「キムさん、えーっと長い説明を簡単に言うと。

うちのチェギョンが、韓国の皇太子の許嫁だって事ですか?」ママが恐る恐る聞いた。

「そうです。この事が最近判りシン様をさがしたのてすが、お引っ越しなされたみたいで、随分探しました。」

「はぁーッ。我が家も大変でしたので。」

って言うか、今現在パパが家出中で・・ママの言葉が小さくなる。

「では、手続きとかが有りますので、明日にも宮の方にいらして下さい。

必要なモノは、御朱印と指輪です。

皇太后が御持ちなられたモノには、そう明記されておりました。」

自分のタブレットを開き、確認している。

「ストーップ!キムさん!何勝手に進んでるの?私の意見は?」

それまで黙っていた私の口は開く。

「えっ?」キムさんはビックリしている。

「この国の皇太子殿下って、どんな人か知らないのに、その人と急に婚約なんて!あり得ない!」鼻息も荒く言った。

「皇太子殿下を知らないのですか?」驚きまくりの顔。

「知らない、!・・・です。」年上のキムさんにタメ口を聞いてしまって、慌てて直した。

「皇太子殿下のことを知らない女性がいたとは、ビックリです。

皇太子殿下は、陛下の頭脳明晰・冷静沈着を受け継ぎ、皇后からは端正な顔を引き継い、国内外でも大変な人気です。

まっ・・感情の表現が苦手な為、氷の皇子と呼ばれておりますが・・。」

キムさんは、ボソッと言いながら、タブレットを私に見せた。

そこには、感情が無い顔の男が写っていた。

「キムさん・・?この男子が皇太子殿下なの?」

「そうですよ。」嬉しそうに言う。

「えーーーっ、私のタイプじゃない。切れ長な目で何考えているのか判んない男好きじゃない。」ブ――っと膨れる。

「チェっ!チェギョン!」ママが私の口を塞ぐ。

「・・・。」キムさん、ママが苦笑いで、この場面をやり過ごした。








「フーーーーッ。」結局私は、2つのモノを探し出して、宮の門の前にいた。

迎えを寄こすとキムさんが言っていたが「いーです。自転車で行きます。」と断った。

自転車を掴みながら、大きな門を見上げていると。

キムさんが時間通りにやって来た。

「シン・チェギョン様。ようこそいらっしゃいました。」

後ろに綺麗なおねーさんを従えていた。

「皆さんがお待ちかねです。さーっ、行きましょう。」

キムさんに勧められるまま奥に進んでいく。

一般公開の場所も通り過ぎ、人のざわつきも聞こえなくなり、色んな建造物が立ち並ぶ。

「すっごーーい!」

キョロキョロと見渡していると、キムさんが

「どうですか?韓国の長年の伝統が此処に生きてます。」

「凄いしか言えません。ここには人が住んでいるのですか?」

とてもここで暮らしている感が感じなくて、聞いてみた。

「陛下、皇太后、皇后、皇太子皆それぞれ自分の住む所があり、そこで暮らしております。」

「そうなんですか。」こんな所で住むってどうなんだろう。

私だったら息が詰まってしまう。

「さーーっ。もう着きました。どうぞ、中にお入りください。」

中に通された私は、この部屋の空気が違う事を肌で感じ取った。

ソファに座る韓国の服を着て座る人と、後ろに立って従える人も韓服を着ている。

そして、どこからか香るお香の匂い。

この香に包まれた私は、軽く眩暈がした。

ここは・・現代なの?まるで昔にタイムスリップしたみたいだ。

皇太后と皇后、陛下はテレビで何度か見た事があったが、皇太子殿下って初めて見る。

「そなたがシン・チェギョンか?」皇太后様が口元を押さえながら聞いてきた。

「はい。」この部屋の威圧感に勝てない私は、何時もと違う態度になってしまう。

「そうか…可愛いですね。」ニコニコと言ってくれる。

でも、他の三人は私をチロッと見つめただけで、ただ黙って座っている。

なんだ?この3人は?

陛下、皇后、皇太子って、家族だよね?なのに温かみを感じられない。

我が家とは全然違う。

いつも笑いが絶えない家族で、でもまーっ今はシン家最大の危機を向かえてますが。(汗)

チラッと自分の許嫁と言われる皇太子を見ると、やっぱ好みじゃない。

この男子と婚姻、無理・無理。

それに皇太子、アンタの許嫁が来たのに、興味なし――って顔はどうよ?

無表情に前を見ている皇太子を見て、一人心の中で悪態をついていた。

「チェギョン?」ニコニコと笑いながら私の事を呼んでくれる皇太后様

「あっ!はい!」

「今日は約束のモノを持って来てくれてありがとう。

これで、シンとチェギョンの許嫁が交わされます。

婚姻するまでの日取りとかは、これから決めていきますので。」

皇太后様が嬉しそうに言う。

嬉しそうな皇太后様と反比例な3人の重苦しい空気の中、私は負けそうになったが両手に力を入れて、言葉を発した。

「皇太后様、お待ちください!私、シン・チェギョンは今日この婚姻を断りに来ました。」

恐れ多い皇太后様の目をシッカリと見て言う。

「えっ?」4人の顔が一斉に私を見る。

「この間まで、皇太子殿下の存在、顔なんて知らなかったのに、その人と許嫁の関係になりなさいって、昔じゃないんだから、無理です!

それに今は、シン家が大変な時なんです!婚姻なんてしてられない!」

息継ぎをするの忘れて一気に話をした。

「シン家が大変とは?何があったんですか?」皇后様が初めて口を開いた。

「うちの両親が離婚しそうなんです。シン家の一大事なんです。」

声のトーンが自然に下がる

「まあ・・・っ。」皇太后様は辛い顔をなさった。

陛下と皇后も同じようにしてくれたが、殿下は一瞬私を見たが、又視線を外した。

「パパは家を出ていちゃって、今はママと私と弟だけなんです。

何かと不用心で2人を置いて行くこともできません。だから、絶対に無理!です。」

「じゃあ、お父上が見つかり、離婚を回避出来たら許嫁の続きをしても良いのですか?」

「夫になる人の事も知らずに婚姻なんて嫌です!だから無理・・」許嫁の事を断ろうとしたのに、話は途中で切られた。

「じゃあ、シンを貴方のお家に住まわせましょう。」陛下が淡々と言う。

「へっ?」今なんとおっしゃいました?

「陛下良い事を考え付きましたね。シン家のボディガードをしながら、チェギョンと仲良しになっていく。グットアイディアですね。」

皇太后様はニコニコと笑う。

「では、シン。今日からシン家に行きなさい。」陛下は皇太子に告げた。

皇太子は、事の成り行きをジーーっと黙っていたが

「判りました。今日からシン家のボディーガード兼シン・チェギョンとの親交を深める為に、泊まり込みを致します。」

皇太子はソファから立ち上がり、私を見下ろした。

デカイ。

私よりはるかに身長がデカいが、痩せていて何とも頼りなさそうだ。

こんな体でボディガードなんてできるの?

「あっ、チェギョン。シンはこう見えても一通りの武術は習っておりますので、ボディガードは完璧ですよ。」

ニコニコと皇太后様は笑った。

私の心を見破られたみたいで、私はアハハハハっ、と苦笑いをした。










夕方、私のアパートの前に黒い車が止まった。

訪れる時間ピッタシに到着した。

助手席からキムさんが降りて来て、後部座席のドアを開けると高そうな靴が見えたと思った瞬間に、一気に体が現れた。

そして昨日とは違う制服姿の皇太子がいた。

スーツの時は、同じ高校生には見えなかったが、制服だとカレもまだ10代なんだーと感じた。

キョロキョロと周りを見た後、溜息を吐く皇太子。

「こんな所に人が住んでいるのか?」淡々と聞いてきた。

「はあ?」私の声が高くなる。

「まあまあ、殿下は自分の東宮殿以外のとこは初めてなので、緊張しているんですよ。」

私と皇太子の間に入り、なだめようとしているキムさん。

「緊張?」うそくさい、私の顔が疑う。

私とキムさんを置いてさっさと中に入っていく皇太子。

「あっ!ちょっと!」私とキムさんは、慌てて追いかけていった。






「では、皇太子殿下のことを宜しくお願いいたします。」深々と頭を下げるキムさん。

ママは「本当に来ちゃったんですね。チェギョンから話を聞いてビックリしたんですけど。」

「ご主人様が見つかる間だけです。殿下も、社会勉強になって宜しいかと。

殿下が増えた分の食事は、こちらで厳選されたいい食材を毎日お届けいたします。」苦笑い。

「では、シン家の皆さま、よろしくお願いいたします。」キムさんは必要なことを説明した後、宮に戻っていった。


ママはもう仕方ないなーと言いながら

「じゃあ殿下。このアパートには居間、台所の他に部屋が2つしかないの。

チェジュンはまだ小学生だから、私と一緒が良いって言うし。

残った選択は、チェギョンと同じ部屋なの。宜しくね。」無茶ぶりなママは、笑う。

「えっ?ママ?何言ってるの?」私は大慌てで、ママを引きとめた。

「ママ!皇太子はほっそいけど、男子なのよ。私は女子ダメでしょう。」

鼻息も荒く訴える。

ソファに座っていた皇太子に、チェジュンが近寄っていき

「皇太子殿下ってデカいんだねーー、パパより断然に大きい。それにカッコイイーー!!」キラキラと目を輝かせて、話をしていた。

「チェジュンの父上は、オレより低いのか?」

「うん、ブタよりも小さい。」チェジュンは、いっぱいある家族写真を皇太子に見せて

「ほらっ、小さいでしょ?」

「なーっ、チェジュン、ブタって誰の事だ?」

「あーっ、チェギョンのこと」ニヤニヤと笑う。

「へーーーっ。」私の方をチラッと見た皇太子。

「なによ?」

「嫌、何でもない。チェジュン部屋を案内してくれないか?」

持ってきたスーツケースを持ち上げ、二人で私の部屋に行ってしまった。

「ひゃーーーーっ!なに勝手に部屋に行こうとしてるのよーー!」

ママとの言い争いを中断して、バタバタと追いかけた。



扉を開けたら、身長のデカイオトコがいた。

私の部屋に、ちゃんとした話しもしたことも無かったオトコが立っている。

マンガ本でいろんな恋話を読んできた。私もこういう突然始まる恋に憧れていたが。

手を横に振りながら、この人とは、むりー!恋なんて始まらないー!と呟いた。

部屋をグルーっと見渡している皇太子

「狭いな。東宮殿のトイレより狭いかも。ここで二人寝れるのか?」

ボソッと言って、スーツケースから物を取り出していた。

「ちょっとー!なに平然と物出してるの?アンタは、私と一緒なんて嫌でしょ?

それに、こんな狭いとこ、嫌でしょう?それに、皇太子って私に興味ないよねー。

でも、オトコって好き嫌い関係なく出来るって聞いたんだけど。」

色んなことを早口で言っていたら。

「お前、煩い!」急に立ち上がり、長い腕を私の体に伸ばして、私の口を塞いだ。

あまりに急な事で動けない私に、皇太子の冷たい手がギュッと押し付けられている。

「知ってるか?キスって、オレの子供を丈夫に産めるかどうか、DNAが判断するためにするそうだ。

心配するなお前みたいなオンナなんかと、キスなんかする訳ないだろう?

勘違いすんなよ。」

彼の顔が近付き、ギュッと押さえ込んでいる手の甲にキスをして、押さえ込んでいた手を離した。

ヘナヘナと崩れていく私を、呆れた顔で見下ろしていた。

「今までずーっと自由のなかったオレに、お前のお陰でチャンスがきたんだ。」

ポケットから携帯電話を出して

「準備できた。車はもう来てるんだな?じゃあ、もう行く。」

私の目の前て、堂々と私服に着替えた皇太子は、この部屋を出て行った。


取り残された私は、ただボー然と皇太子の出て行った入り口を見続けることしか出来なかった。






皆様、こんばんは。

最近、ダブルワークに疲れて、時間が空けば寝てばかりいました。

更新もこんなにしてなかったんだーとビックリ、その間に来てくださったお方々有難うございました。

工場の仕事が増えて汗だくで動き、夜の掃除のバイトも手を抜かずに、頑張っております。

皆さんも熱中症にはきをつけてくださいね。


では、又会える日まで~。