「ケビンオッパ!此処から早く出よう!」彼の腕を引っ張って走り出した。

「チェギョン!どうなったんだ!?」腕を引っ張られ、ケビンオッパは叫ぶ。

「今はとにかく、ここにいたくなーーーい!」上質なカーペットを、力強く踏む。

ケビンオッパは「何か良く判らないけど、お前がいたくないって言うのなら、逃げるか!?」私に引っ張られていた彼は、私を追い越して私を引っ張る。

「うん、逃げよーー!」





「ヒューーーッ!ようやく車に付いたーー!」

ケビンオッパの車は、お腹に響く低い音を響かせる。

黒いミニ。

元はイギリスの車だったのに、今はドイツの某会社に吸収されてしまった。

この車を初めて見たときに「私この車知ってる、ミニクーパーって言うんでしょう・・。何かミニって言うのに、でかいね。」

「妃宮様、この車はミニって言うんです。クーパーは違うんです。何とか仕様って、言うんです。

だから、この車を言う時には、ミニのクーパー仕様って言うんです。」

「ケビンさん、ゴメンなさい、知らなくて。」

「いえ、これから知って頂ければ、良いですよ。」笑った。

右隣で運転する彼を見て、思い出す最初の頃。

あんなに丁寧な接し方だったケビンオッパは、今では普通の扱いをしてくれる。

チェ尚官ネーさんは、最初良く注意をしていたが、もう今では諦めてしまった。

「とにかく、このホテル出たぞ!」私は後ろを見ると、護衛さん達が出てくるとこを見たが。

「やったーーー!とりあえず、捕まえられなかったーー」前に顔を戻し、手をあげる。

「チェギョン、チェ尚官は!?」

「うん。チェ尚官ネーさんは皇太子妃の尚官さんだから、ミン・ヒョリンの為に置いてきちゃった。」ニヘニへ笑う。

「チェギョン、もしかして。」

「うん、離婚して下さい!って言ってきた!もうウジウジしているのは、ヤダ!ハッキリしないとね」笑う。

「そっかーー。アパートに帰るか?」

私はマジマジとケビンオッパを見る。

「逃げたのに、判りやすいとこに戻るの?」

「結構盲点で、戻らないと思ってるんじゃないのか?」

「おっ?裏をかくのね。」

「どうだ?」

「いいかもね、うっしっし。」

「お前、その笑い方止めろって、何度も言ってるのに。」呆れた顔。

「いいじゃん、私達の仲でしょっ。」ニヤリと笑う。

仲、私達の仲って、どんな?

車は私のアパートに向かい始めた。







途中で、色んな食べ物を買いアパートに着いた。

「今、思ったんだけど、きっともう追いかけてこないよ。」

「なんでだ?」

「だって、殿下離婚してたがってたから、離婚OKのサインが出たから、嬉しいんじゃないの?でも、形式上の事が事があるから、これからの事相談しようとしたんじゃないのかなー?」

ケビンオッパが難しい顔で私を見る。

「えっ!?何かおかしい?」

諦めた顔で、首を振る。「いや、チェギョンらしいなっ。」頭をくしゃくしゃとする。







「だからね~~、聞いてよ~~!」

「はいはい、この酔っ払い。あんまり飲むなよ。」私からビールを取る。

「いいじゃん、久々に飲むんだからーー!今日は飲みたいの」バタバタする。

「仕方ないな。」

「でさっーー、聞いてよ。殿下ってさー、何時も何時も私を無視しまくりでさーっ。」

あれ?なんか泣きたくなった。

「でさーーーッ、毎晩オネーサン達が私を綺麗にしていくんだ。殿下が何時来てもいいようにって。

私、バカだからさっ。期待して待ってるの。来るのかなー、殿下来てくれるのかなーって。

何ヶ月も待っていても、1回も来なかったんだよねーー。   

えへへっ。女としての魅力もなかったみたいで。」涙がボロボロと出てきた。

「1回も公務以外で近寄ってこなかった。」

「自分一人で、テンション高くなっていたとこに、殿下とミン・ヒョリンの事知ってしまって。」

「だから、全然私のとこに来なかったんだッて、納得しちゃったー。」ボロボロ涙が止まらず。

「こんなの夫婦じゃないよーー」ワーワーー泣いていると。

突然、ケビンオッパが私を抱きしめた。

「チェギョン、辛かったんだな。」

「辛かったよーーー!ずっと好きだったんだからーー!殿下の事、ずっと好きだったーー!」酒の所為で私の涙腺は壊れたように止まらない。

「幾ら無視されても、冷たい言葉言われても、ただカレの事が好きで好きで仕方なかった。」

ケビンオッパは、私を強く抱きしめてくれた。

「お前が悪いんじゃない。だから今日はいっぱい泣け!腹の中に溜まったドロドロしたの履いてしまえ」

「ケビンオッパーーーー!」泣き続ける私を彼は強く抱きしめてくれた。

「でもね、殿下の事大好きなのーー!」

「判ったって、とにかくいっぱい吐いちまえ」

私はケビンオッパに抱き付き、ず記憶がなくなるまでずーッと泣いていた。











ずっと泣いていたチェギョンを、膝の上で寝かせていた。

月明かりの中で、飲んでいた俺達。

電気を点けたらばれるので、薄暗い中で過していた。

俺の膝で酔いつぶれているチェギョン。

お前、俺の事男だって知ってるのか?とデコピンをした。

眉間に皺を寄せ「・・・殿下・・・。」又、涙が流れ始める。

まったく、ドンだけ好きなんだよ。

今日の朝、アイツがこのアパートに来た時の顔。

アレはきっと、チェギョンの事が好きな顔だ。

チェギョンの話を聞いている限りだと、あの女の事が好きみたいだけど。

違う、皇太子殿下はチェギョンの事が好きだ。

「チッ」薄暗い部屋に響く俺の舌打ち。俺の入る余地なんて、全然無さそうだ。

チェギョンは、震えるほど離婚してくれと言われるのを、怖がっていた。

そんなに好きなのに、あの女の為にこの恋を諦めようとしている。

皇太子はどう言う訳か、チェギョンの事が好きだ。

お互いの想いを知らない二人。

全く面倒な2人だ。どうする?

俺がこの2人のキューピットに、なってやらないといけないのか?

まさか!

なぜ、好きな女を自分から離そうとする。

俺はそこまでバカじゃない。

バカじゃない。

でも、好きな女には夫がいる。久々にした恋は、切ないな。

膝に彼女の頭の重みを感じ、彼女の髪を触る。

柔らかい髪は、俺の指に絡まる。

月明かりにでも判る、彼女のピンクに染まった頬。

初めて会った時より、幼い顔になったのに。

今は、俺を誘うほどに色気を漂わせている。

・・・・・。

バカな、酔ったヤツを襲うほど、俺は飢えてないはず。




この静まった住宅街に、響く荒い車の音が突然聞こえ始めた。

俺の耳は外に注意を向ける。


その車はこのアパートの前に、止まった。

ヤバイ、戻ってきた・。

俺達は、チェギョンの部屋で飲み食いをしていたので、時間が稼げる。

ベットの下に、チェギョンを押し込み俺も中に入る。

荒々しい靴音が鳴り響く。

大きな歩幅の音と、用心深い音、もう1つは女だ。

その音は、このアパートの中を歩き回っている。

盲点を突いても、来ると判っていたが早かったな。

皇太子、護衛、チェ尚官というとこかな。

そして2階のこの部屋に歩幅の大きい音が近づく。

「殿下!その突き当りの部屋です。」チェ尚官の声が聞こえる。

扉を荒々しく開ける音が響く。

いかにも高そうな靴があちこち歩き回る。

チッ、皇太子か。面倒臭そうだ。

俺はベットに隠れる時に、自分の体の前に入りそうな箱を並べた。

これで、ここに人は入っていない事を判らせる。

タンスを開け閉め、机の引き出しを開けて、行動が止まる。

俺は隙間から、皇太子の様子を見た。

引き出しから細長い箱を取り出し、うな垂れていた。

何でそれを見てうな垂れているんだ?

「殿下!妃宮様は何処にもいません」チェ尚官もやってきた。

「・・・・。」

「殿下、どうなされましたか?」チェ尚官の心配そうな声が聞こえた。

「いや何でもない。」その声は低かった。

「殿下ぜひ、これを」チェ尚官が何かを渡していた。

「これは?」

「妃宮様が、此処に来てからずっと殿下に出さずにいた手紙です。どうかお読みになってください」彼女の力強い言葉。

受け取る音がする。

そして、中を取り出し紙を握り締める音がする。

さっきまで死角で、二人の様子が声しか聞こえなかったが。

皇太子が振り向き、俺からも顔が見える位置になった。

紙を読み音を出さず、涙を流し始めた。

皇太子が泣いている。

声を出さずに泣いていたが、嗚咽が出始めた。

悔しそうに泣き始めた皇太子の顔。

今更、泣いてどうなる?お前はチェギョンをほっといていただろう?

逃げていたくせに、今更泣くのかよ

「チェ尚官!チェギョンをオレの妻を探し出さないと。チェギョンが変な行動を起さない内に」涙を拭き、強い意志で彼女に伝えた。

「はい!殿下!」チェ尚官の声は嬉しそうだ。

慌てて、この部屋を出て行く靴音。

3人の靴音は、このアパートから出て行く。

そして、車のエンジン音が聞こえ始め、急発進でこのアパートから離れて行った。

「フーーーッ」俺は深い溜息を吐いた。

狭いとこに隠れていたので、体をベットの下から出た時には、いたるとこが痛かった。

俺は彼女を下から、出してあげようとしたら。

「何?此処?」言う声が聞こえた?

「チェギョン!」

「ケビンオッパ、なんで私此処にいるの?」酔いが醒め始めた彼女が叫ぶ。

「皇太子達がここに来た。」

「えっ!?」

「大丈夫だ!もう出て行った。」

彼女をベットから助け出し「体痛いとこないか?」

「ちょっと痛いとこもあるけど、大丈夫だよ。でも、頭がガンガンする。」無理して笑う。

「それは酒のせいだ」

「判ってるって」膨れる。

自分の机に細長い箱が上がっていたのを見つけ、近寄った。

「・・・見たんだ。」ポツリと言った。

寂しそうな顔を見てしまい、俺は胸がズキッと痛んだ。

お前の書き留めた手紙を読んで、泣いてた男がいたって。

伝えないと。伝えるだけで、チェギョンは皇太子の下に飛んで行ってしまう。

オレの一言で。

オレの胸がギュッと痛がる。

あんな皇太子より俺の方が、チェギョンの傍で支えていた。

俺とどうにかなってじゃなくて、ただ皇太子に渡したくない

あんなヤツの元に戻ったって、又苦労するだけだって。

「此処も、もうヤバイな出ないと。」

「何処に行く?もう日付けが変わったから、今日は本当はスコットランドに行く予定だったよね。」

「行くか?車で行くか?」

「車で?時間掛かるよね?」

「掛かるな。」

「じゃあっ、止めとこ。」

「オイオイ、じゃっ、俺のとこに来るか?」冗談で言ったのに。

「よし!そこに決定!」彼女は俺の腕を引っ張った。

「チェギョン!」

一旦止まって俺を見つめる。

「私のワガママに付き合ってくれるって言ったよね。」俺を見上げるチェギョンの目。

その目に吸い寄せられるように、俺の顔が傾く。

「ケビンオッパ!?」

「あっ。悪い、付き合う、お前のワガママには何時も付き合っていただろう?」

「有難うねっ。ケビンオッパ。」泣きそうに笑うチェギョン。

今直ぐに抱きしめてやりたい。

お前が俺の事を求めていない事は、知っている。

それでも、さっきのように抱きしめてしまいたい。

お前の傍には俺がいるって事を。






俺のアパートに着き、中に入らせる。

「汚いとこだけど、入れ。」

このアパートに女が入ったのは、何年ぶりだ?

「おい、入れよ。」中々動かない彼女を中に入らせようと、声を掛ける。

「ケビンオッパ。」

「何だよ。」

「ケビンオッパ。私を抱いて!」

何を言った?コイツ今何て言った?

「オッパ、私を大人にして頂戴!」

俺は、見上げる彼女の大きな目に吸い込まれそうだった。