ワイシャツのボタンをかけ、ネクタイを結ぶ姿を見ていた私は下から見上げて室長を見る。


あーーッ、なんてカッコいいんだろう。

こんなカッコイイ人が、私に惚れてるって。

それも私が思っている何千倍もって。


「クーーーーーッ!!」頭をブンブン振り、悶絶する。

もう、凄過ぎて鼻血出そう。と鼻を押さえる。

「チェギョン。」

「なんでしょうか?室長.。」顔を真っ赤にして答える。

「さっきから何変な行動している?」

「エヘヘッ」笑ってごまかす。

「まッ、予想不可能な行動するお前の事も気に入ってるから。お前は変わらずそのままでいろよ。」笑う。

その言葉を聞いた瞬間。

私は立ち上がり、室長の肩に腕を回して抱きしめる。

「どうした?」

「寛大な心を持つ室長に、ちょっと感動中です。」顔を見合わせる。

段々、室長の顔が怒り顔になってきた。

「あの、室長何で怒り始めたんですか?」恐る恐る聞く。

「お前なー、こんなにくっついたら、お前の事襲いたくなる。これでも凄く我慢しているんだから離れろ。」

「えっ!?」もっとくっついてしまった。

「シン・チェギョン!!襲うぞ!!」私を無理矢理離した。







「降りろ。」助手席の扉を開き、室長は私に手を差し伸べた。

室長の手に自分の手を置いたら、大事そうに指を絡められた。

「もう、逃げ出さないように、しっかりと握ってないとな。」

車が駐車した場所は、又あの時のレストランだった。

イヤーな顔をしながら、「やっぱりここに入るんですか?」室長に引っ張られながら聞く。

無言な室長。

でも、繋いだ手が温かい。

イヤーな顔も段々もとの顔に戻っていく。

ちゃんと室長と繋がっている。私もギュッと室長の手を握る。

大丈夫!!この手の温かさを、信じよう。

ちょっとだけ後ろにいる私は、室長を見上げると私の顔を大事そうに見ている室長と目が合う。

そうだ。

何時も緊張したり、恥かしくて、ちゃんと室長の顔見ていなかったが。

こんな顔で、私の事見ていた。

少しずつ赤くなる頬。

「寒いのか?」

頭をブンブン振り「熱いです。室長の事、考えていると体が熱くなるんです。」見つめる。

急に立ち止まった室長。

ギロッと睨まれる。

「お前なー、オレを煽るな。」言葉では怒っているが、繋いでいない手で抱き寄せ、ゆっくりと髪の毛に唇を落とす。

こんな上等な扱いをされたのは初めてなので、もっと顔が熱くなった。

レストランの扉を開くと、「イ・シン様、お待ちしておりました。」深々と頭を下げる店員さん。

「準備出来てますか?」

「はい。お部屋は突き当たりの所です。」店員さんに誘導され中を歩く。

2度目のレストランは、ゆっくりと中を見れた。

なんて、モダンなインテリア。

此処のオーナーさんって、とてもオシャレなんだね。

案内された個室に入ると。

「・・キレイ・・・。」

テーブルの真ん中に、薔薇で出来た小さなハート型

大小さまざまなキャンドルの灯りだけの部屋。

「わーーーッ、こんなとこ初めてです。」目ウットリとなる。

室長は、呆れた顔で「全くやりすぎだ。」チッと言う音がする。

溜息を付きながら「お前が喜んでいるから、まっ、いいか。」

室長は私を席に座らせた。

店員さんに数々の注文をして、後は料理を運ばれてくるのを待つのみになった

「室長、此処高いんじゃ。」さっきのメニューを見て、目が見開いた。

「そうだな、高いな。でも、ここからちゃんと始めたい。」室長の真剣な目。

スーツの乱れを少し直し、ちゃんとした姿勢で私を見つめる。

大きく息を吐き、私の大好きな声が響く。

「オレには、親同士が決めた婚約者がいた。名前はミン・ヒョリン・韓国じゃ有名なバレリーナーだ。」

「えっ!?」

「去年の10月まで、婚約者と結婚する気でいた。」真剣な目はウソを付いていない。

「だからこのレストランで、婚約者にプロポーズをした。お前に見られているとは、思ってもいなかった。」

「幼い時から、親の言うことに従って生きてきた。幼馴染のミン・ヒョリンと婚約しろと言われたから、オレは逆らわずに受け入れていた。

ミン・ヒョリンは、大人しい女で何時も黙って傍にいた。

好きとか嫌いという感情は、なかった。

ただ、親が決めたからそれに従うだけだった。

でも、ミン・ヒョリンは結婚して夢を諦めるにはイヤだから、2年間留学させてくれと頼み込んできた。

オレも、結婚する事は決まっていたので、ミン・ヒョリンの好きにさせた。

だが、去年の4月、オレの考えを覆す出来事が起こった。

お前が、シン・チェギョンが会社に入社した。

ビックリした。

お前の顔見ただけで、オレの体は動けなくなってしまった。

突然おかしくなったオレの事をインは心配していた。

一目惚れ、今までそんなもん信じた事なかったのに。

あの大勢いた人の中で、お前しか見えなかった。

そして、通り過ぎる時の声と香りに惹かれた。

お前しか見えなくて、見るたびに心臓がおかしく暴れる。

こんな気持ちになったのは初めてで、どうしたらいいのか判らなかった。

婚約者のいる身で、違う人に一目惚れするなんてありえない。

頭じゃ判っていたが、どうしてもこの気持ちを抑えれなかった。

色んな手を使い、お前を自分の部署に所属させた。

お前の希望は、ホテルの裏方希望だったがオレの傍に置きたくて無理をした。

自分の想いを告げれなかったらせめて、毎日会いたい。

お前は、同期のキム・ガンヒョンと違い能力が劣るが、頑張り屋だった。

オレに怒られ、嫌味を言われながらも、頑張って付いてきてくれた。

その真面目な性格も、気に入っていた。

毎日、お前の新しいとこを見つけ、又自分の好みだったときが付く。

それまで、女の好みなんて全くなかったのに。

お前の顔・体・性格、皆オレの好みなんだ。

毎日、お前に恋していくのに、ミン・ヒョリンの帰国が迫ってきた。

母親・父親にちゃんと結婚するんだぞと言われ続けているオレは。

自分の気持ちを押し殺し、ミン・ヒョリンの帰国と同時にこのレストランでプロポーズをした。

他の女が好きなのに、この結婚はきッと幸せになれないを知りながらも。

オレは言った。

でも、ミン・ヒョリンはオレとの結婚じゃなくバレエを選んだ。

オレと同じように親に逆らわないミン・ヒョリンが結婚を断るなんて、予想外だった。

そして、出て行った途端、涙が出た。

ずーっと悩んでいた事が今、終わった。

震えながらタバコを吸い、押さえてきたこの気持ちを、シン・チェギョンに伝えたい。

振られてもいい、振られた・何度でもアタックするのみ。

次の日、ミン・ヒョリンと一緒に両家の親たちと揃い、婚約を取り止めて貰った。

晴れて自由になったオレは、この気持ちを抑えることはなくなった。

もう、チェギョンの事しか考えられなかった。」





私は、初めて室長の休んだ日を思い出す。

何時もいる室長がいなくて、寂しかった。

次の日に、出社した室長を見て喜んでいる自分にビックリしていた。

そして、もっとビックリする事が。

「付き合わないか?」

「「付き合わないか?」って簡単に言ってたと思ってたんですけど。」

「全然余裕がなかった、さり気無く聞こえるように何度も練習して、ようやく言えた言葉は、あっさりと玉砕されたな。」苦笑いをする。


暫く黙っていた。

婚約者がいた室長

この国じゃ、親のいう事は絶対なので自分の想いを押し殺し、婚約者さんにプロポーズしたのに。

あの場面を見ていた私は、この話が真実だって事を知っている。

室長の気持ちも知らずに、私は毎日怒られる室長に悪態を付いていた。

だって、好きな人をあんなにいじめるなんて・。

うん?これって。

小学生の時、よく男の子達にいじめられた。

でも、後で聞いたらチェギョンの事好きだったからかまってもらいたいからって。

チロッと室長の事を見る。

私の答えを待っている姿は、又もや見た事のない室長だった。

緊張して喉が渇いて、何度も水を飲んでいた。

キャンドルの灯りに包まれて、陰と陽が完全に分かれて照らされている室長。

本当に、いいの?

こんな何も取り柄のない私なんか、付き合ってこんな筈じゃなかったって言われても知らないから。

室長に会えなかった日々は、恋する気持ちを昂らせた。

部屋の中で、豆腐人形という室長の代わりを作り、何時も傍に置き、抱きしめたり、自分の気持ちを言ったり、そして室長とのキスを思い出し、ギューッと顔を突っ込んでいる様子を、ガンヒョンに見られて飽きられていた。

こんなに好きになるとは、思わなかった。

私の元に間違って堕ちてきたフェロモン堕天使

私の元から逃げ出さないように、しっかりと捕まえておかないと。

だって、もう室長の事しか考えられないから。

返事をしようと口を開いた時。

突然、扉が開いた。

「シン!!この店一番の料理持ってきたわよ!!」言う高らかな声と共に、キレイな人がワゴンを押しながら入って来た。

「わーーーッ、この子がそうなの?可愛いーーーー!!シンがずっと恋してた子なのね。可愛いーー、でも、可哀想ね、こんな男に惚れられて。」笑う。

「もうーー!!オレの大事な女性を連れて行くからって、こっちまで興奮しちゃったじゃない。

この韓国一のシェフが腕を奮ったから、最高級の味とこの部屋のセッティングイイでしょっ。

これで、可愛い子の心鷲掴みーー。」料理を並べていく。

「ねーさん。ベラベラしゃべりすぎだ。」慌てる室長。

ありゃッ、そんな室長見た事ないです。

ゴホンッと咳払いをして、室長はキレイな人を紹介してくれた。

「オレの姉だ。こんななりだけど、韓国じゃ有名なシェフだ。そして、この店のオーナー。

どうしても、この店に来たかったのは、オレの姉を紹介したかったからだ。

お前の気持ちを無視してまで、連れて来てしまった、すまない。」頭を下げた。

「室長、そんな事しないで下さい。」私は慌てる。

「まー・・、シンッたら、私に頭下げた事ないのに。」呆れている。

「フン!!」照れる室長。

「ようやく会えた。シン・チェギョンちゃん。シンから話しは聞いたと思うけど、この子なりに悩んでいたの。

親に逆らわず生きてきた人生に、本当に好きな人が現れちゃって随分悩んでいたんだから、許してやってね。

私は何度もチェギョンちゃんと一緒になりなさいって言ってたのに、シンは頑固でね。

親を裏切るような事をしたくないって、それよりだったら自分の気持ちを押し殺すまでだって。

でも、婚約と言う呪縛から逃れられたから。

凄い、アプローチだったんじゃなくて?」ニヤッと笑う。

おねーさん。そのニヤリ、室長と同じですよ。

「凄かったです、オトコが苦手だった私に最上級のフェロモンで襲い掛かってきたんです。もう、室長の事しか考えれないほど、心持っていかれちゃいました。」室長を見る。

真剣な目の室長と黙って見つめ合う。

「あらっ、お邪魔みたいね。じゃあ、私はデザート作りに行くからね。シン!!」

顔を反らずに返事をする。

「料理は温かいうちに食べてね。」忠告して出て行った。

扉が閉まる音がしたと同時に、室長が立ち上がり体を伸ばして私の元に近づいた。

「腹へったか?」

首を横に振りながら「早く室長が食べたいです。」

見開く目は、優しい。

「全く、お前はどうして予想もしないことばかり言う。

4月からずーっとお前を食べたくて仕方がなかったオレをそんな言葉言うな。」ゆっくりと唇が重なる。

食器の間に手を置き、「四葉のクローバー」の花言葉は?」

「希望・誠実・愛情・幸運です。」

「それは、小葉を象徴する言葉だ。でもお前はオレにとって四葉のクローバーだ。4つの言葉が皆お前に当てはまる。花言葉は。」

「何ですか・・?」やばいこのフェロモンにクラクラしてきた。

「BE MINE」

椅子に座って室長の事を見上げていた私は、両腕を室長の首に回す。

震える声で、室長の耳元で伝える。

「同じです。私のモノになって下さい。」呟いた。