「シン・チェギョン、本当に久し振りだね。」

「ユル君・・・?」

「あっ、気が付かないよね?僕、韓国に戻ってきてから、ポッチャリしちゃってー。」

ポッチャリ、まさにポッチャリ。

「パパこの人誰?」ドレスを着た可愛い女の子。

パパってユル君の子供。

「パパの中学校の同級生だよ。」女の子を抱き上げる。

そんな同級生で終わらせるの?駆け落ちまでして、離れたくないって2人泣き続けたのに。

「貴方。」ウェディングドレスを着た奥さんが言う。

「あっ、紹介するよ。僕の奥さんなんだ。出来ちゃた結婚で、ようやく今日子連れ結婚式挙げれたんだ。」幸せそうに言う。

「チェギョンそのお方は?旦那さん?」幸せいっぱいのユル君が聞いてくる。

「えっ?旦那さん?」

室長・・?

室長!の存在を忘れていた私。

あまりにものショックで、ハッと気が付いた。

横を見ると、私の傍に寄り私の体を支えてくれていた。

「いえ、良いお付き合いさせてもらってます。早く私達も、イさんのような幸せな結婚したいです。」何時もの仕事の時の声になっていた。

私達付き合ってません!!と言うつもりが、室長に背中を叩かれた。

ユル君の奥さんが「素敵な人ですね。まるでモデルさんみたいです。私はやまっちゃった。」笑っていた。

「おい!!冗談でも許さないぞ。」じゃれ合う。

幸せそうな家族。

「じゃあ、これから家族で新婚旅行なんだ。じゃっ!!シン・チェギョンも幸せになって。」3人は下に降り。

小さな女の子は,抱きかかえてくれているユル君の頬にチュッとキスをした。

デレデレなパパさん振りを見せ付けたユル君は、私と室長に手を振り白い車に乗り込んで行ってしまった。

後に取り残された私と室長。




「・・・・馬鹿・・・・馬鹿みたい・・・。」

涙が、さっきまで、余りのショックで出てこなかった涙が、ボロボロ出て来た。

「ずーーーっと、待っていたのに。ユル君をずーーっと待っていたのに。」

「痛い、痛い。」足首と膝が痛くて私の体はずり落ちていく。

「室長、私、馬鹿でしょ。室長が言っていたみたくなっちゃった。駆け落ちまでして本当に好きだったのに。

幼い恋だったけど、本気だったの。今までずーーッと好きだったのに。」涙が止まらない。

「チェギョン。」崩れ落ちた私の前に、室長は膝立ちして私を抱きしめてくれた

「チェギョン。」優しく私の名前を呼び、優しく背中を抱きしめてくれる。

「室長。室長ーーー!!」ボロボロ涙は落ちっぱなし。

「オレが傍にいてやるから、いっぱい泣け。」優しい声は私の体に染み渡る。

泣き続けた私。

このレストランの前でやっているのは、迷惑だと思い。室長は漢江の公園に連れて行った。

ベンチに座り、まだまだ泣いている私に温かい缶のミルクティを持って来てくれた。

短い秋が終わろうとしているので、夜はコートを着ていないと肌寒かった。

2人でベンチに座り、漢江を見ている。

私は涙が止まらないまま、温かい缶を持っている。

室長は缶コーヒーを持ったまま、何も言わない。

温かいミルクティの蓋を開け、泣きながら一口飲んだ。

「温かい・・・。」

「少し・・落ち着いたか?」優しい目の室長。

私は首を横に振り「まだ。」とうな垂れる。

「そうだよな。ずーっと迎えに来てくれるのを、待ってたんだよな。」私の頭を撫でてくれる。

又、2人は何も言わずに、漢江の流れを見ていた。

時間と共に、私の涙が段々止まってきた。

「室長、今日は有難うございました。室長がいなかったらあの仲の良い夫婦に言っていたかも知れなかった。

ずーーっと待ってたって。私が勝手に待ってただけなのに。」顔を真っ赤さにさせて、苦笑いをする。

「無理するな。」崩れた髪の毛を、横に流してくれる。

ドキン!!

室長の仕草に、心臓が跳ね上がる。

食事をせずに私にズーッと付き合ってくれていた室長。

氷・般若・ロボット、、ううん。いい人。もう酷い言い方しません。

食事の回数が増える度に、室長の冷たい顔の下の優しい気持ちが溢れ出てくる。

仕事では、あんなに厳しくて泣きそうになるけど。

2人っきりの食事だと、私をとことん甘えさせる。

どうしてこんなに変わるのか不思議。

仕事とプライベートを、しっかりと分ける大人な室長。

「室長・・・、私のバカな記念日なんですけど。もう一つの記念日にしたいなー。」

「オレで良ければどこまでも付き合うぞ・・・、カラオケか?それとも居酒屋か?」笑う室長。

あれ?笑った顔やっぱ可愛い。私はボーーッと室長を見る。

「そんなに見るな。惚れたのか?」茶化す。

室長なら、大人な室長なら。

「私を大人の女にして下さい!!」真剣に言った。

室長の手から缶コーヒーが落ちた。

あっ、やっぱりブラックなんだ。と別な事を感じた。

「オイ、今なんて言った?オレの聞き間違いか?」マジマジと見る。

「言いましたよ。幼い恋を忘れる為には、大人にならないとね。」

室長はガックリと頭を抱え込む。

「シン・チェギョン、やはりお前は理解不能だ。何を言い出すのか判らない。」

「へっ?」

室長は突然立ち上がり、私の腕を掴みビリビリ引っ張って歩きだした。

「ちょっ、ちょっと室長。早いって!!足が痛いんだってーー!!」さっき捻ったとこが痛い。

チッ!!舌打ちした室長が、私の腕を離し腰に自分の腕を回して、一気に肩に担いだ。

「えーーーーーー!!!」急な行動に、私の足はバタバタする。

「暴れると落ちるから、黙ってろ!!」室長の腕がしっかりと私の太腿を固定する。

この細い体にどこに力があるのか不思議。

私を担いだままこの公園を離れていく。

何時もと違う逆さまな風景。

不思議。

夜空も逆さまだーー。

担がれているのも忘れ、私は今この時を楽しんでいた

じゃないと、又泣きそう・・・・。

室長の車に乗せられ、車は急発進をして、公道に出た。

「室長!!飛ばし過ぎです!!」シートベルトを摑んだ。

「オレの気持ちと、お前の気持ちが変わらない内に辿り着かないといけないからな。しっかり摑まってろ!!」車は、グングンスピードが上がって行った。

あれ?色んなホテルを通り過ぎ、私は?マークをあげた。

何処に行くんだろう。

ホテルじゃなくて、ラブホ?

ウッ!!初心者にはまだ早いような。

でも、室長を誘ったのは、自分だ。何処でも受けて立つ!!



車が止まった。

私は、心を決めて、よし!!とフロントガラスから前を見ると。

あれ?見た事のある風景。


ここ、私とガンヒョンの家。

室長は私を又担いで、階段を登っていく。

ドアの前に立ち、ドンドンと叩く。

「オイ、キム・ガンヒョン!!ここ開けてくれ!!」室長が言う。

ドンドン叩いても、ガンヒョンは出て来ない。

「オイ、鍵は?」

私は降ろしてもらい、カバンから鍵を出して・・・ドアを開ける。

私が中に入ると、室長も入って来た。

ドアがバタンと閉まる。

ドキン!!体が跳ね上がる。

ここでやるんですかーー!?

ここだと何時、ガンヒョンが来るか?真っ赤になって室長を見上げると・・。

「お前、オレを誘ったが。今日は止めとく。」見下ろされる室長の目は優しい。


「お前、今日・・・微熱っぽい顔してた。本当は熱あるんだろう。それに足捻ったから・・・、シップ張ってやる。救急箱出せ。



・・・・。



「早くしろ!!」

「はい!!」と私は慌てて、救急箱を出した。

体温計を口に入れて計っているうちに、室長は器用に私の足にシップを貼って包帯を巻いてくれた。

それと同時に体温計の終りの音が鳴った。

「ほらっ、37,6度微熱さっき漢江でズーっといたのもダメだったな。


着替えて寝ろ!!」と私は。隣の部屋に押し込まれた。

着替えて終わって出て来たら「薬飲んで寝ろ!!」とさっきの救急箱にあった薬を渡された。


「ガンヒョンが来るまで、付き添ってやるから、早く寝てしまえ。」と室長は壁に寄りかかった・・。


マジですか・・・?

室長・・・そんなこと・・したら・・・かっこよすぎじゃないですか・・・。


頬が熱くなるのが、判ってきた。


あっ・・・微熱が・・・、上がり始めてきた。


布団の温かさ・・・、室長の温かさ・・・、二つの温かさに包まれた私は直ぐに・・・眠りに入った。



ふと、目を覚ましてしまった。

虚ろな目で横を見ると・・人影があった。

寝ぼけた脳ミソが、はっきりと起きた。


壁に寄りかかり、眠っている室長がいた。


「・・・室長・・・。」掠れる声は、室長には届かなかった。


メガネを外して、静かに寝ている室長・・。

ワイシャツを緩めて、ジャケットを膝に置いていた。

幾ら部屋でも、この部屋では寒すぎる。


私は静かに起きて・・ガンヒョンの方を見たら・・彼女は帰ってきていなかった・・。
時計を見ると、午前3時。

今日はもう来ないね。

私はガンヒョンの掛け布団を室長が起きないように、掛けてあげた。

そして、慌てて布団の中に入って、室長が見える向きに顔を変えた。

薄暗い中でも判る、室長の整った顔。


心臓がドキンドキンと高鳴る。


こんな気持ち・・・ユル君の時には・・・・なかった。

私は・・真っ赤になりながら・・ずっと室長の寝顔を見ていた。