10月20日、妻の還暦祝いを兼ねて、宮島に小旅行をした。初めて訪れた厳島神社は、平安時代の後期に、平清盛によって修築された神殿造りの社殿と海にそびえたつ朱塗りの大鳥居が、弥山を背景にして心に残る世界をなしていた。高潮の時には、下からに海水の圧力を弱めるための床板の間に目透かしという隙間を設けてある回廊を歩きながら、日宋貿易を推進した平清盛が、航路の安全確保を願い、篤い信仰を寄せたことを思った。また、数年前に観たNHKの大河ドラマの一場面である「平家納経」を思い出したりした。
宮島港と厳島神社の間には、土産物屋が軒を連ねており、名産の牡蠣を使ったものがあふれていた。誰もが知っている名物「もみじまんじゅう」もいたるところに陳列されていた。また、海岸沿いの歩道では、観光客になれた鹿がゆっくりと歩いており、動物をまじかにして温かい気持ちになったが、残念なことが一つだけ有った。それは、鹿の糞がいたるところに有り、足元の注意を怠ると、糞を踏んでしまうことである。匂いも好いものではなかった。足元を気にしながら、吉永小百合が歌った「鹿の糞」について、あの吉永小百合が、イメージに合わないと思う歌詞を歌った不思議を妻とともに想像したりした。35年前に友人と旅行した経験のある妻は、世界遺産になったからか、鹿の数は減ったが、観光客は増え、環境がきれいになっていると驚いていた。
溢れている外国人観光客の接待を自然にこなしているお好み焼き店や土産物店の従業員を目にしながら、秋ノ宮島を堪能した。
小旅行の翌日、テレビのある番組でギンナン(銀杏)について放映されているのを見て、「丸くて、小さくて、匂うもの」繋がりで、鹿の糞からギンナンに繋がった。そういえば、週1回楽しんでいるテニスコートに面した幅の広い歩道の両サイドに、イチョウ(銀杏)の木がたくさん植えられており、先週のテニス終了後にギンナンを踏んでしまい、シューズを水洗いしたばかりであった。
この機会に、ギンナンについて調べてみることにした。最初に気付いたのは、ギンナンもイチョウも漢字で書くと銀杏なのである。そもそもイチョウの木は15000万年前にあったことが化石からわかっているように、「生きた化石」といわれる。5000万年前には最も茂っていたようで、世界各地に生えていたようであるが、氷河期に入って中国以外では見られなくなったようである。日本には仏教とともに伝わったようであり、江戸時代には寺や神社などに多く植えられた。現代は公園の木として、街路樹として、防災樹として多く植えられている。大阪の御堂筋のイチョウ並木は有名であり、東京にも多く植えられている。
秋になると落下する「丸くて、小さくて、匂いが強烈な」ギンナンについて、意外と知られていないのは、雌の木にのみ実がなるということである。ギンナンは、脂質・糖質・タンパク質・ビタミンABC・鉄分・カリウムなどを含み栄養価が高い。滋養強壮・頻尿や夜尿症の改善・ぜんそく治療・咳止め・痰切りなどに効果あるとされて、古くから漢方薬と利用されているのである。
子供のころ、火箸で熟した果実を集め、水を入れたバケツに入れて数日間おいた後、果肉を取り除き、水洗いしか殻をフライパンで焼いて食べたことを思い出した。丸くて、小さくて、匂うものはいろいろあるが……