「好きで、好きで、好き過ぎて。どうしようもないほど惚れてる。」

 
一言一言を、ゆっくりと噛み締めて言うシン君の姿を見て、私の目からは涙が溢れていた。
 
私は目の前の最上級のオトコに、愛されている。
 
毎日、愛されているのは、鈍感な私でも判っていた。
 
毎晩、耳元で囁かれる言葉は、私の体中に染み渡る。
 
シン君の愛に答えたくて、一緒懸命やるがいまいちでじれったい。
 
私だって、シン君の事が好きだって伝えたい。
 
カレの差し出した力強くて安心出来る大きな手を、握り締めた時から最初の頃の戸惑い、恐れ、不信感はもうどっかに行ってしまった。
 
「イ・ジイさん、幼馴染が迎えに来るのを夢見ていたチェギョンを、オレは無理矢理自分の元に引き寄せた。
 
オレを好きになってくれって。自分の想いを叶えたくて。
 
だから、チェギョンは悪くない。チェギョンの事は、責めないで欲しい。
 
経理部の皆には黙っていた事は、オレがチェギョンに口止めした事だから。
 
全て、オレのせいだ。部署を変われというなら、変わる。でも、チェギョンとは、絶対に別れない。」
 
「シン君!そんなーーっ、まるでシン君が悪いみたいじゃないですかーー!」おねーさんに支えてもらっていた私は、大きな声を出す。
 
「チェギョンちゃん、ろれつがまだ。」
 
「そんな事ない、シン君は悪くないです。先輩達に内緒にしていたのは、悪いなーと思ってましたが、私だってシン君の事が大好きなんです。
 
だから、先輩にも判って欲しくて。」ボロボロ泣きながら、先輩の元へ立って行こうとしたけど、お酒で腰がまだ抜けている。
 
もどかしい。
 
「ちゃんと、シン君との事、先輩に言いたいのに。」ろれつが上手く言葉が出て来ない。
 
 出てくるのは涙ばかり、泣き声が段々高くなっていく。
 
「チェギョン子供じゃないんだから。」ガンヒョンが私の背中を摩る。
 
「だって、だって大好きだって事、先輩に。」もう涙でグチャグチャ。
 
「チェギョン、もうお前は言わなくてもいいから。」立っていたシン君は、膝を付き私の体をギュッと抱きしめた。
 
強く強く抱きしめられる体は、悲鳴を上げてしまいそうな位に、痛かったが。
 
シン君の気持ちが分かる。
 
「チェギョンと付き合う為に、何度も彼女を泣かせ何度もオレの元を去っていった。もうそんな想いはしたくない。」シン君の声が掠れ始めた。
 
「シン君、皆の前で泣かないで下さい。シン君の涙は私だけ見るんです。」私の腕もシン君をギューーッと抱きしめる。
 
部屋に響く私の嗚咽。
 
ヒックヒック・・・、子供みたいだって言われても良い。
 
「イ・ジイさん?で良いのかしら?」おねーさんの声が響く。
 
「私の弟、会社では完璧な男を演じているみたいだけど、ただの普通の男だから。自分の好きな女に何度も振られて、ようやく付き合えるようになったのよ。

ちょっと前までのコイツ知ってる?女を遊ぶ道具としか見てなくて、ほんと普通な男じゃなくて、最低な男だったわ。

何度注意しても、女なんか捨てても次のは直ぐに寄ってくるから。冷めた目は私の事を見てくれなかった。
 
そんな最低男が、去年から変わったのよ。男が女でこうも変わるとは、ビックリ。」
 
「室長とは、入社が同期でした。入社の時から、カッコ良くて仕事も出来て皆から告白されない日はないという位に、モテまくっていました。
 
そういう自分も、告白したんですが。
 
「オレには婚約者がいるし、会社の女には手を出さない主義なんだ。」玉砕しました。
 
外の噂では、婚約者がいても随分遊んでいるという話でしたが、同じ部署なので見ているだけで満足でした。
 
同期のイ・シンさんは室長になり、いろんな新人を育て上げてきましたが。
 
去年入社したシン・チェギョンへの指導が異常に厳しかったんです。
 
何度も怒り、泣かせ、そんな室長を、見た事がなくて。
 
でもチェギョンは何度も室長に泣かされても、頑張って仕事を覚えていきました。
 
本当にカワイイですこの子。
 
この容姿なので、男受けするのに。女受けもするんです。
 
何事にも一生懸命な子。こんな純粋な子、最近見た事がありません。
 
経理部の女子の間でも、可愛がられていて、大事な大事な後輩なんです。
 
だから、付き合ってるって言われて、ビックリしました。
 
ゴホンっ、失礼します。 女に対する態度が悪い室長に、チェギョンは騙されてるって。
 
でも、室長の気持ち、本気の気持ち聞いた今では反対する気はありません。
 
尊敬する室長と、可愛い後輩二人とも大好きなんです。
 
会社の人達には内緒にしておきます。
 
だから、チェギョンもう泣かないで。何で泣いてるの?笑ってよ。アンタは笑顔が一番カワイイから。
 
室長は絶対に泣かないで下さい。私の室長のイメージが崩れちゃいますから。」先輩は笑ってちょっとだけ涙が出ていた。
 
「ふふふっ、やっぱり貴方良い人だったわね。今度来たら、カウンター席に来て、デザート作ってあげる。」
 
「えっ?良い人ですか?普通ですよ。でも、カウンター席に良いんですか!?」先輩の目が光りだす。
 
「貴方の事気に入ったから、何時でも来て頂戴。」
 
「マジですか?嬉しいです。」
 
 
 
 
 
 
 
駆けてくる足音と共に誰かが入って来た。
 
「シン!助けに来たぞ!」ギョン君とインさんが立っていた。
 
「ギョン、イン!!どうしたの?アンタ達。」おねーさんがビックリしている。
 
「えっ?ガンヒョンが助けてくれってLINEが着たから。シンを助けてやれって。」
 
「先輩、ごめんなさい。先輩がこの二人を反対するのなら、社長の権力使って。」ガンヒョンが、先輩に頭を下げる。
 
「ガンヒョン、アンタ私を随分見くびってくれるわねー。可愛い後輩を任せられる男になった室長に、反対する理由はないです」背中をビシッと叩いた。
 
「えっ?何解決したのか?」インさんが拍子抜けした顔で呟いた。
 
「大丈夫よ。大袈裟にしちゃったわね。」
 
「イ・ジイさん。」私を抱きしめたまま見上げる
 
「もうーー、室長!そんな顔しないで下さい。私服でそんな髪型の室長、スーツの時とのギャップが有り過ぎて、無駄にカッコ良さが溢れてます。又惚れちゃうじゃないですかーー。」先輩の目がハートになった。
 
「先輩、駄目です、シン君は駄目です。」ギュッと離さない。
 
「おいアヒル。お前ろれつ回ってないぞ。」
 
「チェギョンちゃん、酔っ払ってそれも又可愛いね。」インさんが冗談を言ってるのに。
 
「アヒル顔真っ赤で、ブッサイクだなーっ。」ギョン君がマジマジと真顔で言った。
 
「そんな。」言い返そうとしたのに、立ち上がったシン君に一瞬で脇腹を凹られていた。
 
「オレのチェギョンに酷い事を言ったからだ。」
 
「ガンヒョーーン。シンにやられたーーっ。」ガンヒョンに縋ろうとしたのに「当然でしょっ。」
 
蹲っているギョン君の悲壮感たっぷりな声は、この部屋に響いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
腰の抜けているチェギョンを抱き上げ、車に乗せた。
 
チェギョンは、安心したせいか眠ってしまった。
 
皆は、もう1度ねーさんとこで、酒を飲むと言う。
 
見送りに来ていたイ・ジイさん。
 
「室長、本当にチェギョンを泣かさないで下さいね。」
 
「大丈夫だ。」
 
「それにしても、すっごい噂ばっかだった室長が初めて好きになったとは、意外でした。」クスッと笑われた。
 
「オレも女をこんなに好きになるなんて思ってもいなかった。」
 
「鉄壁なポリシーで会社の女を撥ね退けていた室長が、自分のものすごーく高い壁を壊してでも付き合いたいと願ったチェギョンッて凄い子って思ってましたが、ここまで社内NO1の室長を骨抜きにしちゃうって。」笑う
 
「去年の入社式の時から骨抜き状態だ。」
 
「チェギョンが最近ますます可愛くなって、きっと良い恋してると思ってました。経理部の一番可愛い後輩なんです。大事にしてやってください。」頭を下げて店の中に入っていった。
 
 
 
 
 
 
家に着き、寝ている彼女をベットに降ろした。
 
クーックーーッと寝る彼女。
 
さて、これからどうするか。
 
お出かけ用の化粧をしたまま寝ている彼女。
 
見下ろしてブラウスの首元から覗く指輪が二つ
 
おばあさまから貰った大事な指輪は、今日も彼女の首元に下がっている幸せ。
 
良かった。
 
彼女の首元から、この指輪が消えるという恐怖は今日もなかった。
 
まったくオレもまだまだちいさいなー。
 
オレは洗面所に行って、彼女のものを取ってきた。
 
シーンとした部屋に、オレの歩く音が響く。
 
彼女が寝ているベットに腰を掛けてた。
 
ギシッ。
 
ゆっくり沈むベットのスプリングは、静かな部屋に響く。
 
起こしたか?
 
覗き込んでも、起きる気配はない。
 
手に持った化粧を落とすティッシュ箱から、一枚出した。
 
口をちょっぴり開いて寝ている彼女は、可愛い。
 
何時もよりちょっと濃いメイクは彼女の可愛さを倍増させるが、ゆっくりと彼女の肌にティッシュを置き滑らせていく。
 
なるだけ起こさないように、イ・ジイに自分の想いを堂々と言ってくれた彼女に感謝する。
 
拭き終わり、素顔の彼女をベットサイドのライトの灯りで、ジーッと見る。
 
酔って頬や鼻が赤くなっている彼女。
 
可愛い、もうその言葉しか出ない。
 
安心しきって寝ている彼女に、こっちも温かい気持ちになる。
 
静かに彼女の体に、自分の体を覆う。
 
ゆっくりと降りていくオレの顔は、彼女の顔に辿り着く。
 
チュッ。ゆっくり重なる唇。
 
柔らかい唇はもっと味わいたいが、今日は止めとくか。
 
体を起こしてこの部屋を出た。
 
彼女への想いを皆の前で、それもねーさんの前で堂々と言った
 
ちょっとばかりオレだって、興奮気味だ。
 
眠れない、明日は休みなので、観ていなかった映画を一人で見てみるか。
 
 
 
 
 
 
 
 
「おはようございます」
 
フッと目を覚ますと、目の前にチェギョンの顔があった。
 
目の周りがまだ赤い、それでもニッコリと笑ってくれる。
 
「おはよ。」
 
「昨日は、あんなことがあって、途中の記憶があまりないんですよ。気がついたら、何時ものシン君のベットの上でビックリしました。」
 
記憶がない?って、オレもビックリだ。
 
「どこまで覚えている?」
 
「えーーーっと。ちょっと待ってください。先輩に叫んでた辺りからですか?」テヘッと笑う。
 
オレの目が彼女を見入ったまま止まる。
 
シーーんと静まる。
 
「シン君?」
 
「うん?あっ、イや、お前らしいな。」彼女の目元に指を当て撫でる。
 
「まだ赤い。」泣き続けた彼女の目元は腫れぼったく赤く染まっている。
 
「私、いっぱい泣いてました?」
 
「ああ。」
 
「みんなの前で恥ずかしいです。」くしゃっと苦笑いをする。
 
ちょっとの間、オレに髪の毛を撫でられて、フニャッとしている。
 
「でも、先輩の前でしっかりと自分の気持ちを言ってたシン君かっこよかったです。」
 
「自分の気持ちが言えて良かった。チェギョンはオレの彼女だって、やっぱ誰かに堂々と言いたかった。」
 
「私も。いっぱい愛します。」お互いの目が合う。
 
「オレの愛には、勝てない。」ツーーーンと言う。
 
「そんなことないです!確かに好きになったのは遅いけど、もうとんでもないくらいに。」
 
「とんでもないくらいにどうなんだ?」
 
「シン君の愛に負けてないって位、愛してあげます。」
 
「愛してあげるってどんな風に。」ちょっとばかりからかうように言う。
 
急に彼女がブツブツ考え事を始め悩んでいた。
 
「おい。愛はまだか?」余裕なオレ
 
ウンウン頷き始めた彼女は、ジーーっとオレを見る
 
「シン君はただ黙っていてくださいね。」はにかむ彼女。
 
ああまったくいつも可愛い顔。
 
この顔を独り占めできるオレッて世界一幸せだ。
 
彼女の顔が近づき、オレにキスをする。
 
ゆっくりと絡まるキスは、寝起きの体にちょうど良い。
 
彼女はオレがたっぷりと愛を教えているので、それなりに基本は出来たが。
 
まだまだ慣れないとこもあるが、それもじれったくて乙だ。
 
チュッと言う音と共に彼女の顔が離れ、そして掛け布団の中に中に入っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
月曜日。
 
会社の駐車場に、珍しくギョン・インに出会う。
 
「珍しいな、3人が会うなんて。」3人とも背が高いので、人目で分かった。
 
最初何も言わずに、3人で歩いていたが。
 
ギョンが立ち止まり「なーーーっ。俺この間凄い事して貰った。」頬を染め、モジモジと言う。
 
ジロッとギョンを見る。
 
「して貰って、あんなにキモチいいのは初めてで。」照れまくっている。
 
「何?お前もか!?」インもボソッと言う。
 
「・・・。」知らない振りをしようとしたが。
 
「イ・ジイさんが言ってたぞ。女子会に来ていた皆に伝授したって。」ニヤーーーっと笑うイン。
 
仕方ない「あれは凄いな。」ポケットに手を入れ思い出す。
 
「そうだよな。俺あんなに声出したの初めてで。女になったみたいだった。」ギョンが嬉しそうに言う。
 
「そうそう参ったな、俺達は彼女達にあんなの味合わせていたんだな。」インもしみじみと言う。
 
「オイ。さりげなく言ってるようだけど、お前イ・ジイをお持ち帰りしたんだな。」オレはインに突っ込みをする。
 
「当たり前だろう?お持ち帰りしないと。で、最高のを味わせてもらった。」
 
「全く女には慣れているはずが、まだまだ奥が深いな。」
 
3人で、女子の奥深さを改めて語り合いながら、エレベーターに乗った。
 
 
 
 
 
 
 
経理部の席に着き、パソコンを開いていると。
 
 
イ・ジイが出社してきた。
 
「室長、おはようございます。」何時も通りの彼女。
 
「イ・ジイさん、ちょっと。」オレは彼女を呼ぶ。
 
「はい。」スタスタと歩いてくる。
 
「室長なんでしょう?」
 
「・・・。」ちょっと話しずらいぞ。
 
「室長、いっぱい愛して貰いましたか?」ボソッと小さな声で言う
 
「!!」
 
「あれは、行為が苦手な私が考えた技なんですよ。
 
女子会に来ていた皆に伝授しました。」笑顔が怖い。
 
「凄いな。」
 
「ふふふっ。会社の女子も侮れないでしょ?」
 
「そうだな。」
 
「あの子、悩んでいました。大好きな彼をいっぱい愛してあげたいのに、上手く出来ないって。
 
真剣に悩んでいて思わず私の技を教えてあげて。まさかその相手がこんなに近くにいるとは思ってなかったもので。
 
でも、真っ赤になり頑張ってみますって。って可愛い顔されたら、教えてよかったなーと。じゃあもう席に行きますね。」
 
イ・ジイが席に戻ると、チェギョンが出社してきた。
 
つい、ちょっと前まで一緒だったのにこの距離感が寂しい。
 
土曜・日曜と遠出もせずに、オレをいっぱい愛してくれた彼女。
 
何度もイッテしまうオレは、ますます彼女を愛し続けた
 
チェギョンの傍にムン・ジェウォンが寄り、チェギョンをからかう。
 
くっそーーー。オレの女だぞ!!ジロッと睨みつけていると、ヤツと目が合った。
 
ジーーっとオレと目が合ったままお互いアクションを起こさず。
 
そろそろ、コイツにも言わないと。
 
始業ベルが鳴るまでの間、二人は睨み合っていた。