初冬の海辺で遊ぶなんて馬鹿げてる。ナムジュンはそう思ったが、テヒョンだけでなく、ジミンもホソクもユンギもグクも楽しそうに笑っているので、何も言わなかった。それに、笑っている彼らを見ていると、ナムジュン自身も段々と楽しくなってきた。結局皆で集まって遊べれば、何でも良いのだ。
「コーラ注ぐよー。コップ並べてー。」
ホソクが大きなコーラのボトルを持って声をかけた。
「はいはい。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ。・・・あれ?」
テーブル替わりの段ボールの箱に、グクがリズミカルに紙コップを並べたが、何故か人数より一つ多い。
「一つ多いよ。」
無表情に顎でコップを示すユンギに、グクは首を傾げた。
「七人・・・じゃないよね?僕達。」
ジミンが爆笑する。
「やめろよ、もう一人見えるのかお前は。恐いだろ。」
しかしホソクも首を傾げた。
「でも、なんかさ、俺も何故かもう一人・・・なんて言うか、足りない気がするんだよね。ナムジュンはそんな気しない?」
ナムジュンは肩をすくめることで返事を返した。
「だよな。俺、まだちょっと病気っぽいのかな。」
「そんな事言うなよホソク。」
「だって・・・・」
言い争いを始めたジミンとホソクに向かってもう一度肩をすくめると、ナムジュンは波打ち際の方に向かって歩き出した。
肩をすくめて見せはしたたが、実はナムジュンも何故か一人足りないと感じていた。その不足感は深刻で、ほとんど喪失感と言ってもよかった。
「何か、とても大事な事を忘れてしまったような気がするんだよな・・・。」
ナムジュンは、独り言を言いながら、歩いて行った。
波打ち際では、テヒョンが膝を抱えて座っている。
さっきまで、楽しそうにはしゃいでいたのに・・・。
膝を抱えたテヒョンの後姿が寂しそうで、ナムジュンは心配になって声をかけた。
「テヒョナ、どうした?」
ナムジュンはテヒョンの横に座った。見ると、テヒョンは泣いている。
「なんで泣くんだよ。何か、悲しい事でも思い出したのか?」
「わからない。」
テヒョンは首を振ると、涙を手で拭った。
「わからないけど、とても幸せで、寂しくて、嬉しくて、悲しいんだ。・・・おかしい?俺?」
「いや、おかしくない。・・・実は、俺もそうなんだ。何故か寂しくて、でも不思議と幸せでもある。」
「そう!そうなんだよ。幸せなんだけど悲しい。寂しいんだけど、愛されてるって感じる。変てこな気持ちだ。沢山の色々な種類の気持ちがどかっと自分の中に入り込んできたみたいな感じ。」
ナムジュンは頷いた。テヒョンの言う通りだ。
二人は、しばらく無言で並んで座っていた。
普通、冬の海は寂しいと言われるけれど、今眺めている冬の海は何か暖かい感じがする。
穏やかに波を寄せる海に太陽がそっと優しい光を投げかけている感じだ。夏だとこうはいかない。もっと強くて激しい感じになる。今の二人には、この優しい冬の太陽が心地良かった。
「ナムジュニヒョン。」
「何だ?」
「俺、明日警察に行ってこようと思う。」
ナムジュンは驚かなかった。
「そうか?」
「うん、前は止められたけどさ。お袋のこと思うとっていうのもあるけれど・・・でも、それはそれだから。俺はけじめをつけて、それで自分の将来をちゃんと作って行こうと思うんだ。」
ナムジュンは優しく言った。
「一緒に行くよ。付き添ってやる。」
「ありがとう。」
ナムジュンは目の前に広がる海と空を眺めた。季節外れの蝶がふわふわと飛んでいるのが目についた。蝶は冬の太陽と海の両方に照らされて、輝きながら舞っている。
「きれいだな。」
「うん。」
テヒョンは微笑んだ。
「この世界は、美しいものが多くて、そして素晴らしいね。」
「その通りだ。」
ナムジュンは立ち上がった。
「みんなの所に行って、コーラを飲もう。」
「わかった。」
ナムジュンは立ち上がった状態で振り返った。テヒョンの座っている前の砂浜に、彼が木の枝で書いたものが見える。
「何を書いている・・・ラブユアセルフ?」
テヒョンは立ち上がりながら笑った。
「なんか、寝ている時かな?自分の耳元で、この言葉が聞こえたんだよ。」
「女子高生でも書かないよ。そんな照れくさいセリフ。・・・・でも、良い言葉だ。」
ナムジュンはからかいながらも、何故かしみじみと心に響くものを感じて「良い言葉」と付け加えた。
本当に良い言葉だ。この言葉は、これからの人生、何度も思い出すだろう。
きっと・・・。
(終)