「ハン先生って・・・、何時もにこやかに笑ってますけど、本当の笑顔じゃないですよね。」

今日一日の仕事が終り、カルテ、パソコンを片付けているときに、聞こえた言葉。

振り向けば、外来担当の看護師が立っていた。

うん?コイツ、先週から此処の内科担当になったヤツ。

「今まで外科の病室担当だったんですけど、内科に移動って決まったら、皆が騒ぐんですよ。」ソイツは、黙々と器具を片付けながら話を続ける。

「イケメンのハン先生のとこなの?羨ましいって。看護師のリーダーまで羨ましいに言って。それに何時も優しくて、笑顔がイイって。前評判が凄くて。どんな人かと思って、ワクワクして来ましたが」

「・・・・。」

「ハン先生って,先週から観察してましたけど。笑顔が嘘くさいです。で、なんか企んでそう。」オレの事を見て、ニッコリと笑った。

看護師の事をジロッと見る。

「ほらっ、その目付き、人前で余りしませんよね。前にチラッと見た事があって。この人、要注意人物!って思ったんですよ。」片付けが終わり、看護師はオレを見て頭を下げた。

「じゃっ、時間なので。叉来週、お願いします」はつらつな声を上げ、行ってしまった看護師。

言うだけ言って、行ってしまった変な看護師。

オレの本当の姿を知ろうが、知ったことじゃない。

他のみんなには、全然気が付かれていないんだから。

でも、初めて知られてしまった。

オレは、カバンを取り出し、帰る準備をする。

どうせ、この狭い部屋だけの仕事関係だ。

それに、あんな看護師オレの趣味じゃない。

チッ、小さな舌打ちがこの部屋に響く。



扉を開けて、歩き出すと、看護師や医師達が挨拶をしてくる。

「ハン先生、お疲れ様でした。」色んな人達がオレに頭を下げて、ニッコリと笑う。

オレの奥底の野心を知らない奴らは、オレの笑顔に騙される。

「皆さんも、お疲れ様でした。」笑う。

キャーッという看護師達。

オレがこの病院のTOPに上り詰める為に、必要な事はすべてやっていかないとな。

心で、冷たい笑いをする。

誰にも知られない為に。








新しいマンションに引越しをして、独身のオレは帰りにスーパーに寄る。

まだ越してきたばかりで、色んなスーパーを試している。

まッ、今の所このスーパーが、品物が良く安い。

買い物カゴを持ち、チーズを物色していると。

「あれ?ハン先生。こんなとこで会うなんて、ビックリです。」

仕事とは違う格好の看護師が、オレを指差し驚いていた。









「ハン先生、こんなとこで。」コイツは。

オレは知らない振り、叉チーズを選び始める。

無視されたこいつは、指を指しながらオレのとこに近づいた。

「ハン先生、無視はいけませんよー。」人差し指はオレに向かったまま。

「人に指差すのは、ダメだって教わらなかったか?」ジロッと睨む。

途端、満点の笑顔。

「だって、こうでもしないと、ハン先生無視しっぱなしだったでしょっ?」オレを覗き込む。

大きな目に、戸惑いの表情をしたオレが写り込む。

大きな瞳。

「ハン先生も近くなんですか?」彼女は買い物カゴに2・3個の食品を入れ、オレに聞いてきた。

「最近、このあたりに引っ越してきた。」

「へーーっ、そっかー、だから今まで会った事なかったんですね。」又もやニッコリと笑う。

大きな瞳がオレの事を見続けている。

「あっ、こんな時間。行かないとー、じゃっ来週ーー。」行こうとしたら。

「オイ、そんなに急いで何処へ?」オレらしくない言葉が出て、自分に、最近忙しくなってきたから・・・。

体の具合が悪いなんて、ありえない!!

これから、あの病院の上に行こうとしているのに。

フッと近くの鏡に、自分の顔が映りこんだ。

いかにも悪巧みしていますと言う顔。

フッ、やばいなー考えが只漏れだ。

アイツの言う通りだ。

病院では、野望を考えないようにしないとな。

一人密かに笑いながら、ワインを選び直した。









何週間も一緒に仕事するようになり、コイツの名前がユン看護師って事が判ったが・下の名前には興味がない。

ユン看護師は、患者達に受けが良かった。

予約の時間通りにいかずに、苛立っていく患者達を上手く宥めるユン看護師。

前だったら、そのイライラを医師のオレにぶつけていたが、今は遅くなっても皆普通に接してくれる。

コイツは人との接し方が上手い。

看護師のリーダーにも、「ハン先生、ユン看護師が来てくれてとてもたすかってますねー。お陰で、外科病棟の知り合いの看護師に、戻してーって毎回泣きつかれています。」勝ち誇ったような笑い。

「そうですね。ユン看護師のお陰で、仕事がやり易くなりました。」

「彼女には、ずーっといて欲しいですね。」内科診察の看護師リーダーが言いながら行ってしまった。

ずーっといて欲しい・・?

まさか!!

止めてくれ!!

オレの腹黒いとこを簡単に見つけてしまったヤツなんかいらない。

でも、そう思っていても、仕事の効率の良さはには。

思わず傍で片付けていたコイツを睨む。

オレのイヤーな視線を感じたコイツは、急に振り向き

「ハン先生!腹黒いのが丸見えですよ。」小さい声でオレに言い、笑いながら片付けを終え

「じゃっ、今日もお疲れ様でした。」頭を下げた。

ユン看護師は、オレが立ち上がるのを、黙って待っている。

オレがいくまで、この部屋からは出ない。

最後の最後まで、看護師としてきちんとしたヤツだ。

オレは、腹黒いのを指摘され、ムッとしたまま立ち上がって「お疲れ。」言いながら、部屋を出た。

時間差で、ユン看護師がでてくる。

部屋の明かりが消え、今日の業務が終わった事を、周りに教える。

オレは、白衣に手を入れ歩き出した。

すると「わーーー!遅くなるーー!」慌てて走り出すユン看護師。

さっきまでの仕事を忠実にこなしていたヤツとは思えない程の慌てっぷり。

「オイ!廊下走るな!」

「ハン先生。見逃してくださーーい・」手を振り、すっ飛んで行った。

変なヤツ。

仕事の完璧さと、終えた後のギャップがありすぎて。

まッ、オレには関係ないか。


踵を翻し、会議に出るために、エレベーターの場所を目指した。







皆様、こんばんは。

「without you」が終わり、「ハン医師とユン看護師」が始まります。

宜しくお願いいたします。

皆様の訪問ありがとうです。コメント、いいねボタンありがとうね。

では、おやすみなさい