「架空の婚約者ってなによ!」振り向いた彼女はボロボロ涙を流していた。

「じゃあ、何で泣いてる?」

「くっ、悔しいからよ!」

「まったく、相変わらず気が強いな。」笑う。

「婚約者はいるわよ!オッパ、ジェウォンオッパが私の婚約者よ。とってもイケメンなんだからー!シン君も会ったでしょう?優しくて、笑顔も素敵なんだから。」

「インに紹介されたから、アイツは止めとけ。」

「何でよ!?シン君よりカッコイイから?シン君よりイイ人だから?」流石のカレもムッとして

「判るんだよ!よくそっち系の奴らに誘われるから。」

「そっち系?」

「男好き。」

えっ?ばれちゃった。

「・・・。」

「図星だろう?だから、女のお前とは婚約なんてしない、もう諦めろ。」







ムン・ジェウォン

やり手のホテルのオーナー

でも、本当はオネエなの。でも、それを知っている人は少ない。

だから、私のオネーサンみたいに、なんでも相談していた。

「カレも本当はチェギョンの事好きだったんじゃない?」

「そうね、親友としてね。私がどんなに好きになっても、カレは振り向いてもくれなかった・・。」

「よし、よし、何でも言いなさい、このジェウォンオンニが受け止めてあげるから!!」

「オッパーー!」

「オンニって言いなさい!」

「あははっはー!オッパ大好き!」二人抱き合って夜どうし騒いでいた。

でも、次の日うちの食堂に来るオッパは完璧までに男を演じる。パパまで騙して。

「オッパがほんと、男だったらいいのに。」

「私もチェギョンが大好きよ、アンタが男だったら、タイプなのに。」

二人だけの秘密の日々は本当に楽しかった。

その秘密をこの皇太子は、意図も簡単に暴いてしまった。

恐るべし、イ・シン。





「だって、シン君にはイ・スンリさんがいるでしょう。」この間のパーティーの愛らしい胸のデカイ彼女。そして、可愛らしい性格

皇太子妃として完璧振りな彼女は、全部私と反対。

「妃宮には彼女がいいよ。」

「それは、お前の本心か?」


カレの為ならどんなウソでも突き通す。


「そうだよ!国民が望む綺麗な完璧な皇太子妃。彼女しか居ない!」

「私はダメ妃宮なんだから、記録上にも残らない、シン君にとって何の利益もないヤツなんだよ。」

「チェギョン、利益とかで考えるな。お前の良さはオレが全部知ってる。」

「親友としてでしょう。」


そっかーっ。カレの瞳が変わる。







食堂の後ろで隠れるように話していた私達の顔を、夕日の色が染めて行く。

ここから少し行くと海が見えてくる。

少し風が出てきて、シン君の髪がサラサラと揺れる。

私は一人で夜海岸を散歩をする。

ただブラブラと歩いていた。

「宮」の事。シン君の事・・シン君の事。いつもシン君の事ばかり考えていた私。

あの広い背中を抱きしめてみたかった。

あの頃の私も、ちょうど限界にきていた。

カレに触れたい、カレにキスしたい、背中に抱きつきたい

そして「好きです」伝えたくなっていたあの頃

それなのにそびえ立つ親友と言う壁

壊したかったけど、カレが望んでいなかったから、壊さなかった。

なのに、目の前に突然現れたカレ。

黒のライダージャケットに黒のパンツそして黒のエンジニアブーツ

背が高く手足が長いモデル並みの体を持っているカレは、こんな格好が似合う

見上げる私は、この人に何度恋してしてしまうの?

グッと涙を拭き「さあ、シン君!冗談はいいから、私、行かないと!」

「どこに?」

「夜間専門学校に通っているの。もう行かないとね。」

「えっ?お前「宮」からお金一杯貰ったはず。」

「辞退しちゃった。いらないって戻しちゃった。」

「・・・・。」

「じゃあね、シン君。」言って私は急いで中に入っていった。


時間がない私はパパが止めるのも聞かずに外に出て、自転車で行こうとしたら

バイクに跨ったカレが待っていた。


「乗れ!送っていく。」







「いいよ。」

「乗れ」

「だって私、男の人のバイクの後ろに、乗ったことがないし。」バイクに跨っているカレは。

「初めてじゃないと、問題アリだ」真面目な顔で言う。

「それに!皇太子はバイクに乗っちゃ、危ないでしょう!」

「大丈夫だ、何年も前から乗ってる。」

「ワル皇子!」

「いいから、乗れ!時間大丈夫か?」時計を見ると後30分で始まる

「アーーーッ、もう自転車じゃ、間に合わないよ!」

「ホラッ。」カレの手にはメットが2つ。

カレの手からピンクのメットが宙を舞う

慌てて受け取る私。「危ないじゃない!」

「早くしろ!」自分のメットを被る。

私は慌ててメットを被り、ゴーグルを目に当てたが。

「ちゃんとカチッとしたか?」カレの声に「したはず。」

「見せろ。」素直にトコトコと近づく私。

「上向け。」又もや素直に向く私。だって、途中でメット取れたらイヤだもの。

カレに最終確認をしてもらう時に、急に気が付いた。

近い。

顔が近いよーー!間近で見てしまったら、きっと頭からピューーッと湯気が出てしまう。

私は見ないようにして、頑張った。

彼の息が、下から上へ2回ほど私の首に息がかかる。

ダメだーーー!倒れてしまうーー!

心臓がバクバクしてしまい、目眩を起こしそうだ。

「よし!いいぞ。」とメットを叩かれた。

時間的には何秒だったかもしれないが、私にとって何十分もの戦いだった。

一人で真っ赤になりながら後ろに跨り、手がウロウロとしていると。

「ちゃんと、回さないと。飛んでいくぞ。」カレは私の腕を掴み自分の腰に回した。

「イヤイヤ、それはちょっと。」と離れようとしたら。

無言で私右手と左手を絡ませて、しっかりと組ませた。

バイクスタンドを外し、クラッチレバーに手を掛けアクセルを回す。

彼がバイクの作業をしている間、ずーーッと憧れ続けていた背中に顔をつけていた。

カレの大きな背中

何時も、後ろで見ているだけだった背中

触れたいのに、触れられなかった背中

今、私はその背中に顔をつけてる。

あふれ出す感情に、自然に涙が溢れていた。

涙に音がある訳ではないが、バイクのアクセルの音が響き私の涙を消していた。

「オイ!」

「何よーー!」せっかく人が浸っているのに。

「学校ってどこだ?」

オイオイ。






無事に学校に着き「じゃあ、ここまでどうもね。気をつけて帰ってよ!」言って手を振って彼女は中に入っていった。

メットを取り、ゴーグルも外す。

まったくアイツは、待ってるからって言いたかったのに。

さてと、どうするかっ。





「よーーし!今日の授業も終わった!」

「チェギョンー!今から飲みに行く?」クラスメイトが声を掛けてきた。

「何言ってるの!今日は宿題出されたでしょう。」

「チェギョーーン、それは何とかなるでしょう、いこうぜ!」4・5人集まってきた。

「仕方ないなーー、ちょっとだけ付き合っちゃおうかな。」笑う。

今のこの生活が大事。

家の食堂を手伝い、夜間の専門学校に通い、友達とバカ騒ぎをしながら過ごす毎日。

楽しい。

オッパが私の悩みを聞いて一緒に泣いてくれるのも、嬉しい。

皆で学校を出て、店に行こうと歩いていると

1台のバイクが止まり。

ゴーグルを付けたままの男が「オイ!どこに行く」声を掛けてきた。

あっ。シン君。

ボーーッとしていると、バイクのスタンドを出し、降りて歩いてくる。

「送るから」

友達が「チェギョン!誰?背がでかくてカッコイイ!」

「彼氏?」

「バイクに乗っているなんて、いいなー。」

「何で、ここにいるの?」

「お前の事待ってた。目を離すといなくなりそうだから。」私の腕を掴み、又ピンクのメットを被せ、首の所をやっている。

その言葉を聞いた皆は「いいなー。チェギョン!彼氏がいるんなんて言ってなかったじゃない」

バイクの後ろに載せられカレもバイクに跨り

「彼氏じゃない、チェギョンの夫の予定」言う言葉を残し、バイクはクラスメイトから離れていった。

皆「マジでーーー?」騒いでいた。


家の前に着き、バイクから降りた私。

「今日は2回もどうもね。」

カレは私から受け取ったメットを手で持て余していた。

「じゃあ、ね。」

「チェギョン。」

あんまり名前で呼ばれたことがないので、思わず振り向く。

「明日も又、来るから。じゃっ。」カレはあっという間に行ってしまった。

どうしよう。毎日過ごしていた日々が大事だったのに。

この生活を壊したくなかったのに。

今、私の胸の中には、イ・シンの事しか考える事が出来なかった。





皆様、こんばんはー。

もうねむいので、ねます