。」准教授の目の前に立ち、頭を下げた

「僕が彼女の電話番号を教えるまで帰さないと言ったらどうする?」私を見下ろす准教授

私はジー―ッと准教授を見つめ、その後ゆっくりと

「紳士の品格に反すると思われますが?」今日初めてあった人だが、女性には無理強いしないタイプに見えた。

フーッと溜息を吐きながら「どうぞ。」陣取っていた扉から離れて、ゆっくりと扉を開けてくれた

私は軽く会釈をして帰ろうとしたら

「チェギョンさんに伝えてくれ、お弁当は捨てないでくれって。」スラックスに片手を入れ、言い終わったら扉はゆっくりと閉じられた。

さて、私はさっきの言葉を伝えるべきか悩み始めた。