夏の全国高校野球の決勝戦は、前橋育英が4対3で延岡学園に逆転勝ちし、初出場優勝した。優勝した監督へのインタビューで、指導方針を知り、感銘を受けるのは毎年のことである。今年も深く感動した。
前橋育英の荒井直樹監督は、帽子のつばの裏に「凡事徹底」と書いてあり、日常の積み重ねが結果に出ると信じ、平凡なことの繰り返しを大切にする。エラーなどでは怒らないが、1球を大切にしないキャッチボール・全力疾走をしない・カバーリングをおろそかにするなど、当たり前のことを怠ると叱るという。また、甲子園入り後も、いつも通り選手と共にゴミ拾いをしながら散歩したという。「ゴミを見つけるのは、試合で相手の変化に気付くことにもつながるし、ゴミを捨てなくなるでしょう。社会に出れば野球の実績は関係なくなる。心は一生ものです」と述べている。野球の技術的なことでは怒らないが、生活態度は厳しく指導するのが監督の指導方針なのだ。
高校野球の監督には、魅力ある人がたくさんいる。中でも忘れられない人の代表は、池田高校の蔦文也監督である。徳島県の山間の公立高校で、ヒットがやまびこのように続く「やまびこ打線」をつくり、全国優勝した。腕立て伏せ・ダッシュ・ジャンプなどサーキットトレーニングで、高校生離れした肉体を作り上げて、「遠くに飛ばせ、速い球を投げろ、体で止めろ」と、バントを駆使する甲子園戦法ではない新しいスタイルをつくった。細かい指導はせず、試合中も緻密なサインプレーは求めなかった。蔦監督は、失敗を恐れない思い切ったプレイを目指したのだ。
2002年だったと思うが、当時の国見高校サッカー部の小嶺監督の講演会に参加する機会が有った。チーム作りについて、「選手を型にはめ込むのではなく、個性を生かすようにその年々に応じたチームの組み立てを考えている」と述べ、さらに、Jリーグの教え子を引き合いに出して、「技術的な指導はしていない。個々の想像力やアイデアで上達していった。教えすぎるのはよくない」と述べた。小嶺監督は、選手に考えさせ、長所を伸ばすことを目指したのだ。
9連覇した読売ジャイアンツの川上哲治監督は、「プロの選手として働ける時間は短い。ほとんどの選手は、その後の人生の方が長い。他の社会に入っても、さすがはジャイアンツの選手といわれるように馬鹿にされない人間にしておきたかった」と、マナーを厳しくしつけた。選手には、「後で使う人のことを考えて、トイレのスリッパはきちんと揃えて脱げ」と言い、知人の住職を招いて人間教育を目指した講演を聞かせたりした。また、ミーティングではチームプレイのもととなる「和」といった心の持ち方についても、うるさいくらい話したそうである。
「あれだけのメンバーがそろえばだれが監督でも勝てるとか、ONがいたからだとか言う人がいるが、私はそうは思わない。それだけでは優勝できる年はあっても、9連覇はできない。」と、ジャイアンツへの対抗心を持つ野村克也氏は述べている。
細かい技術指導はしないが生活態度は厳しく指導する荒井監督、単
純明快な蔦監督、個性を生かすことを第一とする小嶺監督、人間教育
を源とした川上監督、それぞれのもとで、優勝を目指して頑張る選手
の幸せを思うと、羨ましく思うと共に嬉しくなるのである。