ホテルに入社して、2週間の研修期間を終えた。

 
総合職を学び、それを見て配属を決めるみたいだ。
 
親友のガンヒョンと同じホテル会社に入社できた私は、この会社の目の前に立ち止まり、顔を見合わせた。
 
「今日は配属の場所が決まるね。」
 
「うん、私は経理部で、アンタはベルパーソン希望、その通りになっているといいね。」
 
「ガンヒョンは頭が良いから、絶対に経理部だよ。私はそんなとこは無理無理。」
 
「だから笑顔の練習してきたんだよね?」
 
「おはようございます!!」ニッコリと笑う。
 
「おーーーっ!!眩しい!さすが我が大学のキャンパスクイーンの笑顔。」パチパチと手を叩く。
 
「もーーっ、それをここで言わないでよ。」ガンヒョンをキッと睨む。
 
「イイじゃん、本当のことなんだから。」
 
「たまたまだよ。ガンヒョンの方が綺麗なのにー!!」
 
「私には、作り笑顔ができません。」ニヤリと笑う
 
「なんかそれって・・嫌味・・?」ジローッと睨む。
 
「アハハ八、もう中に行こうー。」リクルートパンツスーツ姿のガンヒョンが走り出した。
 
「もーーーっ。待てーーー!!」リクルートスカートスーツが慣れないが、慌てて彼女の後を追いかけた。
 
 
 
 
 
 
研修室に集まった私達に配属する部署を告げられた。
 
「イ・ガンヒョンは経理部」ガンヒョンに目で良かったねと合図する。
 
ようやく私の番がきた。
 
「シン・チェギョンは経理部。」
 
・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・は?なんで?ガンヒョンと目を合わせた。
 
「では、各自その場所の制服に着替えて下さい。」担当者に自分の部署のことを聞いてみる。
 
「シン・チェギョンですが、ベルパーソンを希望していたのですが。何で、経理部は間違いでは?」
 
担当者はもう一度見直したが「いえ、貴方は経理部になってますよ。」
 
そんなーーっ。

「私、経理部何て、無理。」ガックリと肩を落とす。

「チェギョン、時間がないから制服に着替えないと!」石のように動けなくなった私を引き摺るように引っ張っていった。

経理部の制服を着て、鏡を見る。

ベストにスカート。

あーあーっ、ここのベルパーソンの制服が好きだったのに。

そして色々な人達を出迎え、見送る仕事をしたかった。(>人<;)って言うか、私事務系は無理なのに。

研修期間で、分かってもらえなかったのかなー。

もう泣きたくなる。

ガンヒョンの後ろに隠れて、経理部の扉を開け、中に入って行った。

すると皆一斉に私達を見る。

ぴー!なんか皆頭良さそうな人ばかりで、怖いよ!益々ガンヒョンの後ろに隠れた。

私達を連れて来てくれた総務のオネーさんが「イ・シン室長。経理部の新人を連れてきました」真っ直ぐ奥を目指し歩いて行った先には!

「般若」小さく呟いた言葉。

テーブルに座っていた男の人が、私達を睨む。

日本の「NOU」の般若のような顔付きで睨まれた私は、益々震え上がる。

「イ、ガンヒョンさん」ファイルを照らし合わせながら名前を読み上げる。
 
ガンヒョンが「よろしくお願いいたします。」お辞儀をした。

「シン、チェギョンさん。」名前を呼ばれた私は、ここはもう諦めて、ズーッと練習してきた笑顔で「よろしくお願い致します。」お辞儀をした。

頭を上げて、笑顔、笑顔、第一印象は笑顔。

怖い顔をしているけど、もしかしたら、案外、嫌、結構優しい人かも。

期待を込めて、ニコニコーと前を見て笑った。

すると、目の前の偉そうな人の目がギュンっともっと鋭くなった。

「シン・チェギョン!お前、二度とその顔するなよ。」ビームのように鋭い目線が私を射る。

「え?」見たまんまだったー。(>人<;)

「オレはここの室長で、イ・シンだ。イ・ジイさん、新人を任せるから、指導お願い致します。」立ち上がりながら、私を見下ろす室長。

デカイ、圧倒的な威圧。
 
本能的に判る。この男に近づいてはいけない。
 
危険、キケン。
 
私の体中がこのオトコを拒否する。
 
そして、良いスーツを着こなせる細身な体をしていて、メガネがキラッと光る。

黒いワイシャツ着ていたら、絶対にマフィアのボスだよ。
 
ユル君――、早く私を迎えに来てーーー!!
 
初恋のイ・ユル君の名前を心の中で呼び続けた。
 
中学から思い続けてもう約8年。
 
迎えに来るからねって言うユル君の言葉をずーっつと待っている。
 
早く来ないとおばあさんになっちゃうよ。

初日から室長から怒られた私は、速攻帰りに屋台に逃げ込みガンヒョンに絡んだ。

それから毎日のように怒られ、泣かされ、何度も何度も、移動願いを出したのに人材不足と却下され続けた。
 
アイツなんか嫌い!!給湯室や会議室で叫ぶ毎日。
 
経理部でも、二人が御互いの事を嫌っていると黙認していた。
 
ある日、そんな関係が壊れた。
 
「オレと付き合わないか?」今まで生きて来た人生の中で一番嫌いな般若にとんでもない事を言われた。
 
まさか?冗談でしょう?有り得ない!!無理だって!!私はユル君を待ってるんだから、絶対にお断りです!!
 
それなのに、般若の一途な想いを知り、会う度に般若・・・ううん、室長の誠実さを知り始めていった。
 
でも、何度か無理だと思い逃げ出したが、シン君のキモチに答えた。、
 
大嫌いから大好きに変わるなんて。
 
そして大好きから愛している。言葉の変化と共に気持ちも進化する。
 
いつの日にかシン君との結婚を夢見ている。
 
2人の指に納まっているカルティエの指輪、そしてシン君のおばあ様の形見の結婚指輪。
 
般若と嫌っていたカレとの人生最大の恋は、何時の日にか私の胸元で揺れている結婚指輪を薬指に嵌めると言う結婚に辿り着くことが出来るのだろうか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
済州島の社長自慢のキティちゃんだらけのスペシャルルーム
 
「お前の顔、マジでヤバイ。」ジーッと私の顔を見上げるカレの顔も何とも言えない顏で頬が熱くなる
 
「毎日見てるのに、あっ笑った顔が一番ヤバいくらいカワイイ。」
 
「嘘です。シン君は入社の初日に笑顔はするなって、言ってました」。一年以上前の恨みを今言う。
 
「あんなに最高に可愛い笑顔されたら、仕事も出来なくなるだろう?だから止めさせたんだ。」昔を思い出し、恥かしそうに言う。
 
「もーー、そんな理由。」プー―っと膨れる。
 
「許せ、片想いのオレには辛い笑顔だったんだから。」ギューッと抱きしめる。
 
二人抱き合い、お互いの体温を感じ取っていると
 
「もう、今日は皆と会えません。それにシン君に言いたい事が。」トローンとした顔で、グッタリしているチェギョン。
 
乱れた髪の毛を払ってあげた。
 
「明日聞いてやるから、もう寝ろ。」オレの言葉に幸せそうに微笑むチェギョン。
 
あっという間に眠ってしまった彼女のオデコにキスを落とし、ベットから降りた。
 
軽くシャワーを浴びてから行こうと思ったのに、キティちゃんがいっぱいで苦笑いをしてしまう。
 
「お前、ずっと見てたろう?」ビシッと壁紙を指で叩いた。





シャワーのお湯がオレの体に流れ出す。

水飛沫は、まるで何も無かったように、さっきまでの熱さと汗を簡単に流してしまう。

嫌だな。

でも、そのままアイツらのとこに行くのも嫌だ。

チェギョンの甘い香りを、特にインには嗅がせたくない。

ボディソープを泡立て、体を洗い始める。

インがチェギョンに気があるのは、知っている。

でも、アイツはオレの女だから、キモチも伝えずに側で見守ってくれてる。

オレもそのキモチに知らない振りで、普通に過ごす。

頼むからそのままでいてくれ。

シャワーを終えバスローブを羽織りながら、髪の毛をタオルで拭く。

キティちゃんの下で寝ているチェギョンを覗き込む。

ちょっとイジメすぎたか?

幸せそうに眠る顔を見ていると、こっちまで顔がニヤついてくる。

いかん、こいつのせいでオレのキャラが 変わっていく。

でも、まーっ。悪くない。

愛用のスーツケースを開けて、Tシャツとスエットパンツを取り出し、おっ、ペンティも出し着替えた。

携帯を持ち、LINEを開く。

今から行くから

待ってるー。ギョンが泣いている画像と共に返事が来た。

「なんだアイツ。」この部屋を出ようとしたが、戻ってチェギョンの口元に自分の唇を重ねた。







「ギョン、お前一人なのか?」社長特権でラウンジを貸し切りにして貰ったのに、ギョンが一人でポツンッと座っていた。

「シンー!」泣きながらオレの元に走って抱きついた。

「止めろって!」ガシッと抱きついているギョンを無理矢理離した。

「もう誰も来なくて寂しかったー!」

「ガンヒョンさんは?」

「怠いから、もう寝るって。」

「風邪か?仕事はいつも通りの完璧だったけどな。」

「あれ?二人だけ?」女の声がする。

「おっ!ヒョリンじゃないか!」ギョンは立ち上がり、入り口に走り出した。

「えっ?」ギョンの声が驚く。

久々のヒョリンの後ろからは、綺麗な女性が立っていた。

「ヒョリンの知り合いか?」

「ドナの招待状に、パートナー同伴って書いてあったから、一緒に来たのよ。」ヒョリンは隣の女性に腰を回して、凭れかかる。

「アメリアって言うのよ。」彼女を見たヒョリンにアメリアは、ブチューッとキスをした。

ギョンの口は大きく開かれ、目は落ちそうだ。

そう言うオレも吸おうと思っていたタバコを落としてしまった。

インも後から来て、その光景を見てしまい、たださえデカイ目なのに、目が落ちそうだった。



「ヒョリン、とにかくビックリしたよ。」

「ふふふっ。私もよ。まさかねー。」アメリアを見ると二人の唇は重なる。

「おい、し過ぎだ。」止めない二人。

「全くー、よく男同士は見たことあるけど、女同士は初めてだ。」インが呟く。

インのパートナー役のイ・ジイさんは、ホテル内を探検したら行くと言うことだ。

「あっ、アメリアは韓国語は分からないから、フランス語で。」三人を見る。

「ウイッ」男3人の声が重なる。
 
フランス語は昔勉強させられたから、会話位は出来る。

「アメリア、遠い韓国へようこそ。」握手をするイン。

「ヒョリンとは、いつ頃から?」手を差し伸べて握手をするギョン。

「ヒョリンが長~い片想いを捨てた日から。」ジロッとオレを睨む。

初めて会ったオンナに睨まれるとは、握手をしようとしたが止めた。苦笑

「もう、アメリア、過去の事なんだから、睨まない。」ギュッと手を握る。

「でもーっ、ヒョリンだって苦しんでたのに。」

「ヒョリン。」オレは済まなそうに彼女を見る。

「もう過去のことよ。シンは運命の恋を見つけたんだから、私は身を引いただけ。

ずーっと好きだったシンが、幸せになる為なら何でもするわよ。」ニッコリと笑いアメリアに凭れかかる。

「いじらしいでしょー。こんな可愛いオンナ、どこにも居ないわ。」アメリアは愛しそうに頭を撫でてあげた。

「でも、何でシンに好きな女がいるって知ったんだ?」

「・・・・・・。」ヒョリンの目が泳ぐ。

「ほらっ、隠してないで言えよ。」ギュンが言う。

「黙ってろって言われてたけど、シンのオネー様がパリに来てくれて、シンの事情を教えてくれたのよ。
 
シンにね、心底好きな女の子がいるんだけど、親には逆らえないからヒョリンと結婚するって言うのよ。
 
本当に辛そうで見てられないって。だから、私婚約破棄しようと決心したの。」ヒョリンの真剣な目はオレを見る。

「ねーさんが?」又タバコが落ちそうになった。
 
「婚約して10年経ってもシンの心は私に向いてくれなかった。若い内はそれでも良いと思っていたけど、もう30近いと考えが変わったの。
 
愛して貰えない人をずーっと待っているよりも、誰かに私だけを愛して貰いたかった.。終わらせた初恋の後には、運命の人アメリアが待っていたの。
 
シンもそうだったじゃなくて?真剣に自分だけを愛してくれる人をずーっと捜していたんじゃない?」アメリアにもたれながら幸せそうなヒョリン。
 
ヒョリンの言葉に、ハッとする。
 
オレだけをずーっと好きでいてくれる人
 
あの入社式で一目で感じ取ったと言うのか?
 
まー―っ、確かに。
 
今までの色んな事を思いだし、ニヤ付いてしまう。
 
何度も振られ、何度も逃げられ、ようやく手に入れた一生涯の原石。
 
毎日、毎日、愛で磨けば磨くほど、その何十倍の愛が返って来る。
 
絶対に誰にも渡さない。

「シン、何ニヤ付いてるのよ。オネー様には言ってしまった事は内緒にしててね。絶対に言わないでっ!ていう約束だったんだからー。」

「分かったよ」ねーさんが絡んでいたとは、ねーさんはそう言うタイプじゃないのに。

一人でボーっと考えていたら、いつの間にかファンとドナが座っていた。

「いつの間に?」

「ちょっと前に来てもシンは気がついてくれ無かったよ」

「早々、チェギョンちゃんを一人にしてきて、心配なんでしょう?」あはははっと笑う。

「大丈夫だ。チェギョンはもうグッタリと寝てる。起きることは無いな。」ニヤリと笑いタバコを吸う。

「!!」皆ハッとなり、咳払い。

「お前なー。」インが笑う。

「でも、まー。集まった事だし、ファンとドナ、結婚おめでとう!」オレ達のグラスは高く上がり、カチンッとぶつかり合う。

「ありがとう!それに明日の結婚式の事もありがとう!」

お坊ちゃんのファンと普通の家のドナの格式張った結婚式は後でちゃんとやるが、前からの約束で仲間内でこじんまりとやりたいと言っていた。

その願いを叶えてあげる為に、ここ済州島まで来た。
 
オレとイン。ギョン、後何人かの友達とドナの親友ヒョリン、パリでは随分と遊んでいたらしい、あと韓国での友達。
 
30名の本当に親しい仲間だけの結婚式。
 
まーーっ、ギョンのホテルだから色々と融通が利く、そこが最大のポイントだな。
 
 
夜遅くからのスタートだった飲みも、皆話が弾み酒も弾む。
 
でも、女性陣は夜遅いと明日の結婚式に影響があると言って、さっさと行ってしまった。
 
ま――っ、こればっかはな-っ、仕方ない。
 
「でも、まーっ、俺達だけになったから、ちょっと合わせてみるか?」インがほろ酔いで言う。
 
「おーk-。」皆立ち上がり、ぞろぞろと歩き出す。
 
オレも酒をクイッと飲み、口元についた滴を親指で拭く。
 
「よし。久々だな。」指をポキポキと鳴らしながら・・ニヤッと笑った。
 
 
 
 
 
 
結婚式当日。
 
ホテル内の教会で、オレ達が見守る中、ファンとドナは永遠の誓いを結んだ。
 
ま――ッオレは横にいる感動して目をウルウルさせ、頬と鼻を真っ赤にしているチェギョンの手をずーっと握り締め、見惚れていた。
 
「・・チェギョン・・。」オレの左手にはカルティエのリングが光る。
 
「はい。」ぐすぐす鼻を鳴らしハンカチを当てている左の手にも同じ指輪が光る。
 
「この後、お前と一緒にいられないけど、変な男には気を付けろよ。」ギュッと握る。
 
「大丈夫ですよ。」ウルウル顔のチェギョンを置いて行くのが心配だが、ガンヒョンさんやイ・ジイさんもいるから大丈夫だろう。
 
ガヤガヤと皆移動し始めた
 
「じゃあ、二人ともチェギョンの事宜しく。」オレは立ち上がりながら、チェギョンの頬にキスをし歩き出した。
 
 
 
 
 
場所を移し、ガーデンパーティが始まる。
 
色々な食事が並び、皆リラックスして食べ始める。
 
オレとインとギョンはこの場所を仕切る為、色々と働いていた。
 
でも、時々見えるチェギョンの姿を見て笑う。
 
キョロキョロと物色して、パクパクと大きな口で食べ、美味しそうにとろけている姿。
 
何やっても可愛くてしょうがない。
 
ギョンの進行により、準備したファンとドナの小さい時からの写真が並び始める。
 
ファンとドナはその写真を見て笑い、
 
皆がそっちに夢中になっている時に、オレとインは上着を脱ぎ、ベストを整え椅子に座った。
 
 
 
 
 
 
 
式が終わり、皆中庭に移動し始める。
 
色々な飾りつけをして、色々な食事が並んでいる。
 
「すごいーー!!」私はさっきまでの感動がどこいった風に目が輝ている。
 
先輩とガンヒョンと並び、色々な料理を食べていると。
 
「あれ?ガンヒョンあまり食べてないよ。」気が付いた私はガンヒョンを気遣う。
 
「うーーん、あまり食欲がないんだよねー。」皿から持ち上げたシュリンプを見て溜息を吐く。
 
「ガンヒョン、大丈夫?」先輩はワインを飲みながら気遣う。
 
「最近、ちょっとっ怠いの。」又ため息を吐く。
 
「風邪じゃなくて、疲れているのかなー?、じゃあ私、椅子探してくる。」パタパタと探しに行き、ホテルの人に頼んで持って来てもらうようにした。
 
頼んでいた椅子が来てガンヒョンを座らせる。
 
「サンキュウ。」ちょっと疲れているガンヒョンの顔。
 
「ガンヒョン、本当に大丈夫?」言葉をかけたとき、ギョン君の声が響く。
 
「新郎新婦の登場です。」
 
薔薇のアーチの下から、ファンさんとドナさんが入って来た。
 
薄い水色のドレスが似合っているドナさん。
 
ファンさんはドナさんを見上げ、嬉しそうに微笑んでいる。
 
「さて、これで皆が揃いました。結婚式恒例のブーケトスを行います。ささっ花嫁このステージに来てください。」
 
ドナさんは、モデルみたいに綺麗に歩き、ブンブンブーケを振り回す。
 
「シングル女性おいでーーー!!。」
 
先輩の目がギラッと輝く。
 
「アンタ達行くわよ!!」私の手を引き、ガンヒョンの手を持ったが「私は遠慮しておきます」ガンヒョンは断った。
 
「じゃあ、ちゃんと此処に居てね。チェギョン行くわよ」先輩、鼻息が荒いです。
 
7人の女性が並ぶと「ガンヒョン出ないの?」ギョン君の声が聞えた。
 
「じゃあ、俺ガンヒョンの代わりに出ます!」7人の女性の中に身長の大きなギョン君が並ぶ。
 
「ずるい!」先輩の声
 
「だって、俺も早く結婚したいものーー。」デレーと笑う。
 
「まー―っ、私達なんかカップルで出ているからねー。許そうか。」ヒョリンさんとアメリアさんが手を繋ぎながら笑う。
ドナさんが後ろを向き、えいっ!とブーケが上に上がり、ゆっくりと落ちてくる。

えっ!私のとこに来たー!無意識に手を差し伸べ取ろうとしたら。

ブーケが急にいなくなった。

「ヨッシャー!」ギュン君の手にドナさんのドレスに合わせた水色の花で作られたブーケがあった。

「ガンヒョンー!ブーケ取ったよ!」子供のように、ガンヒョンの元に走って行った。

残った女子の目が、能天気なギョン君に向けて、ギラギラ光っていた。

「まーっまーっ、先輩落ち着いて。」

「本当はチェギョンのとこに行ったのに。」

「まー、まー。まだ早いってことで。」自分達の場所に戻ると、ブーケを持って照れくさそうにしているガンヒョンがいた。
 
「ガンヒョン,可愛い。」何時もはイケ女なのに、頬を冷めて、ブーケを持て余していた。
 
「からかわないでよ。あっ、これ元々チェギョンのとこに行ったやつなんだからアイツが横取りしちゃって、ごめんね。」差し出されたブーケ。
 
「えっ?いいよー。それはギョン君が頑張って取ったものだから、ガンヒョンのモノなの!!ほらっギョン君を見てよ。すっごく嬉しそう。」
 
司会席に戻ろうとしているギョン君は、デレデレ―と顔に締まりがない。
 
三人で苦笑い。
 
「だーかーらー、これはガンヒョンの!!」グイッとブーケをガンヒョンに押し付ける。
 
「仕方ない、貰うわよ。」頬が赤いまま、大事そうに握り締めた。
 
ブーケか、貰ったらどうしてたんだろう。
 
結婚か。
 
シン君の姿を探し出し、ジーーっとただ見ていた。
 
 
 
 
 
 
 
ブーケをとって幸せそうなギョン君が司会に戻り、ファンさんとドナさんの小さい時からの写真が並び始めた。
 
ギョン君の面白いトークは皆を笑わせ、次々と写真は変わっていく。
 
そして、最近撮った写真になる。
 
「あっ、ドナさんのパン屋さんの写真。」
 
「ドナは、ファンを韓国に残してずーっと音信不通でしたが、ようやく韓国に帰ってきてパン屋を始め、ずーっと待たせていた婚約者のファンと結婚する事ができました。」
 
パン屋さんで仕事をしているドナさんの写真と、ホテルのフロント係のファンさんの写真が並ぶ。
 
午後5時から始まった結婚式。
 
陽も段々暮れ、海に面したこの場所は青い色からオレンジ色に変わっていく。

ホテルの従業員さん達が、テーブルの上のキャンドルを灯し始めていく。

今日はあまり風が吹いていなかったので、キャンドルの炎はユラユラと優しく揺れる。

綺麗。
 
そして、結婚式が始まる前にカップル事に選ばせたハートのアロマキャンドルを渡される。
 
火が灯り、私の好きな香りが漂ってくる。
 
カップル事にキャンドルが渡され、皆お互いを見つめ合い、寄り添う。
 
パートナーのいない、私とガンヒョン、先輩は御互いのキャンドルの香を楽しみ笑い合う。
 
「では皆さんキャンドルが渡りましたよね。
 
今日の式はパートナー同伴って事で、まだシングルの人達はファンとドナのような幸せな結婚を出来る様に、又結婚しているお方々は益々幸せな結婚生活を営んでくださいと言う、細やかなプレゼントです。
 
結婚式が始まる前までに、男子と女子は別れて頂き別々の事をして頂きました。
 
女子はエステ三昧。どうです?キャンドルの灯りとエステで輝いた肌は見違える程綺麗になり。
 
男子はここの会場と料理を全てやりました。褒めてやってください。」
 
ギョン君の言葉を聞いている時に、私たちの後ろから突然曲が鳴り始める。
 
皆慌てて後ろを振り向くと
 
黒のチェロを持ったシン君と、白のチェロを持ったイン君が弓を持ち弾いていた。
 
「!!」荒々しい弓と指は、息を合わせ音を奏でていく

「凄い!」みんなの声が聞こえる。
 
ブワッと鳥肌が体中を駆け巡る。
 
何て、カッコいいんだ!!
 
私はハートのキャンドルを持って居る事も忘れ、二人の演奏に見入っていた。

二人顔を合わせながら、リズムを取り時々笑い合う。

シン君の隠れた才能を知り、私の心臓の早さが半端ない。

指は激しく、優しく弦を押さえ、いろいろな音を奏でていく。

思い出してしまう。

私の中を自由自在に動き回るシン君の指は、チェロを弾いている時と同じ。

私の頬がだんだん赤くなっていく。

すると、急に曲調が変わった。

緩やかな曲は全く別なのに変わったのが分かる。

「うん?この曲知ってる。」

メロディが分かった途端、新郎がチェロのトコに移動して歌い始める。
 
「ファン君、凄い。」

男性なのにこの高い音域は何だろう。

時々聞く曲なのに、何か別の曲みたいな感じ。

司会をしていたギョン君も低いパートで参加する。

なに、これ凄いんですけど!

ここに居る皆んなが、四人に見惚れている。
 
ファン君が歌いながらドナさんのとこに歩いて行き、キャンドルを受け取り、見つめ合い笑い合う。
 
ドナさんの手を引きながら自分達のコテージを目指し歩き出した。
 
今日の主役たちが暗闇に消えていく。
 
2人のチェロの演奏をバックにギョン君は語りだす「さーっ、皆さん新婚さんはこれから忙しいみたいで、退場しました。
 
男子達は今日慣れない事をして疲れ切っております、女子の甘――い癒しが欲しいみたいですよ。
 
どうぞ、ごゆっくりとお休みください。」各自のカップル達は見つめ笑い合い、ハートのキャンドルを照らしながら自分達のコテージを目指す。
 
最期のカップルがこの会場からいなくなった時、チェロの演奏が止む。
 
シン君とイン君が顔を合わせ、ホッとした顔をしていた。
 
残った男女6人。
 
「終わったな。」シン君の言葉に、皆頷く。
 
「無事に終わって本当に良かったーー。」ギョン君がガンヒョンに近寄る
 
「ガンヒョン、ゴメン。具合悪いのに傍にいてあげれなくて。」申し訳なさそうな顔。
 
「大丈夫よ。今日カッコ良かったから許す。」最後の方は小さな声。
 
「もう終わったから、行こう。」ガンヒョンが持っていたハートのキャンドルを持ち、ゆっくりと一緒に歩き始めた。
 
 
「見直しちゃった。チェロ弾けるんだー。」先輩がイン君に話しかけている。
 
「高校の文化祭の余興で覚えたんだよな。2人共ピアノは出来るが、それじゃあ面白くないって事で、チェロ覚えたんだ。」シン君とイン君は笑う。
 
「もう疲れた、何時ものしてくれ。」ニコ―っと笑う。
 
「何時ものね。了解ーー。」イン君がチェロを片付け終わり、先輩と二人腕を絡めて暗闇に溶け込んでいった。
 
 
 
残されたシン君と私。
 
「キャンドルの香、良い香りだな。」クンクンと嗅ぐ。
 
「シン君、チェロ弾いている姿カッコ良かったです・・ううん凄かったです。」
 
「そっかー?」セットしていた髪の毛が所々乱れて色っぽい。
 
「はい、又好きになってしまいました。」まだまだ余韻が残っている。
 
「腕パンパンだ。それに指も、嫌、指は何時も同じ動きしてるから、大丈夫だ!」ニヤッと笑うシン君。
 
「ホテルの人達に任せてもう行くか。」シン君の手に引かれて、私達の部屋キティちゃんに向かって歩き出した。