車に乗り、乗馬クラブを後にした。

今まで感じた事のないキモチがオレの心に重く圧し掛かる。

アイツが馬の世話係と笑う度に、オレの心がギューーッとなる。

シートに凭れて、手を顔に乗せる。

おかしい。絶対おかしい。

こんなキモチどんな教育でも習わなかった。

対処の出来ないオレは、軽いパニックになっていた。

このキモチをどうにかしないと、何時ものオレに戻るんだ。

ずーーっと顔に手を当てたままオレを心配した運転手は、「殿下どうなされました?具合が悪い。」最後まで言わせないで「イヤッ何でもない。」と顔から手を降ろした。

何時ものように車の窓から、町並みを見ているのに、何故かアイツと世話係の映像が窓ガラスに映る。

急に頭にきて、窓ガラスを思いっきり叩いた。

右手に激痛が走り痛みで顔が歪む

膝の上に頭を乗せて、両手で頭を押さえた。


東宮に着き、コン内官から今日の予定を聞き「すまないが、これから馬に乗りたいんです。1時間ぐらい職務ずらして下さい。」

皇太子から珍しい要望。

コン内官は直ぐに「判りました。全ては殿下の言うとおりに。」と頭を下げて部屋を出て行った。

着替えて馬に乗り、軽く足慣らしをしていると

乗馬クラブにいる筈のシン・チェギョンが、凄い勢いでオレの元にやって来た。

馬の上にいるオレを見上げるお前の目は、何時もにもなく厳しい。

馬の上からお前を見下ろすオレは、何時もの冷たい皇太子の面を作る。

「殿下!どういう事ですか!なぜあんな事したんですか!?教えてください!」彼女は必死にオレに訴える。

馬の足慣らしをしていても、こいつはオレを追いかけてくる。

よく見ると痛めている足を、少し庇いながら走っていた。

オレは仕方なく馬の動きを止めた。

「殿下!なぜあんな事!おにーさんをどうして違う場所に移動させるの?それに私が何時も乗せて貰っている馬も、明日から違う所に移動って!どうして。」彼女の目から次から次へと涙が溢れてきた。

「あそこであの馬に乗るのが、私の唯一の楽しみなのに、殿下はそれまでも私から奪うんですか!?」

「・・・・。」

「殿下が好きなヒョリンと一緒にいても、私何も言わないし、邪魔なんかしてません!皆に、殿下に嫌な事を言われても、反抗してません。殿下が約束してくれた離婚できる2年を、黙って待っているだけなのに、酷いです。」涙でグシャグシャになっているお前、オレはその顔をただ黙って見つめている。

「殿下!どうしてですか!?」

「・・・・。」

「殿下!答えてよ!」

「・・・止めろ・・・。」微かに聞こえた。

「殿下!」それでも食い下がらない。

「殿下って言うな!」怒鳴り声は彼女をビクつかせた。

「オレの事、殿下っていうなよ。シン・チェギョン。」さっきの怒鳴り声とは違い、小さい声。

動きの止まった彼女。

「お前、オレの事シン君って呼んでたじゃないか。何で今は殿下って言うんだよ。」

「・・・。」ビックリ顔の彼女からは音が聞こえない。

「アイツの前では笑うのに、なぜオレには笑わない。足を痛めて熱が出ているのに、一人で治そうとするなよ。オレに内緒にするなよ。オレはお前の夫なのに、あの馬よりも劣るのか!?」





殿下の突然の言葉に、私はビックリするしかなかった。

殿下は何を言っているんだろう。私がバカだから判らないのかなー。

私は乗馬クラブの事を殿下に言いに来たのに。

今目の前にいる殿下は子供のような顔つきで私を見ている。

さっきまでの勢いが無くなり、私はどうしたらいいのか判らず

走ってきた道を戻り始めた。

「オイ!シン・チェギョンどこに行くんだ!?」馬に跨った殿下は私の後を付いて来る。

殿下の問いかけに無視して、私は走り出した。

少し痛みの残る足を庇いながら、とにかく殿下から離れたかった。

それなのに。

カレはずーっと私の後を付いて来る。

「オイ!走るな!」そんな声が聞こえても、私は気にせずに走っていた。

でも。

木の根っこに引っかかり、私は思い切り良く転んでしまった。

「!!」カレは慌てて馬から降り、私に声を掛けた。

「ホラッ、こうなるんだから。どこか痛いとこないのか?」都合の悪い私は顔を上げれないでいる。

「足の痛みは大丈夫か?」

何でその事を知ってるの?だって私と、チェ尚官のおねーさんしか。

昨日の看病してくれた人って、もしかして・・・。






「どうして、知ってるんですか?」

「殿下?」

「お前が、誰にも教えるなって、だから。」

「わたしてっきり、チェ尚官かと思って言ったんです。」

暫く二人の口からは、言葉は出てこなかった。


気まずい、とにかくこの人から離れないと。頭の中で、色んな考えがグルグル回っている。

頭の中がパニックを起こしているのに、私は。

殿下とこんなに話したの久し振りで、嬉しい。

こんな状況なのに、殿下が私と話してくれるだけが、こんなに嬉しいなんて。

私って本当にこの人の事、好きなんだ。改めて思い知らされた自分の心。

落ち着いてきたら、先ほど転んだ時の、この間の痛みが又蘇る。

ズキン。ズキン。

その響きは体全体に周り、私の心臓まで響く。

殿下の顔を見ようとして、ゆっくりと顔を上げた。

心配そうな顔の殿下

初めて見る殿下の表情に、私の心臓は壊れそうな位に鳴り始める。

見ちゃいけない。見ちゃいけない。

殿下は、ただ、熱を出していたのを心配しているだけ。

シン・チェギョン!勝手に勘違いしない事!

殿下には、ミン・ヒョリンがいる。

2年間だけ私は彼女の代わりに、殿下の隣に居させて貰っているんだから。

全てを受け入れて、殿下の傍にいるけど。

やっぱり辛い。こういう状況に耐えれるには、私はまだまだ子供だった。

子供だったからこの特殊な世界に、救いを求めた。

救いを求めた先にはイ・シン殿下しか居なかった。

でも、殿下は私を受け入れてはくれなかった。

ミン・ヒョリンと言う恋人がいたから。

お似合いの二人の様子を思い浮かべ、私は心にブレーキをかける。


「殿下、昨日は看病して頂き、有難うございました。それに先程の言動申し訳ございませんでした。」キモチに鍵を掛け、私は殿下に謝る。

「2度と殿下には口答えは致しません。どうかお許しを。」頭を下げる私。

返事の無い殿下。

私達二人は長い間その場所に立っていた。

痺れを切らした私は、殿下に背を向け歩き出そうとした。

すると、殿下は私を後ろから抱きしめた。

「お前はオレの妻なんだろう?何でそう言う言い方をする?」

「妃教育で十分教え込まれました。」

「止めろよ。女官じゃないんだから。」

「それは命令ですか?それとも。」

「命令・・・だ。」

私の心は殿下の一言により、一瞬のうちに凍った。





皆様、こんばんは。

交わらない心5。

殿下がちゃんと向き合っているのにー、チェギョンちゃんったらー。

続きが思い出せません・・。明日のお楽しみにしておきましょう。

あっ、アメンバー申請して下さってますが、秘密のお話とかないので申請しなくても全て読めますよー。

オープンで健全なブログですから。(笑)


早く二人がこうなりますように。

では、おやすみなさい。