乱れた服を抑えながら、鍵の空いていた部屋に逃げ込んだ。

中から鍵を掛け、恐怖で体がガタガタと震えている体を小さく丸めた。

イン君が、イン君があんな事するなんて。

恐怖から来るのか、悲しさでくるのか分からない涙がボロボロと溢れ出す。

「シン君のキモチ、ミン、ヒョリンのキモチ、イン君の思い、みんなの気持ちが真剣で、本当にどうしたらいいんだろう。

ようやくシン君のことが好きだって分かったばかりで浮かれてた私には、何も言えない。」

破けた上着、イン君から逃げ出す時にスカートのプリーツが取れてしまい中のブラウスが丸見えになっている。

今日はもうクラスには戻れない。

頃合をみて、ここから出て家に帰るしかない。

ボロボロと流れる涙。

流れ続けていく涙と嗚咽の言葉がこの小さな部屋に響く。

「シン君。」ポツリと呟いた言葉と共に、カレの顔が次から次へと浮かぶ。

無表情の顔や、バカにしたような顔。

私の口元に手を当てて、自分の顔をくっ付けてきたよね。

ほんと、何時もの頭にくる事ばかりだった。

でも、眼鏡をかけたカレの優しく笑う顔を思い出すだけだけで、ドキドキしてしまう。

本当に好きになってしまった。

恋には時間なんて関係ないって、どっかの雑誌に書いていたが、当たってる。

シン君、シン君。

一気に優しくなったシン君の表情、言葉を思い出し続けた。








コソコソと自転車に乗り、周りの目を気にせずに自分のアパートに着いた。

誰もいないと思ったのに、家の中に入るとパパがいた。

「チェギョン!どうしたんだ?その格好?」パパは、凄い形相で私を見ている。

「うん。大丈夫だよ。」いつもの笑いをしたつもりなのに、上手く笑ってないっぽい。

「病院と警察に、あっ!ママにも電話しないと。」

慌てるパパを引き止めて

「大丈夫だって、ただ転んだだけ!だから、警察とか病院は良いから。」

「チェギョン、じゃあー、ママには電話するぞ。」

「うん。分かった。」気が緩んだのか、私はそのまま座り込んでしまった。

「大丈夫か?」ボーッとしている私に声を掛けるババ。

「ママに電話したら、すぐに来るって。どっか、怪我したところは?」

見える範囲でパパは私の様子を見ながら触っていき、手首も触る。

「痛っ・・ううん、何でもない」

変な座り方をした時に痛めた手首を何とか誤魔化そうとしたが、パパが私の手首のところに、紫色の鬱血の跡見つけた。

「チェギョン、これはどう見ても人の手の跡だよな?」パパの目が怪しい目付きになった。

「違うよ。」横を見ていう。

「転んだのは、本当か?」

「本当だって。」・・・・イン君が転んだけどね。

「あっちこっち、アザだらけだ。」心配しているのは、嬉しいけど。

「パパ、だから転んだって。」二人の睨み合いは続いた。






暫くすると、ママとチェジュンが帰ってきた。

「チェギョン!」「ブター!」大丈夫?という声で入ってきた。

「大丈夫だよ。」部屋着に着替えた私は何事も無かったように、座っている。

「パパから電話貰って、慌ててきたわ。」

「途中でママに会って話聞いたぞ。」

心配そうな二人。

「大丈夫だって。」今度こそ、ニッコリと笑う。

「ママ、ちょっといいか?」パパがひっそりとママに耳打ちをして台所に行った。

どうやら私の制服や痣の事を言っているだろう。

チェジュンの質問が続くが、私はある事を皆に言おうと思っている。

パパとママが居間に戻ってきて、私の傍に座った。

「えーーっと、みんなに話があります。」ゴホッと喉を整える。

「私、このソウルを出て、田舎に戻ろうと思うんだ。」

「はあーーー?」三人の声が揃う。

「うん。皇太子殿下との婚姻、やっぱ辞める。だって、大変そうじゃない?私には無理無理。」手をパパタパタと横に振る。


「チェギョン、アンタ・・好きだったんでしょう?」ギクッと動きが一瞬止まるが。

「ないない、あんな偉そうで勝手な人なんか好きになるわけないじゃん。」

言っていて、なんかじわーっと涙ぐんでくいく。

「ブタ―。俺にヒョンは出来ないのか?あんな格好いいヒョンだったら、みんなに自慢できたのに。」ショボーンと俯く、

「無理。出来ません。私にはやっぱ都会は合わなかった。皆はここに残って都会を楽しんで。」

「おいおい、可愛い我が家のお姫様を一人で田舎に返せる訳にいかないだろう?パパも一緒に帰るよ。パパも都会には、馴染めなかった。

やっぱり田舎でのんびりと暮らしているのが一番だな。

ママとチェジュンは会社や学校があるから残りなさい。」

パパの優しい声がこの部屋に響く。

「せっかくパパが戻ってきたのに、又離れ離れは嫌ですよ。私も田舎暮らしが長かったから、都会に住むのに疲れました。仕事も合わないし、私も戻るわ。」

ママは嬉しそうに笑う。

「皆んなが帰るなら、僕も帰る。魚釣りできないのが嫌だったんだ。」

「皆んなー。無理しないでよ。」私の我儘に家族を巻き込んでしまう。

「やっぱりダメだよ!」又、涙が出てきた。

「チェギョン、我が家の教訓はなんだ?」パパとママは笑う。

「人様には迷惑を掛けない。でも、家族には迷惑を掛けなさい」

言っている途中で、気が付き涙は絶好調になる。

「なーっ。だから、良いんだよ。田舎に帰ろう!」

ママが前見たく笑っている。パパも嬉しそう。

チェジュンは、しかたないなーでも、色んな魚釣りするぞーと言っている。

「ごめんね、皆んな」

その後、私達は最低限の物しかなかったので、簡単に荷物を纏めて車に詰め込んでいると。


「シンさん。」ガンヒョンのお父さんがやって来た。

「あっ、キムさん。今日の朝、長々と話してしまってすみませんでした。」

「いえ、大丈夫ですよ。」どうやら家に帰ってきたことを話していたみたいだ。

「キムさん、いっぱいお世話になったのですが。私達田舎に帰ることにしました。」

パパとママはニコッリと笑い挨拶をしている。

「えっ!本当なんですか?」

「はい。で、急ですが、もう今日ここを離れます。お世話になったキムさんには後で田舎の美味しいものを送りますね。」

「じゃあ、もう出てきなさい。」キムさんが奥の方に向けて誰かを呼んでいるみたいだ。

角の方から男の人が出てきた。

そこには、あの…あのキムオッパが歩いて来た。

「キムさん!」シン家皆叫ぶ。

「キムオッパ?」私が叫ぶ。

「本当にすみませんでした。」キムオッパは深々と頭を下げて謝罪をしてきた。

「シン家の皆様には本当に、何度謝っても足りない位の事をしてしまい。」

キムオッパの頭はまだ下げたままだ。

「あーー、チェギョン達には言っていなかったが、キムさんは謝りに来てくれたんだ。」パパがキムオッパに近づく。

「えっ?」

「パパがキムさんにお金貸してしまって、借金を背負ってしまっただろう?宮から警察に依頼があり、キムさんの事務所にテコ入れが入ったんだ。

で、私が騙されて借りたお金、騙されて建てた筈の店舗や家の分も、丸々戻って来たんだ。」

「シンさんは、私に2回も騙されたのに、訴えないと言ってくれて・・。事務所の他の人達は捕まったのに、私だけが釈放されてしまって。」

「キムさんは、初めてみたいだったからねー。君はまだやり直せる。でも、次また同じことをやってしまったら、もう捕まるから。それを胸に刻んで下さい。」

キムさんの肩をバシッと叩いた。

「シンさん。」キムオッパは涙ながら何度も謝やまるので、こっちが困るほどだった。

皆に挨拶をして、最後に私のところに来た。

「チェギョンちゃん、本当にごめんな。」グスッと鼻をすする。

「キムオッパ。もう二度とこんな事しないなら許してあげる。」ニッコリと笑う。

「僕があともう少し若かったら、チェギョンちゃんの気持ち受け入れたのになー。君が本当に可愛くて、毎回会いに行くのが楽しみだったんだ。」

「えっ?今更?ビックリーー!」口をポッカ―ンと開けてしまった。

でも、二人で笑い合い「キムオッパ――。私も都会からスーツのよく似合うイケメンに憧れてたよ。」

そう、今までの好きだっていう気持ちは、皆憧れだったんだね。

だって、本当の好きを知ってしまった今の私は、頭の中にシン君の事しか考えられなくなっていた。

キラキラと眩しいシン君の声、温かい手、優しくなった顔、思い出すだけで胸の奥がギュー――っとなる。

「キムオッパのお陰で、我が家は大変だったけど、田舎でのんびりと暮らすね。じゃあね。」

再出発をしようとしているキムオッパに、みんなで送り出してあげた。









「ソウルでの心残りはもう何もないねー。」パパとママは笑いあう。

車に荷物を運び、私達は何か月しか住んでいなかったアパートを見上げる。

「辛いことばかりだったけど、終わり良ければ全て良しだね。」

ガンヒョンも今日はバイトを休んで、私たちの見送りに来てくれた。

「チェギョン、なんで?こんなに早く行っちゃうの?せっかく友達になれたのに。」

二人で手を繋ぎ話していると、パパが「もう行くぞー。」と言う声がした。

「はーーい。じゃあ、ガンヒョン。LINEがあるから、私達は繋がっているね。」

「うん。そうだけど、そういえば皇太子殿下が何回もチェギョンの事探しに来てたよ。」

シン君・・?シン君。ギュッと胸元に手を当てる。

「私がソウルを離れたことは、内緒にして頂戴。」

「チェギョンって、皇太子と何かあったの?」

「うん?ちょっと、皇太子の秘密を立ち聞きして知ってしまったの。

これは絶対に、ガンヒョンでさえ教えられないから、ごめんね。

だから、皇太子殿下は私を口止めしようとしているのよ。」

ガンヒョン、嘘ついてごめんね。

「そっかー、分かったわ。」

「チェギョン、もう乗りなさい」ママも叫ぶ。

「じゃあね。ガンヒョン!学校への届けは出したけど、みんなへの挨拶は泣いちゃうから止めとくって言っておいてね。」

二人で抱き合い別れの挨拶を終え、私は車に乗り込んだ。









久々の車の運転で、パパの顔は真剣だ。

「あーあー。憧れのソウルーーともおさらばだね――。後部座席に座っている私は呟く。

街では、12月に入って、クリスマスイルミネーションが飾られて、町中が輝いていた。

「田舎もんには、やっぱり都会は無理だったねー。」

ママは都会育ちなのに、田舎に帰れるのが凄く嬉しいみたいだ。

チェジュンもご自慢の魚釣り道具を抱えて「よーし、何釣ろうかなー」とワクワクしている。

やっぱり、これで良かったんだ。

私がこのソウルを離れることで、皆幸せそうに笑っている。

きっと、ヒョリンも、イン君も・・・・シン君も幸せに笑える筈だ。

「あーーー―っ、ソウルタワー―。一回も見に行けなかったーー。」

夜の道路から見上げる綺麗なソウルタワー

彼氏と一緒にソウルタワーに登って、愛の鍵を掛けようとしてたのにね。

窓を開け、最後にもう一度よく見ようと顔をちょっと外に出すが、車に乗っているため、段々離れていく

憧れのソウルタワー、憧れのソウル、憧れの彼氏・・望み叶わないままこの地を離れて行く。

「バイバイ。」シン君・・・。









「今日もいい天気だね」背を伸ばして、店の開店の準備をし始める。

釜山から車で30分の田舎町。

季節はもう、夏を迎えようとしていた。

ずーっと住んでいた町に帰ってきても、皆は笑って受け入れてくれた。

「やっぱ、田舎は良いだろう?」皆が言う。

「うん、やっぱここに勝るものはないね。」

元の家は売ってしまったので、今は他の人達が住んでいる。

お金が戻って来た私達は、海辺の近くの中古の家を買った。

一階を食堂としてオープンさせ、今日も町の人達のお腹を満たしてあげている。

高校も何とか卒業して、今は店の手伝いをしている。

パパもママも大学に行きなさいと言ってくれたが、今は自分のしたいことが見つけれないと言って、この店を手伝うことに決めた。

だって、予想を上回る店の繁盛振りに、二人だけじゃ大変だ。

久々に帰って来たパパの味を求めて、皆が毎日来てくれて。それにネットでも呟てくれたお陰で、こんな田舎に大勢の人達が訪れる。

毎日毎日大変で、ヘトヘトになるまで働いている。

そう言えば、田舎に帰ってきて何故か?

私にモテ期到来みたいで、次から次へと男の人達の告白を受けるようになってしまった。

同級生から、年上、年下、数々と告白される。

なんで今頃?この田舎にいたころは、だれも私に声を掛けてくれなかったくせに。

居なくなってから、チェギョンの良さを知って後悔していると言う言葉が多く、でも私は丁寧に断る。

「私には好きな人がいます。」深々と頭を下げる。

あの一瞬の恋は一生分の恋に値する。もうあんな恋なんかできないだろうな。

このまま、一生独身でも良いと思う。

この食堂を受け継ぎ、お客様と過ごしていければ、良いんじゃない?

「よーし!今日も頑張るぞー!両腕を青い空を目指して伸ばした。

店の中の準備をしていると、ママがテレビをつけた。

そこには、皇帝陛下の顔が映し出されていた。

我が韓国の皇帝陛下、イ・ヘミョン様。

前の皇帝陛下のご病気の為生存退位なされて、イ・シン皇太子のお姉さまが受け継いだみたい。

皆、シン君が継ぐと思ったいたので、意外な人が皇帝陛下になって1週間になるのに今だテレビで騒いでいた。

肝心のシン君はと言うと、イギリスに留学しに行ったようだ。

それも彼女さんと一緒にね。

この間仁川空港で記者に囲まれながら、彼女さんつまりミン・ヒョリンと歩いているのを遠いこの町で見ていた私。

二人共、下を俯き足早に通り過ぎていき、あっという間だった。

久し振りに見たシン君は、テレビ越しだからか分からないが、もう輝いていなかった。


私がこの町に戻って直ぐに、皇帝陛下がご病気で倒れてしまい、色々な公務を引き継いでシン君は忙しそうだったが、カレは皇帝陛下にならずに、皇太子という身分も破棄したそうだ。

ずーっと前にシン君が、私に見せてくれた紙に書いていた言葉を思い出した。

皇太子を辞めたい。

願いが叶い、普通の人になったシン君。

今はミン・ヒョリンがカレの事を支えてくれているのだろう。


遠い田舎の町でシン君の幸せを、嫌二人の祈っているよ。






皆様、こんばんは。

何時も訪問有難うございます。

眠いので、もう寝ます・・。

おやすみなさい。