「何で、泣いてる?」急に離れていく室長の顔。

えっ?

キス、未だしていたい。

物欲しそうに、室長の顔を見ていると、ギュッと顔を手で包み込まれた。

「ヤバイな。」

やばいって。

涙がボロボロ零れていく。

「オイ!!勝手に勘違いするな。」怒る。

「だって・ヤバイって、こんなとこでキスしたからですか?」泣きながら訴える。

室長の顔が近づき、唇同士が重なり合う。

「ヤバイって意味は、場所関係なくキスしそうだ。」苦笑いをした。

確かに、会議室でのキスは場所的にヤバイ。

室長が会社でそういう事を絶対にしないと思っていたので、ビックリした。

室長と見つめ合うと、どうも口元に目がいってしまう。

「そんなにキスがしたいのか?」目が嫌味を言うときの目になっている。

「キスしたいです!!愛を込めたキス一杯して、私の気持ち室長に判ってもらいたいです。」

嫌味な目元は、驚きの目になりそして、優しくなった。

「お前はどうして、オレの予想しない事を。まッ、そこが気に入ってるんだが。」呆れた溜息。

むっ!!室長の呆れた溜息の姿を見た私。

「もっと、もっと私の気持ち判ってもらいますから、そして室長が私なしじゃ生きていけない!!ッて言わせます。」涙が止まらない顔でいう。

室長の目が真剣になった。

うん?私、何か変な事言った?

室長の手が私の顔から離れていき、私の手を取り階段を駆け下りていく。

私は急に引っ張られて、慌てて室長の速度に合わせた。

駆け降りる風に室長の香りが混ざる。

この香りを嗅ぐと、胸がギューーーッとなる。

車のドアを開けられ、中に入れと催促される。

車の中は、外の空気と同じく冷たい空気が、張り詰めていた。

室長はエンジンを掛け、車の何かのをボタンを押していた。

すると。シートが動いていく。

座席が前に動き、そして深く沈んでいく。

いつも室長の車に乗っているような視界ではなく。

車の窓ガラスには夜空しか見えない。

「室長ーーーー!!この席おかしいです。」驚いて涙も止まった。

室長の方を向くと、室長の顔が段々近づいて来た。

「この座席は、標準装備で」背もたれが静かに倒れていく。

「やっぱ、やばいな。何処でもキスしたくなる。」ゆっくりと室長の唇が私の唇をついばむ。

もう、目の前には室長の顔しか見えない、だけど心の中で。

そっかー、標準装備か。了解です室長。


キスを繰り返ししていると、段々熱くなり始めてきた。

キスの熱ではなく、これは。

「室長、熱い。」途切れ途切れ口の隙間から言う。

私の言葉を無視してキスを続ける室長。

「熱いーーー!!」室長を突き飛ばした。

体を飛ばされた室長は運転席で、ビックリしていた。

私は、室長からの熱いキスと車の温かさでだるまのように着込んでいた格好が、 室長を突き飛ばす原因になった。

「もうーー!!暑かったーー!!」首に巻いていたマフラーを外し、コートも脱いだ。そしてカーディガンも脱いで、セーターだけになる。

パタパタと顔に風を送る。

「チェギョン。」室長の低い声。

あれ?この声質、よく仕事で怒られる声のトーン。

ゆっくりと室長を見ると、どうやらハンドルに体をぶつけて顔をしかめている室長が私を睨んでいた。

「もしかして私ですか?」苦笑い。

「お前しか居ない!!」睨む。

「この車暑くて、耐え切れなかったんです。」

「愛をこめたキスを一杯するって言っていたヤツが。」

「済みません!!」頭を下げる。

「大体にしてそんなに着込んだら暑くなるだろう?」

「冬のソウルを歩くにはこの位しないと寒いんです!!室長みたく車じゃないんですから。そんな寒そうな格好で、歩いていたら凍死しちゃいます。」断言する。

ガンガンと言った私の顔を、ポカーンと見つめていた室長。

「だからこんなに着ないと。」膝に沢山の服を抱え込み言う。

「じゃあ、今度からはオレが迎えに行くから。」顔に手を当てられた。

「無理ですよ、誰かに見られたら不味いんですよね。」

「本屋で、お前を見掛けた時に、ビックリした。モコモコとした格好で歩いてくるお前可愛すぎて誰にも見せたくなかった。」

室長が私の膝の上に乗っかった服を後部座席に置こうとしたら、さっきのプレゼントの箱が落ちた。

「あっ。プレゼント」慌てて拾おうとしたら、室長の長い腕が先に箱を掴んだ。

「これ、オレのだろう?」意地悪く言う。

「室長の為に買いましたけど、まだあげません!!」箱を取り返そうと。

「さっきまで架空のイケメンに嫉妬しまくりでおかしくなりそうだった。それをスマホに付けて、安心したい。」

「室長、ダメです。これはクリスマスにあげるんです。」室長の気持ちを知り、グッと来てしまったが何とか堪えた。

「オイ、オレが此処まで言ったのに。」室長に両頬を引っ張られた。

「い”だい””でず。じづ・・じょーー。」

「オレからのお前への想いだ。受け取れ。仕方ない待つか。」紙袋を私に寄越した。

室長に引っ張られた頬を撫でながら

「クリスマスには、一杯の愛あげますから!!楽しみにしていてください。」ニッコリ笑った。



サイドボードの上にあったメガネを掛け、シートベルトを着け、Dにシフトを入れる。

室長は私を見て溜息を付いた。「オレも大分、甘くなってしまった。」

私の目が見開き、今、甘くなってしまったって言いましたーー!?

それは、冗談ですよね。シートベルトをしながら、小さく呟いた。

「室長、何処に行くんですか?」

「メシ食いに行く。朝から食べてないんだ。お前と食べるの何週間振りだ?」室長は運転しながら私の手を握っている。

大きくて、骨がゴツゴツと判る男の手。

私の手なんて、すっぽりと収まってしまう。

ただ握ってっくれるだけじゃなく、ゆっくりと私の指先を弄ぶ。

この指先が私に触れる度に、ビクンとなる私。

それを楽しむようにもっともっと絡めてくる大人な室長。

車の温度は、セーターだけになったはずなのに、段々熱くなっていた。


「2週間と一日振りです!!」

「オイオイ、随分きっかりと。」

「自分の気持ちが判るまでの日数ですから。」ポツリと言った。

車のエンジン音と静かな曲が流れている中、ポツリと言った言葉が室長に届いた。

握り合っていた手を室長の口元に持っていき、優しくキスをされた。

「お前の事、ズーッと待ってた。天然シン・チェギョンを何年掛かろうが、待つ覚悟でいた。」

室長の言葉を聞き、私はビックリして室長から目が離せなくなった。

「オイ、そんなに見るな。今直ぐに襲いたくなる。」手をギュッとされた。

車が信号で止まり、私は前のバスの後部座席を見上げると。

高校生カップルが、誰も見ていないと思って、何回も軽いキスをしていた。

他の人のキスを見るなんて初めてで、真っ赤になる私。

「あんなキスよりもっと凄いのしているのに。」室長の声が私の耳元で響く。

そっかー、あんなのより凄いのしてるんだよねー。

はずかしーーー!!

でも、恥かしいけど、もっとしたくなる、室長とのキス。

室長の顔が近いのに私は室長に顔を向ける。

室長の口元から舌先が出てきた。

誘われるように私の口元から舌先が小さく出た途端。

舌先同士がなぞり合う。

優しいざらざら感がもっともっと室長を感じてしまう。

室長がもっと欲しい。

でも、舌先は私の舌から離れていく。

室長は何もなかったように車を走りださせた

室長、なんだか知らないけど、体が奥底で火が付いたみたいに熱い。

室長への想いを愛と判った途端、想いは急速に加速していく。

好き。ううん大好き。もっと足らないかもあた。

運転している室長の姿をチラチラッとさり気無く見る。

アジア人としては、高すぎる鼻。

それにこの冷たい目が前までは嫌いだった。

そして口もこの口から何度も出た仕事へ注意事項それをこなせない私への嫌味な言葉。

それが。

冷たい目の奥に、私だけが写る時に優しい変わる

あの憎たらしい口は、私へ色んなキスを教えてくれる。

室長への気持ちがあふれ出した今、その全てが愛おしい。

チラチラと見られている室長は「オイ、後でゆっくりと見させてやるから、そんな見方されていると、気になって仕方ない。」あきられる。

そんなに見てないですーー。」唇をすぼめてブーブーという。

「おっ、可愛いブタが助手席にいる。」

「室長ーーーーー!!」怒ったが、絡めていた手が離れて、私の肩を抱き寄せた。

室長の大きな手が室長の胸元に私を寄せた時

「可愛いブタさんが自分の想いに気が付いてくれたお礼を今日はたっぷりとしないとな。」優しく言った。

私の好きな声が優しく語りだす時、私は室長の香りに包まれて目を閉じた。




「チェギョン、チェギョン。起きろ。」か揺さぶれる。

「はい!!起きました!!」私は気持ちイイ場所から離れた。

「もう着いたから、降りろ」室長はドアを開け、降りて行った。

私も慌てて膝の上のモノを持ち慌てて降りようとしたら、ドアが開いた。

室長の大きな手がゆっくりと差し出される。

無意識にその手を取り、ゆっくりとそして力強く引かれた。

「ここはオレのとっておきの所だ・・。」セーターのまま降りてしまい、慌ててコートやマフラーを巻いた。

「又、そんなに着込む。」あきれた声。

「あっ、カーディガン車の中に。」

「カーディガン忘れてなぜプレゼントを持つ?オレには未だくれないんだろう?」聞く。

「慌てちゃって。間違って取ったみたいです。」ポリポリと頭をかく。

室長は呆れながらも私の手を取り、とっておきの店の駐車場は裏にあり、私達は表玄関を目指した。

表玄関に着き、店の名前と建物の名前を見た途端。

私の記憶が蘇る。

色んな映像が過去に戻っていく。

その中の一つの映像がバン!!っと私の目の前に広がる




「オレと結婚してくれないか?」

室長のプロポーズは玉砕した。室長の切れ長の目から、一筋の涙が落ちていた。




忘れてた。



「此処のメシは上手い。それに席が皆個。」

「知ってます。X月X日に合コンここでしました」

「合コンって?」室長の声が荒くなろうと。

「同じ日に、私は扉の開いている所から男の人が女の人にプロポーズをしているのを見てました。」」

俯いたまま小さい声でポツリポツリ言っていると、室長の顔が変わる

「断られた男性は涙を流してガックリしてました。」私の顔がゆっくりと上がる。

私の目から一粒の涙が落ちていった。


「自分の気持ちに精一杯で、すっかり忘れてました。

その男の人の名前は、イ・シンさん、私の上司でした。室長には結婚したいほど好きな女性がいたんですよね。

それなのに。


なんで?なんで私に付き合おうと言ったの?

からかってるんですか?

男と付き合ったことのないバカな私を、からかおうとしてたんですよねようやく自分の気持ちに気がついたのに。」


「チェギョン!!」


「室長大成功でした。騙されちゃいました。」クルッと向きを変え私は走り出した。

赤になり始めた傍の横断歩道を走り抜けた私は、全速力で逃げ出した。

私の名前を呼ぶ声が聞こえたけど、私は走り続けた。