違う出口から出れた私

マフラーを口元に当ててまま、涙は止まらない。

昨日シン君に「泣きたい時には声を出して泣け」と言われた。

そうだよね。もう隠れて泣くことをしなくてもいいんだ。

ボロボロ出ている涙と

「ウーーーっ、うっ・・・、うっ・・・・・。」嗚咽が漏れる

昨日、駅の前にシン君を発見したこと。

後ろから抱きしめてくれた

ケーキ屋さんでの心の篭った謝罪

みんなの目の前で、口元のクリームを舐めた

一緒に食べた晩御飯

そして、初めて見たカレの寝顔

起きたら、布団の中にいて抱きしめられていた事

昨日の事がいっぱい浮かんでくる

諦めないと、あきらめないと、シン君への片思い。

あきらめないと。

春川には、もういられない。

涙で顔がぐちゃぐちゃになっていて、前が良く見えない

通り過ぎて行く人達は、不思議そうに私を見ていく。

誰もこんな所で元妃宮がいるとも思わず、ただ通り過ぎて行く。

前が見えない私は、やっぱり転んだ

それも派手に「もっ!何度転ぶのよ!」流石に3回目の転倒で、足を痛めた。

痛いよ、痛いよ。イタイ。心も体も,イタイ。

無理矢理体を起こして、立とうとすると右の足首に痛みが走る

でも、アパートに帰って荷物取りに行かないと。足を引きずりながら、1歩1歩踏み出す。








「シン!」こんな所でオレの名前が呼ばれるなんて。

「ヒョリン?」

高そうなコートを着込んだヒョリンが、オレの目の前にいた。

「シン、私に会いに来てくれたんでしょう?嬉しいわ!」何時も通りの綺麗な微笑みで、オレを見上げる。

「シンにメールしたんだけど、返事が来なかったわ。公務で忙しいと思って、途中で止めたの。」

「・・・・。」

「シン、会いたかった、練習してもあなたの事ばかり考えてしまう」体をオレに預けた

「ヒョリン、オレはこの国にいない事になっている。」ヒョリンの体を自分から離しながら、言う。
「それなのに、お前は問い掛けなかった。もしかして、チェギョンにあったな!?」

「・・・・。」ヒョリンは顔を背ける。

駅の中に入っていこうとしたら

「シン!止めて、どこに行くの?私達、愛し合ってるのに、もう離れたくないわ。」無理矢理止められた。

「すまない。ヒョリンにちゃんと言わなかったオレが悪かった」もう1度体を離す。

「お前にプロポーズして、断られた時点でオレ達は終わっていたんだ。

オレが曖昧な態度で、お前に接していたのが悪かった。

チェギョンへの想いを、どうしたらいいのか判らなくてお前に逃げていた。

でも、今はもう判る。オレはシン・チェギョンの事が好きなんだ。

アイツは「宮」にいる事が苦しくて逃げてしまったが、ずーーっと探していた。

もう1度夫婦としてやり直したくて!」ヒョリンの目を見て言った。

「シン、私達中学の時、運命の出会いをしたんじゃなくて?二人で切符、土の中に埋めたじゃない。」ヒョリンの声が涙声に変わっていた。

「高校で又出会い、お互いかけがえのない存在だったじゃない?」自分のポッケトから携帯を出し、待ち受け画面を指し「二人で隠れて撮ったじゃない。」

「密かに付き合っていたけど、私達幸せだったでしょう?」

「それでも!オレはあのシン・チェギョンに出会ってしまった。政略結婚の二人には何も起こらないと信じていたオレが、メチャクチャ惚れ抜いてしまった。

アイツの事想う度に笑いたくなるんだ。おかしいだろう?氷の皇太子って言われているオレがだ。

ヒョリン、オレ達は2年間付き合っていたが、それ以上のことを求め合わなかった。

キスもしなかった。付き合っているのなら、キスもしたくなるのになっ。

オレは、シン・チェギョンの全てが欲しいんだ!

心も体も、全てオレのものだってみんなに叫びたい。」

「私の知ってるイ・シンじゃない。目の前にいるのは、本当にシンなの?」ヒョリンは泣いていても、綺麗な顔のままだった。

「残念ながら、イ・シンだ。そろそろ行くよ。アイツが泣いてる。抱きしめてあげないと。泣き顔が、酷いんだ。顔が壊れるくらいに崩れる。

でも、可愛いんだ、可愛くてしょうがない。

ヒョリン、本当の恋をすれば、お前もわかるよ。とりあえずは、インに話しかけてみたらどうだ?

オレ達の2年間は無駄じゃなかった。

本当の恋を知る為に、2年間籠に閉じこもっていたかもしれない。

でも、オレは籠から飛び出した。

おまえももう出たほうがいい。じゃあ、もう行く。」

「シン、私、あなたの事、すきだった、いえ、今でも好き!」真っ赤に泣き濡れた顔。
それでも、綺麗な顔なヒョリン。

「ありがとう、いい思い出を有難う、ヒョリン。」






シンはチェギョンの場所を知ってるように、真っ直ぐに伸びる道を走り出した。

「シンのバカーーー!私だって泣いてるのにー!ずーとすきだったのにーーー!」

携帯が鳴り響く

泣きながら出たら「どうした?何で泣いてる?」馴染みの声が響く

「イン、シンに振られた。」泣き声は止まらない。

「待ってろ!直ぐに行くから!」

「えっ?だってここ。」

「春川だろうが、どこだろうが、泣いているお前の傍に行くから!待ってろっ!」通話が切れた携帯を持ちながら、涙は段々止まり始めていた。

ずーッと傍にい過ぎて判らなかった本当の想い

「イン。」








足を引きずりながら、ようやくたどり着いたアパート。階段を上って、自分の部屋の鍵を出そうとして、カバンに手をつけた時に。

「鍵はシン君に、預けたんだー。」どうしよう。大家さんいるかなー。ドアの前で頭をくっつけ、落ち込み中の私。

どうしてこう、おちょこっちょいなんだろう。

ボーッとしていると。急に私の体を覆う人がいた。

絶対に逃さないように、きつく体を寄せてくる人。

「パンダの鍵、欲しくないか?」










「パンダの鍵、欲しくないか?」私の頭の上で響く、シン君の声。

こんな間近で聞いた事がないので、私の心臓はおかしくなる位に鳴り響いている。

「まったく、駅の前で待ち合わせだって、自分で書いてたのになっ。」

「どこに逃げても、探し出すんだから。もう、覚悟決めろ!シン・チェギョン。」

パンダの鍵を鍵穴に差し込んでカレは扉を開けた。






「寒いから、どうやるんだ?」ストーブを指差し、カレはしゃがむ。

隣に並んで涙でグシャグシャになった顔のまま、無意識な動作をしていた。

そんな動作を黙って見ていたカレ

「酷いなその顔、そんなに泣くほど何があった?」膝を抱え自分の顔をカレに見られないように、腕で隠し首を横に振る。

ストーブの火が二人を照らし出し、沈黙が広がる。

こんな静かな空間で、自分の足首が痛くなっているのを感じる。

動く度に、痛みが響く。

「温かいな。お前の体みたいだ。」カレがポツリと言う。

最初しゃがんでいたカレも、腰を降ろしストーブの火を見つめていた。

「・・・ヒョリンと別れてきた・・・・。」驚いた私はカレを見つめた。

「オレの気持ちを伝えてきた。だから、お前はオレの傍からいなくなるな!」

カレの真剣な目に私の姿が映る。

「もう、死んでも離さない。」

「夢の中?これは私の夢の中かな?だって・・、シン君が私の都合のいい風に言うなんて。」カレは右手で私の頬を、優しくなでた。

で、思いっきり抓った!

「痛ったーい!シン君!何すんの!?」左の頬を押さえながら叫ぶ。

「夢の中かなって言うから。」真面目な顔で言う。

「だからって、マジで抓らなくてもいいじゃない。」左頬を押さえながら、ぷいっと顔を背けた。

「とにかく、夢じゃないだろう。」カレは自分のジャケットを脱ぎ始めた。

「何っ、何してるの?」と慌てる。

「何って、暖かくなってきたから。お前も脱げよっ」私のコートのボタンを1個外した。

外しながら、さっき抓られた頬にシン君の唇が重なる。

「・・・・。」あまりにもの驚きで、何も言えない私。

「オレの初めてのキス、オレの初めての相手はシン・チェギョンしかいない。」

「うそだ!シン君はヒョリンと2年間も付き合っていたのに。」

「ウソじゃない!ヒョリンとはただ傍にいれれば良かったんだ。だからそれ以上のモノは望まなかった。」

「シン君には私なんかよりヒョリンの方が。」

「似合うなんて言うなよっ、オレの妻はお前だけなんだから!」

「どうしよう、どうしよう。さっきまでこの世の終わりみたいだったのに。

シン君が、シン君が私の欲しい言葉ばかり言ってくれる。

やっぱりこれは夢なのよ!シン君!又、抓ってみて!」目を瞑り、頬を突き出した。

暫く待っても何も起こらないので、ゆっくりと目を開けた。

目の前には私の顔を見て、笑っているカレがいた。

両手で私の頬を押さえ

「可愛いな、どんな顔していても、可愛く見えてしょうがない。」優しく唇を重ねた。

ついばむようなキスを何度も交わす私達

お互い初めてなキス。

まさかっ、シン君 がまだだったとは、意外でした。

シン君へのキモチをもう隠さなくても良くなった私は、このキスに思いを込める。

すき、すき、すき、すきです。

シーンと静かな部屋に、二人の唇の音が響く。

シン君が私の体を引き付けて、強く抱きしめる。私の空いた腕はカレの首の後ろで重なる。

熱い、ついこのまま、カレに全てを。体から力が抜けていく。

夢中だったシンが、チェギョンの異変に気が付いた。

慌てて体を離すと、チェギョンはぐったりと体を預けてきた。

「チェギョン!おい!チェギョン!」彼女の額に手をあてると。

熱い。発熱。

「うーーんっ、足が痛い。」

「足?又怪我したのか?」

「来る途中で、転んで捻ったみたい。」話をしながら私はシン君に体を横に寝かせられた。

「ちょっと待ってろ。布団敷くから。」テキパキと動くカレ。

私を布団に移して「宮に戻るか?」首を横に振り「皆に迷惑掛けたくない。もう夜でしょう。」少し熱のある私は、段々息が荒くなってきた。

「それに薬あるから、大丈夫だよ、シン君ももう帰らないと。」明るく言う。

「ばか!熱のあるお前を置いて帰るわけない!」言葉とは裏腹に私の頬に手を置く。

「今はこのまま薬を飲んで寝ろっ。明日車呼んで宮に戻るから」







皆様、こんばんは。

お久しぶりですね。お元気でしたか?

でも、もう眠いので寝ます。