「間近に見るとこんなに大きいなんて、凄いですね。」二人が見上げる先にはこの国一番のタワー

離れた所で見た時には、雲が低い為タワーの先は隠れて折れているように見えた。

「やっぱり上が雲に隠れていて見えませんね。」残念な声

「夕方にはこの雲が段々晴れていく予報だ。」シン君はスマホで天気予報を見る。

「良かったー後もうちょっとするとこのタワーが点灯するんです。見て行きましょっ。」私もタワーの今日のライトニングの時間を確認する。

「良いけど、ここでは首が疲れる。どっか別のところを探そう。」私達はグルグルとタワーを回ったが見やすい場所がなく仕方ないと諦めていたら

「あっ!!イ・ジイ先輩御推薦の場所があるんです。そこに行きましょっ。」キッランと目が光り。シン君の手を強く引っ張った

「推薦?」ちょっと不安げな顔

それでもお構いなしに「ついて来て下さい。」外から中に入り目的の場所を探すのだが、中々上に上がるエレベーターを探せないでいる。

「何回も来ているのに―。今日はなぜか見つかりません。」キョロキョロと見渡す。

「なんか迷路に迷い込んだ感覚だ。」頭一つ分飛び出しているシン君もキョロキョロと

「あっちに行きましょう。」最後の頼みに通路を抜けたら

「ありましたー。」ようやく見えたエレベーター「シン君、ありましたー。」思わずバタバタと飛ぶ。

「ほらっ。行くぞ。」30階までの直通のエレベーターには、店員さんが誘導してくれて直ぐに乗れた。

奥のガラス張りには、タワーの周りの景色が広がる。

所々街灯がつき始め、車のライトも増え始めていた。

「綺麗ですねー。」この狭いエレベーターに数人のカップル達もそれぞれ景色を見下ろしている。

私を覆い隠すような体勢のシン君は、自分の顔を私の頭の上に乗せ、出来るだけ人に見せないようにしている。

シン君は時々無意識に、私を誰の目にも触れさせないようにする。

大事にして貰えているのがよく分かり、シン君に寄り添う。

シン君の実家の会社が落ち着き、ホテルの経理の引き継ぎの為に又会社に戻ってきているが、後もう少ししたら退社してしまう。

実家の会社に行ってしまったら、まずは営業からの下積みだそうで、中々休みも取れなくなるとシン君の体のことが心配になってしまう。

エレベーターの到着のアナウスが聞こえ、皆ぞろぞろと降り、シン君は私をしっかりと寄せ外に出る。

スマホを見ながら「そろそろ点灯の時間だな。」

「そうですね、点灯を見なくっちゃ。」慌てる私

「で、何処なんだ?」

「こっちです。」教えられた場所を目指し辿り着いた先には、タワーが大きなガラス窓に間近に見えた。

「わー、すごい近いですー。」こんな近くに見えるなんて、二人はただ目の前のタワーに心を奪われ何も言えなかった。

そしてさっきまでの曇り空はいつのまにか雲が切れ、夕日に染まる太陽が見えてきた。

「あっ、眩しい。」見え隠れする雲の切れ間に夕陽はイタズラするように私達を照らす。

その眩しさも段々紫、青と変化し辺りも暗くなり始めた時、タワーは白く輝き始めた。

「綺麗です。」下からは見た事はあるけど、こんな目の前で見れる光景に心震える。

ハッと気がつくと私はシン君の体に包まれていた。

「シン君、こんな人のいる所ではダメです。」すっぽりと収まり、シン君の腕にガッチリと捕まえられているのに、抵抗する私。

「誰もいない。」ニヤリと笑うシン君。

私は動ける範囲内で、顔をキョロキョロと見渡すと「ほんとです。誰もいません。あっ、思い出しましたー。先輩は誰もいないから穴場だよって。」

「イ・ジイは何時も良い事を教えてくれる。」シン君の顔は私の顔にくっつき頬にキスをする。

「誰もいないからってダメです。」キッと睨む。「久々なんだからもっとお前を味わせろ。」私の耳元に呟く声に身体中が熱くなる。

「シン君!」こんな公共の場所で何をするんですか、腕の中から逃げようとしたら

突然、ギュルルーっと私のお腹が鳴り、シン君のイタズラする手が止まる

「チェギョン、何食べたいんだ?」シン君の冷静な声。

「えーっとガッツリと食べたいです。」お腹が減ると機嫌の悪くなる私を知っているシン君は回避しようと「じゃあ、中華だな。」片手で私を逃すまいと掴み、片手でスマホを操作しているシン君

「銀座天龍、行くぞ。」私の好みを把握しているシン君の行動力が凄い



天井に下がっている掲示板を目指し、あっという間に「銀座天龍」に着き運よく席も空いている為、すんなりと座り注文した。

私は「タワーの点灯の色は最初は白で1時間後に今日の色に変わるみたいです。」

「じゃあ。さっさと食べてさっきの所に行かないとな。」大急ぎで大きな餃子を食べちゃんと味わう暇もなく、青の点灯の時間に間に合わせた。

するとさっきの所に見た事のある後姿の女性が一人で座っていた

他人の空似かも知れないのでも、ゆっくりと近づくと

「イ・ジイ先輩。」私の声に振り向いた女性はやはりイ・ジイ先輩だった

驚いた顔は一瞬強張ったが「デートですか?」明るい声と顔になった

あーっ先輩はシン君の事が大好きだったから。私は無意識に胸元にある二つの指輪を掴んでしまう

そんな先輩を前にして仲良く手を繋ぎ立っている私達を見るのも辛い筈

「イ・ジイ、一人なのか?お前クラスならオトコは寄ってくるはずだが?」椅子の端に座るシン君は私の手を取り先輩の隣に座らせる

「いませんよー。こんな特等席は特別な男子しか来ません。」膝に肘を付きニッコリと笑う

「シン君、私トイレに行ってきます。」突然の声にシン君と先輩はちょっとビックリする。

「もー―っ、突然で笑うわよー。早く行ってらっしゃい。」手をふる先輩

「チェギョン、付き合う。」シン君が腰を上げた時「子供じゃないから大丈夫です。行ってきます。」シン君の手をちゃんと一回握り優しく手を解いた






スタスタとトイレに向かうチェギョンの後姿を見つめながら「チェギョンったらー。」まったくー。

「あの子は本当によく気が付き、周りへの配慮が出来る子です。」久々にタワーの点灯を見たくて、この穴場にやってきてゆっくりしようと思ったら、目下ラブラブ中のカップルに出会った。

入社以来彼の大事な人になりたくてもがいていたが、可愛い後輩のチェギョンと真剣な交際をしている事が分かり、もうこの恋は諦めなさいと最後のトドメみたいだ。

室長は仕事とは違うサラサラした髪に白いシャツにボタンを外した胸元には、前の飲み会の時に付けていた指輪のネックレスは無くなり、さっきチェギョンの胸元に光っているのが見えた。

今日は本当にここに来て良かった。

これでもう迷う事もない。

私と室長の間はチェギョンの分空いているが、どちらも歩み寄らず淡々と話し出す。

「インは暇じゃないのか?」

「インさんは、セフレだから私の大事な所には連れてきませんよ。それに会社を退職して、自分の会社に戻り忙しいそうです。」クスクス笑う。

「そっかー、オレもそういう痛い時期もあったが」ゴホンっと咳払い「インは女に対してこまめな奴だからー。」

「そうですね。あの人は優しくて、ついつい甘えてしまいました。」

「オレが思うに君とインは結構好い感じだと思う。」

ずーっと好きだった人からの痛い言葉。

私が欲しかったのはそんな言葉じゃないのに、彼はワザと言っている

「室長ー。」自分の想いを言っても良いじゃない?ずーっと片思いだったのよ。最近好きになったチェギョンとは想っている時間が違う。チェギョンがいない今がチャンスだ。

薄暗かったこの場所がもっと暗くなった

「!!」神様は私に味方してくれた

「暗くなった。」室長の声がこの場所に響く。後ろのパブの人のざわめきがうえうさくてもこの声だけはハッキリと聞こえる。

「室長ー、す」私の長年溜めていたどす黒い想いをチェギョンのいない隙に言ってしまおう。

光の灯っていないタワーはまるで私のよう、このくらい闇に紛れて悪さをしようとした時に

ゆっくりとタワーの円錐の中から綺麗な青に変わっていく

「綺麗だー。」タワーの点灯を間近で見上げる室長

「!!」ハッと気が付いた私のどす黒い想いは、この綺麗な青に、一瞬に浄化されてしまった。

私がずーっと追い求めていた室長は世の中を冷めて見ていて、綺麗なモノを綺麗だと素直に言う人ではなかった。

純粋なチェギョンと付き合うようになり、変わっていた。

どす黒い自分に負けてしまうところだった。

室長のおねーさまのレストランで二人の付き合いを認めていながら、まだ望みはどこかにあるんじゃないかとずーっと秘かに思っていたが、この恋はもう完全に終わりだ。

自然に流れる涙。

「どうした?」一筋流れた涙をすくっていると室長が覗き込む

「何でもありません。」慌てて笑う

「あーっ、青色に変わってしまいましたー。」そんな時に、明るい可愛い声が背中に響く

室長は自ら左手を差し伸べ、チェギョンの左手を握る

薄暗い場所で、二人の重なるカルティエのカップリングの眩しさを目に焼き付けた

「遅かったな。」チェギョンが来た途端、嬉しそうな顔していたのに、イヂワルな言葉で迎える

「混んでたんです。」大好きです!って顔に書いてるみたいに可愛い顔はゆっくりと室長の手に誘導されて座る

「さーっ、チェギョンも来た事だし、私行きますね。」、お邪魔な私はここをさっさと去らないと

「えっ?先輩もう行っちゃうんですか?」

「チェギョン野暮な事を言わないでよー、これからインさんと飲みに行くの。」携帯を振ってみせる

「そっかー、インから連絡きたんだな。じゃあ、又な。」

「そうなんですか?じゃあ、気を付けて下さいね。」空いた手を振り見送る二人

インさんから連絡きたなんて嘘ついたけど、こんな嘘だったら許されるよね。

私は颯爽と歩いて下るエレベーターに乗り込んだ。





皆さま、こんばんは。

東京シリーズこれで、終了です。

四つ葉の続きも書かないとねー。

バイトが終わって、洗濯機を回している間がようやく一人の時間。

ついつい、昔のお話のアップに逃げております。(汗)

では、おやすみなさい。