今日の午前の分が終わった時には、もう少しで2時になりそうだった。
朝一の集合で、診察が時間が遅れた為、終わるのも遅くなた。
「ハン先生、今日の午前部はこれで終わりです。お疲れ様でした」
「もう2時ですね。じゃっ休みましょう。
何時もだったらウネがいて抱き合い、軽いキスを交わしながら、この診察室を出て行っていたのに、今日は一人で食堂へ向う。
この所、彼女の愛情たっぷりの食事をしている為、食に対する意欲も沸いてきたが、やはり、ウネの作ったご飯には敵わない。
オレは、辛ラーメンとキンパッを頼み、テーブルに着き、食べながらLINEを打ち込んだ。
うん?相手先がない?
は?
もう一度、ウネの所へ行き、やろうとしても相手先がいない。
なんでだ?
辛ラーメンの手が止まる。スマホの調子が悪いのか?
彼女の電話番号を押しも「お掛けになった電話番号は只今使われておりません。」
?????
「何だ?」彼女のスマホが壊れたのか?
何回やっても、同じ言葉ばかり。
きっと壊れたんだな。どうせ、帰りには寄るし、その時にこの事を聞いてみよう。
諦めたオレは、キンパを口の中に突っ込ませた。
日中の仕事が終わり帰ろうとしたら「メディカル・トップチーム」立ち上げの会合があった。
彼女との連絡が取れなくて慌てて帰るオレの前に、理事と院長が立ち塞がる。
「リーダーへの承諾はまだ頂いてませんが、「メディカル・トップチームへの参加は大丈夫ですよね。」笑う理事。
「キミが私の後釜になってくれたら、本当に嬉しいよ。」院長も笑う。
「少しばかりの挨拶です。ぜひ出てください。貴方が出ないと、皆帰ってしまいますから。」理事と院長に両腕を取られてしまった。
「今日は、急ぎの用事があるのですが。」
「じゃあ、このままさっさと移動して、さっさと終えましょう。」理事の笑顔がやけに引っかかる。
「ハン先生、行きましょう」院長の笑顔余り見た事ないぞ。
狸親父達の変な笑いを不思議に思いながら「じゃあ、少しだけ。」返事をした。
メディカル・トップチームの会合が終り、ようやくウネのアパートに辿り着き、上を見上げると、彼女の部屋は電気が点いていなかった。
「早めに寝てしまったのか?」オレは慌てて階段を2段飛ばしで上がっていく。
何か嫌な予感がする。何だこの胸騒ぎ。
彼女の部屋を何度も叩くが、部屋の電気は暗くて誰もいない様子。
それでもオレは何度も彼女とジフンの名前を呼ぶ。
すると隣の部屋の男が出てきた。
「うるさいなー!ユンさん家に何か用か?」
「誰も出てこないんだ。部屋で倒れているかも?」今日ジフンが具合悪いって言ってたから、彼女も具合が悪くなって寝ているじゃないかと。
「えっ?ユンさんなら、今日の午前中に引越ししたよ。」
予想もしていない言葉が聞こえた。
「今何て?」
「だから引越ししたって。挨拶に来てくれたよ、でも泣き顔で顔が真っ赤だったな。」
オレの頭の中が混乱し始める。
「えっと、兎に角彼女は此処にいないんですね。」その男の肩を掴む。
「おい!なんだよ。痛いぞ」
「彼女の部屋の中を見たいんですが!」焦るオレの顔は、化け物のなったようだ。
その男は、ヒーッと言いながら、「管理人の言って鍵を開けてもらえば。言葉も終らないうちにオレは、駆け出していた。
ウネの部屋は何も物がなくなっていた。
確かに必要なものしか置かなかった彼女だが、今は床が見えるだけ。
ガラーンとなった部屋を1部屋ごと確かめるキッチン、居間、ジフンの部屋、そしてウネとオレが何度も愛を確かめ合った部屋。
何度も、彼女を突き上げ彼女の奥へ奥へ突き進み、何度も一緒の場所。
「本当だ何もない。」スマホで彼女に掛けても、お掛けになった番号は現在使われておりません。この言葉が続く。
「マジかよ。」このアパートの管理人がいても、オレの体は崩れ落ち、涙が出てきた。
「管理人さん、彼女たちは何処に行くって言ってましたか?」
「突然の引越しで済みませんっと謝ってくれただけで、行き先は聞いてないです。アンタそんなに泣いて、ユンさんとは。」
「結婚しようと思ってました。」ボロボロと涙が止まらない。
「そっかー、黙って行ってしまったんだ。気を落さずに。気の済むまで此処にいて良いよ。その後鍵掛けてかえしてくれれば良いから」オレの肩を叩く管理人。
想像もしていない展開に、只涙が止まらない。
何で何も言わないで行ってしまった?
ジフンが反対したからって、何も出て行くことじゃないか!オレに何も相談しないで出て行った彼女を恨む言葉が出て来るが、やはり愛が強すぎた。
「ウネ、何処に行ったんだよ。オレの元からいなくなるなよ。」涙が止まらない。
「此処の部屋で、何度も確かめあったじゃないか。あの時の言葉はウソなのか?」
スンジェさん好き。
スンジェさんの此処も好き。
色んな言葉で、オレの事を骨抜き状態にしたくせに、何処に行ったんだよ!
何時間もこの部屋で泣き続けた。
アレから、2週間が過ぎ。オレの姿はガラリと変わった。
インターンの時愛用していた瓶底メガネ。そして、ボサボサな髪型、ヒゲもボーボー。
ウネ、ジフンのいないこの世の中には興味がない。
仕事も「メディカル・トップチーム」に専念したいと言って、外来の診療を変わって貰った。
人と関わる事を止めてしまったオレ。
週に何度か出勤してこの部屋に篭る。今日も一通りの体勢を準備して帰る。
あんなに愛想良くしていた挨拶も、皆にせずにスタスタと帰っていく。
何時も通っていたスーパーに立ち寄り、チーズを買う。
いろんな子供達を見てると、勝手に涙が出てくる。
「ジフン。」お前の可愛さは、この子供たちとは比べもんにならない。
そして「ウネ。」此処にいる女性達が束で掛かってこようと、お前の完璧な顔・体・性格に敵うヤツはいない。
オレは瓶底メガネからダラダラと落ちていく涙にも気がつかず、歩いていると、子供たちに怖がれられ、母親達にも気持ち悪~~と、離れる。
それでも、気力の失ったオレは抜け殻のまま生きて行く。
こりゃー、母さん、カナの時よりも重症だ。
自分の部屋で、チーズを食べソファに寝そべり無理矢理寝た。
でも、一生懸命寝ようと努力しても、思い出すのは彼女の事。
「ウネ。ウネ。」叉涙が止まらない。
彼女のいない生活は、オレをダメダメ人間に変えていった。
仕方なく病院に出勤した日。
オレは、「メディカル・トップチーム」の部屋に篭っていた。
何時も通りに何人かの人が行き来してこのプロジェクトを進めていく。
外科の医師が、オレを見て「あれ?ハン先生、子供に会いませんでしたか?」
「子供?」
「そうそう、小学校に入る前の子どもです。何か、ハン先生探していましたよ。」
「・・・・。」オレの顔がその外科の医師をガン見する。
「めでぃかるとっぷちーむのハンせんせい、いませんかって色んな人に聞いて回ってた」
オレは急に立ち上がり外科の白衣を掴む
「そのこは、男の子ですか!?}
締め上げられている外科の医師は苦しそうに「男の子でしたよ。ハン先生!これ止めて下さい!」
「そのこは何処へ?」オレの瓶底メガネは光る
「さー、いろんな人達に聞いてたから。」オレはその医師から手を離し、部屋を飛び出した。
「めでぃかるとっぷちーむのハンせんせいは、いませんか?」
外科の医師から無理矢理聞きだし、外に飛び出した。
もし。もしオレの間違いではなければ!
走り出す足が縺れる。
最近何も食べないでいるので、体力がなく足が縺れる。
早くその男の子を見つけないと行けないのに。
オレの足は上手く走れずに、転んだ。
転んでいる場合じゃない!
立ち上がりキッとエレベーターを睨む。
外来に行こう!きっと1階に行けば、会える。
ここで待っていれば、会えるかも知れないが、オレの気持ちは焦る。
ウネとジフンの事が判るかも知れない小さな男の子
オレが知っている子供といえば、一人しかいない!
オレはその情報に縋りつくしかない!
叉走っても、足が上手く動かない。
くっそー!叉、転んだ!
こんな時に、こんな時にーーー!
「ちゃんと動けーーー!」叫んだ声に皆ビックリする。
エレベーターが到着し点灯する。そこから、看護師が出て来た。
あっ、内科のリーダー。
オレはそのエレベーターに乗ろうとして、起き上がり「そのエレベーター止めてくれ!」叫び声が鳴り響く。
大きな声は、叉、皆をビックリしてオレに目線が集まる。
「えっ?」オレの声にビックリした看護師のリーダーはそのまま降りてしまった。
「オイ!何で止めなかった!」少しでもその男の子に近づきたかったのに、このエレベーターを逃すと、次が中々来ない。
オレは立ち上がり、怒ってやろうとしたら。
看護師リーダーの体の陰から子供の姿が。
クルクル頭の可愛い顔の。
「めででぃかるとっぷちーむ、めでぃかるとっぷちーむのハンせんせいーーーーーー!」オレ目掛けて走ってくる
その姿は!チュ・ジフン!
「あっ・・・・あ・・・・・。」突然の事で言葉がことばが出ない。
「ハンせんせいーーー!」頬を真っ赤に染め、泣きながらオレに抱きついてきたジフン。
「ジフンか」ギューーーッと抱きしめる
「うん!ハンせんせいに会いに来たんだよ。」ジフンも小さいながらギューッと抱きしめ返してくる。
「会いたかった凄く会いたかったーー!」廊下で抱き合い、泣いているオレタチを皆んで囲んでいく。
「えっ?その姿、ハン先生なんですか?」恐る恐る近づいて来るリーダー。
「お久し振りです。」只オレは泣き続ける。
「この子が、うちの科まで来て、「めでぃかるとっぷちーむのハンせんせいはいませんか?」皆に聞いていたので、きっとハン・スンジェ先生の事だと思って、此処に連れて来たんです。
でも、ハン先生すっかり外見がお変わりになって。」リーダーはオレを見て、顔をしかめる。
ボロボロ泣いているジフンが「どんな姿だって、ボクはわかったよ。ハン先生に間違いないって!だってハンせんせいは、背が空まで届くんだよ。」
「まあ、何てかわいい。」周りの女子達がジフンを見て、かわいいと連発する。
「ジフン。オレも久々にこのクリクリ頭に会った。」お互いの泣き晴らした顔を見る。
「どうやって此処に来た?」ジフンの涙を拭く
「ボク達今、釜山にいるんだ。そこからKTXに乗って、人に聞きながら此処まで来たんだよ、ハン先生がいっぱい電車や、KTX,地下鉄の事教えてくれたから、それにこれのお陰で来れたんだよ。」
首の紐には、オレがあげた細長いT-MONEYカード。
その中には、小さいけど電車に乗ったジフンの写真があった。
オレが作ってもらって、ウネに渡したモノ。
「ハン先生が何時も教えてくれたから。ボク一人できた。」色んな事があったんだろう。ジフンは叉泣き続ける。
オレの鉄オタを振りをずーっと聞いていたジフン。
乗り方、標識、どの種類があるか、一生懸命教えて来た事が、この小さな子が一人でチャレンジしてきた。
釜山からソウルとんでもない距離。
これを奇跡と言わずになんていう。
全く無事に付いたから良いもの、余りものジフンの行動に感動していたが。
「全く。ママが心配するだろう?」ジフンをギュッと叉抱きしめる。
「ママに内緒で着たんだ。だから、もう帰らないと!」
「えっ?」
「ハンせんせい!ママが大変なんだ!叉笑わなくなって、毎日泣いてる。
ママを助けて!ハン先生しか治せないよ!
だから。ママとけっこんしてあげて。」ジフンの真っ赤になった目はオレを見る。
「あの~~ッ、ハン先生この子結局知り合いの子ですか?」恐る恐る聞いてくるリーダー。
「そうです。ユン・ウネ看護師の子供です!ウネとは結婚しても良いと、今彼女の息子から承諾を得ました!」オレは立ち上がり、ジフンを一番高い位置に上げた。
「ジフン!良いのか?オレがお前のパパになるって事だぞ!」誰よりも高い位置にいるジフンは、真っ赤になり笑う。
「ボクのパパになって!そして、いつもこれやって頂戴!」手をもっと上に上げた。
「えっ?ハン先生。ユン看護師と。」
「付き合っていました。でも彼女は急にこの病院からいなくなってしまって。」
「ハン先生、此処の理事の娘さんと結婚なさるんじゃないんですか?」恐る恐る聞いてくる。
「そんな訳ないでしょう。あんな整形女。オレが好きなのは、ユン・ウネだけです!」瓶底メガネが光る。
そこに「ハン先生が此処にいるって聞いてきたんですけど。」
都合よく、理事の娘が、一段と派手になってやってきた。
叉、整形してきたのか?
「ハン先生。何処かしら?あなた方知ってる?」オレとジフンに聞いてくる。
「・・・。」
「ねえハン先生は?日本から帰ってきたばかりでも、好きなハン先生に会いたくて、一目散に来たんだから!早く案内して!」理事の娘が段々イラつき始めた。
「日本に行って、叉整形してきたのか?叉随分綺麗になってきたな!日本の整形技術は素晴らしい!」
「まーーー!理事の娘だって知っていって、言ってるの?貴方みたいな不細工で汚い医師、此処の病院にいるなんて、パパに言って、辞めめさせてやるから!」凄い顔だ。
「あまり怒るなって!整形が崩れそうだ!」ニヤッと笑う
「きーーーー!」ますます怒る。
「ハンせんせい、もういこうよ。」
「そうだな、こんなヤツ置いて、さっさとママ治しにいかないとな。」ジフンを肩車する。
「えっ?貴方の名前もハンって言うの?」
「オイ!年上に向って呼び捨てするとは!親の教育はどうなってる!?オレの名前は確かにハン・スンジェだが。何か?」もっとニヤッと笑う。
「ハン・スンジェって同じ、あのカッコイイハンハン先生と同一人物?マジ?」目が飛び出そうだ。
「お前、オレの事判らなかっただろう?でも、この子だけは見分けがついた。まッ、本物の愛がないと判らないからな。」
オレはジフンを肩車して歩き出した。
「さっ、ママのとこに行こうな!」
「もしかして、ユン・ウネ、あの人にはたんまりとお金を渡したから、貴方とは会わないって。」言った途端、口元を締めた。
オレの目が細くなり「それは此処に帰ってきてから、聞くから逃げるなよ」ビシッと指を指した。
オレはジフンを肩車から降ろし、しっかりと手を繋ぎ、エレベータに乗り込んだ。
釜山にいるウネの元へ。
皆様、こんばんは。
何時も訪問有難うございます。
ところで、関東地方のお方、大丈夫ですか?
ついこの間も、青森でも震度5強があったばかりなのに、今度は埼玉って
避難用の買っておかないと。
お互い気をつけましょうね。
では、おやすみなさい