私達は極力仕事以外では、話しないようにしている。

まっ、付き合う前も話を中々した事がなかったが。

今日の会議に使う資料をプリントアウトした。

室長はっと。確認して貰う為に、目が探す。

ちょうど立ち上がり、経理部から出て行こうとしていた。

「室長ー。」私は慌てて後を追った。

追いつき「すみません、呼び止めてしまって。今日の会議に使うやつです。チェックお願いします。」

「ああ。」室長は私から紙を受け取り、チェックし始める。

ジーっと見ている目は、家であまり見たことのない目。

皆にバレないように、チラッチラッとカレの顔を見上げる。

私だって、好きな人の顔見たいし。

「オイ。見すぎだ。」私にしか聞こえない声がボソッと聞こえる。

ビックリして、カレをガン見したが、目は資料を追っている。

私の目は行き処を失って、キョロキョロする。

「お前から、室長って言われると、片想いの気持ちに戻るな。」又小さい声がボソッと聞こえる。

フッと見上げると、カレの目と合う。お互いの目が離れたくないと叫び出そうとした時に

先輩が 「珍しい、室長とチェギョンが話するなんて。」大きな声は、この経理部に響く。

急に女子たちが一斉にこっちに目線を向ける。

「!!!(;゜∇゜)」ヤバ過ぎるー。

目立たないようにしていたのに。

「チェギョン、室長苦手を克服したの?」先輩は嬉しそうに言う。

「先輩!」私の声は慌てる。

「ようやく室長の良さが、子供のチェギョンにも分かってきた?」ニーっと笑う。

「!!!!」私の顔は真っ赤になる。

急に思い出す、夜のシン君。

経理部の室長ではなく、私の彼氏のシン君。

毎日あんなことや、色んなことをされて、子供じゃなくなった私。

小さな声で「何思い出してるんだ?」フッと笑う。

「チェギョンが室長のカッコ良さを判るのには、十年かかると思った。でも、あんたはカルティエの指輪をくれる彼氏がいるんだから、室長は駄目よ。」違う先輩が言う。

カレは私に資料の紙を渡し「皆、仕事片付いているのか?もう少ししたら昼休み時間だぞ。」室長の声で皆で慌てる。

紙を指差し「此処は、もう少し大きくしなさい。これだと小さくて分かり辛い。後、これ間違ってる。」カレのメガネが光る。

「あっ、すみません。時間までには直しておきます。」お辞儀をして自分の席に戻る。

パソコンの資料を開くと。

「なあ、チェギョン。」ムン・ジェウォンが私に話しかけてくる。

「何ですか?今これ直さないと。」

「俺、学生の頃からボランティアで障害者の施設を手伝っていて、口の動きで言葉が判るんだけど。」

「えっ?」私の手が止まる。

「その指輪の相手。」

急ぎの直しがあるのに、私の顔はムン・ジェウォンから離れられなかった。

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
昼休み時間私とガンヒョンは、食堂に向かう。

 

 

お弁当を持ってきたいところだが、なんせお互い朝まで家にいないもので。(汗)

 

着替えるので精一杯で、お弁当の時間なんかない。

 

毎日利用する食堂。

 

前にお世話になった調理のおねーさんと目が合い、手を振って挨拶をする。

 

ビビン麺の前を通ると、シン君のスーツにビビン麺をかけたことを思い出す。

 

 

あの頃のシン君の事が、すっごく嫌いで。(汗)

 

 
何時も般若って、言いまくっていたし、まさか付き合うなんて、思ってもいなかった。

 

「チェギョン、今日は何にする?」ガンヒョンが聞いてきた。

 

「うーーん。無難にビビンバかなー。」

 

「じゃあ、私はカルグクスだけにしよっと。」お互いの食べたい所に並び、出来上がるのを待った。

 

トレイに、ビビンバを乗せて、ガンヒョンの所に向かって、「どこに座る?」

 

二人でキョロキョロとしていると、空いている席があった。

 

そこを目指して歩いていると、その隣の席にシン君とインさんが座っていた。

 

背広をイスに掛け、ワイシャツ姿で食べている二人。

 

カッコイイ。

 

イスに座って食べているだけで、絵になるなんて。どこまでカッコいいんだろう。

 

頬が熱くなるのを感じる。

 

「何突っ立ってるの?行くよ。」ガンヒョンに押されて、空いた席に近づく。

 

近づいてくと、シン君と目が合う。

 

「あれ?チェギョンちゃんにガンヒョンさん。おいでそこに座って。」空いた席を指差す。

 

「はい。」素直に返事をして、テーブルにトレイを載せて、イスに座った。

 

「ビビンバか?」

 

「はい。」ポツリと交わした言葉。

 

インさんは、ガンヒョンとここにはいないギョン君の事を話して、笑いあっている。

 

 
私とガンヒョンは食べ初め、シン君達は食べ終わろうと。

 

「あっ。」シン君の呟きで、カレの方を見てしまった。

 

「どうしました?」

 

シン君もビビンバを食べていて、口元にコチュジャンがついたみたいだ。

 

 
シン君は指でコチュジャンを拭こうと、頬に指を当てた。

 

 
指は壁になりカレの行動は、私にだけ見えるように、口元から舌が出てきて、ゆっくりと動き始める。

 

「!!」慌てて周りを見たが、誰もこっちを見ていない。

 

シン君もそれを判っているようで、ニヤッと笑いながら舌先は動き回る。

 

まるであの時のように。

 

カッっと熱くなる。

 

もう、もーーっ。どうしろというのーー?

 

舌先の動きに目が離せなくなり、私の体は条件反射のようにモジモジし始める。

 

「うん?チェギョン?トイレに行きたいの?」

 

急にガンヒョンに声を掛けられ、私の体は跳ね上がる。

 

ドキッ

 

二人の目線がこっちを見たので、シン君の舌は口の中に戻っていく。

 

 

「あっ!!」

 

「なに?チェギョン。どうしたの?」

 

 
「えっ?嫌なんでもないよ。」もうもう,真っ赤になり俯いてしまった。

 

「じゃあ。もう行くから。キム・ガンヒョンさん、シン.・チェギョンさん、食べ過ぎないように。」からかう時のシン君の声。

 

カレは知ってる。

 

私は、ここを去ろうとしているカレを背中で感じる。

 

カレが傍にいるだけ、熱くなる体。

 

「ここが空いていて良かったね。室長とも話せたし、私はギョンの失敗談を聞けたし。」

 

そこにLINEの音。

 

慌てて見た画面には。

 

資料室にいる。

 

短い言葉で、カレが知っている事を知る。

 

「ガンヒョン、ごめん。」私は突然立ち上がり、食堂を飛び出した。

 

全速力で早歩きをして、一箇所を目指す。

 

ようやく辿り着いた経理部の資料室。

 

今は食事中なので、人はいない。

 

ゆっくりとドアを開き中に進んでいく。

 

奥の壁にもたれて立っているシン君。

 

薄暗い置くに居るため、カレのメガネだけが光る。

 

「早かったな。」

 

「ご飯食べてからでも。」カレの言葉を遮り、私はカレに抱きつき背伸びをした。

 

「シン君が悪いんですよ。あんなとこであんな事するから。」

 

「こぼれたコチュジャンを舐めただけだが?」ニヤっと意味深に笑う。

 

「私が、私が何時もシン君とキスしたいの、知ってるはずです。」ブッチューーーッとカレにキスをする。

 

優しいキスではなく、荒い荒いキス。

 

何度もカレの唇に重なる唇。

 

カレの顔を手で挟み、いっぱいのキスをする。

 

「お前だって、オレがお前とキスしたいの知っている筈だ。」重なる唇の間から、囁かれる言葉。

 

カレの腕に支えて貰いながら、キスは止まらない。

 

 
止まらないキスの後、どうなるのか判らないが。今は、ただ二人の唇は重なり合い続けた。