夜遅い時間の電車

最近、宮の車の送迎で暮らしていたから、暫くぶりに乗る。

思わず、フッと笑ってしまった。

ほんと、一般人には考えられないわ。

電車のイスに座り向かいの窓ガラスに写る自分の姿を見る。

オダンゴ頭をしているけど。高そうなマフラーに、高いコート。そして、ブーツ。

私が宮に来た時には、まだ秋だったので冬用の服を持ってきていなかった。

でも、宮を抜け出す時にはその格好で出て行かないといけなかった。

自分の部屋の窓ガラスから、外の寒そうな天気を見つめ、溜息をはいた。

仕方ないよね。今週末に逃げようとしたけど、やっぱりもうムリ。

涙を殿下に見せてしまった。シン殿下にだけは、見せたくなかった。

今日、逃げよう!

私は秋にここに持ってきたものを、全部ボストンバックに詰め込み、誰もいないのを見計らって、夜に紛れていこうとしていた。

「妃宮様?そのボストンバックは?」とシーンとした部屋に響く、チェ尚官の声。

チェ尚官の顔を見れずに、私は慌てる。

私が何も言わないのに痺れを切らし「妃宮様、どこに行くんですか?」

開き直った私は、きっぱりと言った。

「チェ尚官!私「宮」から逃げます!だから、私の事を見逃して!」と真剣な目で訴える。

「妃宮様!どうなされたんですか?逃げ出すなんて、いけません!」

「おねーさん、わたし、もうダメなの、ここでは暮らしていけない。」勝手に出る涙。

何時も何事にも厳しいチェ尚官に見つかってしまい、ダメ元でも訴えた。

「妃宮様。」泣きながら崩れ落ちる私を支え、頭を撫でるチェ尚官

まだ泣いてる私から離れ、彼女はクローゼットに入った。

そしてマフラーとコート、ブーツを持ってきた。

「今日は寒いですから、これを着てください。」チェ尚官の言葉にビックリした私。

コートを着せてもらいながら「妃宮様の事は、気づいていました。宮での教育に付いていけない事、殿下との仲、段々笑顔が消えていっていた事を。でも、妃宮様の事を救ってあげれなった私が、今妃宮様に出来ることは、ここから出してあげる事です。」

「チェ尚官。」

彼女は私の手を取り、「妃宮様の可愛い笑顔を守ってあげれなかったダメな私ですが、協力させてください。」

彼女は私を支え、ボストンバックを持たせた。

「私が外に出る逃げ道を知ってますので、付いて来てください。」と静かにドアを開けた。

ふとっ、殿下の部屋を見ると明かりが点いていた。

気が点かれない様に、歩き出した私達。

「妃宮様、ここでお待ちを。私が門番と話をしてきますから、妃宮はその間に行ってください。」

チェ尚官の意外な行動にビックリしながら「チェおねーさん、私の事妃宮って呼んじゃいけないよ。」と笑う。

「私にとって、貴方様は妃宮様です。これを持っていって下さい。」とお金と携帯のアドレスと電話の番号を渡された。

「おねーさん、お金はいらないよ。」とお金を返そうとしたら、「今度会った時に、返して頂ければいいです」と綺麗な笑顔で答えた。

「それに、妃宮様が暇な時や、相談したい時には、電話かメールして下さい。お話相手になります。」

「ありがとう、チェ尚官。」

「じゃあっ。私は行きますので。妃宮様、元気でいて下さい。」と彼女は走って行った。





電車の窓ガラスにはチェ尚官の綺麗な笑顔が浮かぶ。

色んな人を巻き込んでしまった、愚かな私。

大丈夫、もう2度とソウルには戻ってこないから。

チェおねーさんから着せてもらったコートとマフラーはこの寒い冬の夜を心まで暖かくしてくれた。








アイツの手紙を読み終えて、力なくイスに座った。

オレがチェギョンの事を追い詰めたんだ。

慣れない生活・教育なのに一人で黙って耐えていた。

肝心のオレは人に関わるのがイヤで無視をするか、嫌味を言ってばかりいた。

何度も思うが人間として最低だ。



「コン内官何が書かれてましたか?」とチェ尚官は聞いた。

「お世話になりましたと。チェ尚官と女官には何も罪を与えないで下さいと、陛下に伝えて欲しい。それに私を廃妃にした後に殿下の本当のお嫁さんが来るから、大事にしてくださいと言う内容です。チェ尚官には?」

「今までお世話になったお礼と、教育に付いていけなかったことに対して、お詫びをしております。
それに、ミン・ヒョリンさんというお方が、殿下の本当の妃宮だって事を書かれておられます。」

「そうですか。大変なことになりました。」とコン内官は溜息を付く。

「・・・・。」チェ尚官はチェギョンの書いた手紙をもう1度読む。


チェ尚官おねーーさんへ

逃げ出す私の事を許さないで下さい。妃宮として全部ダメだった私。

毎日チェ尚官に怒られてばかりで、何にも進歩のなかった私。

本当にゴメンなさい。

シン殿下には本当の恋人がいるんです。

ミン・ヒョリンさんって言うんです。

二人は愛し合っていたのに、私が間に入ってしまって、二人には申し訳ないことをしました。

でも、邪魔者はいなくなるので、彼女の事を優しく迎えてください。

本当の妃宮はとても綺麗で、賢い人です。そうそう、まるでチェ尚官みたいです。(笑)

あの二人ならちゃんと皇太子と皇太子妃を立派になしとげるでしょう。

私も遠い所から二人の幸せを願っています。

チェ尚官さん、二人を支えてやってください。

では、ちょっとだけ妃宮だったシン・チェギョンより



手紙を読み終えて、チェ尚官は封筒を元に直す。

殿下に次の妃宮が来ても、私にとって妃宮様は愛らしいチェギョン様しかいません!と固く心に誓った。





東宮殿に響く足音

陛下・皇太后・皇后が慌ててやって来た。

「太子!妃宮が居なくなったのか!?」

「シン!彼女はどこに行ったんですか?」

「逃げてしまうなんて、前代未聞だ!」慌てる3人にオレは立ち上がり、奥のソファをすすめた。

暫く重い空気が流れていたが。

「全てオレの責任です。」3人の顔をしっかり見つめ、言葉を噛み締めるように言った。

「妃宮には何の罪はありません。」

「でも、逃げ出したじゃないか?」

「教育に付いていけず、この生活にも慣れない、それに彼女の事を無視する夫。高校生の彼女には荷が重過ぎました。」

「そうですよね、突然の宮生活、慣れない事ばかり、なのに、誰も手を差し出さない。あの子には悪い事をしました。」と涙する、皇太后。

「妃宮が笑わなくなっていたのを、知っていたのに、教育の為と言って、知らない振りをしていました。」と皇后は悔しそうだった。

「じゃあ、この政略結婚を取り止めしましょう。我々の事情に巻き込んでしまった妃宮には普通の生活に戻ってもらう。これでいいな!? 太子。」

ハッと顔を上げるオレ。

「妃宮様からの手紙で、殿下には本当の恋人が居るそうです。落ち着いたらこのお方と婚姻を。と妃宮から、頼まれています。」とコン内官は言った。

「太子!?それはまことか?」3人の目線はオレに集まる。

「オレの妃宮は、シン・チェギョンだけです。彼女とは別れるつもりはありません。」と皆を見つめ言った。









魔王32より

卒業式

今までの出来事を思い出しながら、一人過去を歩く。

カレと初めて話した(言い争い)の玄関。

ヒョリンへのポロポーズを聞いてしまった教室。

カレにムッとしてしまい、足蹴りをしようとしたが、失敗して転んだ所。

なんか仲が悪かった頃の方が思い出深い。

階段を降りて踊り場から外を見ると、宮のお迎えの車が見える。

ちょっと前までは、シン君専用の車だった。

皇太子なんて、私には全然関係のない人だと思っていた。皇族と庶民には何の接点もないはず。

踊り場から下に降りようとして足を踏み出すと。

カレが下から上ってくる。

「シン君!」カレの顔を見ると私は嬉しくなり近くによる。

「大きい声で言うな。」

「・・・?」

「今逃げてるところだ」アーッ、人気者の夫を持つと苦労するわね。

「でも、お前に会えて良かった。ホラッこれ言ってたヤツ。」

制服の左胸から名札を取り、私に渡そうとする。

階段の上にいる私は、ゆっくりとその名札に近づく。

その行動を黙って見ているカレ。

名札に私はキスをする。

イ・シンと書かれた名。

愛おしいそうに受け取る私。「ありがとう!シン君!」私を見上げるカレの瞳に、戸惑いの色が浮かぶ。

「だってただの高校生、イ・シンの思い出はここにいっぱい詰まってるの。」と名札をカレに見せつけキラキラした目で見つめる。

カレは諦めたように溜息をつき

「やっぱり、オレはお前には勝てないな。」

あれっ?魔王の負け宣言なんて初めて。

「シン・チェギョン。おまえの事が好きだ!」階段の所で固まる私。

魔王が私に好きなんて、聞いたの初めて。

「又いつものようにからかってる・・・の?」

「いや、マジで。」

高校最後の日。魔王はとうとう自分の心をさらけ出した。






皆様、こんばんは。


今日は夜桜を見に行ってきました。

ライトアップされていて奇麗でした。明日から雨なので満開の桜は終わりだなーと慌てて出掛けました。(笑)

では、このお話が皆様の癒しになれるよう日々努力します。