「シーーン!来たぞーー!」ギョンが中に入って来た。

オレは、チラッと目線だけアイツに向けた。

ギョンに後ろには、イン・ファンもいた。

オレがこの地から去り、5年も経ったのに、こいつらは。

「オイ!今は仕事中だ。」

「邪魔しないから。久し振りに会ったんだから、顔ぐらい見せろ」インが笑う。

「シンがいなくなって、オレ達寂しかったんだぞ。」

「・・・・・。」

「オイ!会えて嬉しかったんだろっ!照れるなよ。」ギョンがからかう。

オレは立ちパソンコンを持った。

「オイ!何処に行く気だ?」

「これから、業務提携の会社の社長と会う。じゃあな。」3人の横を通り過ぎようとした。

「シン、家にいるんだろう?そこに行くから」

「ホテルに泊まってる。」向かいにそびえ立つビルを指差す。

「自分の家があるのに?」

「あそこには戻らない。あそこには思い出が有り過ぎる。悪いけどオレは韓国に一秒でも長くいたくない。」秘書と共に歩き出す。






「アイツのアメリカの呼び名知ってるか?ICEMAN。余りの冷たさに、皆震え上がるそうだ。アイツの敏腕さに色んな企業が廃業させられたそうだ。」インがポツリと言う

「元々頭が良かったからな、経営を学んで開花したのか。」さっきまでの明るさがない言葉のギョン

「今のシンの顔って、無表情で冷たい、今のシンは撮りたくない。」ファンはカメラの電源を落とした。

「やっぱりあのことだよなー。心底惚れた女から、理由も判らず離婚届が来たんだ。

オレだったら、おかしくなる。」

久し振りに会った友の冷たさに、3人は溜息を吐いた。








今日の会議が終り、相手側の社長がオレに近寄ってきた。

「どうです?これから軽い食事でも。」

きたか、韓国の接待業務

仕方ない、1回は付き合うか。

「いいですね。お付き合いします。」2人はお互いの秘書を連れ立ち、エレベーターに乗る

「ここから、近いんです。」笑う。


オレの苦手なタイプ

イ・ユンホ

爽やかそうに笑い、誰からも好かれるタイプ。オレとは真逆だな。

「イ・シン社長は随分若そうですが、何歳ですか?」

「今年24才になります。」

「えっ?そんなに若いんですか?ビックリしました」

・・・・・。

「そんなに若いのに、凄い事やってるんですね。」エレベーターを降りて、外に出た。

外に出ると、皆白い息を吐きながら、歩いていた

今は11月後半、そろそろ冬が訪れる。

オレは腕に持っていたコートを羽織った。

イ・ユンホ社長は、スーツのまま歩いている。

「寒くないんですか?」

「今から食べるのが、とっても美味しくて体が温まる。」カレの嬉しそうな笑顔。

やっぱり、コイツ苦手だ。

「ほらっ、あそこを曲がれば直ぐですよ」

・・・・。

マジかよ。ここはロッテ百貨店の噴水場。

チェギョンとキスをした場所だった。

5年も前の事を覚えているオレは、自分で笑ってしまう。

もう忘れたはずじゃなかったのか?

この5年間がむしゃらに仕事ばかりしてきたじゃないか。

顔を右に向かせ、なるだけ見ないように通り過ぎた。

交差点を右に曲がると、チェギョンと一緒に食べあった屋台があった

オレの脚が急に止まる。

「どうしたんですか?後もう少しですよ?」不思議な顔をしている。

ドキン!心臓が跳ね上がる。

チェギョンと食べあった屋台を、見ただけでこうなるなんて。

オイ!しっかりしろ!アメリカじゃ、ICEMANって呼ばれるほど、冷たい男だろう?

首を強く振り、落ち着かせた。

「大丈夫です!」手には冷汗が出てきた。

イ・ユンホ社長の後を付いて行き、まだかと聞こうとしたら

「ここです!この店のが1番上手い!イ・シンさんも絶対に気に入ります。」屋台に向かって行った。


屋台かよ。

どんな凄いとこかと。

「アガシ!おでん4つとホットク4つ!」

「あっ!アジョシーー!又来てくれたの。何時も有難うーー」

オレの感覚がおかしくなる。オレの周りの人達の、時間が止まったようになる。

その声は。

鉛のような足を動かし、一歩一歩近づく

ずーッと捜し求めていた、声がオレの目の前にいた。

「あっ!?」

ホットクを作っていた彼女の手が止まった。

オレと彼女の目線が重なる。

今この時間、2人以外の時間は止まった。

オレと、元妻シン・チェギョンは動けないでいた。










5年振りに会った場所は、屋台だった。

お互い見つめ合い、ボーッとしていると

「アガシ!?どうした?」イ・ユンホ社長の声で、オレ達は意識が戻る

慌ててホットクを裏返そうとしたら、謝って鉄板に手が触れたみたいだった。

「あっつ!」押す器具を下に落としてしまった。

「チェギョン!」オレよりも早くイ・ユンホ社長は彼女の傍にいた。

「チェギョン!手を見せなさい。」ムリヤリ手を引いていた。

「大丈夫ですから、アジョシ!このくらい何時もやってしまうから。」苦笑いをする。

あの綺麗だった手に、所々ヤケドの痕があった。

「チェギョン、こんなにヤケドの痕が。」イ・ユン社長は秘書に目配せをしていた。

チェギョン?

さっきまでは、アガシだったのに。

オレの心に黒い雲が広がる

秘書は救急車を呼ぼうとしていたのを、彼女が止めた。

「アジョシ!大丈夫だって!大袈裟だよ。」

「嫁入り前の体何だから、大切にしなさい。」頭を撫でる。

なんだ、この2人。まるで恋人同士。

嫁入り前の体というとこで、オレと目が合う。

そうだよな、お前はもう1回行ったもんな。

オレの口元が冷たく笑う。

「とにかく大丈夫!アジョシ、ホットク出来るまでおでん食べててよ。」直に渡す。

最後にオレのとこにチェギョンがおでんを持ってきた。

「チェギョン、今度仕事で世話になるイ・シン社長、24才なのにもう会社の社長なんだよ。あっ、チェギョンと同じ年だね。同じ学校にならなかったかい?」彼は爽やかに笑いながら、言う。

オレの心の黒い雲が何層にも重なる

「初めまして。」おでんを受け取る

何度も握り締め、絡めあっていた指が少し重なる。

5年振りの彼女の体の1部に触れただけで、オレは身震いをしてしまう。

「こちらこそ。」小さい声を出した後、触れた指先をもう片方で隠し、ホットクを作りに奥に行った。

「じゃッ、食べますか?」オレと彼女の関係を知らない彼は爽やかに言った。

お互いの指に指輪がない事を知ったオレ達。

長い棒に刺さったおでんを食べ始める。

あっ!懐かしい。あの頃作ってくれたおでんの味。

黒い雲に覆われていた心に、温かい日差しが差す。

温かい。

久し振りに、食べ物を美味しいと感じた。

オレの隣に居たコン秘書が驚いている。

「社長。」

オレはコン秘書を見て、頷く。

ホットクが焼けて、皆に配る。

「気に入ればいいな。」小さい声はオレだけに届く。

あんこ入りのホットクは、オレの好きな味。

口いっぱいに広がる甘い味。

前におやつで作っている彼女に、イタズラしてよく怒られていた。

オレは昔を思い出し、気持ちが穏やかになっている時に。

「イ・ユンホ社長!申し訳ないが次の商談に行くので、失礼します。アガシ、美味しかったです。」頭を下げて歩きだした。

イ・ユンホ社長と秘書がオレの方を向いている内に、コン秘書はチェギョンに紙を渡した。







ロッテホテルの自分の部屋に付き、慌ててバスルームに入る

ずーっとガマンしていたものを吐き出した。

はあっ、はあっ。

5年前からオレは食事を受け付けなくなっていた。

時々付き合いで、食事をするけど味が判らないまま、後で吐き出す。

オレの体はサプリメントと週1回の点滴で、生きながらえている。

彼女の作ったおでんさえ、吐き出してしまった。

でも久し振りに美味しい感覚を体全身で感じ取り、一人笑う。

オレもまだ人間だったんだな。









シン君の秘書さん。

結婚していた時にも、何度か会った時のある人が、急に小さい紙を渡す。

「シン・チェギョン様、明日ここに来て欲しいそうです。」頭を下げ歩いて行った。

5年振りに会ったシン君。

突然いなくなった私の事を、カレはどう思っているのか。

そして離婚届。

ヒョリンとは上手くやってるの?

カレの後姿を、見えなくなるまで見ていた。




次の日、指定されたホテルに合う服を着て、カレの泊まっているホテルのラウンジで待ち合わせをしていた。

私はカレと話が出来る喜びで、今思えば浮かれていたかも。

時間通りにカレが現れた。

昨日は突然現れて、突然去ってしまってよく見ていなかったが。

5年経ったカレは、大人になっていた。

少年から青年に代わっていたカレ。

黒いスーツを着こなし、モデルのような足裁きでこっちに向かってくる。

自分だけに向かってくるカレの姿に、一人頬が赤くなる

そして私の迎えに座り、傍にいるコン秘書に小さい声で伝える。

頷いたコン秘書はこの場を離れた。


「5年振りだな。」

「うん。」

2人の間に沈黙が重く圧し掛かる。


そこに、一人の男の人が来た

「オレ専用の弁護士だ。離婚後の慰謝料とか、色んな書類があるから。

離婚届は出して、オレ達は夫婦じゃなくなったけど、慰謝料とかちゃんとしないと、後から足りなかったと言われても困る。

値段はお前に任せる。

好きなだけ取れ、オレはこう見えても稼いでいるから。」ニヒルに笑う。

弁護士さんが難しい事を言い始めていたけど、なぜか涙が出てきた。

シン君と話が出来ると勘違いしてきた私。

そうだよね。

自分から勝手にいなくなって、勝手に離婚届書いたのに。

何を期待してたんだろう。

「いりません。」

「はい?」弁護士さんの声が聞こえた。

「お金はいりません。」涙が止まらない。

「チェギョン。」

「大丈夫です!後でなんか訴えませんから。」

「じゃあ、こちらの紙に書いてください。」

弁護士さんに言われるがままに、下を向き書いた。

「じゃあ、これで全ての書類がそろいました。これで正式に離婚が成立しました。」

「じゃあ、どうもお手数お掛けしました。」頭を下げて歩きだした。

歩き出しながら、ずーっと我慢していた涙は零れ落ちていく

私とシン君の小さな縁はこれで途切れてしまった。

いいんだ。

いいんだ。

カレが幸せなら。

本当に愛する人と一緒にいたほうがいい。

カレが幸せになるなら、何枚でも紙書きます。

「チェギョン!?」泣きながら、一刻でも早くこのホテルを出ようとしたら、私を呼び止める声がした。





泣きながら立ち去ったチェギョン。

オレは彼女が紙を書いている間、何も言わず黙って見ていた。

なんで泣きながら書いてるんだ?彼女は我慢していたが、泣いているのが分かった

これで好きなだけ慰謝料もらえるのに、彼女からの言葉は「いりません。」

何でだよ?

何で、何だよ!?


オレの体は自然に立ち上がり、彼女を追いかけた。

泣いている理由が知りたい。

オレの小さい望みかどうか、お前の口から聞きたい

彼女が外に行こうとしている。

オレは「チェギョン!」叫んだ声ともう1つの声が重なる。

彼女はオレの方ではなく。イ・ユンホの方を見た。

何でこんなとこに?

彼はチェギョンの元に近づき、泣いている彼女を抱きしめた。






皆様、こんばんは。

土日、ゴボウ掘りのお手伝いに行ってきました。

久々のゴボウ掘り。

何時ものメンバーと会えて、楽しかったです。

あと一か月後に、本格的なゴボウ掘りシーズンがやってきます。

朝早くから夕方まで、冬が来る前に掘らないのといけないので、霜が降りた畑を掘る時があります。

スーパーで、青森のゴボウが売っていたら、もしかしたら私がお手伝いした物かもー。


では、コメント、いいねボタンありがとうございます。