気配のない扉の前で、一呼吸をおき、ドアノブを回した。

この高そうなドアをゆっくりと開ける。

すると、一気に室長の香りが私の体を包み込む。

クーーーーッ、何時もながらいい香り。

大きく息を吸い込み、体全体に染み渡らせる。

「なんでこんなにこの香り好きなんだろうね。よし、今日の室長充電完了。」

ポケットから出した小さい箱を手に持ち、トコトコとデスクに向かって歩き出した。

あのクリスマスの日、ガンヒョンの元にサンタがやってきた。

そして、私にも・・間違いを直しなさいと言う、トナカイさんがやってきた。

その後、勇気を出して開いたメールには。

会いたい。

あって話がしたい。

オレの口からちゃんと説明させて欲しい。

色んな文章があった。


会いたいという言葉とは裏腹に、仕事が忙しすぎて会う時間がなくとうとう年を越してしまった。

イジイジと悩んでないで、ちゃんと室長の話を聞こう。

なぜ、プロポーズの次の日に私に付き合おうと言ったか?

なぜ、私なんかに惚れたって言ってた。

何で?

新しく社長になったギョン君と共に、色んなとこに付き添っている室長。

分刻みで移動、会見、決済。

シンがいないと俺一人じゃ、やっていけなかったと、トナカイさんが言ってた。

食堂で偶然出会い、一緒のテーブルに座った。

「シンとギョンは済州島に行ってるから、こうやって2人と食事出来るんだ。じゃなかったら、俺君たちのオトコに殺されるからなー。」笑う。

ガンヒョンと私は顔を見合わせて。

「君達のオトコってそんな間柄じゃないですよ。」言う。

トナカイさんは、アハハッと笑い。

「そっかー、シンはまだ片思い中か。あのフェロモンオトコがなー。」笑う。

「まっ、キム・ガンヒョンさんのとこは順調だろうっ。」

「もーー、メールが着過ぎて、受信拒否してます。」ツンと言う。

「マジ?君ってイイね。ギョンが熱上げるのも判るよ。アイツMだからね。」

「そんな私、Sじゃないです。」ご飯を食べ始めた。


 

 

室長の事を知りたくて、無理矢理トナカイさんのメルアドを聞いた。

「これを知ってどうするの?」意味ありげに聞く。

「室長の居ない時に、渡したいモノがあるんです。」

「ふ~ん、本人の居る時に渡したら良いじゃないの?」私の顔を覗き込む。

「ちょっと。」モジモジ

「シンの好きな子にアドレスなんて教えたのがバレたら、俺この世にいないかも。」笑う。

「えっ?」

「アイツ、テコンドー強いんだ。師範の免許も持ってるから怒らせたら得意の後ろ回転蹴りで倒される」

「そんなに強いんですか?細い体してるのに」

「まッ、脱がせると判るよ。」ニヤニヤし始める。

「脱がせる?」なんで脱がせるの?ちょっとばかり意味の判らなかった私はキョトンとする。

意味の判るガンヒョンはポッと赤くなる。

「ちょっとーー。がンヒョン顔赤いよ。」隣のガンヒョンを心配する。

「もーー!!ウブチェギョン、後で説明してやるから。」背中をビシッと叩かれた。
 
 
 
 
 
 
 
メルアドを聞いた次の日から、私は秘書課の本部長室に忍び込む。

誰も居ないのを確認して、デスクにチョコを置いていく。

最初は何も書かずに置いていたが、次の日には置いて行ったチョコがなくなっているのを、確認する。

食べてくれてるんだ。

室長が食べれそうな甘さ控えめなチョコを、毎日置いていく。

ちゃんと会って話し出来るまで、私は室長を想いこのチョコを置いていく。

今日もトナカイさんのメルアドで、この時間帯に室長が居ない事を知りこの部屋に来た。

そして、デスクの上にチョコを置こうとしたら。

スマホが置いてあった。

「えっ!?このカバー。」

デスクの上には、偶然あった室長と一緒に選んだスマホのカバーが、室長のスマホに付いていた。

「どうしよーー。なんで室長が持ってるの?」暗い部屋に響く私の声。

「ようやくムーミン発見。」言葉と共にドアが開く音がした。

声のする方を見ると室長が立っていた。

「クリスマスを過ぎた頃から、オレのデスクにムーミンがチョコを持って来てくれている。」懐かしい声。

ズーッと会いたくて、聞きたかった声、そして香り。

「ムーミンって。」涙が目の淵に溜まり始めてきた。

震える声で聞いてみる。

「北欧の妖精。」私に近づいて来る室長。

妄想、想像の室長ではなく、本物が傍に来た。

「なんでこの時間に?この時間は、社長の接待に付き添っているはずじゃ。」

「ニセ情報を教えるように言った。」

「えっ?」

「アイツのメルアド聞いたなスマホ寄越せ。」手を出した。

室長の大きな手に、私は何も言わずにポケットからスマホを取り出し、室長の手に置いた。

室長は勝手に私のスマホを触って、そして私に戻した。

「あっ!!トナカイさんのが削除されてるーーー。」

「アイツのアドレスは要らない。」口が怒っている。

「又、人のを勝手に。」

「フン。オレがお前のメルアド知るのに、半年も掛かったのに、インに直ぐ教えるのは」眉間に皺を寄せる室長。

室長、それって。

「嫉妬?」

「悪いか?」ギロッと睨む。

私はブンブン頭を振って「悪くないです。」大きい声で言う。

自分のデスクのとこに行って、スマホを持ち上げた。

「あの日、信号が変わる寸前に、お前が飛び出した時、追いかけようとしたオレの変わりに、コイツが轢かれた。

紙袋の中には、可愛いクリスマスカードとスマホのカバーが入っていた。」大事そうに、スマホカバーを触る。

「これはオレのモノにしてもいいのか?」私に向けた顔は、初めて見る室長の、自信なさげな顔。

心臓ーーがギューッとなる。

さっきまでのオレ様は、どこいっちゃったんですか。

可愛いじゃないですか。

「室長は、ずるい。」

「は?」

「だってそんな弱々しい顔見せるなんて。」

「仕方ないだろう、何時も捕まえたと思っても、直ぐに逃げられる。片思いがこんなに辛いなんて知らなかった。」

私の心臓がギューーッとなる。

ギューッ、ギューと締め付けられる心臓、このままだと息が止まってしまうかもしれない。

そしてこの心臓は、室長を求めて今直ぐにも傍に行きたいと願っている。

まだ早いちゃんと、室長の話し聞かないと。

「本当に恋してるの?」私の声が震える。

電気も付けずに、この部屋は月明かりだけで、2人で向き合っていた。

ちゃんと室長の話を聞かないと,私の耳は一言も漏らさないぞと大きくなる。

「会社の入社式の壇上にいるお前に一目で恋に堕ちた。お前に片思いしてから、もう9ヶ月だ。日に日に大きくなっていく気持ちを、オレは持て余していた。」

「本当に?あの頃の室長は怖くて目が合えば、嫌味ばかり言ってました。」

「仕方ないだろうそんな事していないと、お前の事力ずくで襲いそうだったからな」

「そんなに好きなんですか?」声が震えていてもかまわない。

「お前が思っているよりも、何千倍もお前に恋している。」はにかむ。

バーーーーーーン!!心臓が破裂した音。

この音と共に、ボロボロ泣き出す私に、室長は慌てる。

「オイ、泣くな、なんで泣く。?」

「だってーーッ、いろんな事聞いてちゃんと、室長の気持ち聞いてからじゃないと思ってたのにーーっ。

まだまだあの店のプロポーズのことだって聞かないといけないのにーー。そんなの関係ないくらい室長の事が好き。ただ、室長の事が好き。」ボロボロ泣きながら両手をグーーッにして、足を踏ん張って言った。

「カン・インさんから室長の事聞いて、いっぱい着ていたメールを見て凄く会いたかったけど。ずーっとメールと電話無視していて、都合が悪かったんです。会いたくて仕方なかった。室長の顔見たかった。」涙が止まらない私に、ゆっくりと室長が覆い被る。

「スッゲーーーッ、オレの心臓、おかしくなった。ドキドキが止まらない。」ギューッと抱きしめられる私の体。

「ソウルのムーミンは、オレの下に毎日甘いチョコを届けてくれた。シン・チェギョンはオレに何を届けてくれる?」ゆっくりと私の頬を包み込む大きな手。

ボロボロ泣きながら。「いっぱいの愛といっぱいの甘いキス。」

「オトコ苦手克服してしまってそんな言葉を言えるようになって。」目付きが悪くなる。

「だって指導してくれる先生が最上級のフェロモンイケメン先生なんだもの。」

「随分と褒められたな。」私の止まらない涙を吸う室長。

「だって、3週間分の愛が溜まってるんです。伝えたくて。」

「じゃあっオレの9ヶ月分の気持ち、お前に教え込まないとな。」室長の唇が私の唇の重なった。

優しいキスなんてしてられないほど、荒いキスを繰返す。

お互いの舌は絡み合い、色んな音を出し。

室長の舌先は私の口の隅々をなぞり、時々「甘い甘すぎて溺れてしまう。」言う声が私の耳元で呟かれた。

そんな良い声、耳元で言わないでー。私の膝がガクンと崩れた。

一気に私の体が床に崩れようと、慌てて室長に支えられた。

「チェギョン。」

「反則です。室長、フェロモン漏れすぎです。」

笑いながら「フェロモン?誰がだ?」私をソファに横にさせた。

何度も軽いキスをしながら「もう逃げないか?」

「はい、もう何聞いても室長の傍から逃げません。」チュッと優しいキスがおりた。

室長の優しいキスは、何度も私の唇の落とされる。

無我夢中で、室長に何とかついて行こうと応じる

室長の長い指が、私の色んな所をなぞり始めている、その度に私の口からは聞いたことのない声が漏れ始める。

その様子を見ていた室長は、体を起こし。

「チェギョン・・・。」首元に室長の唇が這っていく。ゆっくりと私のベストのボタンを外そうと。

「ダメーーーーです。」私の手が止めた。

さっきまでの甘い時間が一気に私の声と共に消えた。

室長の目がきつくなる。

「ダメです。」

ハッと気が付いた室長。

「そうだよな、こんなとこじゃ。悪いちゃんとお前の為にしなきゃいけないのに焦ってしまった。」私の体から起き上がった室長は、何時の間にか、シャツのボタンが皆、外れていた。

知らないうちに・・・、やっぱ、こういうのに手馴れている。キッ!!と室長を睨んだ。

じゃなくて、室長を止めないと!!

「室長!!ダメなんです。」言った。

「何でだ?ここじゃないとこに。」

「だから、昨日から始まったんです。」真っ赤になって告げた。

室長の顔が止まった。

「始まったって」

「アレが。」

「マジか。」室長のトーンが下がる

「ハイ、ただいま絶好調です。」室長の顔をうかがう。

「くーーーーー!!」ソファにすわり、うな垂れる。

「室長?」

「周期は?」うな垂れたまま聞いてくる。

「えっ?」

「終わってから次までの間は?」頭を下げたまま聞く。


「28日間です。」まるで仕事のような言い方。

「昨日から始まって。」ブツブツ言う室長。

「室長、なんでそんなこと聞くんですか?」

「付き合っていくには、大事な事だ。安全日とかダメな日とか。」顔を上げ、まじめに言う

「・・・・・・・・。」

「オイ、その間は何だ?」目が細くなった。

「えへへへっ。まさか?」

「まさかって、オイ!!」又もや呆れる室長

「いいか、お前のアレが終わったら、お前の全てオレが貰うからな。一生誰にも手をつけさせない。」立ち上がった。

ストレートな室長の言葉に、真っ赤になる私。


スーツの上着を着て、室長は私の手を取った。

「お前ももう帰る支度しろ。」

「わーーー、こんな時間。」時計を見ると10時になろうとしていた。

「今からメシ食いに行き、ちゃんと説明しないといけないから。」室長の顔が真剣な顔になった。