トソッチョン (土俗村) で待ち合わせをして、サムゲタンを頂いた。

「暖まるーー!!」濃厚なスープを口にして、ニターッと笑う。

「全く、何時も上手そうに食べるなー。」ちょっと呆れ顔の室長

「室長ーー!!このサムゲタンをまずいと言う人は中々いないですよ。」イヤーな目で見る。

「まずいとは言ってないぞ。」一口、口に入れた。

なんて、優雅に食べるんだろう。

何時も思っていた。

室長って、食べる仕草がキレイなんだよね。

何時も見惚れてしまう。

私なんか、何時も零しちゃったりして、恥かしい。

温かいサムゲタンを飲む姿が、様になる男って、室長位じゃない?

チラ見で、食べ方を真似したが、ズルって音を立ててしまった。

もーー!!女なのに、スープも上手く飲めない。一人落ち込んでいると。

「作法なんて考えるな。自分の食べ方で食べろ。」私を諭す。

そして、一さじのスープを掬い、私の口元に差し出す。

「どんな食べ方だろうが、うまいもんは上手い。」室長が笑う。

私はゆっくりと口を開き、室長からのスプーンを口に含んだ。

「美味しい。」ゆっくりとスープがノドを通っていく。

そしてそのスプーンは、スープを掬い室長の口元に運ばれていった。

ドッキーーーン。

室長ーーー!!それって、間接キス?

キムパを頬張る室長は、パクパクと口を動かしている私の口元に、キンパを突っ込んだ。

「じづじょーーーっ。」頬いっぱいになった私はフガフガと言う

「全くお前との食事は何時も面白い。」アハハッと笑う室長。

口の中でモグモグと噛み締める私。

私は室長との食事は、心臓が壊れそうで大変です。

「室長、聞こうと思ってたんですけど、頬の傷うっすらと残ってます。」私は言う。

「あーーッ、じきに治る。気にするな!この傷でお婿にいけなかったら、チェギョンに貰ってもらから。」ニヤッと笑いながら私を見る。

「全く、茶化さないで下さい。やっぱ、ちゃんとした病院に行きましょう。」

「大丈夫だから、心配するな。」私の頭を撫でてくれた。

まるで、お兄さんのようにやさしい。

男の苦手な私の為に、ずっと付き合ってくれている室長。

あの仕事の鬼がこんなに優しい人だったなんて、あの頃は全く思っていなかった。

それに、ユル君の事で泣いている時も、ズーッと付き添ってくれた。

私はただ室長の事を見続ける。

「なんだ?そんなに見るな。」食事の終わった室長は、お茶を飲む。

私は最後のキンパを口に入れて、モグモグと噛み締めた。

ずーーっとユル君の事だけ思ってきたのに。

昨日のユル君に会う前から、ちょっとずつ私の気持ちは変わっていた。

そりゃー、ユル君が子持ちだったのは、本当に悲しかったけど室長が。

私の心に室長が住み始めた。

日に日に大きな存在になっていく室長。


幼い恋とは違う、大人な室長への想い。

この気持ちは、どうしたらいいのか自分でも持て余す。

昨日、やけくそで大人にしてください!!ッて頼んだのに、微熱があることを理由に断られた。

優しくて大人な室長。

あの時に言った「付き合うか?」と言う言葉は、出たことがない。

「さっ、もう行くか。」室長は立ち上がり、上着を着た。

細みなワイシャツで、腕が長い室長。

勿論足も長い。

2人で並ぶと、腰の位置が全く違う。泣

さり気無く会計に立ち、支払いを済ませる室長。

傍に立ち払おうとしたのに、室長に止められた。

「昨日私にずーーッと付き合ってくれたお礼に、食事奢りたかったです。」

「男は女の分まで出すのが、当たり前。」ボソッと言う室長。

出した財布の行き場がなくなり、カバンの中に入れた時、フッと入り口のとこに目が行った。

ガラス扉の向こうに、白いものが落ちてきた。

「あーーーー!!」と私は外に出て、それを確かめようと。

ガラス扉を開けた瞬間、忘れてたーーー!!

ここ段差だったーー!!

私の体のバランスが崩れ、石の階段を踏み外そうとした時。

私の体は力強い手で、がっしりと掴まれた。

「間に合って良かった。ここは段差があるんだから、怪我するとこだったんだぞ。」室長の顔が真剣に怒っている。

室長の手は私のお腹をしっかりと周り自分の体に引き寄せた。

「全く目が離せない。」私を抱きしめ、溜息を吐いた。

「室長、済みませんでした。」ギュッと抱きしめられて、息も出来ない。

今日は冬型の低気圧が発達して、あの予報が出ていた。

室長はスーツの上にコートを羽織っていた。

膝上のトレンチコートは、ますます室長のフェロモンを倍増させる。

室長に抱きしめられ、良い香りに包まれていると。

目の前に、白いものが降りてきた。

やっぱ、さっきのは見間違いじゃなかったーー!!

よかったーー。

室長のコートの袖に初雪が落ち、直ぐに溶けていく。

その光景を黙って見ている私。

確か、初雪ってカップル達が見ればイイという話しだけど。

微妙な関係な私達。

「初雪か。」室長の良い声が私の顔の傍で聞こえた。

ゆっくりと離れていく室長。さっきまでの力強い体が離れ寂しい

でも、室長の手は私の手をしっかりと握っていた。

石の階段を降り、私は前を歩く室長の背中を見つめる。


室長の車までの短い距離なのに、繋いだ室長の手のひらの温かさを知る。

大きな細い手がギュッと私の手を握り締め、私の体の血が全部手の平に集まっているんじゃないかと思うくらい、ドキドキしている。

室長の黒い車に着くと、室長の手が私から離れていく。

ドアを開けて貰い助手席に座ると、膝の上の手が熱い。

さっき室長と繋いでいた手が断然に熱い。

室長も車に乗り、エンジンを掛けた。

「シン・チェギョン。」室長は私の名前を呼びながら、右手を大きく開いた。

そして私の左手を掴み、自分の手の平と私の手の平を合わせた。

室長の行動に頬が真っ赤になる。

室長の指はゆっくりと、私の指の間に入っていった。

ギュッと重なる二人の手。

室長は左手で、シフトレバーをDに入れた。

「で、何処のカラオケ屋に行くんだ?」静かに笑った。

私は室長の顔をグッと見た。

こんな事をしておきながら、普通に聞いてくるなんて。

大人の余裕な態度をまざまざと見せ付けられ、私は一人で真っ赤になる。

くーーー!!

室長の事、意識し過ぎて、もーー思考がパンク状態です。

こうなったら「もーーー!今日はガンガン歌って、飲んでやるーー。」室長を睨む。

「アハハッ、程ほどにな。」2人の会話は全く色気がないけども、二人の繋いだ手は離れる事はなかった。



 

 


カラオケに着き、私は手馴れた手順で注文し、そして曲を入力していく。

今流行の曲を振り付けしながら歌う。

「オイ、仕事より活き活きしてるな。」室長は呆れる。

だってこうでもしないと、私きっと室長に言ってしまいそうだ。

タバコを吸い始める時、室長は換気扇の下に行く。

私といる時には、出来るだけ吸わないように、我慢しているようだ。

でも、こんな所では、やはり口が寂しいみたい。

ハイテンションな曲を歌っていても、どこか室長を探している。

タバコ吸う姿も、決まっているなー、ずるいよ。

歌い終わり、私は一気に焼酎を飲んだ。

「ふーーー!!ちょっと頑張っちゃっいました。」ビールを一口飲む

「室長も、歌ってください。」曲を選択する機械を渡す。

タバコを口に咥えたまま、入力する室長。

私は、ポテトやポッキーを食べながら、黙って見ている。

ユル君に振られて、ドーーーンと落ち込まないといけないのに。

なぜか。

室長の事しか、考えていない私。

あの長い間、ずっとユル君だけ思って生きてきたのに。

室長から「付き合わないか?」言われてから、1ヶ月位しか経っていないのに、私は頭の中は、世界で一番苦手な室長の事しか考えていなかった。

曲が始まり、室長ならバラードかなーと思っていたら、軽快なリズム。

へーー、意外。ポッキーを食べながらモニターを見る。

室長の歌声は、やはり上手かった。

音程通りに歌っていて、その上あの良い声なんだも。軽快なリズムでも皆惚れちゃうねー。と思う。

この曲のサビの所に差し掛かると「キミが大好き。キミがいう言葉が連呼する。

えっ?

ポッキーを咥えたまま、私は固まる。

室長はこの曲を歌いながら、私の傍に寄りポッキーの端に口をつけて食べ始めた。

室長の顔がゆっくりと近づいて来る。

ポッキーは最後まできて、もうお互いの唇分しか出ていない。

「キミが大好き。キミが大好きなんだ。」歌の歌詞なの?、それとも室長の気持ちなの?

私と室長の唇が重なった。

ゆっくりとついばむように、キスをされる。

何度も何度も室長の唇は、私の唇と重なった。

キス。

中学校以来した事がなかった。

幼いキスはお互いの唇をただ重ねるだけだったが。

室長のキスは優しく優しく、甘く蕩けそうになってしまう。

薄暗い部屋私と室長はただ夢中にキスを重ねる。

ズーッと味わっていたいキスだったのに、私の口の隙間から室長の、

えーーーーーーー!!!

これって、もしかして間接キスってもんじゃないですよ。

息も出来ない位、室長の熱い舌は私の舌を絡め私を苦しめる。

さっきまでのキスのほうが好きだったのに。

好き?

キスがすきなの?

それとも、室長の事が?

息の仕方も忘れる位、室長のキスは強烈だった。

奥手な私にとって、人生2回目のキスは、凄過ぎて室長の事しか感じれなくなっていた。

2人っきりのカラオケルームに、室長の選択したバラードが何曲も流れ続けている間、ずーーーッと私達はキスをしていた。