シン君から、注意された私は、名誉挽回の為に、昨日の資料を仕上げていた。

 
昨日の失敗したモノと今日のムン・ジェウォンの仕事のサポート。2重の仕事は、時間をロスする。
 
休み時間も休まずに、私の手は動く。
 
先輩や、ユン・ジェウォンが何度も休めって言うけど。
 
シン君がこの経理部から立ち去った後、私も成長したんです!!と胸を張りたい。
 
私の性格を知っているガンヒョンは、食堂からパンとカプチーノを買って来てくれた。
 
「頑張り屋さんのチェギョン、これでも食べなさい。」渡されたカプチーノはまだ、温かい。
 
「ガンヒョン、有難うー。」私は、パンにかぶり付き、カプチーノを飲んだ。
 
「こんな味だったけ?」とまずそうな顔をする。
 
「何時もこれ飲んでたでしょッ?」温かさを逃さないように、蓋が付いていたカプチーノ。
 
「うーん。シン君が淹れてくれるカプチーノの上手さを知ってしまったら、他のは飲めない。」パンを食べる。
 
「こらっ、誰が聞いてるのか判らないんだから。名前言わない。」小さい声でデコピンされた。
 
「イタッ。」オデコに手を当てて、エヘヘッと笑う。
 
「全く、本部長がいなくなってから一生懸命やっていたアンタなのに、なんで昨日の資料間違うかなー。」腕を組み私を見下ろす。
 
「ガンヒョン、室長に似てるから。」冷たい眼鏡を指差す。
 
「えっ?私?」
 
「そっ、メガネ掛けていて、美人で、仕事できて、スタイルが良くて男に人気が合って。ほらっそのまんま室長。」シン君を指差す。
 
指先には、机に座りパソコンを操っているシン君。周りにはこの経理部の女性が群がっていた。
 
色んな食べ物を持ち、食べてもらおうと、ギャーッギャーッとうるさい。
 
「オイオイ、仕事出来ないから。皆もう席に戻って。」優しく言うシン君。
 
ちょっとーっ、さっき私を怒っていた般若は何処に行ったの?余りの違いに、眉間に皺が寄る。
 
「えーーーー!!」言う声が飛び交う。
 
すると、カレは机の引き出しを開けて、何かを取り出した。
 
「あっ、それは。」私の目が見開く。
 
「何?どうしたの?」ガンヒョンが聞く。
 
カレの手元には、今日の朝珍しく早く起きてカレのキッチンを借りて作ったモノ。
 
カレの部屋から出て行こうとした時に「時間が会った時に、食べてみてください。」カバンから出して、カレに渡したサプライズキンパ弁当。
 
その時の、シン君の顔。凄くうれしそうだった。
 
キンパを摘まみながら、キーボードを打つカレ。
 
「アレ、アンタが作ったやつでしょ?」
 
「何で判る?」
 
「だって、あの断片に見える具材。シン家の特有の具材だもの。」にやっと笑うガンヒョンの笑み。
 
私は、温かい気持ちになりながら、パンを食べながらパソコンのキーボードを叩く。
 
午後には、何とか何時もの業務に戻った。
 
直した資料を見ながら眉間に皺が寄っているシン君。
 
「よし。」たったその言葉で、嬉しくなった。
 
そして、頭を下げ行こうとした時に、パソコンの資料の画面がなくなり・・、壁紙が見えた。
 
そこには、私とシン君が寄り添い笑っていた。
 
私は、こんな所で堂々と見せるシン君に、あたふたとした。
 
「なんだ?席に戻っても良いぞ?」ニヤリと笑う、イジワルそうな顔。
 
頬を膨らませ、「後で、説教です。」小さい声で怒った。
 
 
 
 
 
 
 
今日は、一人残業。トホホ。業務が押したので、居残りだった。
 
一人、パソコンと睨み合っていると。
 
「まだ、いたのか?」室長が経理部に入って来た。
 
「室長!!何で?」
 
「秘書の仕事の引継ぎの確認してきた。オイまだ終わらないのか?」
 
「今日の仕事の分はさっき、終わったんですけど。ムン・ジェウォンさんの仕事をもう少し効率良くする為に、グラフを変えてみようと。」
 
カレは、私の机の傍に来て、パソコンンを見る。
 
「このグラフより、こうやったほうが見やすいだろう。」カレの指が私の手の間に入ってくる。
 
ドキン!!
 
何時ものシン君の香りが漂う。
 
この経理部でこんなに近いなんてはじめてかも。
 
急に、ドキドキし始める私の心臓。
 
カレは、私の心臓の異常を知らないまま、パソコンを操る。
 
「ほらっ、ここまでやったから、後は、お前がやれ。」私の体から、離れていく。
 
私は、カレを見上げる。
 
「襲うぞ。」急に色気たっぷりと言い放つカレ。
 
真っ赤になった私は「イイですよ。」答えた。
 
さっきまでの余裕な色気ではなく、ちょっとなさけない顔になった。
 
そして、ズルズルと床に座り込んだ。
 
「シン君?」慌てて押さえようとしたら。
 
「大丈夫だから、ちょっと萌え中。」目に手を当てて溜息を吐く。
 
「今日の朝の電話、急な経理部への移動の話しで、大丈夫だと思ったんだ。」
 
「お前ともう1度一緒に働ける。社内恋愛なんて、余裕って思っていた。それなのに、お前はオレを堕とす。
 
強烈なお前の言葉は、オレの心臓をギューーーッと鷲掴みする。」
 
「シン君。」
 
「何とか、平常心を保とうとすれば、するほど、お前に辛く当たってしまう。
 
こんな不器用なオレなんかチェギョンに嫌われてしまう。」ワイシャツのボタンを外して、ネクタイを緩める。
 
私は、スーツを着崩して、床に座り込む姿のシン君を初めて見て、叉ドキドキし始める。
 
「嫌うわけないです。」私は頬を赤くしながら、シン君に訴える。
 
膝に手を置いていたのを、シン君は自分の指で引き寄せる。
 
「チェギョン。」カレの指は、私の指を自分の口元に寄せキスをする。
 
「えっ!?」何度もキスをする。
 
「こんなとこでダメです。」指を引き抜こうとしても、カレの手は私を離さない。
 
「シン君!!」キスどころか私の指はカレの口の中に入り、舐められた。
 
「!!!」こんな場所でこんな事をしている私達に気持ちが昂ってくるが。
 
「シン君、ダメだって。此処じゃダメです。早く仕事終わってシン君のおうちに帰りましょう。」何とかカレの気を引こうと頑張っていた時に。
 
 
 
 
 
「シン・チェギョン!!やっぱりまだ残っていた。」大きな声が響く。
 
その声に、シン君の舌の動きが止まる。
 
ハッと顔を上げると、ユン・ジェウォンがビニール袋を掲げて笑っていた。
 
「えっ?」
 
「まだ、残業してると思って、飲み屋でお持ち帰りできるの、作ってもらった。」ビニール袋をブルブルと振る。
 
私のイスの傍には、シン君がいるのを知られたくない。
 
どうしよう。
 
この状況に、頭がアタフタとしているのに、カレの舌先が叉動き出した。
 
それも、さっきより濃厚に動き始めた。
 
ゆっくりと私の指をかじる。甘噛み。
 
イタッ。声の出ない痛みは少しずつ興奮を覚える。
 
そして、舐め吸われる。
 
チュっ、この経理部に小さく響く。
 
「なんだ?」
 
「ねずみじゃない?」
 
「こんな所にか?まさかーっ。」顔が引き攣っている。
 
何とか、入り口のとこに立っているユン・ジェウォンに見られたくないのに、シン君のイタズラは止まらない。
 
「もう、仕事終わったんだ、帰ろう。」急にイスから立った私。
 
カレの口の中から、私の指はようやく離れた。
 
慌ててパソコンの画面を保存して、机の上を片付け始めた時。
 
今度は、私の右足にストッキング越しにキスをし始めた。
 
「えっ!?」こんなとこで。それもムン・ジェウォンが入り口にいるのに、何て度胸。
 
もーーー、何時ものように、優しくそして力強くカレの舌は動き回る。
 
恥ずかしい。何とか、何とかこの状況を抜け出さないと
 
私は、気持ち良さを泣く泣く諦めて、机の引き出しから、自分の私物の袋を引き出す。
 
甘いカレのキスから、ようやく逃れた私は、カレの方を見ずにこの経理部を逃げ出した。
 
ムン・ジェウォンと並んで着替えのロッカーに向っていると。
 
「ほらっ、これ食べろ。お前今日、ちゃんとしたの食べてないだろう?」
 
「一日位平気だよ。」
 
「ちゃんと食べないと、ガンヒョンみたいになれないぞ。」ニヤニヤ顔は止まらない。
 
「毎日ちゃんと食べても、ガンヒョンみたくにならないよ。」ぷーッと膨れる。
 
「おっ、ブタ出現。」からかう声。
 
「もーーーっ人間だってばっ。」ムン・ジェウォンの腕を叩く。
 
「ヤッべー、怪力女のせいで腕折れたーー。」腕をブラブラとさせた。
 
「えっ!?わたしそんなに。」急にオロオロする。
 
「お前、素直すぎーーー。」イジワルな顔は、シン君に似ている。
 
「叉、からかったーー。」ますます膨れながら、歩いている私達。
 
 
 
 
経理部の入り口で、シン君が腕を組み、私達を睨んでいる事を知らなかった。