フッと目覚めた。
ボーーっと天井を見ていると、隣から規則正しい息が聞こえる。
私は少しだけ、体を起こしてシン君を覗き込む。
セットをしていないサラサラした髪の毛が、カレの端正な顔に似合う。
仕事用の髪型も好きだけど、自然の髪型も好きなんだよねー。
何時もならちょっとだけ動けば直ぐにカレも目が覚めるのに、今日は目覚めない。
ツン、ツン指で頬を押してみたが、全く起きず。
珍しい。
ジーーっとカレの顔を見れる幸せ,だってカレとの身長差があり過ぎて、こんな間近で見れるチャンスは朝のベットとバスルームしかない。
だから、ちょっとだけ伸びているヒゲにも触ってみる。
チクチクする。
カレが起きないように、ゆっくりと指で感触を楽しんでいると
「何時まで遊んでいる。」目を瞑りながら、口が動き出した。
「あっ!」言葉が終わりきらない内に、私はカレの腕に引っ張られて、体の上に乗せられた。
目を開き、私の髪の毛を後ろに流しながら「チェギョン、おはよう。」頬を両手で挟み伝える言葉。
もう何度も交わされているのに、照れる私は「おはようございます。」小さい声で言う。
カレの腕はギュッと私を抱きしめる。
自然と私の顔は、カレの首元に辿り着き、カレの香りをいっぱい吸い込む。
「ゆっくりとお前の事味わえるのは、土曜日と日曜日しかない、らオレにとって特別な曜日だ。」
カレの体は起き上がり、上に乗っていた私も一緒に起き上がる体勢になる。
「やっぱ、精根尽きた次の日は1回しか出来なかったな。で、今もオレのは元気なし。」ニヤニヤ笑いながら私を見る。
「もーー、そんなの言葉にしないでくださいーー。」一瞬に昨日の夜の事を思い出し、真っ赤になる。
「でも、お前が望むならいかせてあげることは出来るぞ。」ニヤーっと笑う顔は、般若の微笑み。
「いーーです。私一人だけなんて、嫌です。ちゃんとシン君と一緒にじゃないと。」最後の言葉が終わらない内に、私はギューーっと抱きしめられる。
「シン君?」
「ちょっとだけ」私の髪の毛を撫でながら、私の肩に顔を乗せた。
午前中の内に、部屋の掃除や洗濯を大忙しで済まし、二人で又パン屋さんに行こうとオシャレな通りを歩いていた。
「今日は残っていればいいな。」私の手はシン君に繋がれて、パン屋さんまで歩いて行く。
「そうですね。昨日あの後、アン・ドナさんが明日昼過ぎに来て頂戴って言ってたから。」
アン・ドナさん。
シン君達の同級生の女性。
180cmのスラーっとした、アジアンビューティーなお方。
カメラマンになる為に、パリへ渡ったのに、なぜかバケットの美味しいパン屋さんになって帰ってきた女性。
それも、パリのバケット大会では、優勝したと言う腕前。
ファンさんとは幼馴染で婚約者なのに、ファンさんに連絡もずーーーっと取っていなくて、シン君は咄嗟に逃げられないように、手を繋いだらしい。
昨日、シン君からの情報
ファンさんの彼女さんと言う事で、興味深々な私。
シン君のお友達さんで、ホテルのロビー担当なお方で、あまり会う機会がないが、シン君とのお初の時に手続きで会いましたね。(照)
二人で手を繋ぎ歩いていると、お目当てのパン屋さんの看板が見えてきた。
「シン君見えてきましたーー。」嬉しくて、シン君の手から離れてしまいそうになったが、私はギュッと握り返した。
「もう、離しません。」見上げて笑う。
「そっか。」優しく、そして少し照れて笑うシン君に、私は見惚れてしまう。
店に辿り着き、扉を開けたら、昨日と同じにパンの焼けるニオイが私達の体を包み込む。
クンクンと鼻を動かし「美味しそうなニオイです。」
「あっ、いらっしゃーーい。」ファンさんがエプロンを掛けて、ニコニコ笑いながらパンを並べていた。
「オイ、お前ーー、ドナにもう使われているのか?」呆れ顔のシン君。
「僕が手伝うって言ったんだ。ドナが無理やりじゃないからね。」
「ファンさん、こんにちはー。パン買いに来ましたーー。」
そこに、奥の部屋からドナさんがパンをいっぱい持ってやってきた。
「よっようやく来たね。良いタイミングだ。パンいっぱい焼けたよ。」彼女が差し出してくれたディニッシュからは、ダークチェリーの甘酸っぱさと、カスタードクリーム。バターの香りが溢れ出している。
「わーーー、美味しそうです。シン君これも買ってもいいですか?」ダークチェリーデ二ッシュを指差し笑う。
「目がハートの形になっているぞ。」
「アハハ八、シンの彼女は、素直だな。あっ、そうだ。チェギョンちゃんだったけ?」
「ハイ。シン・チェギョンと言います。」
「昨日は凄いの見せられて、チェギョンちゃんの顔、よく見てなかった。どれどれ、オネーさんに見せてごらん。あーーっやっぱ可愛いねー。
食べちゃいたい位、可愛いーー。」ニヤニヤ笑う。
「アン・ドナ!」シン君の冷たい声が響く。
「なんだよーー、最後は冗談だって。
シンは相変わらず、おっかなーー。そうだ、チェギョンちゃんに渡したい物があるんだ。こっちにおいで。」パンがいっぱい乗ったトレイをファンさんに渡して
「ファンとシンとで、店番頼むよ。」シン君と手を繋いでいたのを、引っ張られて、奥の部屋に連れられて行った。
「ほらっ、これ昨日探しておいた。」
アン・ドナさんが渡してくれたのは、学生服を着た。
「シン君ですか!?」
「そっ。学校の王様だった頃のシン。」
「わあ。」
写真のシン君は、今より髪の毛が少し長くて、今より若かった。そっかー、10歳違うんだ。
今のシン君も細いが、やはり少年の細さとは違う。
「なんかオーラ出まくりですね。」高校生のシン君に、又惚れちゃいそうな私。
「凄いよなー、高校生でこのインパクトだよ。もうーーー、学校中の女がシンに惚れてるんじゃないかって位凄かった。
同じ科だった私は、こっそり隠れて撮った写真を女子達に売って、パリへの資金貯めてたんだ。
3年間で、余裕でパリ行きのお金貯めちゃったよ。
アイツのお陰で、パリに行けた。」ガハハハと笑う、綺麗なアン・ドナさん。
「昨日、簡単に聞いたけど、シンには婚約者がいたんだ。
同じ高校のミン・ヒョリン。
たまに並んでいる所を見たけど、お似合いな二人だった。
チェギョンちゃんも聞いてるよな?」
コクンっと頷く。
「でも、今はチェギョンちゃんが彼女だろう?シンの初恋なんだってな。
そう言えば、アイツ良く言ってた。
恋なんかしない。どうせ、結婚相手はミン・ヒョリンなんだ、本気な恋はしないって。
二人はお似合いだったけど気持ちは、シンにはなかったな。」
私は高校生のシン君を胸に抱きしめて、ドナさんの話を聞く。
「昨日、何年振りにシンに会ったけど、人生を冷めて生きてたヤツが恋している。
そんなシンを見たのは初めてで
人を寄せ付けないオーラを身に纏っていた学校の王様は、10年後に可愛い女の子に恋に堕ちた。
心配してたんだ。シンには人間の血が流れているのかって。
シンの友達としては、こんな嬉しい事ないよ。」
胸元にあるシン君の写真を又見ていると、なぜか涙が出てきた。
「チェギョンちゃんって、可愛いねー。シンが惚れる訳だ。」ポンポン頭を撫でられる。
「シンを幸せにしておくれ。」優しく笑うシン君の同級生さん。
「はい。」涙声の私はようやく返事をした。
涙を拭きながら、店頭に二人で戻ったら、お客さん達に囲まれて、モテまくっているシン君が見えた。
「相変わらずモテまくってんなー。」オバさんから高校生位の女子、5・6人に囲まれても平然としているシン君。
「オヤッ?おこぼれでファンにも女がついてる。」笑いながらドナさんの眉毛と口元が引きつった。
女子への対応が慣れていないせいなのか、ファンさんは焦りまくっていた。
「全くーーー。」ドナさんは、ファンさんを助けてあげようと、口を開いた。
「お客様、商品のことで判らない事があれば、私にお聞きください。
この男は、私の婚約者で今日は手伝いに来ただけですので。」ニッコリと営業スマイルが光る。
「エーーー、婚約者さんなんですかーー!?」女の子がビックリしている。
「そうなんです。2週間後に教会で式をあげます。もし良ければご参加なさって下さい。」グイっとファンさんを引き寄せて、もっと笑う。
「!!!」結婚の言葉を聞いて私はビックリした。
ドナさんとファンさんは私の傍に来て「ビックリした?僕はドナが僕の元に帰ってくるのを何年も待っていた。」頬を真っ赤に染めて幸せそうに話すファンさん。
「おめでとうございます。」パチパチと手を叩いた。
「チェギョンちゃん、シンの事良いの?」女子に囲まれているシン君を指差す。
「だっていつもの事で、私が傍にいても無視されて、猛アタックされるんです。」
「それはきっと、チェギョンちゃんがはっきりと言わないからだよ。私の彼氏です!って大きな声で言ってごらん。直ぐに女達いなくなるよ。」
「・・・・・。」本当は凄く嫌だ。
ドナさんを見上げて頷いた。
右足に力を込めて、女子に囲まれているシン君の元に行った。
そして、グイっとシン君の腕を引っ張って「この人は私の大事な彼氏なんです!」真っ赤になって大きな声で「だから、シン君から離れて下さい!」叫んだ。
急に大きな声で叫んだ私のせいで、皆固まった。
言っちゃった。
とうとう言っちゃった。
いつも我慢していたが、言ってスッキリした。
真っ赤な顔でシン君を見上げると、凄く嬉しそうなシン君がいた。
「チェギョン、ようやく言ってくれたな。女子に囲まれても何も言わないお前に、何時も不安だった。」
ギュッと抱きしめられて、その後カレの顔が近づいてきた。
「シンーーーー!又するのかーーー!皆さんの前では、あーーっぁやっちゃったよ。」
「全く、シンのヤツ。あんなに人がいるのに堂々とディープだよ。王様はやる事が半端ないね。」ドナさんの呆れた声が聞こえる。
皆に騒がれても、シン君のキスはしばらく続いた。
「そっかーっ。結婚決めたのか。おめでとうって言う事は。ファン、チェリーご卒業だな。」
店の扉には、CLOSEの札を出して、私達4人は話し合う。
「結婚が決まるまでは絶対にしないって、昔っから言ってたもんな。」ファンさんの背中をバン!!と叩いた。
「シン、痛いじゃないかーー!!」それでも、ファンさんはニヤニヤと嬉しそうだ。
「シン、2週間後だから、結婚式には来てくれよ。あッチェギョンちゃんも一緒にな。」色んなパンを物色してドナさんは言う。
「絶対に行くから。安心しろって、二人にはオレから言っておく。
仲間内から、結婚するのが出たかーー、もうオレ達も30近いからな。
ギョンもインも、結婚考え始めるんだろうな。」笑いながら言うシン君。
ドナさんから、美味しそうなバケットとダークチェリーディニッシュとクロワッサンを包んで貰い、私はシン君の手を握る。
「シンとチェギョンちゃんは、まだしないのか?」ドナさんは普通に聞いてきた、
「結婚。シン君と結婚。」ボンっと赤くなる。
「チェギョンは働いてまだ1年しか経ってないからな。まだまだ自由にさせておきたい。」ギュッとシン君に握り返された。
「って言いながら、シンはチェギョンちゃんの事、離さないんだ。」
「シンは王様だからな。」ドナさんは、ニヤニヤ笑う。
「いい加減その言い方止めろ。」キッとシン君に般若の睨みで睨まれたドナさんは、動じない。
高校の時のような3人の馴れ合いに、ちょっとだけ寂しかった。