殿下から送ってもらうと、家の前にミン・ヒョリンが立っていた。

彼女に誘われ車に乗った。

移動中、車の中は会話がなかった。

CDの曲が静かに流れている。

つい「この曲いいですね。」と呟いてしまった。

「この曲は、シンが私に教えてくれたの。いい曲よね。私と彼って、好みも似ていてる。」

言わなきゃよかった。

カレの本当の婚約者。私より先に、彼女と結婚しようとしていた、殿下。

本当に好きだったに、違いない。

車の窓から、外の流れる雲を見ている私。

雲の形が風で変わる姿を見つめていると、人の心も変わると思い出す。

さっき、殿下はオレの言葉だけを信じろ!!と言ってくれた。

この言葉を胸に置き、彼女の言いたい事を聞いてみたい。

信じている。

カレの言葉を信じている。

あの済州島での海で、お互いに恋におちた2人。

人魚姫は、最初に見た人に恋をする。

私は、そのキモチを信じてみようと、助手席に姿勢正しく座りなおした。








車はソウル郊外の古い感じの喫茶店の駐車場に着いた。

彼女と私は車から降り、中に入っていった。

「あっ、いらっしゃい!!」と年を取ったマスターが彼女に声を掛けた。

「お久し振りです。マスター、お元気でしたか?」

「今日は殿下とじゃなく、カワイイお嬢さんと一緒なんだね。」

「そうなの、今日のデザートは彼女の為に美味しくしてくださいね。」

「じゃあ、何時もの席にどうぞ。」案内されたのは、個室だった。

大きい窓から、漢江が見える。

「どうぞ、ここはよくシンと2人で来ていた喫茶店なの、あんまりお客もいないし、個室って言うのが2人とも気にいたのよ。あっ、ここのコーヒー、美味しくて彼は良く褒めてた。」

イスに座り、何でここに来てしまったんだろう、と思った。

2人の楽しい出来事を聞いても、何も面白くない私は

「自慢話だったら、聞きたくありません。帰ります。」と席を立ったら。

「そうなの?私も貴方とこうしているのが嫌だわ。じゃあ、本題を。

私、妊娠したのよ。勿論、シンの子供よ。あの済州島の時の子。

廃妃になった貴方には関係ないかも知れませんが、一応、元奥さんに報告しておかないとね。

じゃあ、それだけ。わざわざ、来てもらってごめんなさい、送るわ。」と彼女は綺麗な笑顔で、青ざめた私を見る。

私は力弱く、頭を横に振る。

「ここ遠いわよ。」私の顔を見ずに言う

「貴方の気持ち、察するわ。私も婚約を破棄された時は、そんな顔してたもの。でも、この子の為に、彼は私の元に戻ってくるはず

そして、私との結婚をね

お母様にはもう話してあるの、とても喜んでいらしていたわ。じゃあ、頑張って家に着いてね。」と彼女は出て行った。

ドアがノックされて、マスターがコーヒーとケーキを持ってきた。

「彼女は帰ったから、貴方の分だけ持ってきたよ。」俯いたまま、頭を下げた私。

マスターは気を使い、静かに部屋を出て行った。

スカートの生地に、涙が落ち始めた。

一滴、一滴と落ちスカートの生地に染み込む

肩が震え出し、嗚咽が出始める。


オレを信じろ!!オレの言葉だけを信じていろ!!

殿下の声が頭の中で、何度も響く。


でも、でも。

その声は段々聞こえてなくなっていた。






皆様、こんばんは。

さー、ミンヒョリンさんの反撃ですね。

相変わらずチェギョンの心を揺さぶるのが上手いです。

では、続きは明日にもアップします

いつもコメントありがとうございます。

おやすみなさい。