さらに痛めた足を引きずりながら私は乗馬服のままで車に乗った。

護衛のオネーさんが「殿下に教えますか?」

「いえ、いいです。カレはどうせ私には興味ないですから。」カレ専用の車を横目で見ながら、私は呟いた。

乗馬クラブ

彼や馬を世話するおにーさんに会いに行きたいけど、あの連中達に会うのは嫌。

私が皇太子妃の器がないのは誰だって知ってるわ。でも、改めて言われるとこのシン・チェギョン様だって傷つく。

実家ではパパとママに姫と言われて育てられてきたけど。

姫の意味が違い過ぎる。

バカな私。実家を救う為に、場違いな世界にいる出来損ないの姫。

私は皇太子妃になってから毎日悔し涙・悲しい涙・寂しい涙を流し続けている。

嬉し涙なんか宮に来てから、1度もない。

最近では皆に気づかれないように、音もなく泣くのを覚えた。

車の中で音もなく泣いていた私は、東宮殿が見えてくると涙を拭き始めた。

痛めた足に注意しながら車を降りた。

足を下ろした途端ズキンッと言う痛みが体を駆け巡る。

私は皆に気が付かれないように、熱が出始めた足を気遣いながら自分の部屋に向かった。

女官のオネーさんに今日は食欲がないからもう寝ます。と伝えネグリジェに着替えてベットに潜り込んだ。

おじいちゃんが私の幸せの為に交わされた約束。

何でだろう?おじいちゃん、辛いよ。

おかしいよこの約束。全然幸せじゃない。

パパ・ママ家に帰りたい。

家族の顔を浮かべながら私は静かに泣き始めた。

段々痛めた足が熱くなってきた。

なんか寒気がし始めて、私は意識が朦朧とし始めてきた。

暫くして私はおでこに冷たい感覚を感じた。

チェ尚官おねーさんだと思って「誰にも教えないで、皇太子殿下には絶対ダメ、足は寝てれば治るから。」と眠りに落ちていった。







荒い息で眠りに落ちていった彼女を、オレは黙ってみていた。

乗馬クラブから急に出て行ったコイツ。

ここに帰ってきても「妃宮様はもうお休みになりました。」と女官はオレに頭を下げた。

一旦自分の部屋に戻ったが、誰もいなくなってから彼女の部屋のドアを開けた。

ベットに近づくと、息の荒い彼女が寝ながら泣いていた。

そんな彼女が心配になり、オデコに手を当てた。

熱い!

こんな時どうしたら良い?チェ尚官を呼ぼうとしたら

「誰にも教えないで、皇太子殿下には絶対ダメ、足は寝てれば治るから。」

荒い息遣いの途切れ途切れの言葉。

オレは本当は気づいていた。コイツが隠れて泣いている事を。

宮に来た時には明るく皆を困らせてばかりいたのに、最近は体が細くなり明るい表情を見る事がなくなってきた。

この前公務が早めに終わり東宮殿のパビリオンに入ろうとしたら。

うつろな瞳のお前がソファに座り涙を流していた。

声を出さずに小さく肩を震わせ、泣いていた。

ただ泣いていた

明るくて、うるさくて、オレの周りをウロチョロと目障りだった女。

祖父様の約束の為に、仕方なく結婚しただけの女。

オレがヒョリンにプロポーズをしている所を見てしまった女。

妃宮としては落第な女。

オレと宮が勝手にコイツをこの異様な世界に閉じ込めてしまった。

彼女には来た時の様な明るさはどこにも見渡らなかった。

いつもこんな風に泣いていたんだろうか。

それから少しずつ彼女に話し掛けていったが、今更ながら彼女との会話は続かなかった。

最初はオレの事を「シン君!」って呼んでいたのに今は妃教育のお陰で「殿下。」と呼ぶようになっていた。

まっ、彼女からオレに声を掛けてくれるのは、殆どなくなった。

熱の出ている彼女をただ見つめていたが、自分の部屋に薬があるのを思い出した

彼女が誰にも教えたくないと言っているから。

でも、オレは!人の世話なんてやったことがない!

今までやってもらったの思い出しながら、オレはボウルに水を入れてタオルも持ってきて、彼女の額に濡れタオルを当てた。

彼女に薬を飲ませようとしたら、無意識な行動だけど嫌がった。

何度やっても嫌々と頭を振る。

ついイラッときてしまい、自分の口に薬と水を入れて彼女の口にそれを流し込んだ。

ゴクッ

彼女の部屋にその音が響く。

その音を聞いて安心したオレは、額のタオルを取り又冷たい水で絞った。






・・・っ・・・・・オレは今何をした!?

自分の頭の中で対処出来なくなったオレは、軽くパニックを起こしていた。

薬を飲ませようとして。飲ませようとして。口移しをした。

ベットの上で苦しそうにしている彼女を見る。

これは仕方がなかったんだ。薬を飲ませるために、コイツの熱を下げる為にやったんだ!

誰もこの事を見ていないのに、自分を正当化しようと頑張っているオレ。

少し時間が過ぎた。

フーーッと溜息を付き、上を見上げた。

真っ赤になったオレは、本当の気持ちに今気がつく。

ずーーッと前からコイツにキスをしたかった。

苦しそうなお前の唇に親指でなぞる。

何時も一生懸命なお前がオレの心に入り込んできた。

「シン君!シン君!」とオレが冷たくしても、イジワル・無視をしてもへこたれずに、ずーーっとオレの傍で笑ってくれていた。

そんな彼女の「殿下。」と呼ぶ声にオレは違和感を覚えた。

笑わなくなったお前。大人しくなったお前。隠れて泣いているお前。

オレの心の中に勝手に住みついたお前。

どうしたら元のお前に戻ってくれる?

まぶしい笑顔のお前は、もう戻ってこないのか?

ベットの横に膝を付き、お前を見つめる。

ようやく薬が効いてきたのか、彼女の首元や額が汗ばんできた。

タオルで拭いてあげたが、汗は止まらない。

「・・・・ママ・・・、熱い・・・。着替えたい・・・・。」熱で掠れた声はオレの心臓を可笑しくさせる。

着替えたいって・・・。って事は・・・。

オレは無駄にキョロキョロと辺りを見渡して、誰もいないのを改めて確認した。

そして色んなタンスの引き出しを開けて、ようやく着替えを見つけた。

部屋の明かりを消、カーテンを開けて、月明かりだけで着替えさせようとした。

小さい声で「着替えさせるからな、怒るなよっ。」と呟いた。


汗ばんだネグリジェに手を掛け、一つ一つボタンを外していく。

服の間から胸のふくらみが見えてしまい、オレは1回服を合わせた。

ヤバイ!コイツ、ブラをしてない!

オレの額からは変な汗が噴出してくる。

どうしたらいいのか判らず、ボーーッとしていたが。

「ママ早く着替えたい。」コイツはオレを母親と勘違いして、当たり前のように頼む。

オレは諦めて、服のボタンを全部外した。

オレの目の前に二つのふくらみが、荒い呼吸と同じリズムで上下していた。
目がそこから離れなくなってしまった。






皆様、こんばんは。

何度も言うようですが、健全なブログなのでお話は途中で切れることがあります、

大人の事情なので許してくださいね。

いつもコメント有難うございます。

では、おやすみなさい。