「わーーっ!宮の中にまだ知らないとこがあったんだ。」
今日はシン君と二人で宮の散策に来ていた。
木々に囲まれた池の辺りには、私達しかいないので、シーンと静まり返っている。
「此処は宮の奥にある場所で、中々人も来ない。」シン君も久々に来たみたいで周りを見ている。
二人、手を繋ぎながらゆっくりとこの辺りを見渡し、私は幸せを味わう。
ジーっとシン君の顔を見上げ、ボッと見惚れてしまう。
この風景とシン君のカッコ良さがマッチしていて、堪らん!( ̄▽ ̄)
見ているだけで、体が熱くなり、茹でタコ状態の私に気がついたシン君は。
自然に顔を下ろしてきて、唇を重ねてきた。
優しく触れ合った唇は、私の体を益々熱くさせた。
私を覗き込むシン君の顔は、ちょっとだけ意地悪な顔をしていた。
ギュッと繋がれていた手は外され、私の腰をギュッと抱き寄せる。
真赤になりながらも、私もシン君の体にピトッと体を寄せた。
「テへへへっ・・。」幸せな気分。
「何時もこの季節は、寒い筈なのにな。」優しく笑うシン君。
もー!どこまでカッコイイー!
「うん?お前。」あっ、いぢわるな顔。
何かされると思って体を離したら、シン君が怒ってしまった。
逃げようとした先を見て、私の体は止まってしまった。
もう一度、私の体を寄せようとシン君の手が伸び「どうした?」動かない私を不思議に思ったシン君は、繋いだ手を強く握った。
私の指は真っ直ぐに、前を指す。
指先に誘われたシン君の目線は、私の指先の方向と重なる。
「!!」普段は冷静なシン君と言え、やっぱり驚いていた。
私達の目の前には、黄色と白のコントラストの動物。
狐がいた。
じーっと見つめてくる瞳は薄い色。
綺麗な瞳は、綺麗に吊り上がり・・・イケメン・・まさにイケメンな面構えをしていた。
人に恐れずに、私達をジッと見つめ返している。
まるで、この林の王の様な堂々とし立ち方。
「何でこんな所に。」
「初めて見た―。」私の目がキラキラと光り出す。
側によって見て見たい、好奇心がウズウズと溢れ出す。
「狐さん。傍に行ってもイイ?」私の言葉と同時に、右足が一歩前に出た。
枯葉を踏みしめる音と私の動きで、狐はあっという間に林の中に逃げてしまった。
「あっ!」追いかけて走り出したが、後からダッシュして追いついたシン君に引き止められてしまった。
「よせ!オレ達に合った事に寄り、もう此処には来ない筈。追いかけるな。」
「えーーー!?あんなイケメン、もっと見て見たかったのにーーっ!」ブ―っと膨れる頬。
「狐がイケメンって?」呆れた顔。
「うん、凄くカッコ良かったーー、もうあの釣り目に引き込まれちゃいそうだった。」思い出して,頬が熱くなる。
「お前旦那がいるのに。」握られている手に段々力が入る。
「!!」はっ!忘れてた!私の旦那様はかなりの嫉妬屋さんだった。
恐る恐る顔を上げると。
「ひっ!」見下ろす目がつめたい
「狐さんだよ、シン君人間じゃないって。」きつく握られている手から離れようともがいても、逃げ出せれない。
「帰るぞ!」私をずしずしと引っ張っていく。
マジか!?こんな時のシン君は手が付けれない、何度も何度も私を打ち付けて、泣いて泣いて私のキモチを引き出させる。
「シン君ーー!ってば散歩ーーー!」
「オレ以外のを見ない様にしないと。」グイグイと引っ張っていたが、思い切って私を抱上げ、肩に乗せて足早に東宮殿に戻った。
次の日。
シン君を送り出し、暇な私はクリスマスも近い為、東宮殿に務めている人達の分のジンジャークッキーを作り始めた。
ジンジャークッキーと小さなサンタのおもちゃ。
いつもお世話になっているいるから、お礼もかねていっぱい作った。
皆にバレないように隠れて食べようと、昨日訪れた場所に着いた。
「よいしょっと。」腰を労わりながら、木の株の上に座った。
「もう、昨日のシン君、しつこかったーー。腰壊れるかと思った。」腰を摩りながらクッキーの袋を開けて1枚とり出した。
取り出したジンジャークッキーは見た目も良く「これなら皆に渡せるね。」大きな口を開いて味見をしようとしたら。
カサっ。
落ち葉を踏みしめる音がした。
「誰?」人のいない場所なのに、音がして慌てて振り向いた。
そこには。私の旦那様が立っていた。
「シン君?」あれ?シン君なんで?今日は職務で篭るからお前に会えるのは夜だなって、朝言ってたのに。
「シン君お仕事イイの?」立っているカレを見上げた。
あれ?何か違和感なんでだ?
シン君は何も言わずに私をジーーっと見つめているだけ。
「シン君?どうしたの?あっ!これ食べてみる?」いきなり立ち上がり私は食べようとしていたジンジャークッキーをシン君の元に出した。
「ほらっ、さっき作ったんだよ。」全然動かないシン君に、痺れを切らした私は背伸びしてシン君の口に無理矢理ジンジャークッキーを入れた。
「どう?美味しい?」ゆっくりと口を動かし始めたシン君は無表情のまま食べている。
「もーーー、美味しいか、まずいかぐらい言ってよ」カレの体に触ろうとして近づいたら、シン君の顔が驚きで崩れる。
「えっ?そんなに驚かなくても」私はシン君に訴えようとすると、シン君の体が私から離れ、そのまま奥深い林の方に走って行ってしまった。
「ちょっ!ちょっとーー、シン君ーー!」私は追いかけようと林の中に入って行くが、あっという間にシン君の姿は見えなくなってしまった。
「シン君何処。」急にいなくなってしまったシン君の行動が分からず、私はそこの場所に立ち尽くしてしまった。
お風呂に入り、パジャマで寛いでいると、職務が終わったシン君が、コン内官つまりコン・ケビンオッパと一緒に戻って来た。
「あっ、お帰りなさい」パタパタとスリッパを鳴らしてシン君に抱き付いた。
シン君はギュッと私を抱き締めて「ほらっ。」ケビンオッパに向かってシッシッと手を振った。
「シン君!ケビンオッパ年上だよー。」ギュッと抱きしめられて、嬉しい私は言葉ではちゃんとして!と言っているが、体はシン君にギューッと抱き付いていた。
「全くこのバカ夫婦は人目もはばからずに。」呆れた声のケビンオッパ。
ケビンオッパ、私をイギリスから韓国に戻してくれた大事な人。
コン内官のムスコさんだけど、金髪に青い目のイケメンさん。でも、私にとってシン君が世界一のイケメンなので、ケビンオッパは普通イケメン。
「明日は、美術館での夫婦公務だからな、さっさと寝てけよ。」手をブラブラと振りながらこの部屋を出て行った。
「フフフっ明日は二人一緒の公務だね。楽しみ――。今日はお風呂でいっぱい磨いてきたから、テレビ写りはバッチリ!」カレの胸元にゴリゴリと擦っていると、違和感を感じた。
「あれ?シン君?今日の格好ってこれだった?」私はシン君から離れて上から下までジロジロと見た。
「今日はずーっとこの格好で職務してたが、どうした?」スーツ姿のシン君の眉間に皺が寄る。
「うん?シン君、昨日と同じ格好のカーディガン。」
「昨日と同じものを着る訳がないだろう。」益々目が怪しいモノを見る目付きになってきた。
「あれーー、そうだよね、皇太子が同じ服着る訳がないよね。」お昼頃にあの場所で出会ったシン君思い浮かべる。
「シン君、私が作ったジンジャークッキー食べたよね?」
「はあ?何ってるんだ。オレはそんなモノ食べてないぞ」私との噛み合わない言葉に、イライラしたシン君は、私を抱上げて、ベットに落とした。
「シン君!痛いよ!」起き上ろうとしたのに、カレは直ぐに私の体の動きを止めて
「何処のどいつに、クッキー食わせたんだ?」シン君の目付きがギラギラと光る。
やっばーーーい!こんなシン君、ケビンオッパ以来だよー。
両腕を頭の上で交差に重ねられ、シン君の右手でギュッと抑え込まれる。
「オレが職務で缶詰状態だったのに、チェギョンお前は誰といたんだ?」カレの顔は私の顔ギリギリに近づく。
「・・シン君と一緒にジンジャークッキー食べてた。信じてよーー。」シン君の気迫の表情に恐怖でボロボロと涙が溢れ出してきた。
「あっ。」私の涙を見て、シン君の表情が崩れた。カレはロンドン以来私の涙を見ると条件反射で慰めてしまうようになった。
「泣くなって」ボロボロと流れて行く私の涙を、一生懸命拭きまくる。
「だって――、シン君が信じてくれないからーーー。」涙声で言う。
「仕方ないだろう。オレは食べてないから、お前を疑ってしまった。」
「だって、本当にシン君と一緒だったんだったんだよーーー!」ワーワーーと泣け叫ぶ私を抱き締め、泣き止めさそうと一生懸命なシン君。
涙の顔でぐしゃぐしゃな私に、キスをいっぱいしてくれる。
「なっ、泣き止めって、オレが悪かったから。チェギョン泣くなって。」キスは段々顔から外れて下に降りて行き、私のパジャマはカレの手によって脱がされていく。
「チェギョン、泣くなって。」
「チェギョン。本当にオレにジンジャークッキーを食べさせたんだな?」真剣な表情に見下ろされている私は
「うん。そうだよ。シン君に食べさせた。」シン君の顔をじーっと見つめて頷いた。
あれ?なんか違和感。
「お前の事信じる。すまなかった。」私の頬に指を当て何度も優しく触れてくれる。
「きっと、お前に会いたいオレのキモチが現れてしまったんだろうな。」苦笑いのシン君。
違和感を見つけようと、私はもっとシン君を見つめてしまう。
「おい、見過ぎだ。」カレはギュッと寝る私を抱き締めて、いっぱいのキスを重ねてくれる。
「怖い思いさせてしまってすまない。」優しい言葉をかけられ、フニャーンとシン君のことしか見れなくなってしまい、ボーッとしていた。
「アーーーっ!」突然思いついた事に、私は大きな声を上げてしまった。
「判った!判ったよ!シン君!ジンジャークッキー食べさせたシン君の目の色が違ったんだよ。」何が違和感だったのがわからなくて、集中出来なかった私は、ようやく分かり、嬉しくてシン君の背中をペシペシと叩いた。
私に覆い被さり肘をついて私の髪をなでながら「で、どうしたって?」
「ジンジャークッキー食べたシン君の目の色が薄いグレイ色だったの!シン君の目の色は、黒いのに。
双子はいないよね。あっ、あの色見たことあると思ったら、昨日の狐さんの目の色と同じだ。」
「はあ?」髪の毛をいじっていた手は、私の頬をビシッと挟む。
「お前が言ってる事って、冗談だよな?」シン君の目が、ギラギラと輝く。
「本気だもん!」キッと睨み返した。
「つまり、お前の案だと狐がオレに化けて、お前が作ったジンジャークッキーを食べたってことか?」
「そうそう。」自分の意見をシン君が聞いてくれて、嬉しいー!
「そんな事有るわけない!この現代に童話みたいな事が。コン、ケビンが黒髪のカツラ被って、オレが食べるはずだったジンジャークッキーを食べたんじゃないか?」
「ケビンオッパがそんなこと出来るはずがないでしょ。シン君の職務に付き合ってたんだから、シン君が一番知ってるのにー。」
ジロッと私を見つめ「冗談だ。」ポツリと呟き
話を続けたいのに、シン君の攻めに段々考える事が出来なくなり、私の指はシン君の髪を弄り始め、
私の名前を呼ぶ声は切なさを増し、私の途切れ途切れに溢れ出す声も、言葉じゃ無くなり始め、さっきの事なんかどうでも良い
もうシンくんの事しか考えれない!
「チェギョン、もう他の事考えるな。オレの事しか考えるな。」なんて俺様な言葉!だけど、私の口から出た言葉は
「うん。」私の言葉を聞き、少年見たく笑うシン君に、心臓が震えだす。
「大好き。」ただその言葉しか出てこない。
シン君と体を合わせ、言葉も交わせる喜び、私はこの幸せのために韓国に戻って来た。
「大好きだからね。」カレの小さな頭を抱き抱え、もっと触れて欲しいと願う
「コン内官、お二方がまだ起きてきません。」チェ尚官の冷静な口調。
「今日は、美術館の訪問の為、少し早く出ないといけないのに、まだ起きてないのか?あいつらー。」
約束の時間になっても出てこないので、ミューティング中の俺にチェ尚官が伝えに来た。
「判りました。」チェ尚官の後を付いて行きながら、二人っきりで皇太子の部屋のドアの前に立つ。
周りに、チェ尚官と俺だけなのを確認する。
ワイシャツの首元を少し下げ、のどの調子を確認して、大きく深呼吸をして。
「イ・シン!シン・チェギョン!さっさと起きろ!」ドアをダンダンと叩きまくる。
俺の大きな声と大きな音でようやく起きたらしい。
中から叫び声と、ドダバタと動きまくっている音がした。
「オイ!毎回こんなだと部屋別々にするぞ。」ドアの傍に普通の声で言ってみる。
バタバタと慌ててドアが開き、肌蹴たバスローブのまま出て来た2人は
「絶対に無理!」声を合わせ、着替える為に中に入って行った。
俺とチェ尚官は二人の姿に呆れてポカーンとしていたが、クスクスと笑い合う。
「全くあのオトナぶって澄ました皇太子は、何処に行ったんだ?」
「2人共、幸せそうですね。」
俺は綺麗に笑うチェ尚官を見下ろしながら「まっ、幸せ爆走中の夫婦の傍には、俺達が居るからヘマなんかさせませんがね。」
「はい。では、皆を呼んできますね。あっ、失礼いたします。」首元を下げたお蔭でネクタイが曲ったみたいで、チェ尚官の綺麗な指は器用に直し始めた。
チェ尚官の身体から良い香りがしてくる
この香は、控えめな香りは彼女のように心地良い。
その香りをもっと近くで嗅ぎたくて、鼻を彼女の傍に寄せたら、あっという間に離れ「はい、終わりました。」俺にお辞儀をして綺麗な姿勢で行ってしまった。
スラックスのポケットに手を入れ彼女の後姿を見つめ「完璧なチェ尚官。貴方は、乱れる時があるのか・。」ポツリと呟いた。
突然バン!と開いたドアから、皇太子夫妻が出て来た
「ケビンオッパ――、準備できたけど。チェ尚官はーー?」辺りをキョロキョロと見渡す。
「皆を呼びに行った。お前らなー、俺が昨日言った言葉忘れたのか?」呆れた顔。
皇太子夫妻は目を合わせ、苦笑いをしている。
「全く朝早い時は、前の日は回数減らせって言ってるだろう?」皇太子を睨む。
「!」何時もははむかってくるのに、今日は立場が悪いので言い返す言葉がない。都合の悪そうな顔の二人、もうこの位で良いかなーと思い、話を変えようと。
「あっ?そう言えば此処に来る途中のベンチの上に、木の実がいっぱいあったぞ。」俺は携帯を出して、画像を二人に見せた。
そこには彩りの木の実が沢山写っていた。
「シン君!これって!狐さんの御返しじゃない?」キラキラとした目は、皇太子を見上げる。
「まさか。」うろたえる顔で画像に見入っている。
「なんだお前たちこれ、知ってるのか?」2人の怪しい言葉にその理由が知りたくなった。
2人で経緯を話してくれて、俺は「まさかそんなことある訳ないじゃないか。」画像をマジマジと見つめる。
「筋の通る理由は1つしかないんだよ。だからこの木の実はジンジャークッキーの御礼なの」チェギョンは怪しんでいるオトコ2人に向かって言った。
そこに、チェ尚官が女官達を連れてやって来た。
「あっ、チェ尚官、女官さん達、おはようございます!では、チェックお願い致します。」女性陣達はそのまま皇太子の部屋に消えていった。
取り残された男2人。
「コン・ケビン。チェギョンの予想は合ってると思うか?」スーツの乱れをチェックしている
「嘘をつくのが嫌いなチェギョンが言うんだ。俺は信じてあげるさ。」手元のワイシャツを直す。
「オレだって信じて、オッオイ見えてるぞ。」首元を指差しながら、ボソッと言う声に、?マークが出る。
近くにあった窓ガラスに自分の姿を映し出した。
「!」首元の見えずらいとこに、キスマークが微かに見えた。
俺の指はもっと見ようと、グイッとワイシャツを下げた。
「オイオイ、オレ達には付けるなって!口酸っぱく言ってるのに自分は良いのかよ?」俺のキスマークを見て嫌味を言う。
キスマークを触りながら、笑いが込み上げてくる。
「乱れる時もあるんだな。」ニヤニヤと笑う俺を見て、イ・シンが「なんだその意味深な言葉?」
「嫌、何でもない。さー―っ、もう行くか?皇太子様」ニヤニヤが止まらない。
「オイ!何だよ、教えろってーー!」
俺はその言葉を無視して歩き出した。
この宮には、黒の王子と金の王子がいる、
この二人は、性格も育ちも年も違うが、仲が良かった。
何事にも二人で相談し、二人で全てを決めていた。
そんなある日。
2人の王子の元に、可愛らしい女官がやって来た。
名前はチェギョンと言う。
その可愛らしさに、二人の王子様は恋に堕ちてしまった。
チェギョンは毎日良く働き、よく勉強していた。
宮で働く若い男達は、皆チェギョンに惚れ、告白して玉砕していた。
「すみません。私には好きな人がいるんです。」
宮中に知れ渡ったチェギョンのキモチ。
その恋の相手が誰なのか、皆ざわざわと推理しても、判らない。
そんなある日。
黒の王子と金の王子は、もう自分のキモチを押さえられなくて。
「チェ尚官様!!」
「はい。」女官に呼ばれたチェ尚宮は、紅茶のカップを置いた。
そして立ち上がり、俺の隣から離れて行ってしまった。
「ちっ。」紅茶のカップをソーサーに置いて舌打ちを打った。
呼ばれて、妄想が終わってしまった。
今は休憩時間。
チェ尚宮とこの後の事の打ち合わせをしていた。
打ち合わせも終わり、彼女は紅茶を飲み始めた。
チェ尚宮がほっと息を付き、紅茶,お茶を飲むときに必ず妄想する癖を最近知知った俺は、その妄想を見て密かに楽しんでいた。
彼女は仕事をしている時には、宮の中のある重い扉のように彼女の頭の中でガッチリと閉まっている。
そんな彼女が唯一重い扉を開けて自分の妄想を見せてくれるのは、お茶の時間だけ。
完璧な彼女にこういう癖があるとは、知った時にはビックリしたが。
その時から俺は彼女から目が離せなくなった。
なんで、チェ尚宮の妄想が分かるのかって?
それは、一週間前に戻る。
皇太子のスピーチ用の資料を探しに図書室を訪れた時。
誰もいないと思っていたこの部屋の本棚の奥から、途切れ途切れの声が聞こえた。
「?」不思議に思い、ゆっくりと奥に向かった。
「!」そこには、皇太子とチェギョンが、抱き合い、絡み、以下ファン公開なので自粛。
一瞬体が止まってしまった。
チェギョンがイシンを選んだ時から、チェギョンへの気持ちを忘れようと頑張っている時に、不意にこんな場面を見てしまうと、かなりショックだ。
そこから何事もなく離れようとした時に、足を引っ掛けてしまい、本棚に手をついてしまった。
ガタタタターっと俺の頭の上に落ちてきた本。
重たい本ばかりが落ちてきて、この部屋に響き渡る。
「イッテー!」沢山の本に埋もれた俺の所に、皇太子達の声が聞こえた。
「誰だ?」「凄い音だったけど。」重なる音に、結局俺の存在がバレた。
「ケビンオッパ!?」「コン・ケビン!」
三人の目線が絡み合う。
「よっ」俺はこの場を何とかしようと、明るく答えたが、突然頭が痛くなり。
「イタタタターーーっ!」
そのまま、意識が遠のいていった。
「ケビン,大丈夫か?」ムーミンの被り物のチェギョン。
「頭ぶつけたんだ・・大丈夫じゃないわよ」フローレンの被り物のイ・シン、そして女言葉。
オイオイ、お前たち逆じゃないか?
スナフキンの被り物の皇后陛下は、ジーッと俺の事を見ている。/
ミーの被り物の皇帝陛下は、周りでギャーギャーと騒いでいる。
どうして、皆変な恰好して俺を覗き込んでいる。
オイ、皆なんか変だぞ?
自分の姿をフッと見ると、白い。そしてゆらゆらと揺れている。
こっ、これは!
ニョロニョロ。マジか!?
がばッと起き上ると、ムーミン姿のチェギョンに棒で突っつかれた。
「大丈夫か?ニョロニョロ――、頭ぶつけてたよ。」男言葉のチェギョン。
後ろには、フローレンの被り物のイシンがなよっと立っていた。
俺はただ立って、ゆらゆらと揺れていた。
ひーーーーーっ!
がばっと起き上った。
すると、お茶を飲んでいるチェ尚宮と目が合った。
御互いビックリ目で見つめ合う。
暫く物も言えなかったが「コン内官、大丈夫ですか?」チェ尚宮が心配そうに俺を見ていた。
「えっ?」
「図書室で頭を打ったそうで、貴方が寝ている時に検査して、異常は頭のたんこぶだけで。」
「頭ぶつけて?」あっ、そう言えば図書室でアイツらの濃厚シーンを見てしまって、慌てたんだよな。
はっ!と気が付き、自分の身体をジロジロと見た。
ワイシャツに黒いスラックス。
「チェ尚宮、鏡ありますか?」急な俺の問いにも「あります。」鏡を出されて、慌てて自分の顔を見た。
ホッ。
ニョロニョロじゃない。
「どうしましたか?たんこぶみたいのですか?」不思議そうな顔で俺の事を見ている。
だよなーっ。夢みてたんだよな。
あはははっと笑いながら「いえ、まー、頭が痛いですが、仕方ないですね。付き添いありがとうございました。」ベッドに座りながら頭を下げた。
「お茶飲みますか?」にっこりと笑う。
彼女とは、ロンドンの時からの付き合いなので、堅物のチェ尚宮と言われている彼女も、俺には少しだけ心許してくれている?かな?
二人で、ゆっくりとお茶を飲んでいる。
何も話さず、ただボーッとしていたら。
「ニョロニョロー、で、本当にだいじょうぶなの?」ミーの被り物を着ている皇帝陛下が俺に聞いている。
急に頭の中に入ってきたさっきのムーミン一家達が又頭の中に見える。
「どういう事だ?」急に声を上げた俺にチェ尚宮が驚いた。
「?」綺麗な人のビックリ目の姿も綺麗なんだなーって、感心してしまった。
「コン内官、さっきから大丈夫ですか?」心配そうに俺を見る。
辺りをキョロキョロを見渡しても、何もない。
変なのを見るのは、きっと頭打ったからだ。
ボジティブ思考の俺は、このことをサラーっと流すことに決めた。
「仕事中にベッドで寝ているから変になるんだ。もう起きて仕事します。」ベッドから降りた時にちょっとだけフラついたが、靴を履いた。
「コン内官!まだ、寝ていた方が良いです」チェ尚官が俺の体を抑えた。
「もう大丈夫!職務が溜まっているんです。皇太子を椅子にへばり付けてやらせないと!」ニヤッと笑って、掛けてあったネクタイと上着を着ようと。
「あっ。私がお手伝いいたします。」あっという間にネクタイを取り,首元に差し込み綺麗な指先はシュルッ、しゅるっと形を作っていく。
「慣れてますね。」
「そうですね。皇太子殿下が小さい時からやってますから。」苦笑い。
ネクタイを結び終わり、上着も俺が腕を通しやすいように持っていてくれている。
右、左と腕を通し、スッと全部を通し終った時に、身の引き締まる感じがした
ネクタイも緩すぎず、キツクもなく、ちょうどイイ。
「では、殿下が帰って来るのを何時も心待ちにしているお方の為にも、職務が早く終わるのをお待ちしております。」ニッコリと笑った。
「承知しました、ビシバシとやさせて、早く戻れるようにさせますから。」俺もニッコリと微笑んだ。
あれから、二週間。
今日も施設訪問の為、控え室で会見の準備が終わるのを待っている時。
ちょっと時間がかかると言われ、お茶を出された。
チェギョンは、女官達とトイレに行き、皇太子は一人でソファに座り、その後ろ側に俺とチェ尚宮が簡易イスに座っていた。
目の前の皇太子殿下の妄想が見え
チェギョン、早く来ないかなー、コンケビンに見つからないように抜け出し、イチャイチャしよっと。
って、お前ー!又する気だなー!
逃げ出さないように、スピーチの確認させてやるから!
大抵の人たちは、こんな感じで、見たいとも思わないので、無視しているが。
俺の左隣のチェ尚宮のは違う。
お茶、紅茶を飲んでいる時に、分厚い門が開き、彼女の妄想が広がる。
黒の王子様と金の王子様。
ムーミン宮バージョン。
この他にも色々な話があるが、以外と俺押しはムーミン宮バージョン、ニョロニョロが結構気に入っている。
普段、キチッとしているだけに、この妄想にギャップがあり過ぎて。
気になって仕方がない。
そして休憩時間だけではなく、他の場所でも彼女に会いたいと思うようになった。
施設訪問も無事に終え、ようやく東宮殿に帰ってきて、1日の仕事が終わった時「チェ尚宮、これからどうします?」
「えっ?」
「ようやく一人前な給料も貰えるようになったので、ロンドンの時にお世話になったお礼をしたいのですが?」
「あの時は、私こそお世話になりましたよ。だから、遠慮なさらず。」
「じゃあっ、チェギョンの事、サッサと忘れるために、食事に付き合ってください。」ニヤッと笑う。
「!」ロンドンでの俺の気持ちを知っていたチェ尚宮。
「分かりました。お供させて頂きます。」
「そうこなくっちゃー。あっプライベートで会うのだから、ユナさんでいいですよね?」彼女は俺よりも年上だ。
だからヌナと言う言葉で呼ぶのだが、俺を男として見てもらい為に、あえてさん付けにした。
「チェ・ユナさん。美味しい隠れ家を知ってるんで、そこに行きましょう。」
俺が笑うと彼女も可愛く笑う。
その笑顔に、俺の思考が止まった。
「コン内官?」
「あっ、大丈夫です。早く行きましょう。」俺は歩き出し、彼女も後から付いて来た。
後ろをチラッと見て、今までチェギョンの笑顔が一番可愛いと思っていたが、今日チェ・ユナの笑顔がもっと可愛いと気づいた日だった。
「さーっ、ここです。」車から降りると、見上げた先にはオシャレな建物があった。
白い壁に青い色の瓦の屋根。
「ここの飯、美味いんですよ。もう電話しておいたので、入りましょう。」自動ドアじゃない、手押しのドアは深いブラウン色だ。
扉を開けると、そこには店員が「いらっしゃいませ!」優しい笑顔が出迎えてくれた
「コン内官!」目の前には引退したコン・ケビンの父親が立っていた。
「久しぶりですね。チェ尚宮。」
「レストランを始めたと、聞いてましたが、こことは知らなかったです。」ちょっとだけ興奮気味
「妻と二人、小さなレストランを始めました。料理が美味しいのが自慢です。どうぞ、お座りください。」何時もの優しい笑顔、いつもこの笑顔に和まさせていた。
コン・ケビンの顔を見上げて
「驚かせたわねー」見上げた先の顔は照れくさそうに笑っている。
「前から気になる子が出来たら、連れて来なさいって言われていたから。」
「えっ?」今なんって言ったの?
見上げた目線は絡まりが、お互い何も言えないでいた
でも「座りましょう。今日はこの店自慢の接客と自慢の料理を堪能しに来たんです。」
私の手をギュッと握り、コン元内官が待っている席に向かって力強く手を引かれた。
皆様、こんばんは。
「切ない恋をしました。」これにて終了です。
お付き合いして頂き、ありがとうございました。
最初のお話は、仕事中に狐を見てしまい、本当にイケメンでした。(笑)
2番目のお話は「高台家の人々」こんな題名でしたでしょうか?
イケメンの兄弟が皆超能力者で、お兄さんの彼女さんが妄想癖があるというお話で。
とても大好きなマンガでした。で、私も妄想を。(笑)
では、おやすみなさい。
今日も、ゴボウ掘りです。