「はーあ!よく寝た!」とガバッと起きた私。

私はソウルの地下鉄から、乗り継いで、春川に辿り着いた。

そこで食べたソルロンタンのチェーン店の味にすっかり惚れてしまい、ダメ元でここで働けないか?と聞いた。

ここでは募集していないと言う、答えが返ってきた。

そうだよねー。むしが良過ぎる。そんなに上手くいく訳がない。

「じゃあ、募集があったら貼紙してください!直ぐに面接に来ますから。」と店長さんに頼んだ。

頭の良さそうな店長さんは「どうしてここで働きたいのですか?」と聞いてきた。

「今日、初めてこのお店のソルロンタンを食べさせて頂きました。すっごく美味しくて、この味を韓国の皆さんに教えたくて。そしてその中の一人になれたら!と思いました。

店長さんは「気に入りました!でもこの店は十分人手があるので、工場の方でもいいですか?」

「はい!どこでもいいです!」

「じゃあ、明日からこの工場に行ってください。工場長には知らせておきますから。」とニッコリと笑って言ってくれた。

「有難うございました。」とお辞儀をする私。外に出ようとしたが、店長に話しかけた。

「どうして、私に決めてくださったんですか?」

「このチェーン店の社長は、この店のソルロンタンをとても大事にしております。今の貴方のように、ソルロンタンを愛してくれる人なら、大丈夫だと思い決めさせて頂きました。それに判断は私に任されてますから。」

照れる私。

「じゃあ、明日から一緒に頑張りましょう。」と送り出してくれた。






住む所も18歳が一人で住むには手頃な所を探して、とんとん拍子に決まっていった。

全てが新しいことばかりで、私は毎日がヘトヘトになりながら、生きていた。

「おはよう。パパ・ママ・チェジュン。」と家族写真に挨拶をする。

私がここにいる事を、家族は知らない。

「おはようございます。陛下・皇后・皇太后様」と宮の家族だった人達に挨拶をする。

たった4ヶ月だったけど、この人達とは家族だった。

そして最後は元夫のイ・シン殿下の写真を見つめ

「おはよう。シン殿下。」と写真にキスをする。

でも「もうそろそろミン・ヒョリンが妃宮になるのかなー?」

この部屋にはテレビも新聞も取っていない。唯一の情報は、工場や本屋や電気屋さんのテレビに映るニュースくらいだ。

工場に行く時には三つ編みにして、メガネをする。誰も私の事を妃宮と思う人はいなかった。

「じゃあ、今日も仕事頑張りますか。」と私は元気よく部屋を飛び出していった。







事が終わりロッカーで着替えていると、知り合いになったオバサンに

「あなたって、誰かに似てるわ。」

ドキッ。

「誰だったかしら、思い出せない。結構有名な人なんだけど。」と私の顔をマジマジと見る。

「誰だって似てる人はいますからね。」と逃げ腰になる。

「うーーーん。」とまだ悩んでいる。

焦る私は「じゃあ、お先に。」と慌ててロッカーを飛び出した。

危ない危ない。どうしよう。このままじゃ、直ぐにばれてしまう。

元皇太子妃って事がばれたら。

部屋に着き、さっき買ってきた物を袋から出した。

隙バサミ。

台所の横に下げている鏡を見ながら、私は三つ編みにハサミを入れた。

「中々上手くできたわ。これで誰もシン・チェギョンって言わないわ。」

鏡の中にはショートカットの私がいた。

切った長い髪の毛を見つめ、「バイバイ。妃宮様。」と言って、ゴミに捨てた。

私はこれから、この春川でショートカットのイ・ヨンスという名で生きていく。

もう宮には未練がない。

ただ心でシン殿下の事を思っていてもいいよね。









次の日工場に行くと、昨日のオバサンが「ヨンス!判ったわ!貴方に似た人が誰かって事が!」と言いながら近寄ってきたけど。

「まーーーっ、どうしたのー?こんなに短くなっちゃって。」と頭を撫でた。

「似合うでしょう?自分で切ったんです」と話を逸らしたが

「貴方に似てるって人。ホラッ昔のアイドルでbaby boxって言うグループがいたでしょう?その中のユン・ウネに似てるって思っていたけど、髪の毛切っちゃったから、そんなに似てないわね・・。」とオバサンは行ってしまった。

えーーーっ!そっちなのーーー!?もう髪の毛切っちゃたよー。

トホホッとがっくり肩を落としたが

まっ、これでカット代が暫く浮くわ!と喜んだ。

こんな私だけど、この春川でめいいっぱい生きていこう。





オレは東宮殿に帰ってきて、チェ尚官が残って居てくれた事に、ビックリした。

「チェ尚官、遅くまで残っていたのですか?」

「さっきまでコン内官も残っていましたが、お帰りになられました。」

「そうですか、何時も迷惑掛けてすみません。」頭から雫が落ちるのも気にせずに、頭を軽く下げた。


殿下変わられました。

以前の殿下は人に気を使うなんて、しなかったのに。

今の殿下なら、妃宮様の事を大事にしてくれる。

前のような辛い日々を妃宮様には味あわせたくない。

そろそろ私の重い口も開かねばなるまい。

チェ尚官は殿下の後ろ姿を見つめ、今の殿下ならと確信した。

「殿下、ずぶ濡れのままでは、お風邪を引きます。早めにお風呂にお入り下さい。」

「判った。」

「チェ尚官。」

「はい。」

振り向きざまに濡れた髪の間から、真剣な目で

「オレの妃宮はシン・チェギョンだけだから、絶対に探し出します。」

私は顔を上げ、ハッとした。

「心得ております。」深々と頭を下げた。








シン君!シン君ってば!!

オレの後を一生懸命付いてきて、クルクル回りながらオレに話しかけるチェギョン。

シン君、シン君・・・・。その声は段々遠ざかっていく

ゆっくりと瞼が開く。

夢か。

少ししか寝ていないのに、目覚めのいい朝。

さっきまで見ていた夢の事を思い出す。

お前の笑顔が思い出せなくなりそうだ。


ノロノロと起き上がり、いつも通りにシャワーを浴び、挨拶する為のスーツに着替える。

自分の部屋を出て、何時もの習慣でチェギョンの部屋を覗く。

毎日1回はここに来る。

チェギョンがこの部屋にいた時は、あまり尋ねた事がなかった。

主がいなくなってから、尋ねるなんて。

オレはほんとにダメな夫だな。

一通り見て、何も変わらないことを確認していこうとしたら。

テーブルの上に1枚の紙があった。

オレは今までなかったものを見つけ、近寄った。

手に持つ紙が震えだす


「妃宮様は春川にいます」




皆様、こんばんは。

何時もコメントありがとうございます。

お話のアップの活力になります。

今日はたくさんのお方たちがフォローして下さり、どうも有難うございました。

では、おやすみなさい。