「あっ。雪。」窓ガラスの向こう側には、白い雪がチラチラと降り続いていた。

 
チャポン。
 
私が体を動かすと、音がする。
 
「雪か。」私を抱きしめたまま室長は呟く。
 
湯船に入りながら、室長は私の腕をマッサージしてくれる。
 
「お前には昨日から、無理させっぱなしだったからな。」髪の毛にキスを落とす。
 
私はボーっと雪が空から降りていくのを見ていた。
 
「室長と雪見たの、これで2回目ですね。」
 
「そうだな今シーズンの初雪はお前と見た。カップルが見ると良いんだろう?」耳元で囁く。
 
「シン君、耳元はダメです。それにあの時は付き合ってません。」口元をすぼめた。
 
後ろから抱きしめられながら風呂に入っていた私。
 
室長の体が少し前に乗り出してきて、頬にキスをする。
 
「オレは、あの時から付き合っているつもりだったが。」
 
「あの時?」私は振り向いて聞いてみた。
 
「お前に付き合わないかって言った日から。」澄まして言う。
 
「えーーーっ!!あの日からですか?付き合ってません。」ブーッとなる。
 
「じゃっ、何時からなんだ?」意地悪い目で見る。
 
「えっ?ちゃんと付き合って下さいって言って、私も返事してから。」
 
「じゃあ、オレはまだお前の返事貰ってないから、付き合ってないんだな。」
 
「そうですよ。私の返事。」言葉を言わないうちに、私の体は室長に、グルッと変えられた。
 
お互い向き合い、私はビックリした。
 
「じゃあ、付き合ってもいないのに、やったオレ達って?」ニヤリとする。
 
「えっ!?遊びじゃないです。ちゃんとお互い好き合っているから遊びじゃない。」私は慌てる。
 
「じゃあ、あの日が付き合った日で良いな」
 
「えっーーー!?」
 
「良いんだ。あの日は本当に人生の分岐点だった。」唇にキスをする。
 
「シン君。」私は室長の首元に抱きつき、ギュッとしてあげた。
 
「オイ、もう行く時間だぞ。お前がそんな事したら又したくなる。」私の髪の毛を撫でる。
 
「もう無理です、今日ちゃんと歩けるのか心配です。」離れた。
 
「そうだよなー、もう何回した事か。」ニヤニヤする。
 
「初めてなのに」プーーッと膨れる。
 
「だからそんな顔すると襲うぞ。」睨まれた。
 
 
 
 



「さ、そろそろ出るぞ。」スーツ姿で現れた室長。そして髪型は、仕事モードでメガネもしている。
 
あーーっ、やっぱ。カッコイイーー。
 
裸な室長もかっちょいーですけど、自分に似合った服、メガネ・髪型を身につけると、カッコ良さが倍増。
 
ポーッと見惚れていると
 
「ほらっ、立てるか?」私の腕を取り、引っ張った。
 
室長の腕に捕まり、「何とかいけそうです。」カバンを肩に掛けたが室長に奪われる。
 
「オレが持つから。オレのせいで、満足に歩けないお前の為に何でもしてやりたい。」髪の毛にキスをした。
 
どうしてそんないい言葉ばっか言うんですか。
 
離れるのが辛いじゃないですか。
 
室長の腕に頭を傾けた。
 
 
 
 
 
 
 
私の着替えの為にアパートに戻ってくれた室長を車に置いて、私は部屋に戻った。
 
そして、ガンヒョンも連れ出し、3人で出勤になった。
 
私とガンヒョンは後部座席に乗り「これで怪しまれないよね。」言った。
 
「本部長、おはようございます。」ガンヒョンは挨拶をした。
 
「おはよう。じゃっ、もう出るからな。」室長が言った時。
 
「あっ!!エプロン忘れたーー。」慌てて取りに行こうとしたら。
 
「持ってきてあげたから。」ホイっと私に渡す。
 
「あるから、出てもいいんだな?」
 
「ハイ、お願いします。」
 
車は雪の降る道を進みだした。何時も電車で通勤する私達にとって、車での移動は天国のようだった。
 
「それにしても、ガンヒョン、持ってきてくれてありがとうーー愛してるーー。」抱きついた。
 
「こらっ、離れなさい。」無理矢理剥がされた。
 
「シン君、ガンヒョンってやっぱすごいですよね。」
 
あれ?室長の顔が無表情て言うか、怒ってる時の顔。何で?
 
小声でガンヒョンに言う。
 
「ねー、シン君怒ってるんだけど、何でだろう?」
 
「アンタ何か、怒らせるようなこと言ったんじゃない?」横に頭を振りまくる。
 
コソコソ言い、このシーンとした車内は外の温度と同じ位の寒さじゃないかと思うほど、室長の怒った目は冷たかった。
 
会社からちょっと離れた所に車は止まり「此処から、歩いていけ。」冷たい声。
 
ガンヒョンは素直に降り、次は私の番になったが。
 
「シン君、何で怒ってるんですか?私何か怒らせるような事言いました?」勇気を出して聞いた。
 
 運転席から、ジロリと睨む。
 
怖い。
 
何度も仕事中に怒られた目付き。
 
この目付きをされると条件反射で、泣きそうになる。
 
私の顔を見て、溜息を吐く室長。
 
「お前がオレとの約束守らないからだ」
 
「えっ?」
 
「昨日、大好きって言葉、誰にも使うなって言ったばかりなのに。キム・ガンヒョンに愛してるって、お前は、オレには言った事がないのに。」イライラと怒り始めた。
 
「シン君。」それってなんチャラってやつですか?
 
ちょっとばかりの沈黙。
 
私は膝立ちをして、室長の頬を目掛けてキスをした。
 
 「大好き。」いう言葉を残して慌てて降りた。
 
扉を閉める時「送って頂き有難うございました。」頭を下げた。
 
車から降りると、雪が私達に降りてくる。
 
「さっむーい、早く仕事場に行こっ」
 
「で、本部長なんで怒ってたの?」チェギョンの事を支える。
 
ちょっとばかり歩くのが困難なチェギョンは「内緒。」ニヘーッと笑う。
 
「シン・チェギョン~~!!今まで私に内緒って言った事がなかったのに。全く大人になっちゃってー。」溜息を吐く。
「ごめんーー、ガンヒョーン、あ。」慌てて口を閉じた。
 
「うん?」
 
「何でもなーい。」ヤキモチ屋の室長の為に、言わないようにしよっと、笑った。
 
 
 
 
車の中で、突然キスをされたシンは、ボーっと頬に手を置いていた。
 
ハッと気が付き車を出そうとしたが。
 
カバンの中から封筒を出した。
 
封筒から写真を出して、溜息を吐く。
 
「これを誰が撮ったか。」ロンドンのホテルに届いた写真のチェギョンの頬を人差し指でなぞる。
 
「このオレに態々見せつけるなんてイイ度胸している。」メガネの位置を直した。
 
 スマホを取り出し、目当ての番号を探し出した。
 
その番号にかけ相手が直ぐに出た。
 
「コンさん、おはようございます。頼んでいたのは、進んでいますか?」
 
「・・・・。」
 
「そうですか、判りましたか。詳しい事は私のパソに送って下さい。」
 
「・・・・・・。」
 
「えっ?まだ動きませんよ。もう少し様子みます。じゃっ、メール待ってますから。」
 
 通話を切り、溜息を吐く。
 
写真を封筒に戻し、カバンに入れる。
 
 
スマホの待ち受け画面の設定を変えた。
 
ペロペロキャンディを持って、可愛く映るチェギョンの画像に変わった。
 
余りの可愛さに目が離せない。
 
フッと気が付き、やばいな、本当に何処までも溺れていきそうだ。
 
車のシフトをDに入れ、後方を確認してアクセルを踏む。
 
走って行くと歩道を行き交う人ごみの中を見渡しても、チェギョンは見つけれなかった。
 
もう行ってしまったか?
 
ロッテデパートが見え始め、隣にロッテホテルが見えた。
 
すると、信号が黄色から赤に変わり車は止まった。
 
横断歩道を渡る人達をボーっと見ていると。
 
「チェギョン。」
 
キム・ガンヒョンに支えながら、ゆっくりと歩いている彼女の姿を見つけた。
 
自分の顔が歪むのが判る。
 
オレが支えてやりたい、と悔しがる。
 
初めてのチェギョンに、オレは何回も求めてしまった。
 
そして優しくなんか出来なかった。
 
彼女の全てを自分のモノにしようと奥深く突き進んだ。
 
横断歩道を渡りきり、何時間前までいたホテルに2人は向かっていく。
 
オレの口から、溜息が出る。
 
さっきまで傍にいたのに、一歩一歩オレから離れていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 経理課の新入社員のガンヒョンと私は、お昼前から食堂に来て、作業内容を聞いていた。
 
 
 
従業員さんは、おばさん、おじさんだけと思っていたのに、若い人達もいた。 
 
従業員さん達と二人セットになり、仕事をこなしていく。
 
私はビビンバ丼セットの担当。
 
一緒になったお方は、私よりちょっとだけ上のおねーさん。
 
 
彼女が盛り付けたビビンバ丼をお盆にのせ、スープ、キムチ・サラダを乗せて完成。
 
 
注意事項を聞き、本番に向かう。
 
「そんなに緊張しないの。」と笑う。
 
「イヤー、やっぱ皆が食べるものだから、丁寧に扱わないと。」
 
「その気持ちは大事だけど、凄い人雪崩込んで来るからね。」肩を叩かれた。
 
休み時間は3回に分かれている為、凄い混雑はしないと言うが。
 
1回目の人達が大分落ち着いた時、ヘトヘトになるくらい忙しかった。
 
「ちょっとー、今日の人凄かったよ。貴方のせいね。」にやっと笑う
 
「えっ?」
 
「若い男子が多かったささそれに一生懸命自分の名前言っている人達もいたんだけど、貴方まるっきり無視で面白かったよ。」
 
 
「そうなんですか?気が付かなかった。お盆に綺麗に並べようとして必死だったから。」三角巾のずれを直した。
 
 
 
「そろそろ、二回目のベルが鳴るよ。又頑張ろうね。」おねーさんは、ファイティングのポーズを取った。
 
ベルが鳴り、又もや人が多かった。
 
ちゃんと良く見ると、ほんとだー男の人が多い。
 

それに紙切れを渡してくる人もいる。

 
忙しくて、何を書いているのか良く判らないが、笑って受け取りポッケトに入れた。
 
 大分人数を片付けた時、ビビンバ丼の材料がなくなり、おねーさんが又作り始めた。
 
すると、入り口がザワザワと騒ぎ出した。
 
社長のギョン君、カン・インさん、フロントのファンさん、そして室長が並んで食堂に入って来た。
 
 
「ちょっと、どういう事?あの4人が一緒なんて。」おねーさんまで体を乗り出した。
 
 
「えっ?」
 
 
「貴方あの4人の事知らないの?マジで!?」呆れ顔
 
 
 
「知ってますよ、一人は私の上司でしたから。」苦笑い。
 
 
 
「上司って?もしかして貴方経理課から来たんだよね、じゃあイ・シン?」
 
 
 
「はい。」
 
 
「凄い!!このホテル一番人気のイケメンが上司だったなんて。あっ、仕事しないと。」慌てて仕事場に戻ったおねーさん。
 
 
食券の辺りに群がる女の人達から、頭一つ分飛び出している3人。あれ?ファンさんが微妙に見えない。(汗)
 
 
私の目線はただ一人の人に止まる。
 
 
一番人気のイケメン。
 
ボーっと見惚れていると、急に思い出す、室長の声と私と違う体の作り。
 
 
朝までずーっと傍にいた存在が、遠く感じる。
 
 
「ビビンバ丼下さい!!」食券を渡す男の人。
 
 
ボーっとしていた私は、自分の手に食券を挟まれた。
 
 
急な感覚に、ビックリする「ボーっとしてたから、ごめん。」
 
 
「こっちこそ、すみませんでした。おねーさん、ビビンバ丼できましたか?」
 
 
「後、5・6分待ってて頂戴。」叫んできた。
 
 
「後からお持ちします」営業スマイルで番号札を持たせた。
 
 
女子に囲まれていた4人が、動き出した。
 
 
次の人に番号札を渡しながら説明をすると、男の人が又紙切れを渡す。
 
 
 
面倒だなと思いながら、営業スマイルで受け取る。
 
 
 
「おっ!?チェギョンちゃん。」カン・インがニコニコしながら並んでいた。
 
 
 
「あっ、カン・インさん。ビビンバ丼は。」本当の笑顔でニッコリとする。