あの泣き続けた日から、何週間も経った。

室長から何度も食事のメールを貰っていたが、断り続けた。

毎日着ていたメールも、段々来なくなり2・3日前から室長と言う名は見えなくなった。

元々、室長のあの言葉から始まった間柄。

私が応じないと、この関係は何もなかったように、終わるだろう。

ただ同じ仕事場って言うのが、辛い。

毎日顔を合わせ,毎回注意され、怒られている。

ちゃんと、仕事に徹する室長。

私の事は、甘やかさない。






残業の終わった日。

残った少人数で、食べに行こうと話しあっている時、先輩が室長に声を掛けた。

「室長も一緒に行きませんか?パスタの美味しい店があるんです。」

質の良いカバンに書類を入れていた室長と、私は目が合ってしまい,気まずく目を伏せる。

室長は、黙って私を見ていたが「嫌、今回は遠慮させてもらう。」カバンのチャックを閉め、傍にあったトレンチコートを着る。

「えーーー!!行きましょうよ。」みんなが騒ぐ。

その中で、私だけが何も言わず室長の姿をこっそりと見ていた。

相変わらず、カッコいいなー。

そこら辺のチャラチャラした男子みたく、俺カッコイイだろうと、自慢したような格好ではなく。

自然なスーツの着こなし、仕事重視の髪形、メガネ。

どれをとっても・、カッコ良過ぎる。

そんなスマートな室長とキスした私は、人生の幸運を皆使ってしまったんじゃないか!!と思う。




あの夜の日もガンヒョンは私を正した。

「本当にキスしたくないって言ったの?」

「言ったよ。」又涙が出始めた。

「こらっ!!もう泣くな!!で、アンタは何で泣いてる?室長の事苦手だったアンタは何で泣いてる?」と意味深な言葉を投げかけてくる。


「・・・・・わかんない・・。」涙を止めようとしているが、止まらない。

「わかんないって、アンタねー。自分の気持ちも判んないのに、泣いてるの?」呆れるガンヒョン


「だって、わかんない!!ズーッとユル君の事が好きだったのに、室長と食事して段々室長の良さを感じていて、段々室長の事ばかり考えていたら、ユル君は妻子持ちだったし、完全な一人恋心が失恋しちゃったのに、直ぐに室長とキスしちゃって、もっともっと室長とキスがしたいって、室長への気持ちが判らないのに、室長とキスしたいの。こんなスケベな私、自分でも呆れる。」ブツブツ言っていたのを、聞いたガンヒョン。

「ふ~~~ん、室長とのキスは良かったんだ。」ニヤニヤする。

「何でそこだけ、言うの?」涙目で睨む。

「やっぱ、室長って上手いの?」目がキラキラし始めたガンヒョン。

泣いていたはずなのに、室長とのキスを思い出し、心臓の鼓動が早くなり、体が熱くなる。

「何も考えられなくなる、もう室長の事しか見えなくなるほどおかしくなっちゃう。」真っ赤になった頬をギュッと両手で押さえる。

「いいなー、私もそんなキスされてみたいーーー!!」怒るガンヒョン。

「あれ?ギョン君は?」

「あーーッ、アイツは、ダメダメ。勢いだけが凄くて、場の雰囲気を考えない。」嫌そうに言う。

場の雰囲気を考えないと言う言葉を聞き、会議室を思い浮かべる。

あの誰か来るのか判らないとこで、2人キスをした。

もっともっと、キスが欲しいと言ったのにダメという言葉。

「わーーー、何思い出して、又泣いてるの!?」ガンヒョンは怒った。






皆に囲まれて、困っている室長。

全くモテ過ぎです。

あっ、そんなとこ触んないでよ。ずるい、だって触った事ないんだからーーとムッとし始めたが、ハッ!!と気が付く。

室長は私の彼でも何でもないのに、一人で何怒ってるのよ。

「えーーー!!室長、誰かとお食事ですか?」

「嫌、最近は食事は一人だな。」寂しそうに呟いた。

ハッと顔を上げると、室長と目が合う。

「えーー!!じゃあ、尚更私達と行きましょうーー!!」腕を組まれていた。

その姿を見てしまい、何でかイライラしてしまう。

「今日は、帰ってから仕上げないといけないプランがあるから、これを足しにして行って来なさい。」室長は財布を出して、お金を数枚出した。

あっ、その財布。

室長と何度か食事に行く度に、出していた財布。

有名ブランドのものじゃなく、ヌメ革の財布。

あーーッ、この財布素敵だー。色合いがアメ色部分が多くなっていて、イイ感じ。

私が繁々と見ていると室長が何だ?と言う顔をする。

「財布、素敵ですね。室長だったら、有名ブランドでギラギラしているかと思いました。」

「まさか・・、有名ブランドも良いかも知れないが、オレはこういう自分の手にしっくりくる方が好きだな。」

「・・・。」

「女も同じだ・、キレイでゴテゴテ飾る女より、オレにしっくり合う女が良い。」意味ありげに笑っていた室長。

そんなに遠くない過去なのになぜか思い出し、心臓が辛くなる。

「じゃっ、皆で楽しんで。明日は土曜日だから、いっぱい楽しみなさい。」室長は私の横を通り過ぎて行った。

通り過ぎる時に、香る室長の香り。

あの時から、室長の傍に寄らないように、香りを吸い込まないように努力していたのに、今その香りが体全身に行き渡る。

室長!!

室長への気持ちが判らないのに、食事なんて一緒にすれば、又キスがしたいって、ワガママを言うに決まっているから、断り続けていた私。

でも、その誘いも無くなり始めていた。

やっぱ、嫌だ!!

このまま、室長と何もなくなるんて、嫌だ!!私の体は自然に動き出した。

部屋から飛び出し、室長を追う。

あっ、エレベーターに乗るとこ。

私は走り、エレベーターの前に辿り着くと、扉が閉まりそうになり、中の室長がスマホを持って打ち始めている姿をチラッと見えた。

扉はそのまま閉まり、階数の数字が段々下に下がり始めた。

息が上がった私は、泣き崩れた。

「チェギョン!!」突然走り出した私の後を追い、ガンヒョンが追いついた。

泣き崩れている私の傍にしゃがみ。

「チェギョン、何で走ったか判った?何で泣いているのか?もう判ったでしょう?」

「ガンヒョーーーンーー!!」ボロボロ泣きながら顔を上げる。

「全く・・世話が焼ける。初心なアンタには、本当の気持ちを知るって大変だったみたいだね・・。」泣き続ける私の頭を撫でた。

「アンタの素直な気持ち、あのレベルの高い男に言ってごらん。」ニコニコ笑う。

2人で話していると、残業組みがやってきた。

「アレーー、もう行くわよ!!」

「先輩。私とチェギョンは用事が出来ました、うも済みません。とガンヒョンは呼び出していたエレベーターに飛び乗り、私を引っ張った。

「ガンヒョン!!いいの?」

「アンタの告白大作戦、考えなきゃいけないから、先輩達に付き合っていられない!!」と鼻息も荒く言った。


「ガンヒョン、そんなに・・」

「アンタねー!!まあ、良いわ!!家に帰ってから、みっちり教育だーー!!」私の首を腕を回し、ガッツポーズを決めていた。



家に帰ってから、しっかりとガンヒョンに教え込まれた私。

来週に室長を私から誘う計画を立てた。

なぜなら、来週にはクリスマスという神様の生まれた特別な日が待っていた。

私は、デートで忙しいガンヒョンに付き合ってもらえず、一人でクリスマスプレゼントを買いに来ていた。

オシャレな店に来て、色んなモノを見ていたが、28才の男性に贈るのって、どんなのがいいのか。

さっぱり判らない。

雑貨屋さんの隣には、本屋がある。この二つは繋がっていて、外に態々でなくてもいい。

この店に久し振りに来た。

この店は新しい本とか、座って読める場所があり、そして飲み物もオーダーできた。

休日に一人でいる時、良くこの店に来て、本を読み時間を過していた。

クリスマスプレゼントを悩みすぎた私は、疲れを癒す為に、雑誌を探しお茶しよーと、本棚に向かった。

ファッション雑誌を探していると、人にぶつかった。

「済みません!!」と頭を下げると、Dr、マーチンのブーツの先が見えた。

あっ、私これ欲しいんだよねー。大きい足、男の人なんだ。

フッと頭を上げて、通り過ぎようとすると。

この香り!!

背の高い人の顔を見上げると。

室長。

ボーっと見上げていると「オイ、顔になってるぞ。」笑われた。

「室長!!」

「声大き過ぎ、トーン下げろ。」言われた。

目の前にいる室長を私はただ見ている。

何このカッコイイ、室長!!

自分が何を着たら似合うって言うのを、ちゃんと判っている人。

タートルネックにコートを羽織り、ベルトで線の細さを出し、アーミーパンツを履き、靴はDrマーチンでビシッとなり過ぎないように、崩している。

スーツでもカッコイイのに、私服もカッコイイなんて、レベル高すぎです。

「本買いに来たのか?」と室長の優しい声は仕事とは違う。

「いえ、プレゼントを買いに来ました。

クリスマス用にいっぱいガンヒョンと考えていた言葉はすっかりと忘れてしまい。

混乱した私は、素直な気持ちを言った。

「そっかー。じゃっ。」と本を持ち行こうとした室長。

昨日と同じく、私の前からいなくなろうとしている室長。

慌てて私は、室長のコートを掴み



「プレゼント買うの付き合って下さい!!」言った。