バタンッ

寝室の扉を閉め、ようやくオレはソファに座った。

「ウッ」背中に痛みを感じて、体を浮かせた。

忘れてた。

ゆっくりと、背中をソファに傾けて天井を見上げた。

廃妃

とうとう伝えた。

コン内官に頼んで、密かに準備させていた。

後は、陛下、皇后、チェギョンの承諾を得るだけになっていた。

全ては、チェギョンの為。

廃妃が決まるまでは、オレの妻。

ボーっと辺りを見渡し、一人でいるには広すぎる部屋。

本当は一緒に連れて来たかった。

無理矢理にも連れて来て、もう1度最初からやり直してしまいたかったけど、1ヶ月前とは状況が違って願いが叶わなかった。

オレのチェギョンへの想いが好きから、愛しているに変ってしまって。

彼女の幸せを第一に考えるようになった。

お前の事を幸せに出来る権利は無くなったけど、見守る事は出来る。

シン・チェギョン、オレはお前の事を遠くで支えて続ける。

チェギョンへの決意と共に、オレの瞼はゆっくりと、閉じた。







「シン・・・・シン・・・・起きろって!」オレの体に触れる感触で目が覚めた。

「誰だ!?」ガバッと上半身を起した。


「・・・・ユル・・。」


「よっ!久し振り!」オレの目の前には、優しく笑う従兄弟のユルが立っていた。

「・・・なんで・・?」

「陛下に呼び出された。皇太子になる気はあるかって。」ニッコリと笑った。

「・・・早いな、もうお前に誘いの連絡かよ。」呆れる。

「全く、僕がたまたまソウルでの公務があったから、直ぐに呼ばれただけだよ。」

「そっかー、オレがロンドンに行ってしまったから、お前にも負担がいったんだな・、すまなかった。」頭を下げた。

「オイシン、どうしたんだ?何時ものオレ様は?頭上げろよ。」

頭を上げながら「チェギョンの教えさっ」笑う。

「シン、久し振りに見たけど、体元に戻ったな。」

「えっ?」

「チェギョンが留学して、お前一人此処に残ってから、日に日にやせ細ってしまって。
コン内官たちが心配していた。」

「そうなのか?」

「気がつかなかったのか?余程の重症だったな。だから、陛下がシンをロンドンにやったんだ。チェギョンがいなくなって、腑抜け状態の皇太子の為にな」ニヤッと笑う。

「知らなかった。」

「チェギョンは、ロンドンなのか?」

「あぁ、連れて来なかった。」

「そっか。シンはそれでいいのか?」

「嫌だ、本当は嫌だ。チェギョンを連れて帰りたかったさ。でも、アイツには好きな男がいたから、身を引いた。」悲しく笑う。

「チェギョンに、シンの他に違う男?ありえないね」断言する。

「ユル!オレだって、心入れ換えて、何度もチェギョンに好きって言った。でもアイツはオレの事を嫌い、そして他の男と。」辛そうに。

「シン、それって絶対に何かあるから、あのチェギョンだよ。シン以外何も見えませーーんって言う彼女だよ。今だから言うけどさ、僕だって彼女に好きって告白したのにシン君だけ好きです!ってはっきりと断れたし。」

「何だそれ初耳だな」険しい顔になる。

「良いだろう、何時もシンに相手されなくて、お前の部屋の前で、泣きそうな顔で立っていたんだ。支えてあげたくなったんだよ。

冷たくされようと、怒られようと、お前以外は好きになれません!って体に書いている彼女が他の男を好きになる筈がない。判ったか?シン」

「信じられない。」

「シンはあの時チェギョンの事見てなかったからな。あの女の事忘れれなかったんだろっ。」

「ヒョリンか。」

「そうそうそんな名前だった。」

「あの頃、ユルお前がチェリー卒業してしまって焦っていた時期だったから。

ヒョリンなら許してくれると思って、何度も此処に誘ったけど何故か、何時も途中で陛下や色んな人たちに邪魔された。

今思うとあの邪魔は有りがたかったな。

それと、ヒョリンの事好きだと勘違いしてた、チェギョンへの想いとは全く違う。

若気の至りだった。」笑う。

立ちながら着替えしようと立ち上がった。

「いって。」顔歪める。

「どうしたんだ?」

「いやちょっとな。」ユルから離れようと。

「オイ、ちゃんと見せろって!」オレはユルにワイシャツを脱がされた。

「オイオイ。」

「何だよ。」

「大丈夫か?凄い傷跡だ。女だそれも初めての女だな。」

「初めて?まさか?」

「初めての女は爪まで気を使わない、それに余程痛くて我慢の爪痕だ。」

「彼女は他の男と済ませてるって、オレは雷を利用して彼女にもっと酷い事したから。」ワイシャツを羽織る。

「彼女ってチェギョンか?」

「チェギョンしかいない。」笑う。

「だったら。」

「いいんだ、オレはこれだけで一緒生きていける。後の事は全て皇太子はお前に譲るから」

「あっ、そのことだけど、断ってきたから」ニッコリと笑う。

「へっ?」

「僕、済州島に住みたいんだよね。だから、無理ですって断ってきたから」着替えの終わったオレの背中をバンって叩いた。

「いってーーーー!ユル!お前!」背中を丸め痛さを堪える

「そこは、チェギョンに直して貰え」手をヒラヒラと振った。

「アイツは来ない。」クローゼットの部屋に入り、私服を探す。

「何で?そう思う?」

「好きな男と幸せに暮らせって、置手紙してきた。」淡々と着替える。

部屋の前で腕を組み「そっかー、そんなこと書いたんだ。」笑う。

「なんだ?なんで笑う?」顔を出す。

「素直な彼女は、自分の全てを掛けて、好きな男と幸せに暮らすさっ。じゃっ、僕帰るから。あっ、廃妃も皇太子降りるのも、許さないからね。

もしやっちゃったら、僕は本気で怒るから」ニッコリと笑た。

ヤバイ、ユルを怒らせるとアイツは普段ニコニコしているけど、怒らせると手がつけれなくなる。でも、ユルを怒らせても仕方ない。

ボコボコにされようが、黙ってやられよう。

そろそろ、コン内官から電話が来るはずだ。夜も遅いけど廃妃の申請を進めている。

陛下と皇后に承諾してもらい、チェギョンには、オレが此処を出て行ってから、来て貰う。

チェギョンに会ってしまうと、オレの気持ちが揺らぐから。

スマホのギャラリーを開き、チェギョンの写真を見る。

ソファでうたた寝をしている彼女。

テーブルにレポートをいっぱい広げて寝ている顔。

そしてオレのベットで寝ている顔。

どの写真も寝ている顔ばかり。

せめて、起きている写真が欲しかった。

彼女の寝顔を見つめていると、ベルが鳴った。

「はい。」

「殿下、支度が整いました。正殿にお越し下さい。」コン内官の言葉がオレの耳に響いた。

「判りました。今行きます。」オレは寝室のドアを開け、シン・チェギョンの廃妃に向かって、一歩踏み出した。













正殿に着き、入り口のコン内官と出会う。

「殿下、こちらです。」招く。

おやっ?あまり通った事のない所を歩くな。

「さっ、着きました。」招かれたとこには、テーブルと椅子があった。

「コン内官、本当に此処ですか?」

「はい、陛下がここでお待ちになるように、伺っております。」

椅子に座ったオレは、テーブルにスマホを置いた。

「殿下、暑いのでジャケットお脱ぎください。」コン内官が手を添える。

オレは素直にジャケットを脱ぎ、彼に渡した。

ちょっとすると、ガタイのイイ男が、お辞儀して入って来た。

うん?なんで頑丈そうな紐を持っている?

そして、オレの前に立ち。

「皇太子殿下、失礼致します。」頭を下げたと思ったら、あっという間に椅子事、縛られた。

「えっ!?何してるんだ!オイ!これ取れ!」叫ぶ。

「では、失礼致します。」その男はこの部屋を出て行った。

「コン内官!何をしてるんだ。これを外せ!」



「シン!!うるさいぞ!!」言う声がこの部屋に響いた。

ゆっくりと入って来た、陛下と皇后。

「これは、どういう事ですか!?」

陛下はニヤリと笑い、コン内官から布切れを受け取る。

陛下はニヤニヤ笑いながら。

「私達は、チェギョンの味方なんだよ。シン、悪く思うな」布切れをギュッと口に回して、後ろを結んだ。


「・・・・・!」オイ!これ取れって!

チェギョンの味方で、なんでオレが此処に縛られる?

オレは縋る思いで、コン内官を見る。

「殿下、すみません。私も妃宮様のお味方です。」頭を下げた。

「・・・・・!!」マジかよ!!どうなってるんだ!?暴れるけど、ビクとも動かず

「お前は廃妃が終わったら、此処を抜け出して逃げるつもりだろう。

そして、寺か修道院に駆け込むつもりだろ。」

ばれてる。

何も準備せずに隙を狙って出て行こうとしたのに。なんでばれたんだ。

「逃がさない為に、この方法をしたんだ、許せ。」オレの顔を見る。

「じゃっ、時間が来るまで、私達は一旦引き上げよう。」

「シン、ゴメンなさい。私もあの可愛いチェギョンの味方なの。」ニッコリと笑う。

2人は悪巧みのような笑みを残し、この部屋を出て行った。

コン内官はオレの隣に立ち「殿下、どうか暴れないで下さい。時が来れば自由になれますから。」何時もの優しい顔。

時がって、何時間だよ!

どうして、皆チェギョンの味方だって言うんだ。

なんだよ。オレの味方はいないのかよ。と恨めしそうに、コン内官を見た。

コン内官は、オレから目を反らし、スケジュール帳を開いた。

オレは、仕方ない時が来るのを待つか。




それから一時間位経ち、コン内官の携帯が鳴った。

「判った。じゃあ、場所はチェ尚官に聞いて、こっちに向かいなさい。」

誰か来るのか?

オレは、その誰かの為に、こんな風になっているのか?

何か、段々怒ってきたーー!

早くそいつが来るのを、入り口を睨みつけながら待った。

人の気配がする。

何人かの足音が聞こえる。

どうやらこの部屋に来るみたいだ。

そして、その音は。

「よっ!なんだその格好!カッコイイじゃないかーー!イ・シン皇太子殿下!」ニヤニヤ笑うコン・ケビンが立っていた。





皆様、こんばんは。

何時も訪問有難うございます。

さて、味方が全然いないシン君。可哀そうですね。

それにしても、椅子に縛り付けるなんて、よく書いたわ。笑

では、おやすみなさい。