「私だって、恋はしたことあるよ。」

オレと同い年には見えない、幼いオンナ。

高3なのに、お団子頭で時々スカートの下にジャージを履き、腕には何かを嵌めている。

そんな幼稚なオンナの声が部屋に響く。





高校生三年の秋、許嫁のシン・チェギョンと婚姻をした。

同じ高校なのに、見たこともない顔

まー、普通の顔だ。

オレが付き合っているミンヒョリンに、プロポーズして振られた事を知るオンナ。

婚姻してしてからソファで雑誌を読んでいると、ノックをして入ってくる

向かいのソファに座って、黙ってオレの事を見ていたが無視して雑誌を読んでいると、突然言い出した。

「ミン・ヒョリンさん、我が高校1番の美人さん。

シン君付き合ってたんだね。皇太子と美人がカップルなんて、ドラマみたい。

でも、彼女の事をプロポーズをするくらい好きなのに、何で私と婚姻したの?」

「いくら好きでも、お前と婚姻するのは、絶対なんだ。」

「ふーーん。へんなの?」

「今どき。じぶんのすきな人と結婚できないのって!酷い話だ。」プーーっとふくれる頬。

「それに、愛している彼女を、この宮に閉じ込める事はできない。」

「何で?真剣に愛してるのなら、一緒に頑張れば良いじゃない」

「お前、あの現場見ていた筈だぞ。」ジロッと睨む。

こいつの目線は、天井を見て「あはははっ。そうだったね。」苦笑い。

「天下の皇太子が振られるなんて、絶対に公表できないね。」

「脅しか!?」

「まさか。皇太子殿下も、人も愛する事が出来る温かい血が通うオトコだったって判って良かった。

ほらーーっ、シン君って、あまり良い噂ないじゃん。氷の皇子とか、無表情とか。」

もっとキツイ目で睨むが、コイツには効かない。

「シン君が約束してくれた2年後の離婚まで、仲良くしていこうね。」

変なオンナ。

オレの妻になったこのオンナは、家の借金を宮が負担すると言う取引で、オレとの婚姻を決めた。

愛なんて全くない。

プロポーズを断られた彼女に、未練タラタラでどんな女でも良かった。

例え金で繋がってようと。






オレが婚姻した日から、ヒョリンを目で追う。

すれ違う時、目線だけが合うが、何も出来ず。

バレエの練習場所を、見上げてため息を付く日々。

妻のいる身で、隠れて会うこと何て、もう出来やしない。

皇太子という鎧を、ちょっとだけ下ろす事が出来た彼女の存在。

彼女と隠れて付き合っていた日々が懐かしい。

戻れる事なら、戻りたい。

そんな辛い日々を過ごしていたのに、オレの妻は。

教育が嫌で、逃げ出したり、居眠り、高価な置物を壊したり、毎日何かをやるお転婆振りにに、宮全体がアイツに振り回されている。

オレの失恋で、傷ついたココロが泣かなくなるくらい。




「シン君、匿ってーーー!」

オレの部屋のドアを、バーンと開けて乱入してきたコイツ。

突然のヒョリンからのメールが届き、悩んでいたのに、コイツはオレを休めさせない。

キョロキョロ見渡し、ニヤーーっと笑った。

「しーーんーーーーくーーーん。」オレに向かって来る。

「オイ!何するんだ?」

お団子頭は、なんと”オレの座っているソファの下に、体ごと入れ、完璧に隠れた。

「シン君、誰かが来たら、ちゃんと言ってね。皇太子妃は此処にはいませんって。」ソファの下から、オレの足をビシッと叩いた。

「イタッ!」

「頼むわよ。私の旦那様。」

まったく最近じゃ、怒られるのが嫌でオレの事を使う。

チェ尚官のお小言は大分縮小されてしまう。

ドアの外側から、控え目なノックが聞こえた。

「どうぞ。」出来るだけ、バレないように、いつもの返事をした。

「失礼します。」頭を深々と下ろした。

そして頭を上げた彼女はする目つきで、周りを見渡し「殿下、妃宮様は此処にお出でには。」

「来てませんよ。」しれっと言う。

「そうですか。では、失礼致します。」又深々と頭を下げて出て行った。

ちょっとの間が空き、ソファの下からゴソゴソと上半身が出て来た。

クリームイエローのセーターの色が眩しい。

ズシズシと体を出し背伸びをした。

「おい!見えて。」

ツイードのミニスカートを履いていたお団子頭は、無意識に猫のように背伸びをしたせいで、ギリギリに中が見えそうだった、

って言うか、お団子お前の足そんなに綺麗なんだ。

「あっ。ごめんごめん。」慌てて立ち上がって、スカートを直した。

それもオレの目の前で。

お団子頭は子供みたいだけど体は。

「いつもゴメンネ。妃宮はヘマばっかしで。2年間は頑張ってやろうと思ってるんだけど、不器用な私には荷が重過ぎて。」苦笑い。

「で、今回は何壊した?」

「ダンスの練習中に、置物にぶつかってしまって。高そうだった。」手を合わせ、お祈りのポーズをする。

「お前な。2年後じゃなく、直ぐに離婚言われるぞ。」

「あはははっ、やっぱ、そう?」ポリポリと頭を掻く。

「でも、さーー。それってシン君にとって良い事じゃないの?離婚したら。ヒョリンさんの下に戻れるんだから。」ニコニコと言うお団子。

ジーーーっとお団子の顔を見る。

「何よー。そんなに見ないでよー。」


ヒョリンからのメールを思い出す。

シン。会いたい。

プロポーズを断った私が悪かったわ。

貴方の隣に誰かが立つのは、嫌。



ようやく、失恋の痛みを忘れそうな日々なのに。

又あの恋していた想いが蘇る。

ギューーっと心臓が痛い。忘れようと必死だったのに、まだ心が残ってた。

「シン君。まだヒョリンさんの事忘れれないんでしょう?」

「・・・。」ジロッと睨む。

「判るよ。そのキモチ苦しいよね。」瞼を伏せ、優しく言ってくれる。

「何だよ、その知ったような口ぶり。」

「私だって、恋はしたことあるよ。」

えっ?

幼稚なオンナの声が部屋に響く。

お前みたいな子供が、恋?

「どうせアイドルとか、俳優だろう?オレの恋と一緒にするな。」

「ふふっ。イ・シン皇太子殿下。妃宮を舐めちゃいけませんよ」チッチッと指を振る。

「憧れじゃなくて、本気な恋だよ。」フッと見せた大人っぽい顔。

えっ?お団子、お前。何時もの顔じゃないぞ。

「終わっちゃったけどね。」苦笑い

「だから、シン君には諦めないでって言いたい。好きならずーっと想っていて

2年後には、迎えに行くからって、ちゃんと伝えないと。」親指を立てて、ウィンクをする。

終わったって。本当にか?

お団子が、恋?信じられない。









「だからっさっ。悩み事がいっぱいあるのなら、一緒に悩んであげるから。

せっかく2年間夫婦になったんだから、たまには私を頼ってよ。」ニコニコと言う顔は、さっきまでの大人な表情ではない。

「・・・・・。」

「こう見えても聞き上手なんだから」顔の横にピースサインを当てる。

「じゃっ、そろそろ行かないとね。おねーさんたちの怒りも収まっているかと。」オレに手を振りながらこの部屋を出て行った。

言いたい事を言って、いってしまったお団子。

お団子が恋。

同い年には見えない子供が?

笑わせる。

オレはスマホの画面を見て、又悩み始めた。





それから一週間が過ぎ、皇太子夫妻揃っての公務があった。

国民に皇太子妃として初めて登場する大事な日。

何時ものオテンバでも、さすがに緊張するらしく、色んな無駄な努力をしていた。

突然のフラフープ。

顔全部に、きゅうりを貼り、そのままプラプラ歩き、オレを笑わせた。

モデルウォーク。だから、そんなケツ振って歩く皇太子妃が、世界のどこにいる?

思わず笑いそうになって、慌てて部屋に入った。

東宮殿にいて、笑う事などなかった日々。

お団子が来てから、確実にオレは変わっていく。

お団子の姿を、思い出しながら笑ってしまう。

まったくこいつといると、飽きないな。

ヒョリンから何度も来るメールに、返信できないまま過ごしていたオレは、返信するのを忘れていく。





公務を明日に控えた夜。

皆との会食があり、食欲旺盛なお団子が、あまり食べいなかった。

皆から、「初めての公務だけど、無理せずにシンに頼りなさい。」優しく言われていたお団子は苦笑いをしていた。

お互い自分達の部屋に戻っていたが、雑誌を読み終わり、フッとガラス越しに向かいの部屋に電気が点いていた。


「珍しいな。」お団子は、寝つきが良い。

自分の部屋に入ると、あっという間に電気が消えるのに、今日はまだ起きているのか?

会食の時も、食欲が余りなさそうだった。

あんなヤツでも、やっぱ緊張するんだな。

じゃあ、ちょっとばかり相手してやるか。ソファから立ち上がり、ドアノブに手を掛けた時。

うん?オレお団子の為に、してあげようと。

世話なんて一番嫌いな筈。

お団子が悩んでいようが、オレには関係ない筈。

ドアノブに手を掛けたまま、時間が止まる。

2年間だけの妻なのに、毎日毎日振り回され、笑い過ごす日々、嫌じゃない。

お団子と過せる日々が減っていく。

つまり離婚が近づくと言う事。

ドアノブに掛けた指は,ギュッと力を入れた。

ギーーーっと開いた扉から体を出し、皇太子妃の部屋に向かう。

ただお団子を元気付けたい。何時もの明るさを取り戻させたい。





ドアをノックしながら、「寝てないんだよな、話し相手に。」言いながら、扉を開けたら。

ソファに胡坐をし、小さい鍋からラーメンをすすっていたお団子。

「!」言葉が出なかった。

ラーメンを口に入れたまま「・・しん・・・くん・・・も食べる?」口の周りを赤く染め、ニッコリと笑う顔。

とてもこんなお色気ムンムンのネグリジェを着て、胡坐をかき太もも丸出し。

前髪もギュッと縛って、夜中にラーメンを美味しそうに食べるオンナ

ニッコリと笑う顔から目が離せなかった。

「夜の会食あっさりとしたものが多くて、お腹が減って寝れなかったんだよねー。だから厨房に行って、辛ラーメンを作って、妃宮ってこんな事しちゃダメ?」

頬にラーメンの端っこをつけ、言い訳をする妃宮。

お前って、最高。

頬に付いたラーメンを掴み、自分の口に入れ「オレにも、夜食食べさせろ。」鍋の取っ手を掴んだ。

真っ赤な頬になるお団子

「シン君ったら、そんなことしないでよ。」照れてるのか?

オレの行動に照れるなんて、カワイイ。

はっ!今カワイイって思ったのか?

こんな口の回りを真っ赤にしてるお団子を。

「シン君、このラーメンは、私の分なの!食べたっかたら、作ってあげるから。」鍋を自分に引き寄せた。

「えっ?」照れているんじゃなくて。

自分の分を取られるのが、嫌なだけだったって。

「あははははっ。」大きな口を開き、笑い始めた。

「シン君が大きな声で笑うなんて。初めて見た。」

ラーメンをすすりながら、驚く顔。

「オレだって、笑うぞ。」お団子をキッと睨む。

「そうだよね。シン君だって、人間だもの笑うもんね。」鍋に唇を当て、スープをすする。

「人間じゃなかったら、何だったんだ?」ちょっとだけ聞きたくなった。

「サイボーグ?」

「オイ!」

「あははっ、だからー。謝るよ。お詫びに、辛ラーメン作ってあげるから。」いつの間に空っぽになった鍋を持ち、立ち上がった。

「ほらっ、厨房にいこっ。」小さな白い手が、オレに伸びてくる。

他人にさわれるのは、好きじゃないが。

お団子、イヤ、シン・チェギョン、お前はオレの妻だもんな。

チェギョンの綺麗な手に、自分の手を重ねた途端、思い切り引っ張られた。

「早くいこっ!」

厨房までの道のり、繋いだ手は熱い。

そして、ドキドキ。まるで心臓が手のひらにあるんじゃないかと思う程に、おかしい。

話を変えようと「おい、お前の服すごくないか?」ボソッという。

「あっ。これー?オネーサン達が毎日凄いの持ってくるんだよねー。

殿下が来たとき用だって。何でだろうね。」太股の中間にある裾をビラビラとなびかせた。

一応、子孫繁栄の勉強を済んでいるオレは、ちょっとばかりその理由を知っている。

「止めろって!中が丸見えだぞ!」

オレに怒られたお団子は、舌を出し「ごめん。」無邪気なチェギョン。

このお色気ムンムンなネグリジェの意味も知らずに、オレの隣にいる。

ため息を付くしかなかった。





厨房に入り、辛ラーメンを作り終え、その場で食する。

鍋の蓋にラーメンをすくい、熱そうな麺をチェギョンはフーッフーッと冷ましてくれる。

「ほらっ、シン君猫舌でしょ?」麺がオレの目の前にやってくる。

無意識に口を大きく開けて、麺を食べた。

「ハフハフ、美味いなっ。」

「でっしょう?シン君が食べたくなったら、何時でも作ってあげるからね。」バチンっとウィンクをする。

「お前が寝ていてもか?」

「当たり前じゃない?私とシン君夫婦なんだよ。妻は夫の為に、頑張るからーー」ファイティングポーズをとる。

「本当だな。じゃあ起こしてやるからな。お礼つきで。」ニヤッと笑った。

「お礼つきって、何だろう?今から楽しみーー」

無邪気なチェギョンを見ていると、段々オレの気持ちが変わっていく。

ヒョリンとのただ寄り添うだけで、満足していた時とは違う。









「時間だ。」時間が掛かり過ぎる支度に痺れを切らしたオレは、皇太子妃部屋を開けた。

鏡の前で、オレと目が合う。

「誰だ?」

「シン君ッたら、何言ってるんだか!」あっ、チェギョンだよな?

何時ものお団子頭じゃなく、豊かに輝く巻き髪に,サーモンピンクのワンピース、首もとのベルベットリボンが大人っぽくなり過ぎないようにしている。

昨日までの姿と、まったく違う姿に変身したチェギョンに、次の声が出ずにいた。

すべての支度が出来、オレの傍に寄り「今日の服はちょっとだけ、シン君に合わせたんだ。」チェギョンの指先はネクタイとポケットチーフを指差す。

「やっぱ、夫婦はお揃いじゃないとね。」ニコニコ笑う顔

「私と同じサーモンピンクのネクタイとポケットチーフ。派手かなと思ったけど。このダークスーツに合うね。」

横にあった鏡に、二人で並んで映る。

完璧なペアではなく、さり気なさが良い。

首もとのリボンとお揃いの手袋を嵌め、オレの手を掴む。

「いこっ!皇太子妃初めての公務~~~。皇太子殿下、フォローヨロシク!」ギュッと力を入れて、オレを見上げる。

「皇太子歴の長いオレが、完璧なフォロー入れてやるから。」

「期待してます。」二人笑いあいながら今日の公務に向かう。







今日の公務は、美術館。

芸術学校のオレたちの事を思って、この場所にしたそうだ。

初めてとは思えないほど、皇太子妃っぽい。

昨日までのガサツなチェギョンはどこに行った?

落着きがあり、気品が漂う。

「凄いな。チェ尚官。」口元ではプリンススマイルを浮かべて、小さい声で隣に呟く。

「まっ!失礼な。私の努力です~~~。さっきから私を見てばっか、さては私に惚れたな?」同じくプリンセススマイルをしながら、小さい声。

突然の言葉に「ゴホっ、ゴホッ。」咳き込む。

「やっぱ私の魅力にやられちゃうのよねー。」ニッコリとやさしく笑う。

お前オレをからかってるだろう。

って言うか本当に、何度も見てしまう。

何時もの子供みたいな髪型じゃなくて。

まさに、オンナ。

ヤバイな、キモチが段々チェギョンに向かい始めている時に、留めのこの豹変振り。

ドキドキが止まらない。

いろんな展示を見て、帰ろうとした時。

チェギョンの足が止まった。

「うん?」

彼女の目線を追っていくと、次回の展示品のポスターが貼ってあった。

それをジーーーッと見ていた彼女の目から、涙が溢れていく。


「・・チェギョン?」思わず出てしまった言葉。


初めて彼女の名前を読んだのに、彼女はただ涙を流す。

傍に控えていたコン内官・チェ尚官達が一斉に動く。

記者達に感ずかれないように、周りを囲み移動を素早くする。

その間も、泣き続けている彼女。

オレは、出来るだけ安心させようと肩を抱き寄せた。

「ごめんね。ごめんね。」溢れ続ける涙。

「気にするな、オレが完璧なフォローしたやるから、ちょっと休んでいろ。」この後の会見の場所ではなく、休憩所に連れて行く。

泣き続ける彼女と別れるのは嫌だけど、仕方ないチェ尚官に彼女を預け、親指で涙を拭く。

「ここで休んでいろな。」

ハンカチで涙を拭き続ける彼女の頭が、コクンと頷く。

チェ尚官に連れられて、中に入っていく。

オレはその姿を見届け、一人会見の場所に向かう。

「コン内官、さっきのポスターには何が書いてましたか?」歩きながら聞く。

「はい、ミュシャでした。来週からの展示品のミュシャの予告ポスターでした。」

「ミュシャ?なんでそれで泣く。分かりました、後で妃宮に聞きます。今は、この会見を完璧にやり終えますから。」

「殿下!」コン内官の嬉しそうな声。

今までの公務を、真剣にやってきていなかったオレだったが、今日からは違う。

チェギョンを支える為に、完璧な皇太子を勤める。

会見の場所に着き、深呼吸をして、彼女とのお揃いのネクタイを締め直す。

「いきます。」ハッキリとコン内官に告げた。







皆様、こんばんは。

昨日のお話の続きです。

流れ星の何年後という設定です。

まーっ、お伽噺なので温かい目で読んでやってください。(汗)

では、おやすみなさい。