「!」

朝、目覚まし時計の音でも目を覚まさない私が飛び起きてしまった。

心臓が飛び出してしまったんじゃないかと思う位の驚き

顔が真っ赤にタコのように茹で上がる。

その後ヘナヘナ―っと布団の上に倒れこんだ。

「どうしちゃったんだろう?」

余りにもリアルすぎる夢は、顔どころか、体中が熱くなってしまうほどのリアルさがあった。


それは。


裸の私を何度も何度も責め続けるイ・シン准教授

それはそれは濃厚で、夢の中の私は何度も果て、何度も准教授に縋った。






顔を布団の上に埋めながら、どうしてどうして、止まらない疑問

大体にして私はあの行為は苦手でーっ。

私の初めての相手はユル君だった。

その時の痛さがずーっとトラウマで、何度してもみんなが言うような気持ち良さを知ることがなかった。

だから自分で不感症だと思い込んで、ユル君に誘われても断る回数が多くなり、彼が浮気に走る原因は私にもある。

でも、不感症と思っていた私は夢の中で何度も絶頂を迎えて震えていた。

なんで?今まで一回もそんな事なかったのに。

ハーーっと深い溜息を吐く

イ・シン 38才 〇〇〇大学の准教授 パッピンスが大好き

それくらいしか知らないのに、何でなんで。

ギューっと頬を抑えて悶える

でも、准教授に責められ続けたのは嫌じゃなかった、むしろもっと、もっとと准教授にせがんでいた私。

恥ずかしいーー!ほんと夢で良かった。

絶頂か・・・イ・シン教授となら・・・。

嫌々、ないでしょっ?私まだ20才で准教授にしてみたら子供みたいで、だから頭撫でられるのよ。

もー―っ、昨日は皆で私を煽るからこんな夢見ちゃんだよ。

そうそう、さっさとこんな夢忘れちゃおっと。

気を取り直した私は、布団から顔を上げて起き上がり、パジャマを全部脱いで着替え始めた。










何時もの時間にイ・シン准教授がお昼ご飯を食べにやって来た

今日は食堂ではなく二階の食卓に誘った。

だって、パパや私の窮地を2度も救ってくれた人なんだもの、ちゃんとしたおもてなしするのが礼儀だと思った。

二人しかいないけど、准教授はちゃんとした人だから安心できる。

准教授だけで食べていたのを、今日からは二人で食べるようにして食事を始めていたら、突然今朝の夢を思い出してしまった。

真正面で音も静かに食べている准教授

箸を器用に使い、ゆっくりと口元に運んでいく姿は、周りの同級生たちにはいなかった。

ほんと作法が綺麗だと、見惚れてしまう。

私達家族も、友達達も話しながらガツガツと口に入れ込み、ワハハ八ッと笑って食べていた。

だからお行儀よく食べる准教授を前にして、私は何時もの食べ方じゃなく出来るだけゆっくりと食べていた。

「チェギョンさん、無理しないで何時も通りの食べなさい。」スープを飲みながら准教授は言う。

「バレてました?」そうだよねー、なんかぎこちないし、それに美味しい筈の料理が美味しくない。

「ごはんを食べる作法なんていらない。美味しく食べれれば良いんだ。」ジッと私の目を見る。

その目線はバシッと私の目に届き、ドキドキと心臓が暴れ出す。

あんな夢を見たせいなのか?それとも昨日の私をユル君から助けてくれた准教授のオトコの姿を見たせいなのか、どっちか分からないが今までのように平気な態度ではいられなかった。

食事が終わり、准教授に五味茶を勧めて、私も座った。

暫く言葉も交わさず、五味茶の上手さを味わってお互い話もしなかったが

シーンと静まり返る部屋の空気に耐えかねず、私は

「イ・シン准教授って、車の運転の時にはメガネ掛けるんですね。」話を切り出した。

メガネを掛けた姿は雰囲気が違い、大人の魅力をアップさせた。

タイプじゃないのに、アジアンクールの顔なんかタイプじゃないのに。

何故か、惹きつけられる。

「ああ、普段は掛けなくても良いんだが、やはり運転の時は遠くが見えずらい。」

二人の間に又沈黙が流れる。

気になる人には、何時もの自分が出せなくて言葉が詰まる。

どうしよう、食事が終わったからもう帰ってしまう。

少しでも長く長く准教授の傍で、カレの事を知りたい。

「チェギョンさん。」准教授の良い声がこの部屋に響き、あーーっもう帰っちゃうんだー。

シュンッとなりながら「はい。」と返事をすると。

向かいに座っていた准教授は私の傍に来て、私の手首を掴んだ。

「えっ?」あまりにも突然で、ビックリしていると

手首から輪ゴムを取り、輪ゴムを広げて私の前髪を束ねてゴムをグルグルと巻いた。

「この髪型が可愛い。」少年のように笑う准教授。


アジアンクールなんてタイプじゃない。


それなのに、少年のように笑う顔は私を惹きつける。

「今日は前髪結ってなかったから、ついやってしまった済まない。」

「・・・イ・シン准教授。そんなに私の前髪結った姿が良いんですか?」勇気を振り縛って聞いてみる

少しだけ驚いた顔で私を見ていたが

「似てるんだ」低い言葉

似てるって、彼女さん?とか、それだったら聞かなきゃよかった。

ガックリと肩を落として、シュンとしてしまった私。

「その前髪をギュッと結んでいる姿が、僕の」

「わーー―っ、イイです。それ以上言わないでくださいー!」私はワーッワーッとワザと叫んで言葉を止めた。

突然の私の行動に驚いたが「どうした?」私の頭を撫でながら言う。

「准教授が独身なんだって知ってましたが、彼女さんの事は聞きたくないから良いです。」耳に指を突っ込み顔を下に向けた

「彼女さん?あーっ、そんなのはいない。」ボソッと言う

指栓をしていたが、私に都合よく聞こえてしまったのか、もう一度聞く

「へっ?今なんとおっしゃりましたか?」恐る恐る聞く

「付き合っている女性はいない。」ハッキリと言う准教授を見て、私の顔が真っ赤になる。

「なんだ?熱があるのか?急に真っ赤になるなんて不思議な現象だな」心配そうな顔

「本当にいないですか?」真剣な目が准教授を射る。

「何度言わせるんだ?うん?泣きそうだな。」

「えっ?涙ですか?泣いてませんよ。」笑う私の目尻に准教授の指が触れる。

「ほらっ、涙だ。電子顕微鏡で検査すると、涙の成分は分かるし、涙が出る仕組みも知っているが」

准教授の指先に滴がキラキラと太陽の光を反射していた。

泣いている?自分では気が付かなかったが、泣いてたんだ。

「自覚のない涙かーっ。どういう原理で出たのか、実に面白い。」ニヤリと笑う。

「でも、そんなウルウル目を見ていると、やはり前に飼っていた犬を思い出す」私は准教授にティッシュを渡して指を拭いてもらった。

「犬?」

「そうだ、前髪をギュッと結んで、黒めのウルウル目の可愛い女だった。」

「犬で可愛い女?」

「彼女が亡くなってもう3年だ。君が前髪をギュッと結んでいた時は、本当に驚いた。」私のフワフワと揺れている前髪を撫でながら言う。

「こんなに似た女性は初めてだ。だから、ここにご飯を食べに来なさいと言われたときは、とても嬉しかった。」

髪の毛を触っていた指は段々降りて行き、私の頬に辿り着く。

「僕が今の 大学に入ってから飼ったヨーキー、正式にはヨークシャーテリアと言う犬種だ。彼女はとても可愛く、とても元気で、とても順応だった。

僕があごの所を撫でてあげると、簡単に自分の大事な弱い所を見せて僕に服従してますと可愛い目で僕を見上げる。」

准教授の細い指が私のあごの所を優しく撫で始める。

ビクンっ。体が勝手に跳ね上がる

その様子を見ていた准教授は「すまない。キミは彼女じゃなかった。」スッと指が離れて行き

「もう行かないと。あっ、チェギョンさん明日は大学から抜け出せないので、お昼ごはんを食べに来れない。

キミの作ったまかない料理だろうが、昨日のような家庭料理も全て美味しい。

僕は食事に関しては、パッピンス以外全く関心がなかった。

ただ生きていく為の手段だったのに、キミの手料理に出会ってから、考え方が変わってしまった。

美味しいご飯が食べれない明日はつまらない日だ。」スッと立ちあがり、じゃあっと階段を降りて行ってしまった。






「( ゚д゚)ハッ!」

准教授が帰ってからどの位たったんだろう。

私は同じ体勢をしたまま、顎を上にあげ両腕を前に出したまま、つまりおねだりポーズをしたまま時間が止まっていた。

「何、何やってるのよ―っ」准教授の言葉に私は准教授の亡くなった犬のようになっていた。

顎を撫でられていくうちに、全てを准教授に見せてしまいそうになっていた。

「イ・シン准教授って、マジシャン?それとも催眠術師?」腕を掴みブルブルと震えた。

でもね、嫌じゃなかった。

カレの言葉を聞くだけで、安心してしまいすべて従いたくなってしまう。

今まで感じた事のないキモチに私はドキドキし始めていた。