宮の内官の試験に受かった俺は、1ヶ月の研修も終り、ようやく内官の仕事に就けれるようになった。

まず最初は、キム内官の補佐から始まる。

希望通りに、皇太子付きの内官。

色んな皇太子のスケジュールを管理する。

皇太子付きのコン内官がそろそろ引退をするそうなので、その後釜を皇太子直々に俺を指名してきた。

入って早々の大役に、色んな人達が影で言っていたが、俺の管理力を認めてくれる度に、陰口は叩かれなくなった。

皇太子付きの内官なのに、なぜか皇太子の武術の相手をさせられる。

テコンドーの胴着に着替え、皇太子を出迎える。

すると、時間通りに皇太子が胴着姿になって現れた。

「今日も相手を頼む。」皇太子様の有り難い言葉を頂き、俺は深々と頭を下げ練習相手になった。

師範からの今日の技の説明を聞き、一対一になり向かい合う。

この時だけは、皇太子と内官の関係じゃなくなる。

お互いの隙を狙って、目付き鋭く狙っていると「チェギョンが、コン・ケビンの内官合格祝いをやりたいそうだ。」機嫌悪そうに言う。

「チェギョンが言ったのか?」

「ああ。そんなのいらないよな。」

「チェギョンが祝ってくれるって言うんだ、絶対に何があっても行くからって、言ってくれ。」ニヤッと笑う。

俺の脚蹴りが、皇太子の足元を狙う。

皇太子は、通信教育で鍛えた体のバネで、飛び上がった。

「全く、ほんと通信教育でこんなに凄くなるなんて普通は避けれないで、転ぶとこなんだけど。」

「今でも、通信教育習ってるからな。」笑う。

「ったく、何時もながら可愛くないな。」ボソッという。

「オイ、コン・ケビン!何か言ったか?」

「いいえ、皇太子様。」後ろ回し蹴りを一発入れた。









武術の時間が終り、シャワーを浴び終えた俺は、扉を開けて廊下に出ると。

長椅子に腕を枕にして、寝ている皇太子妃がいた。

こんなとこで寝ているなんて、お前それでも韓国の皇太子妃だろう?

全く。無防備に寝ている彼女。

なんて幸せそうに、寝てるんだ。

ロンドンにいた時の、お前の寝顔は。

悲しそうに苦しそうに、何時も辛そうな寝顔だった。

自分の体を誰からも見つけられないよう、小さく小さく蹲って寝ていた。

俺がどんなに尽くそうが、彼女の寝顔は変わる事がなかったのに。

今のお前は、ピンクの輝くばかりの頬

赤い唇は艶やかに潤っている。

瞑られた睫毛の奥には、好奇心いっぱいの瞳が眠っている。

幸せなんだな。

何たって幸せになりに、この国に戻っていたんだからな。

俺は溜息を吐き、スマホを取り出した。

「チェ尚官、皇太子妃を確保してます。迎えに来て下さい。場所は・・・」

必要な事を伝え、電源を切ると。

「シン君。そんなとこ・・。」ニヤニヤしだした韓国の皇太子妃。

「チェギョン!」極力この言葉を言わないように心掛けていたのに、つい発してしまった。

もういい加減起そうと、手が伸びた瞬間。

扉が開いた。

上着を腕に持ち、ベストとスラックスで出てきた皇太子。

目の前の光景に、目元がきつくなる。

「コン・ケビン。」俺の名前の後に、内官をつけない場合は、公務じゃない時だ。

「俺は何もしてないぞ。皇太子妃がこんなとこで寝ている・・。」言葉の途中なのに。

「もうー、ダメだって・・・、そんなに出来ない・・・。」言う寝言が、この廊下に響く。

「チェギョン!」と慌てて寝ている彼女に近寄る皇太子。

「全くどんだけやってるんだよ。」呆れ返る。

うたた寝している彼女を起こし、ボーっとしている彼女の体を支える皇太子。

「あれ?シン君だー!えーっと武術の時間終わった?迎えに来たんだよ。」皇太子の口元に自分の唇をくっつけた。

余りにも自然な光景に固まる皇太子と俺。

「妃宮様、こういう場所では控えて下さい。」女官と共に到着したチェ尚官。

「ありゃっ、見つかった。」テヘッと笑いながら、皇太子に甘える皇太子妃。

フニャッと笑う彼女の笑顔は、幸せだーと甘える。

そして、2人の繋いだ指はお互いの指に絡まっていた。

俺はその姿を見て、安心する。

彼女が幸せになる為に、この選択は間違ってなかった。

俺じゃ無理だった。

「あれ?ケビンオッパ。シン君から話し聞いた?」聞いてきた。

オッパと名称からケビンオッパに戻ってしまった。

どうやらオッパは、夫が凄く反対するからって、取り止めになったみたいだ。

「ハイ、伺いました。ぜひ喜んで伺います。」頭を下げた。

「遅くなってゴメンね、ちゃんと祝いたかったから。」皇太子に支えながら立ち上がる皇太子妃。

そして、皇太子の腕に自分の頭を傾け、俺に向かって微笑む。

俺の体が固まる。

その笑顔に、俺の心が動揺する。

「チェギョンもう行くぞ」どうやら、無駄な可愛さにやられてしまった俺に、もう見せたくないのか、皇太子が慌てて歩き出した。

2人の後を、女官達が付いて行く。

取り残された、俺とチェ尚官。

「コン・ケビン内官。」

「チェ尚官大丈夫ですよ。自分で選んだ道です。彼女が幸せならいいんですよ。」

「・・・。」

「その代わり武術の時間は、皇太子を潰しまくります。」笑う。

「程ほどに、じゃないと妃宮様が悲しまれます。」

「じゃっ、ばれない程度にね。」ニヤッと笑った。











私は、妃宮教育が終り、シン君の職務室に行った。

「トントン。」遠慮がちな声を出して、中を覗き込む。

そこには、机に座ったシン君とキム内官とコン内官が立ち。

扉の入り口に、コン・ケビン内官が立っていた。

シン君は顔を上げ「もう終わったのか。」優しく笑う。

その優しい笑顔にポッとなりながら「うん、終わった。迎えに来たよ。」

「もう少し待っててくれ。」周りの2人と論議し始めた。

「妃宮様どうぞ。お座り下さい。」傍にあった椅子にさそうとする、コン・ケビン内官

「あっ、大丈夫です。」ニッコリと笑う。

2人で並んで立っていると、何処から良い香りがする。

元を探すと。

コン・ケビンオッパから香ってくる。

「・・・ケビンオッパ。ってこんな香りだった?」鼻をクンクンとする。

顔は真面目なまま、小さな声で

「大人な事情。」ニッと笑う。

大人。事情って。

「えっ!彼女できたの?」前を見たまま聞く。

前を見ていたケビンオッパは、私の方を見下ろし「さあな。」複雑な顔。

「えっ?違うの?もー、遊び人!」ケビンオッパを見上げると。「あっ!」気が付いた事がある。

「ネクタイ曲がってる。」私の手は自然にネクタイを直し始める。

「・・・チェギョン。」

「なんかね、シン君のネクタイ何時も締めてあげてるから、ネクタイにかけては、うるさいのよ。」ニッコリと笑う。

「そっかー。ネクタイ結んであげてるのか?」寂しそう。

「うん。毎日のスーツ選んであげて、仕上げも私が手伝うんだ。ちゃんと私の元に帰ってきてねって。」頬を染めながら笑う。

目を瞑り、何かを考えている風なケビンオッパ。

「どうしたの?」

私は、ケビンオッパに問いただそうと。

「何してる!?」冷たい声が響く。

「シン君!もう終わったの?」私はシン君の腕に手を掛けようと。

すると、私の手を避けるように、腕は離れていく。

「えっ?」シン君の顔を見上げると、その顔は冷たい冷たい表情になっていた。

コン・ケビンオッパは、深々とシン君に向かって頭を下げた。

「ただケビンオッパのネクタイが、曲がってたから。」

シン君の口元がきつく結ぶ。

「あっゴメンなさい。コン内官のネクタイが曲がっていたから、直してあげたの。」カレは人前でケビンオッパと呼ぶのをとても嫌がる。

怒るのを我慢している顔は、とても辛そうだった。

「シン君!」カレの事を抱きしめてあげようとしたら。

カレは私の元から走りだした。

「何処に行くの!?」言った時には、カレの姿は見えなくなっていた。

「悪い、アイツ勘違いしたな。」ケビンオッパは溜息を吐く。

「勘違いって?」

「俺とお前がイチャイチャ。」

「まさか、私とケビンオッパが?ないない!」手を横に振る。「もーー、シン君探しに行って来る」走り出した。

取り残されたケビンの元に、コン内官が近づく。

「今のは久々にキタ。凹むなー。」

コン内官は笑いながら「医者でも治せないんだ。他の恋をしろ。」

コン・ケビンは上を見上げながら「他の恋?」昨日の事を思い出す。

溜息を吐きながら「未だ無理かな。」ボソッと言った。





「見っけ!」私は、床から顔を出し、シン君を見る。

壁に体を預けて、何かを考えているカレの表情は幼い子供のようだ。

「よいっしょっ!」梯子から降りて、四つん這いで、シン君の下に辿り着く。

私が傍に行くと、プイッと顔を背ける。

「シン君。」呟く。

「一人にしろよ。」傍にある窓ガラスに、表情が映っている。

少しだけ沈黙が広がる。

窓ガラスには、何時もの大人びいた顔ではなく、そこには19才の年相応な少年の顔があった。

私は膝立ちをして、カレに覆い被さる。

「お前がコン・ケビンと話ししているだけで、嫉妬してしまう。子供っぽいオレなんか。」

「子供だろうが、大人だろうが、どっちもイ・シンでしょっ!全部大好きなんだから」ギュッと抱きしめてあげる。

子供のように小さくなっているカレ。

小さくなろうが、体は私より大きい。

大人に急いで成長してしまったカレの心は、時々バランスを崩す。

そんな時は、傍にいて支えてあげたい。

「焦らないで、もう一人じゃないんだよ。何時も私がシン君の傍にいてあげるから。だからケビンオッパと話しした位で、落ち込まないで。」辛そうな顔を私の手で覆う。

優しいキスを鼻にしてあげる。

「なんだよ。鼻にって子供じゃあるまいし。」憎まれ口がでてきた。

「だって今シン君子供なんでしょっ?」笑う。

「もう大人に戻った」ぶすっと言う。

「じゃっ大人なシン君なんだね。」


2人の秘密の部屋に、熱い息が響き渡ったのは、あっという間だった。






職務室に残った3人の内官。

「まったく!あの皇太子、まだかよ!後もう少しで終わるはずだったのに」

「まあ。まあ。コン・ケビン内官。」キム内官。

「妃宮様が行ったから、大丈夫でしょっ」笑うコン内官。

「しかし、皆さんの仕事が。」コン・ケビン内官が訴える。

「殿下を待つのも、仕事ですよ。」諭すキム内官。

ドカッと椅子に座り「いなくなってから、2時間ですよ。こうなったらマジで皇太子改造計画だ!」目付きが悪くなったコン・ケビン内官だった。




秘密の部屋から、漏れる声。

「・・シン君もう戻らないと。」

「帰らない。もっともっと。」

「駄々を捏ねる子供みたい。」

「子供は言う事聞かないから。」笑うカレ。

「シン君のバカ!大好き!」


少年・大人の顔を持つカレに今日も降参するチェギョンだった。









皆様、こんばんは。

切ない恋をしましたのおまけ話です。

意外と続きましたね。笑

次で終わりです。

では、おやすみなさい。