地下鉄に乗り、狎鴎亭(アックジョン)駅を目指す。

電車から降りて、ゆっくりと「ON River Station」のONと言う大きい看板通りに歩いていく。

室長から指定された店は、オシャレな店で私は1回も入ったことがなかった。

だって、こういうとこって、カップルやお金持ちの人達がはいるんでしょっ?

私には縁のないとこだ。

でも、室長には似合うよね。私には、似合わない。

ONとデカイ看板のレストランが見えてきた。

キレイ・・・。

漢江を挟む彩り豊かな橋たちの光。漢江の小波もキレイ。

私の住む反対側のこっちは,お金持ちの住む地域。
 

何時も憧れの眼差しで見ていた向こう側。

電車で来れば何時でも、来れたのになぜか橋を渡らなかった。

最初で最後のとこに行く。

それなりな格好に着替え、それなりな髪型をしてきた。

室長と食事をするのは、最後なんだから、ちょっと位オシャレしてみた。

私だって、これ位出来るのよって、見せたかった。

私は、レストランを見上げ、足を踏み出した。

正面入り口の階段を上がっていくと、カフェ&レストラン。

大きなガラスが漢江のキレイな夜景を思う存分写している。

そして赤いソファが置いてあるとこに、カーテンと言うには見え過ぎる黄緑のカーテンがあった。

キョロキョロと見渡すといた。

私がこんなとこにいると、オドオドしてしまうけど室長は違和感もなく座っていた。

いろんなお客さんから、チラチラ見られ声を掛けられている室長。

凄い。


室長と食事をする回数が両手でも足りない位になり、その度に判る。

室長は、女の人にもてる。

私が傍にいても、平気で声を掛けてくる女性達。

そんな人を相手にしない室長。

で、皆私を見て「アンタなんか似合わない。」捨て台詞。

室長の下で働くようになっても、全然知らなかった室長のこと。

余りにも苦手でずーーッと見ないようにしていた。

とにかく酷いあだ名ばかりつけていた。

氷・般若、ロボット、私ってヤツは酷かった。

室長は、真っ赤なソファに座り、漢江の夜景を見ていた。

絵になる。

大人な室長とこういうレストラン、やっぱり似合うね。

自分の足元を見る。3万ウォンで買ったハイヒール。

アハハッ何かここじゃ場違いだね。

室長の下に歩き出す。

歩きなれないハイヒールは、ヤッパぎこちない歩き方になってしまって恥かしかった。

ガラスに写った私の姿を見つけ、慌てて振り向いた室長。

私の顔を見てちょっと驚いていた。

そして、咳払いをして居心地の悪そうな顔をする。

えっ?それなりに頑張ってきたけどヤッパ、トホホっ似合わないよねー。

でも、もう来てしまったから、仕方ないっ。

「室長。」頭を下げた。

「来たな、待ってた。」私をソファに勧めた。

暫く黙っていたが

「室長、昨日の事済みませんでした!!」頭を下げた。

「室長のお顔にキズを付けてしまい、慰謝料はちゃんと払います!!」頭を下げたまま言う。

「オイ、慰謝料って。」

「だって、頬を引っかいてしまって。」

「そんなのいらない、取る方がおかしいだろ。オレが焦り過ぎたんだ。奥手なお前だからゆっくりと進めないといけなかったのに。」都合悪そうだった。

「それでも!!やっぱ、私がダメなんです!!慰謝料」

「シン・チェギョン。いいから。」室長の真面目な目付き。

この鋭い目付き、この目で見られると体が動けなくなる。

だから、余り見ないようにしていたのに。

そこに店のオニーさんが、サラダを持って来てくれた。

「スモークサーモンとエビのフレッシュハーブサラダです。」山盛りのサラダは私をビックリさせた。

「とにかく今は食べよう、もう腹減ったろ?」取り皿を取ろうとしていたのを、「あっ!!私がやります。」慌てて取り皿を取り、室長の分をとった。

自分のを分けながら「室長、私もうこういう事2人っきりでの食事、止めようと思うんです。」

室長の箸が止まる。

「室長が、男の苦手な部下の為に、やって下さるのは嬉しかったんですけど、やっぱ室長はハードルが高過ぎて、私には無理でした。

男の人は苦手でもいいんです。いつかユル君が迎えに来てくれるのを待ってますから。」サラダを取り終えた。

私は口元にサラダを持っていき、食べようとしたら、室長が箸を置いた。

「オレが昨日、お前にキスしようと思ったからか?だから、止めようと言ってるのか?」何時もの声とは違う。

怒鳴られ声、バカにしたような声、それとも違う。低い声には感情が入っていないように、聞こえた。

「上司と2人っきりで食事なんて、最初から。」言葉が終わらない内に、私の右手は、室長の手に握られていた。

「離してください。」

「離さない。」そして私の指を自分の頬に当てる。

「チェギョン、ようやく。」ゆっくりと目を瞑る。

その隙を狙い、私は手を払いのけた。

横に置いておいたカバンを持ち。

「室長との食事はしません」立ち上がって頭を下げ、室長から逃げた。

「チェギョン!!」後ろから室長の声が聞こえたが、私は構わず逃げた。

でも、履きなれないハイヒールは、私の言う事を聞いてくれなかった。

グキッ。

バランスを失った私は、前にズテーーーンと滑った。

「いったーーい!!」

「大丈夫ですか?」

「チェギョン!!大丈夫か?履き慣れないので、走るからだ。」追いつかれてしまった室長に叱られた。

あれ?声が室長の他にもう1つ聞こえる。

私は、恥かしいけど顔を上げて、声のほうを向いた。

そこには・・・・タキシードとウェディングドレス、そして小さな女のコがいた。

えっ?結婚式?

不思議がる私に「ここの3階はパーティ会場も出来るんだ。」私をゆっくりと立たせようとする室長。

「はあ。」さっきまでの勢いがなくなり、でも転んだ膝が痛いし足首も痛い。

「チェギョン・・・?」

「なんですか?室長!?呼び捨ては止めてって・。」

「オレじゃない。」

「シン・チェギョン!!僕だよ。イ・ユルだよ!!中学校以来だね。」ニッコリと笑った。

「えっ?」

目が点になり、私は目の前の人をボーーーッと見ていた。