スマホの目覚ましが鳴り響いた。
ふっと目を覚ますと左側の腕を見つめる。当たり前のようになってしまった左腕の重さ。そして、何時もくっついて寝てる存在がいない。
寒い。
昨日寝る時から、ずーっと寒かった。彼女のいないベットは、オレを中々寝かせてくれなった。
このまま彼女がこの腕に戻ってこなかったら、どうする?恋に恋している彼女に、オレの状況なんて重過ぎる。
顔に両手を置き「チェギョン。」愛しい彼女との永遠の別れが訪れるかもしれない恐怖。
「チェギョン、寒い。寒いんだ。」体をギュッと折り曲げ、小さく小さくなろうとする。
この広い部屋に、小さい声だけが響いた言葉
「シン。お前顔色悪いぞ。」インの声が頭に響く。
「・・・。」エレベーターを降り、自分の部屋に入っていこうとしたら、インに見つかった。
「オイ、大丈夫か!?」
「大丈夫じゃない。」その言葉を残し、自分の部屋に入って行った。
「シン!!」インが中に入って来た。
コートを脱ぎ、ロッカーに掛けていると「どうしたんだ?風邪か?お前が風邪引くなんて珍しいな、昨日のバレンタインで裸で居過ぎたんじゃ。」笑い始めた。
コートを締まったオレは、窓際に立ち「昨日、オレの事チェギョンに知られた。それもヒョリンの口からだ。」
「えっ!?」
「最低な彼氏だ。自分の素性をちゃんと知らせず、他のヤツの口から素性を聞いてしまうなんて。」インに背を向けて話した。
「そっかー、で、チェギョンちゃんは、なんて言ったんだ?」
「1週間考えさせてくれって。泣きながら言うんだ。オレの口からちゃんと聞きたかったって。馬鹿だった、チェギョンが離れて行ってしまうと思って、怖くて言えなかった。
毎日が楽しくて、甘く蕩けそうなチェギョンに溺れっぱなしのオレに、神様が罰を下さった。」
「シン。お前、泣いてるのか?」振り向き、インを見る
「泣きたいけど、チェギョンが泣くなって。他の誰にも見せるなって。」スラックスのポケットに手を入れ、俯いてしまった。
「シン、大丈夫だ、あの子はお前の元に帰ってくるって。」肩を叩かれた。
「チェギョンには、オレの肩書きは重過ぎる。
ずーっと一人の男を待っていた純粋なコの小さな幸せを、オレは無理矢理変えてしまったんだ。」俯いていた顔は段々上に上がる。
「お前、チェギョンちゃんと付き合った事、後悔してるのか!?あんなに本気だって言いながら。」インの目が鋭くなる。
「後悔なんてしてない。彼女がようやくオレに振り向いてくれた時、泣きたくなるほど嬉しかった。」
「じゃあ、ちゃんと待ってろよ。あの子は最初あんなにお前の事嫌っていたけど。」ゴホンッと咳払いをする。
「お前の気持ちを受け入れ、お前しか見えないみたいだから。
前にチェギョンちゃんの事、恋に恋しているって言ってたけど、ちゃんと彼女はお前を見て、お前の全てを受け止めてあげようとしている。」オレの背中をインは強くバン!!と叩いた。
「なんで、そんなにチェギョンの事。」オレは疑いの目を向けた。
「これはチェギョンちゃんには、オレがばらしたって内緒だぞ。
彼女お前が出張に行っている時、時々俺の所に来て、お前の事色々聞いてくるんだ。
真っ赤になって、シン君の事教えてください!!って来るんだ。
オレの知っている限りの事を一生懸命メモしちゃってさっ。あっ。親友としてヤバイ事は言ってないからな。」
「恋するコは、健気だね。それにこれはもっと、内緒だぞ。彼女、お前のねーちゃんに頼んで、料理習ってる。」ニヤリと笑うイン。
「イ家の家庭料理の味とか、ねーちゃんの店の美味しい料理とか。まだまだ料理上手のお前には、食べさせれるレベルにはなっていないみたいだけどな。
ねーちゃんも、シンが本気で好きになっている女の子の頼みだし、自分も可愛い妹が出来たの。とニコニコしながら仲良くやってる。」優しい顔でオレを見る。
「イン!!なぜそれを教えてくれなかった?」インの胸倉を掴んだ。
「オイオイ、内緒って言っただろう?彼女がお前の事を驚かせたくてやっていたことだ。俺は女の子の味方だからな。」ニヤリと笑った。
「くっそ!!」オレは扉に向かった。
「シン。待ってて、チェギョンちゃんは、1週間待っててって、言ったんだろう?今は只混乱しているだけだって。お前はちゃんと待っていないと。」腕を掴まれた。
インはオレほどじゃないけど、テコンドーの有段者だ。
ギリギリと力一杯止められた。
「彼女にも考える時間を与えてやれ。お前マジで泣きそうだな、イ・シンのそんな顔初めて見る。」インが軽く笑う。
「見るな。」オレは手で顔を覆う。
「恋に狂う男って、普通はカッコ悪いけど、お前はカッコいいままだ。」笑ってインは出て行こうと扉を開けた。
すると、社長を出迎える声が聞こえ始めた。
「シン、恋に狂っているカッコ悪いのがご出社だ。」笑いながら出て行った。
インの助言がオレに希望を持たせてくれた。彼女が帰ってくるかもしれない。
この希望をもって、1週間過そう。テーブルの上のノートパソコンに電源を入れ起動させると。
壁紙に、エプロンを掛け皿を洗っている姿が写っていた。
「オレに内緒で、そんな事してたんだ。」さっきまで凄く寒かったのに、心が温かくなった。
「待ってる。」呟く小さい声は、優しさでいっぱいだった。
彼女に会えない日々を過していく。
時々遠い位置で彼女の姿を見てしまう時がある。
隣には、ギョンの彼女が並んでいるが、後ろには男共が話しかけようと隙を狙っているようだが、ガンヒョンが何か言って、男共が逃げていく。
ガンヒョンに何か言っているようだが、ガンヒョンは彼女の手を取って歩いて行った。
きっと追っ払ってくれたんだな。
今日、恋に狂っているカッコ悪い男が「シン、事情は聞いたぞ。」
「??」
「ガンヒョンを送っていったら、ちょうどアヒルに会った。」
「1週間、ちゃんとガンヒョンが守ってくれるって、安心しろ。」肩を叩かれた。
「ギョン。」
「お前、カッコイイな。」ポツリと言う。
「何言ってるんだ?前からだろう?」笑って拳を出した。
オレの拳もギョンの拳に合わせて「オレは幸せもんだ。」
チェギョンの言葉を思い出す。
シン君は幸せですよ。お友達がいるんだから。
お前のお陰で、見えてなかったものが、見え始める。
一日、一日が過ぎて行く。
今日はもう5日目。
4日目までは、我慢できた。でも、5日目からは無理だ。
会いたい、チェギョンに会いたい。それにずーっと寒い。
温かいお前が傍にいないから、寒くて寒くて、2月のまだまだ寒い日々には耐えられない。
インから教えられたチェギョンの秘密を、心の支えとして過していたけどやはり5日目には、チェギョン電池切れだ。
「シン?お前具合悪そうだな。」
ギョンと一緒に、今日の会食の場所に向う途中に言われた。
「いや、大丈夫だ。」しっかりしろ、チェギョンに会いに行きたくても我慢しろ。
「シン?フラフラしてないか?」ギョンが心配そうに見る。
「オレが具合悪い時があったか?」無理に笑う
「知り合ってから、一度も風邪引いた事ないな。」
「なっ、だから大丈夫だ。それにもう着くぞ。」でもその声は段々と低くなっていく。
今日は、ギョンのホテルと業務提供するホテルの場所で会食する予定だ。
このホテルは親族で経営しているみたいで、社長付きの秘書は、実娘だそうだ。
此処の社長は、なぜかオレの事を気に入ってくれて、自分の娘を進める。
「キミみたいなデキル男が、秘書止まりで良いのかい?」擦れ違う時に、そっと言われた。
「うちの娘と一緒になれば、直ぐにキミに社長の席を譲るよ。」ニッコリと笑う。
「勿体お言葉、有難うございます。でも、自分にはこの仕事が合いますので。」営業笑いを。
寒い。
何をどうやっても、寒い。
「キミ、具合悪そうだな。ちょっと休みなさい。」その社長は実娘を呼んだ。
「このお方に、お部屋を準備しなさい具合が悪いみたいだ。イイですよね。チャン社長?」
近寄ってきたギョンは「シン?お前大丈夫じゃないだろう?顔青いぞ。」オレの顔を覗き込む。
「大丈夫だ。会食が終わってお前を家に送り届けるまで、頑張れる。」
「シン、もう帰れよ。」
「あの家にはなるだけ、帰りたくない。チェギョンのいない部屋なんか帰りたくない。」ギュッと目を瞑り下を向く。
「全く何処までもアヒルなんだな。判った。さっさと終えて帰るぞ。」肩を叩かれた。
ギョンは、社長と一緒に会食の席に行ってしまった。
オレはその社長の秘書に「体をお休みになってください」ホテルのカードキーを寄越された。
「いえ、良いです。この位平気です。」足に力を入れてた。
あれ?この女どっかで見た事がある。
「随分と、顔が違うんだな。この間は、男見つかりましたか?」この間の顔と余りにも違う顔だが、この間の女だ。
その言葉にハッと顔を上げる秘書。
オレの顔を見上げる顔には、メガネがあったけど、何処となく。
チェギョンの顔に、似ていた。