「では、この様に進めていきます。」

目の前の人は私達に深々と頭を下げた。

久し振りに集まったシン家の四人は、皆、口を開けてシン君を見ていた。

「今日中に終わらせますので、ご心配なさらずに。」

プリンススマイルを浮かべたシン君が眩しい。

この間までこんな現象はなかったのに、目を擦っても、パチパチとしても、眩さは衰えなかった。

「キム内官、直ちに動いてくれ。」

シン君の後ろに控えていたキム内官さんが、頭を下げてこの部屋を出て行った。

「皇太子殿下!そんな事までしなくてもいいんですよ。この人の借金は、私達で返していきますから。」

ママは、家出していたバパの腕をギューっとちぎりながら、シン君を止めた。

「母上、大丈夫です。私は今まで視力が悪いのに、掛けないまま過ごし、ちゃんと世の中の事、人の事を見ていませんでした。

だから、許婚のチェギョンの事も適当にあしらって、見向きもしませんでした。

初めて誰からも縛られない生活に浮かれ、シン家のボディーガードで来ているはずなのに、遊んでいました。本当に、すみませんでした。」

「気にしないでください。私達は宮からの凄い食材にありつけましたから。

正直に言うと、宮様たちの気の迷いと思っていたので、皇太子殿下が夜遊びに夢中になっていても気に止めてませんでした。」

ママはお出掛け用の微笑みで、シン君を見た。

都合悪そうなシン君。

「でも、眼鏡をかけ、全てをちゃんと見るようにしたら、チェギョンに惚れてました。」

私の事をちゃんと見てくれる真剣な表情に、心臓が暴れまともに見れない。

とっさに、顔を横にプイっと向けてしまった。

私の行動に、イラッとしたシン君は、横を向いていた私の隙を狙い、左手をギュッと握った。

ビックリした私は、慌てて離そうとしたけど、大きな手はガッチリと離してくれなかった。

「許婚を正式に決めたと、キム内官に頼みました。許婚の家族の事は、夫になる私にも関係あります。借金のお金は私の資産から出しましたから、お気になさらずに。」

何千万ウォンなんだよ。そんな簡単に出せるなんて、それに

「シン君!私はまだ許婚承諾してないよ。」ムキになって顔を上げる。

「お金の事は気にしなくても良い。オレはただお前に惚れたんだ。」

なっ、何、そんな顔しないでよ。

無駄にキラキラと輝いているシン君の切なそうな顔。

胸の奥がキューっと掴まれた感じになって、慌てて胸元を抑えた。

もしかして、私もシン君に惚れてしまったの?

ずーっと惚れっぽい性格だった私は、色んな男の人に惚れては玉砕していた。

でも、シン君のように眩しくなった人は、誰もいない。

これが本当の恋、なの?

じーっと見つめ合っていると

「チェギョン、もしかして皇太子殿下の事がすきなのか?」パパの驚きの声。

「え?そうなの?でも、好きになって直ぐに婚姻は早過ぎるわ。」

ママは困った顔になる。

「違うって、シン君のこと好きなんて、言ってないよ。」

慌てて二人を止める。

「考え中だよ。」

段々小さくなる声に、シン君の寂しそうな顔が目に入った。










私はシン君と部屋に戻り、カレは自分のバックを取り出し、数少ない物を入れ始めた。

「何してるの?」

「宮に戻る。」

「えっ?なんで?」

部屋の真ん中に下げていたカーテンから頭を出して話をする。

「父上が戻ったんだ。オレのボディーガード・・まっ役に立ってなかったが、もう必要ない。」

入れ終わり、今度は制服の上着を脱ぐ。

「急だよ。勝手にやってきて、勝手に帰っていくなんて。」

着替え始めたので、カーテンで顔を隠す。

「まっ、オレもこう見えても、この国の皇太子だからな。公務を免除されていたが、お前を迎える為にもう真面目に仕事しないと。」

「シン君とちゃんと話できるようになったばかりで、全然シン君の事分かんないのに、婚姻なんてまだ高校生だよ。」

イジイジと小さな声で言う。

「チェギョン。」カレの声が傍で聞こえる。

途端、顔を隠していたカーテンが外された。

「本当は、ここでお前の傍にいたい。」

フッと見上げると、前みたくメガネを外して、学校の制服ではなくスーツ姿になっていた。

ゆっくりとシン君の指が伸びてきて「もっともっとチェギョンの事を知りたい、そしてこの唇をもっと味わいたい。」

私の唇にギュッと差し込む。

ボワッと熱くなる頬。

そして、シン君の指先から放たれる熱いキモチ。

見上げた先の切ない目から反らせなくなった私は、シン君の顔が近づいてきていても、動けず。

カレの唇と私の唇は、ゆっくりと重なった。

チュッ、軽いキスなのに、目がチカチカとする。

「チェギョン。お前なら傍にいて、オレのひねくれた性格を直してくれそうだ」

また重なる唇。

恥ずかしくて、唇から逃げた。

「チェギョン?」

恥ずかしい・・、ついこの間までなんとも思っていなかったというか、嫌っていたシン君とキスしているなんて。

信じられない。

私は、カーテンを自分の体に巻き付け、シン君から隠れた。

「なんだこの可愛い白いオバケは?」

アハハッと軽く笑いながら、カーテンごと私を抱きしめた。

今まで二人を隔てていたカーテンは外れてしまった。

「お祖父様達の約束の為に婚姻するんじゃない。お前に惚れたんだ。この家からは居なくなるけど、学校では会える。」

カーテンをすっぽりと被り、目だけ出している私にシン君の顔が覗き込む。

「まったく・・何やっても可愛いな。」

抱きしめられ、シン君の顔は私の顔の横にある。

「婚姻の手続きは進めていくけど、お前が決心するまでは最後のサインは出さない。」

二人の目が合う。

じーっと見つめ合う私達の唇は重なる。

重なる唇は、ただ重なってるだけじゃなく、私の唇を吸い始め、荒い息が漏れる。

「シン君・・?」

間から漏れる言葉も途切れ途切れになり頭の中がボーッと麻痺し始めていく。

突然、荒くなり始めたキスが止まった。

「しつこい。」シン君の怒った声。

白いカーテンオバケの私から離れて、カレは電話に出て話をし始めた。

ヘナヘナと床に崩れて座り込んでしまい、もーっ!顔から火が出そうだ。

シン君の電話が終わり、座り込んでいる私の背中に手を置き

「迎えが来た。」

カレの言葉に反応して「シン君!」縋るようにカレの事を見る。

「この家から出るのは正解かもな。このまま居座ったらキスだけじゃ終わらない」

苦笑いを浮かべながら、ネクタイを締め上着を羽織

「じゃあ。」バック一つを持ちこの部屋を出て行ってしまった。

シン君が来たお陰で自分の場所がなくなってしまって、窮屈だったこの小さな部屋。

でも、シン君はさっき「じゃあ。」と言って出て行ってしまった。

今は私一人になってしまい、シン君がいた場所に畳んである布団だけがポツーンとある。

「どうしよう。今日一日でいっぱいあった。」

パパを見つけたのに、多額の借金を背負ってしまいどうしようと思っていたら、シン君がその支払いを自分の資産から返したから気にするなって。

で、私との婚姻を望んでいるそうな。

どうしたら良いの?

対処しきれない出来事ばかりで、その夜私は熱を出してしまった。













「チェギョン、今日は学校休みなさい。」

パパが体温計を見ながら言った。

「・・・うん。」

咳も鼻水も、喉も痛くない、ただ熱が出ていて、ボーっとしている。

「顔が真っ赤だ。」

ママが熱を下げるのを持ってきて、私に貼っていく。

「どうする?病院に行く?」

「ううん。寝てる。」

今までこんなに考えたことなかったからかなー、頭がオーバーヒートしてしまったようだ。

「付き添うか?」

パパは心配して私のおでこを触る。

「大丈夫、二人ともお仕事行って来て。そうだ、パパはちゃんと家に帰ってきてね。」

布団からジロリと睨む。

「かッ、帰ってくるさっ。帰ってきて、チェギョンに美味しいもの食べさせないと。」

慌てて出て行った。

「まったく、自分のせいでチェギョンが悩んでしまっているから、パパ申し訳ないみたい。皇太子殿下の婚姻、どうしたいのか、ゆっくりと考えてみて。

最初に来た時は、評判通りの氷の王子だったけど、昨日のカレは別人のようね。

メガネ掛けただけで、性格が変わるって、なんかマンガみたいね。」

クスクス笑うママ。

「ママ・・。」

「いっぱい悩みなさい。若いうちは色んな事を乗り越えて、大人になっていくんだからー。今の皇太子殿下なら、チェギョンの事を幸せにしてくそうな感じがするね。ママが後20才若かったら結婚したかったわ。」

「ママーーー。」ママが冗談を言っている。

パパが家出をしてしまった分、この家を守りご飯を食べさせてくれた。

ママも色んな事を悩み疲れていた。

だから、冗談を言うママなんて、本当に久しぶりだ。

「昨日、パパの事をきつく、きつく叱ったのよ。でも、パパが帰ってきてくれて本当によかった。」ママのホッとした顔。

ママにこれ以上苦労掛けさせたくない。

私は口元をギュッと引き締めた。

「ママ、もう行く時間じゃない?」

時計を見ると出社時間に近い。

「朝なのに、久々にゆっくりしちゃったわ。じゃあ、チェギョン、ちゃんと寝ていてよ。」

必要なものを置き、ママは出て行った。

家の常備薬を飲み、暫くすると私の瞼は重くなり、眠りに入っていった。












冷たい!

おでこに冷たい感覚を感じて、目が覚めてしまった。

私の視界全部にシン君のドアップがあり「!!」ビックリしすぎて、声が出なかった。

「チェギョン、熱があるって聞いて、慌ててきた。」

えっ?今何時?時計を見上げると、まだ12時半。

「昼休み時間に美術科に行って、見た事のある髪の長いメガネの掛けた女から話を聞いた。顔が赤いぞ。オレのが移ったのか?」

そうだ、シン君はついこの間ここで倒れたんだ。

「ううん。違うよきっと。いっぱい考えてたら頭がパンクしちゃったんだよ。」

朝よりは体のだるさがない。

「医者に見て貰ったのか?」

心配そうに私の頭を撫でる。

「ううん。行ってない。寝ていれば治る。」

ニッコリと笑ったつもりだけど、きっとそうは見えてないんだなー。

「今すぐッ、宮の医師に見て貰う。」

ポケットから、ケイタイを取り出し電話を掛けようと。

「シン君、良いって。もう大丈夫だから。使ってない頭いっぱい使ったからね。」

「チェギョン。本当か?」

シン君のメガネの奥の瞳が真剣だ。

「熱が出たってすぐに下がるから、庶民のパワーをバカにしないで。」

「仕方ない、分かった。」

もぞもぞと携帯をしまって、私の事をじーっと見つめ始めた。

余りにも見られるので「ねえ、学校に戻らないと。私は寝てれば大丈夫だから。」

「今日は、遅くまでの公務で、チェギョンの様子を見に来れない。だから、誰かが帰ってくるまで付き添う。」

「えっ?いいから、大丈夫って何回も言ってるじゃん。」

「この間、オレが倒れたとき、お前がずーッと傍にいてくれただろう?」

嫌々あれは、アンタの手がギュッとわたしの手を離さなかったからだよ。

「起きたとき、嬉しかった。小さい時熱出しても、親たちは忙しくて、オレに付き添ってくれるのは仕事上の奴らばかりで、大丈夫ですか?という声が本心じゃないんだなーって、子供心から思ってた。」

「屈折してる――。そんな事ないじゃん!きっと皆、小さいシン君の事本気で心配してたと思うよ。
今じゃ、大きくなり過ぎて、態度も悪かったけど、小さいシン君の為皆一生懸命尽くしてくれたと思う。」

なんかそんな気がしてきた。きっと、そうだよ。

急にジ――っと見ている。

「何よーっ、なんか変なこと言った?」

熱があるから、何があっても直ぐに対応できない・・ヤバイ。

体を動かしたシン君に、私の体が過剰に反応する。

「何、ビクッとしてるんだ?お昼まだ食べてないだろう?お粥作ってくる。」

立ち上がり、この部屋を出て行った。

ひーっ。又キスされてしまうって思っていたら、シン君、お粥作りに行っちゃった。

何一人で勝手に過剰に反応してるのよ!

布団に寝ているのも疲れた。

ゆっくりと体を起こし、フーッと溜息をつき、自分の胸元に手を当て、このドキドキと早い鼓動は、やっぱシン君のせいよね。

これは、シン君のことが好きって事なの?

急に優しくなったカレに、段々惹きつけられている私。

色んな人に憧れていた気持ちとは全然違う事を知る。

シン君しか、こんなに鼓動は早くならない。

私は、なんか吹っ切れたように天井を見上げて、腕を上げて背伸びをした。

「もう、起きよ!」

ちょっと熱いけど、もう寝てるのに飽きちゃった。

「着替え、着替え。」

汗ばんだパジャマではなく、洗っておいてあるパジャマに着替えようと、タンスにむかいお目当てのものを出した。

全部脱ぎ着替えていると。

「チェギョン、嫌いなものあるか?」

ガチャっと開けて入ってきたシン君と目が合った。

「もー!又ー!」

裸の私は、床の上にしゃがみ込み服で一生懸命隠した。

「起き上がれるのか?じゃあ、お粥はちょっと硬めが良いな。」

私のピンクのエプロンを掛けているシン君。

「早く、出て行ってよ!」又、熱が出たように真っ赤になる。

「分かったよ。余りオレの事煽るなよ。やりたい盛りのオレに襲われるぞ。」

ニヤニヤ笑いながら、出て行った。

その後、私の大声が部屋から響き渡った。











「ブタ――!!熱下がったか―?」

玄関の鍵が開き、チェジュンの声が突然聞こえた。

バタバタと歩いてくる足音。

どうやら私の部屋に行ったがいないので、こっちに向かってくる。

居間の入り口に入り、驚いている。

そりゃー、驚くだろう。シン君がエプロンを掛け、私にお粥を食べさせているんだから・・・。

「ヒョン、なんでいるんだ?」

「チェジュン、元気だったか?チェギョンが熱出たって言うから看病しに来た。ほら、口開けろって。」

居間のテーブルに座り、シン君の差し出すレンゲを大きな口を開けて待っている。

「あーん」

シン君の声に合わせてレンゲは私の口の中に消えていく。

「ウマっ!シン君の作ったお粥もう絶品で、お替りしちゃった。」

額に熱冷ましシートを張りながら、こんなおいしいお粥食べれるなら、熱下がって欲しくないと呟いた。

「なんだよ。まるで夫婦みたいだ。」ニヤニヤ笑いながら言う。

「チェジュン、そう見えるのか?」

嬉しそうなシン君のエプロン姿を見て、きっとうちのパパを連想しているに違いない。

なんたって、うちのパパとママは本当はラブラブで、よくパパはエプロン姿でママにご飯を食べさせていたもんね。

「もう婚姻しちゃえば?」

チェジュンの言葉に私達はビックリする。

「何言ってるのよ!一生の事だよ。すぐに決めれるわけが。」

こんな事を言っている私の隣でシン君は

「チェギョン、やっぱ婚姻の返事は今すぐにしてくれ!」私の手を握る。

「馬鹿!何やってるのよ!チェジュンもシン君をからかわないで!」鼻息も荒くなる。

「チェっ、良いじゃないかよー。僕だってこんなカッコイイ兄さんが欲しかったんだ」

フンっと横を向く。

「チェジュン・・。」

私の手を離して、チェジュンの手を握るシン君。

「これで、好きなお菓子を買いなさい。」

慌てて財布から1万ウォン紙幣を何枚か出し、チェジュンに渡そうと。

「わーー―、アンタたち何やってるのよ!シン君チェジュンにお金簡単に渡さないでよ。」目も吊り上がってしまう。

「ブタ、邪魔すんな!ヒョン、ブタがいない時に、頂戴。」

ゴニョゴニョと言っているのが聞こえた。

「何急に仲良くなってるの。」

こんなに寄り添っているの初めて見た。

「ブタだって、ヒョンと急に仲良くなってるじゃないか。」ニヤ―っと笑っている。

「えっ、えっ・・そう・・。」なんか又熱が出そう。

「ほらっ、お粥食べて薬飲んで寝てろ。オレももうチェジュンが来たから行く。」

シン君が残りのお粥をレンゲに入れて、私の口を開けさせ食べさせてくれた。

「よし、いっぱい食べたな。」私の頭を撫でて、食器を下げてくれた。

「チェジュン、一緒に洗い物するぞ。今は男子も家事できないと大変だぞ。」

二人でキッチンに行ってしまった。

2人で仲良く洗い物をしている後姿を、私は熱冷ましシートを張り替えながら見ていた。

チェジュン、嬉しそう。

シン君メガネバージョンは、本当に別人のように優しく、自分の気持ちをハッキリと伝えてくれる。

キラキラと眩しいシン君。

シン君を見る度に、頬が熱くなる。

私も、自分の正直なキモチをカレに伝えないといけないと思った。









皆様、こんばんは。


何時も訪問有難うございます。

久々の太陽が見れて。慌てて洗濯、草取りを頑張りました。

でも、今日から又雨です。泣

では、おやすみなさい。