社内からの告発の今回の出来事。

 

シン君の会社のセキュリティーが異常に厳しくなってしまって、今は簡単に中に入れなくなってしまった。

 
おねえーさんはこの会社の社長の娘という事が知れ渡っている為、着替えの袋はおねーさんだけで行くことになった。
 
車で待っていた私は、シン君の画像を見ていて涙ぐむ。

海までドライブした時の動画は、シン君の運転姿。シン君って、運転している姿が物凄くかっこいい。

パドルを握る骨張った大きい手や、片手運転する腕は引き締まり男らしい。
 
段々夏が近づき服装も軽くなっていく。
 
この日は熱かったので、シン君は黒のポロシャツに、グレーのパンツ。
 
それに休日なので、髪の毛はサラサラヘアー。
 
ビシッと決めた髪型も良いけど、このサラサラなのも好きだなー。
 
冬の恰好もカッコ良かったが、肌が出ている分男を感じてしまい、隣の私は変にドキドキしてしまい、それを感ずかれないように、動画を取り始めた。

アップにしたり、ひいたりとを繰り返ししてシン君にもう止めろと言われても、止めない私。
 
シン君は私の動画とか画像をいっぱい持っているくせに自分のは中々撮らせない。
 
だからこの動画は貴重なのです。
 
シン君のメガネ越しの景色も少し見える。
 
コンタクトが嫌いなシン君はメガネを愛用する。
 
スペアのメガネは一個だけ、このフレームが気に入っていて、最近の流行りの丸メガネは、好きじゃないから掛けない。
 
キス以上の事になる時も、出来るだけ外さない。出来るだけハッキリと私を見ていたいそうで。(照)
 
朝、ベットサイドのメガネを掛けて、「ぼやけていた風景がクリアに見え始めたときに、お前を見れるのが最高の幸せだ。」遅い休日の朝の時に呟かれた言葉は、今も胸に残る。
 
思い出す言葉に、胸が・・、目頭が熱くなる。
 
色んな動画、画像を見てばかりだけど、本物のシン君に会いたい。

仕事の邪魔になるから電話は控えているけど、ラインは良いのかな?と思い、ちょっとだけコメントを残しているが、既読のマークは付く事はなかった。

会いたいよー。

シン君と会えなくなってから、四日目。

会いたくて会いたくて。
 
何時もみたいに、ギュッと抱きしめて欲しい。
 
私のシン君への愛は日々強く大きくなっていくのに、この人の私へのキモチはそれを上回る。
 
もーーっ、くやしいーー。
 
大好きなのに、もどかしい。

もー、負けてらんない!携帯のシン君の画像をビシッと叩いて「もっともっと、大好きなのを伝えるから!」

「またせたわね。」シン君の動画を見ていたら、おねーさんが戻って来た。

ポケットから携帯を出し「チェギョンちゃん、この動画見て頂戴。」おねーさんが差し出した携帯の画像には、シン君が映っていた。

「シン君!」あまりの嬉しさに、声が裏返る。

ボタンを押すとシン君が動き出した。

「ねーさん、撮るなよ。」ギロッと睨むシン君。

久々のシン君は、やっぱり疲れてる。痩せているから、直ぐに顔に出てしまう。

あっ。いつも通りに動画撮られるのが嫌いだから、不機嫌そう。

そんないつものシン君が見れて、涙が止まらない。

「これ、ありがとうなー。」

「あっ!」赤いベルベットのリングケースはいつも玄関に置いてあるのに、今はシン君の手の中にある。

「やっぱりこれがないと、なんかしっくりこない。」中に入っていたカルティエのカップルリングは私のとお揃いだ。
 
シン君は指に収まった指輪をジッと見つめたまま語りだす。
 
「これ、チェギョンに見せるんだろう?」画面はうんうんと動く。
 
「チェギョン、こんな状況になってしまい済まない。あの時アパートに会いに行けなくて、ごめんな。
 
会社の皆に付き合っていることを言えなくて、本当に、ごめん。謝ってばかりだ・・。」辛そうな声。
 
私の涙は、ボロボロと止まらない。
 
「出来るだけ早くお前に会いに行けるように、頑張ってるから。浮気するなよ。」後ろから、社長代行ー、会議のお時間ですと言う女の人の声が聞こえて、その言葉と共に画像は止まった。
 
「チェギョンちゃん、これLINEで送るから。」おねーさんは、ちゃっちゃっと操作して私の頭を撫でる。
 
「泣かないの。ねっ。シンはチェギョンちゃんの元に帰れるように、一生懸命頑張っているから」シン君の部屋で見た女版の般若のような顔ではなく、何時もの優しい笑顔で私を見てくれるおねーさん。
 
「はい、はい、はい。」泣きじゃくっている私は、何度も返事をした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「マジかよ!」ムン・ジェウォンの声が響く。
 
経理部がざわつく。
 
私が社に戻ってきたら、大変な事が起こっていた。
 
「ヤバイ!!これ全部作り直しだーー。」退社時間が近い時間に、ムン・ジェウォンが叫ぶ。
 
「そして、明日までに提出なんだよ。2日も掛けて作ったのに。」悲壮感たっぷりな声。
 
「本当に?」真面目なムン・ジェウォンが間違うはずがないと思い、もう一度確認する。
 
「あーっ、ここだよ。この間違いをそのまま続けてしまい、結局はこの2日間のが皆パーだよ。
 
室長に注意されてたんだよなー。俺は自信があり過ぎて、細かい事まで真剣にやらない。だから、たまにデカイ失敗をするって。はーっ、室長が居ない時に、やってしまったー。」机の上でペターと崩れているムン・ジェウォン。
 
ムン・ジェウォンの仕事のパートナーの私は「ほらっ、休んでいないで始めないと!」進めていたファイルをクリックする。
 
「チェギョン。良いよ。もう退社時間だ。後は俺が死ぬほど頑張って朝までには終わるから。チェギョンは、帰って引越しの準備しろって。」時計を指さす。

「私はムン、ジェウォンの仕事のパートナーです。付き合います。ガンヒョン、今日は遅くなるから先に帰ってね。」斜め向かいに座っているガンヒョンに言いながらも、手は動き出す。

「本当に良いのか?」眉間に皺を寄せながら赤くなるムン、ジェウォン。

「もうー、ベル鳴るよ。ほら、私達は休んでいられない!」カタカタとキーボードを打ち始める。
 
「で、どこをどんな風にすればいいの?」「あーーっそれは・・。」
 
「じゃあ、チェギョン先に帰るから。そう言えば、夕方過ぎから天気が悪くなっていくんだってよ。早めに帰ってきなさいよ。」
 
「えっ?そうなの?じゃあ、何とか切りの良いところで帰るね。」バイバイと手を振る。
 
色んな人達から、頑張りなさいよーと言う声を掛けて貰いながら、私達は仕事をし始めた。
 
 
 
 
 
「フ―――っ、だいたい半分くらいまできたなー。」
 
時計を見ると日付が変わった時間。
 
「もう12時過ぎたねー。」シン君に会えなくなって5日目。
 
カレは5日私と会えないとチェギョン切れを起こして具合が悪くなるという。でも、今の状況じゃ無理だろうな・・。
 
ボーっと考えていたら、フッと気が付いたことが、経理部には私とムン・ジェウォンの二人きり。
 
「おーー。だから先に帰れって言っただろう。」ここから窓を見ると、凄い雨が窓ガラスを叩きつけていた。
 
「だって、この雨じゃ帰れないでしょう。」カタカタと話をしながらも、二人の手は止まらない。
 
「まったく。帰れって俺は言ったからな。後で室長に怒られても知らないからな。」カタカタと打ち込む。
 
「仕事の途中で帰るのって嫌なんだもの。」カタカタ・・。
 
「なー、一旦休憩しようぜ。半分まできたんだから、。」カタカタと言う音は聞こえなくなり、「ふあーーーっ。」背伸びをして肩をキコキコと鳴らす。
 
「じゃあ、コーヒー淹れてくる。」立ち上がった私は給湯室に行き、シン君直伝の珈琲を準備し始めた。
 
飲む事の人を考えながら、心を込めて淹れると、美味しくなる。シン君の教えのお陰で私の珈琲はグンっとレベルが上がった。
 
二人分の珈琲を持ちながら部屋に戻ると、ムン・ジェウォンは窓際に立ち、外の様子を見ていた。
 
「酷いなー。今お前を帰しても、ちゃんと帰れるかどうかだ。こうなったらここに居た方がイイな。」溜息を吐く。
 
「はい、珈琲。」
 
「室長がいない間、俺がお前の事を守ってやらないといけないのに、何でこんな所で二人っきり。」又溜息。
 
「守る?」
 
「室長とご飯を食べたときに、オレがいなくなったらチェギョンの事を頼むって。ライバルに頼むって、どうよ?」呆れた笑い。
 
「まったく相手にされてないってことだよな。」
 
「ムン・ジェウォン。何度も言ってるでしょう。私には付き合っている人がいるって。ライバルなんて、そんなドラマみたい。」
 
「仕方ないだろう、お前の事が好きでしょうがない!」窓からは窓ガラスを叩きつける音が鳴っているが、部屋の中はシーンとしている。
 
「ムン・ジェウォン、こんな私を好きになってくれたのは、嬉しいけど、私はシン君の事を真剣に好きなの。」キッと見上げる。
 
「だから、シン君以外の人なんて絶対にない!」
 
「なんだよー。室長からも本気を知り、チェギョンからも本気を聞き、俺の恋も終わりかよ。」ガックリと頭を下げる。
 
「ごめんね。」コーヒーのカップを持ちながら謝る。
 
「くーーーーーっ。分かっていたさっでも、小さな望みがあるんじゃないかって、もがいてみたかったんだよ。」
 
「ないよ。私のキモチはシン君でいっぱいなの。」ニッコリと微笑む。
 
「だよなー。そっかー、俺の初めての恋玉砕だな。せっかく室長にライバル宣言したばっかなのにーーっ。」二度目のガックリと頭を下げる。
 
「ごめんね。それに、ずーっと付き合っていたこと隠していてごめんなさい。男前なムン・ジェウォンにはきっと私なんかよりイイ人が現れるよ。」
 
「ソウルに来てから、お前の事しか見てなかったから、周りの女子達なんか見た事もなかったなーっ。」デスクの上に頬づえをつく。
 
ちょっと間が開き「・・・なー。そのシン君って・・室長の事?」
 
「うん。えっ?イ・シンだからシン君。」経理部でシン君って呼ぶ事がなかった為、なんか不思議。
 
「あのスーパーカッコイイ室長を、シン君って。室長は許したのか?」
 
「うん?あーっ、最初は驚いてたけどね。」あの時の驚いた顔を思い出し笑う。
 
「そっかーっ。あの室長がシン君って言葉を許すくらい特別なんだな。」しみじみと言う。
 
二人共残りの珈琲を飲み、ボーっと時を過ごす。
 
「失恋した俺に、二人はどうやって付き合ったか、教えてくれないか?」その沈黙を破るムン・ジェウォンの言葉
 
「えっ?。」
 
「他の人には言わない。」真剣な目。
 
「ムン・ジェウォン。」コーヒーカップをギュッと握る。
 
「皆から聞いていた室長の経歴から、なぜお前を選び付き合ったのか知りたい。」
 
そう言えば、私達は仕事場では内緒の付き合いなので、こうやって改めて言った事がなかった。
 
私も周りの先輩達みたいにうちの彼氏とはねーと、言ってみたかったかもしれない。
 
「じゃあ、絶対に誰にも言わない?シン君にも?」
 
ブンブンと頭を振る。
 
空になったコーヒーカップを何回も回し、こうやって改めて言うのが初めてなので緊張してきた。
 
最初の言葉は震えていた「私には、中学の時から好きな人がいたの。でもその人はイギリスに行ってしまう事になり、離れたくない私達は駆け落ちしたの。でも、直ぐに見つけ出されて、彼はイギリスに行ってしまい、私は戻って来る事を信じて、ずーっと待っていたの。

大人になりこの会社に入社して、日本の能の般若って言う顔にそっくりな室長に、毎日のように怒られても泣いてしまっても、迎えに来てくれるのを信じて過ごしていたんだけど、秋頃急に室長が「オレと付き合わないか?」って。
 
ビックリしたけど、速攻で無理ですって断った。」苦笑い。

「会社の女には絶対に手を出さないと言われていた室長が直々に申し込んだのに、断ったのかー?」驚き過ぎて目が飛び出そうだ。

「だって私は、イギリスに行ってしまった彼を待っていたんだもの。

それに当時は室長の事が嫌いで、よく悪口を言って、般若って言ってたもん。あっ、この事は内緒だからね!!シン君にも言ってないんだから!」
 
「般若って?もしかしてこれの事か?」自分の携帯で検索した画像の画面を私に見せる。
 
「あっ、そうそうこれだよ。」二人で画面を見て、黙ってしまった。
 
「チェギョン、室長はこんな顔してないぞー!全然似てない!」突然叫ぶムン・ジェウォン
 
「だって―、あの頃怒られてばかりで、その顔にしか見えなかったんだもの。今は全然思ってもいないから!カッコイイシン君にしか見えない。」シン君を思い出し、にへーっと笑う。
 
呆れた顔のムン・ジェウォンは「続きは?」

「えーーっと。室長は、男慣れしていない私に、練習台として付き合わないかって。

何度も断ったんだけど、それでも何回も食事に行っているうちに、室長の良さに気が付き、私には待っている人がいるのに、このままじゃダメだって、ハッキリと室長とは付き合えませんって断ったその店でイギリスに行っていた彼と鉢合わせしちゃったのよ。

私はずーっと待ってたのに、小さな子供と一緒に結婚式挙げていたの。

もー、あの時は漢江の川の量位、大泣きしちゃった。でもね、ずーっと泣いている私の傍にシン君がいてくれたの。
 
付き合わないって何度断っても、シン君は待っていてくれた。
 
シン君の誠実さに、私はカレとの付き合いを決めたの。でもね、その後2回程逃げちゃったけど。」苦笑い。
 
「そっかー、チェギョンはずーっと初恋の人を待ってたんだな。なんかチェギョンらしい。」クスリと笑う。
 
「えっ?笑った?」ちょっとふくれる。
 
「嫌、バカにしてないさーっ。真面目で一途な性格だから、ずーっと待ってたんだろう?。それにしてもお前室長の申し出を断り過ぎじゃないか?」呆れ顔
 
「だって、嫌いだったし、からかわれていると思ってた。そして、韓国一の企業の跡取りで尊い血筋だと知り、怖気付いちゃった。でも、もうその頃にはシン君の事が好きで好きで仕方がないくらいになってたから、シン君の元に帰ったの。
 
 
「俺の聞いていた室長の武勇は誠実さには欠けていたけど、本気の恋を見つけたんだな。」
 
「シン君の過去は過去で消える事は出来ないけど。私は今のシン君が大好きだから。」ちゃんとハッキリとムン・ジェウォンに言う。
 
「なー、最後の質問。俺がもし元々ソウルに居て、室長よりも早くお前に付き合ってくれって言ったらどうなってたかな?」
 
「えっ?シン君よりも早く?」私はマジマジと見てしまう。
 
そう言えば初恋のユル君に似ている系のムン・ジェウォン。
 
優しくて、面白く、皆から好かれている経理部のホープ
 
彼を狙っている女子はシン君の次に多いみたいだ。
 
「私の初恋の人とムン・ジェウォンはどことなく似ているから、絶対に付き合わなかったと思う。シン君だから、グイグイと夢見ている私を現実に引っ張っる事が出来たの。」
 
「振られっぱなしだ.」アハアハハっと乾いた笑い。
 
「ごめんね。」
 
「ふん。もうこうなったら仕事しまくって、出世の道を突き進んでやる―――!目をギラギラとさせ、企画書のファイルを進め始めた。
 
「あっ、話ありがとうな。ちゃんと内緒にしておくから。」目線を合わせずに画面を見ながらカタカタと打ち込んでいる。
 
「うん。朝までまだあるよ。頑張ろうね。」私もシン君への恋心を再確認できたみたいで、良かった。
 
カタカタとキーボードを打ち始めた。
 
 
 
 
 
 
 
AM6;00俺はキーボードを打つのを止めた。
 
「よし!終わった――!」腕を真上に上げて背伸びをした。

経理部に、雨が上がり眩しい日差しが差し込んでいる。
 
横を見ると、机の上ですやすやと寝ているチェギョンがいた。
 
「全く、男盛りの隣で安心しきって寝てるよなー。コイツむかつく。」ジー―っと見てしまう。
 
とうとう俺の熱き初恋が終わってしまった。
 
彼女と彼氏の恋を聞き、なったばかりのライバルの座から降りてしまった。
 
だって叶う訳ないじゃないかー。
 
二人の恋の気持ちは、相当なもんで俺の入る隙間は全くない。
 
机に顔を付けて、横向きでコイツの顔を見る。
 
神様が最後のチャンスを与えてくれたのに違いない。
 
恋していた彼女の寝顔。あーーっ、なんて可愛いんだ。
 
まったく室長め!!こんな可愛い顔を間近で見る事が出来るなんて、羨ましいー。(泣)
 
本当はソファに寝せてやりたいが、触らないといけないので止めといた。
 
触れた途端、俺は止める事が出来なくなる。
 
フー―っと溜息を吐き。このまま見ているとギューっと心臓が痛くなる。
 
「ごめん。」俺は謝りながら、彼女の綺麗な髪の毛の留め具を外した。
 
パラパラと綺麗に散らばる彼女の長い髪
 
これで可愛い顔が見えなくなった。「チェギョン・・シン・チェギョン好きだった。」俺の声は彼女に聞こえないように呟いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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「おはようーーー!」何人かの人達の声が聞こえた。
 
「きゃーーーーっ!あんた達ーーー!」その甲高い声に一気に目が覚めた。
 
がばっと目が覚め体を起こした。

仕事が片付いて、寝てしまったんだ。
 
「ちょっと、ここに二人で泊ったの?」先輩達の目がキラキラと輝いている。
 
「泊まってしまいましたが、二人共仕事してましたから何もやましい事なんてしてませんよ。」
 
ようやく起きたチェギョンがボ――っと目を擦っている。
 
「あれ?寝ちゃった?」髪留めが取れているのを、不思議がっていた。「あれ?なんで取っちゃったかなー?」
 
「チェギョン、あんたジェウォンと泊ったの?」
 
「あっ、先輩達おはようございます。昨日の夜雨と風が強くて帰れなかったんです。」
 
「そんなこと言っちゃってー。2人本当は付き合ってるんじゃないの?」
 
「えっ?」起きたばかりに強烈なパンチ。
 
「まさか―付き合ってませんよ。な――。」チェギョンに同意を求める。
 
次から次へと経理部に人が出社してくる。
 
そして次から次へと言葉は伝わる。
 
「そっかー、やっぱり二人は怪しいと思ってたよ。」「そうそう、なんだかんだと言って仲良かったしー。」
 
「先輩、私とムン・ジェウォンは付き合ってませんよ。私には彼氏いるしー。」
 
「はいはい、隠す事ないって。私達は全然反対しないわよー。」先輩達の笑顔が怖い。
 
「だから―、違いますって!」何度言っても聞いてくれない。
 
どうしようー。仕事を途中で投げ出すのが嫌だからと思って、手伝ったのに、皆んな勝手に勘違いしているしー。

ムン・ジェウォンと顔を合わせて困ってしまう。

こんな時にガンヒョンや、イ・ジイ先輩が居てくれたらな。

あっ!二人に早く来てもらおうと携帯を見たら、真っ黒。

「えっ?」こんな時なのにー、充電切れ?

昨日シン君の動画ばっか見ていて充電してなかった。

役に立たない携帯を握りしめ、もうこうなったら、シン君との事をみんなに言ってしまおう!

「ムン・ジェウォン。シン君と付き合っている事言うから。」小さい声で呟く

「良いのかよ?」

「うん。だって先輩達に勘違いされたままはもう嫌なの!」先輩達の前に一歩前に出て、足を踏ん張って立つ。
 
キッと先輩達の方を目線を合わせると、廊下の方が騒がしくなってきた。その騒がしさは段々と音が響き始める。

キャーッ!と何十人もの声が重なる。
 
「何?」経理部の中にいた人達が、どうしたの?とキョロキョロとし始める。
 
皆、扉の向こう側に行こうと歩き出した。
 
「先輩たち――、どこに行くんですかー?」今シン君との付き合いを言おうとしているのにーー!
 
先輩達の後を追いかけようとしたら。
 
経理部の扉が強く開けられた。
 
「チェギョン!!」私の名前を叫ぶ声。
 
はあ、はあと息遣いも荒く、テレビで見た時のようなビシッと決まっていた髪型ではなく、ちょっと乱れが出ていてまたそこから色気が漂ってくる。
 
首元、胸元のボタンを外しながら、ネクタイクイッと慣れた手つきで緩め、ギュッとネクタイの組んだ所を下げながら近づいてくる。
 
先輩達の間を掻き分け「ようやく会えたーー。」大きな体が私の身体をギュー――っと力強く抱きしめる。
 
「シン君?何でここにーー?」急な登場に驚いたが、5日ぶりに会えた嬉しさで涙が溢れ出す。
 
「お前、携帯の充電切らしてたな!ようやく掛けたのに繋がんなくて、ガンヒョンに掛けたらムン・ジェウォンの仕事の手伝いで会社にいるって聞かされて、慌てて駆けつけたんだぞ。」耳元で怒られる。
 
「お仕事今日まで仕上げないといけなかったんです。ムン・ジェウォンの仕事のパートナーとして途中でなんか帰れません。」
 
「全く、お前らしいけど。そんなに携帯でオレの事ばっか見てたのか?」
 
「はい。シン君は5日私に会えないと具合が悪くなるみたいですけど、私は4日でした。シン君の画像や動画ばっか見ていたら、バッテリーが何時もより持たなかったんです。」私の想いが全部伝わるように、ギューっと抱きしめ返す。

「オレより我慢出来ないのか?」
 
「出来ません!小さな画面の中のシン君はもう嫌です。本物のシン君に会いたかったです。」私の声はカレの胸元に響き渡る。
 
「オレもだ。」カレのキスは髪の毛、頬、鼻と移動しまくる。
 
「室長!」「チェギョン!」イ・ジイ先輩とガンヒョンの大きな声に私達のイチャイチャは止まる。
 
「ちょっとー、ここ何処だと思ってるんですか?」二人は私達を怒りながら、驚きまくっている皆を見渡す。
 
「ほらっ、皆の時間が止まってしまいましたよ。」イ・ジイ先輩がシン君を見上げる。
 
シン君は私を抱きしめたまま「皆、急にオレの家の諸事情でここを離れることになった。突然の事で、すまない。時間の許す範囲内で、引継ぎをしに来るから、後は宜しく。
 
後、今日の本題は、オレ達付き合ってるんで、オレがいなくなったからって、オレの女に手を出さないように!」ニッコリと笑う。
 
「室長ーー!」一人の先輩が悲壮感たっぷりの顔で大きな声を出した。
 
「チェ・・チェギョンとつきあって・・。」ボロボロと泣き出した。
 
「付き合ってる。」

「嘘ですよねー。」先輩達の泣き声が響く。

「オレがチェギョンに一目惚れしたんだ。付き合うまでに、何度も振られたが、ようやくチェギョンはオレの気持ちを受け入れてくれたんだ。」

シン君は自分の左手を出し、私の左手を持ち上げて、お互いの指輪を合わせた。
 
ピカ―――っと光り輝いているんじゃないかと思うくらい眩しい指輪。
 
「そっ、それはチェギョンが彼氏から貰ったカルティエーーと同じ―――!」次々と崩れ座り込む女子達。
 
久々に出勤したシン君の事を聞きつけた女子達が経理部に溢れかえっていたのに、衝撃的な言葉を聞き皆涙が止まらない。。
 
「室長はチェギョンの事嫌っていたじゃないですかーー!」チェギョン好きな男子達も泣きそうだ。
 
「あーーっ。それは・・好きな子をいじめてしまうって言う子供じみた事だった。」そこは苦笑いをしている。
 
抱き合っていた私達なのに、シン君は体を屈め「シン君?」何をやっているのか分からなかったが。
 
私のお尻と両足を掴み、グッと持ち上げ自分の肩に乗せ上げた。
 
「シン君!」こんな所で、そんな私の大好きな事をするなんて。
 
「漢江以来か?」ニヤリと笑う。
 
「ムン・ジェウォン。今日提出する仕事はもう終わったんだよな?」この体勢は大好きだけど、こんな所では恥ずかしくてジタバタと暴れる私の太ももをグッと腕で抱き抱えて暴れないようにした。
 
「はい!チェギョンのお陰で朝前に終わりました!」ビシッと親指を立てる。
 
「そっかー、じゃあチェギョンは今日有給を取るから、フォロー宜しく!!」皆が真っ赤な顔で見上げている中、私を抱えて歩き出したシン君の足が止まる。
 
「ムン・ジェウォン、チェギョンの髪はなぜこうなってる?」ジロリと睨む。
 
「えっ?」シン君の睨みに負けたムン・ジェウォンはモジモジと言い出した。
 
「チェギョンの寝顔が可愛すぎて、このままだとヤバイと思って髪留めを外して隠してしまいました。すいませんでしたー!!」頭を深々と下げた。
 
「チェギョンの寝顔を見たんだな?まったくーー。お前は隙が在り過ぎだ!!」ベシッとお尻を叩かれた。
 
「シン君、痛いです!!」
 
「全くオレが傍にいなくなったらどうすんだ?」
 
「室長、ムン・ジェウォンはライバル止める事になりました。俺の尊敬する室長の彼女を全力で狼達から守ります。」ビシッと又親指を立てる。
 
「そうか、すまなかった。じゃあ。チェギョンの寝顔は最後のプレゼントだな。」優しく笑うシン君は、ガンヒョンとイ・ジイ先輩、ムン・ジェウォンに軽く手を上げて「今までありがとうな。」言葉を残して、経理部を出て行った。
 
突然の出来事で、三人は向き合う。
 
「もう、全く―あんな事しなくてもいいのにー。」イ・ジイ先輩は困った顔をする。
 
「そうですよねー。でも、室長ってずーっとやりたかったんじゃなかったんですか?」クスクス笑うガンヒョン。
 
「あっ、しまったー。動画撮っておくんだったー。」
 
「だよねー。あの室長のちょっと乱れ具合が色っぽかったなーで、肩に乗せてチェギョンを連れ出すって、どうよ?まったく―、イケメンはやる事がカッコイイわー。」先輩は赤くなる。
 
「あっ、秘かに撮っておきましたよ。」ガンヒョンがニヤリと笑い,手に持っていた携帯を持ち上げた。
 
そこに、社長と秘書さんがやって来た。
 
「シンが会社に出社したって聞いたから来てみればアイツ何派手なことしてるんだーー?」社長が驚く。
 
「チェギョンちゃんが、シンの肩に乗ってた。シンは俺の顔を見て、嬉しそうに笑って行ったよ。アイツにはかなわねーな。」イ・ジイ先輩の傍による。
 
「まーまー。今日どこに飲みに行く?とことん付き合うわよー。」秘書さんはイ・ジイ先輩に肩をバシッと叩かれた。

「シンに、お前チェギョンとどこに行くんだよーって聞いたら。「ねる。」って大きな声で返された。」あはははっ。
 
「アイツらしいな、アイツの会社はまだまだ大変だけど、今は取り敢えずいっぱい寝て欲しいな。」切ない顔の秘書さん。
 
「ねるって、どっちのねるだ?」ニヤ――っと笑う社長。
 
「ギョンの馬鹿!」ガンヒョンに脇腹をガシッと叩かれた。
 
それにしても、室長ーー。
 
後のフォローは宜しくって、この状況はどうしてくれるんですか!!
 
女子は泣き崩れ、男子はもう魂抜けちゃってますよーー。
 
だから、定時退社の時間にしてくれって、言ったのに――。
 
今日、仕事正常に出来るのか?
 
 
 
 
 
 
その頃、チェギョンを肩に乗せたイ・シンは、一路我がホテルのスーパーフロントマンがいるフロントを目指していた。
 
突然の韓国一の企業の跡取りと知れ渡って注目のカレが、この会社のお嫁にしたい№1のシン・チェギョンを抱き抱えて歩いているのを、皆口を開けて見送っていた。