僕は、全てをナムジュンに打ち明ける事にした。
僕達はキッチンに場所を移した。以前に2人でコーヒーを飲んだ場所だ。
ナムジュンは、最初は呆れて、そして次にひどく怒った。僕がふざけて冗談を言っていると思ったからだ。
「天使だって?こんな時に冗談でごまかそうとするなんて」とぷりぷり怒っていたが、ナムジュンが毒薬の作り方を図書館の本で学んでいて、それによって時を遡る前に死んでいると伝えると、静かに話を聞くようになった。図書館でそんな知識を得ているなんて、自分自身しか知らないはずの事だったからだ。
長い話だった。しかし、ナムジュンは夢中になって話を聞いてくれた。
「信じられない。俺達が一度死んでいるなんて。」
「悪魔が手を出したせいだったんだ。本当は君達の人生は違うものだったのに。」
ナムジュンは腕を組んで、ちょっと上を見上げた。
「天に神はおわすんですね。天使達も。」
「そうだよ。」
「科学で説明できない事は、全て子供だましのでたらめだと思っていました。」
僕は楽しそうに空を見上げるナムジュンを見て、少し心が和んだ。彼の知的好奇心がすごい勢いで回転しているのを感じたからだ。
「人間はこの広い宇宙の中では塵のような存在だ。それなのに、自分達が作った科学の基準に当てはまらないものは全てまやかしだと言う。すごく思い上った話だ。」
ナムジュンはうんうん、と頷いた。
「でも、ジンヒョン。地獄に落ちるって本当ですか?・・・それと、俺達は?テヒョンはもう本当に助からないんですか?」
「地獄・・・行かなきゃいけないんだろうね。ま、地獄って言ってもよく宗教で言われているようなものでは無いんだけど。そこで釜茹でにされたり、鞭で打たれ続けたりとかってことは無いよ。ただ、最低の魂が行く所だから、とても陰鬱で殺伐としているらしいんだ。でも、そこでしばらく我慢して、生まれ変わることだってできるから。」
「なるほど。」
「君たちは大丈夫だよ。神は、僕が地獄に落ちると言っただけだったから。テヒョンは・・・テヒョンはわからないけど・・・。」
ナムジュンはカウンターの上に肘を置いて、両手で顔を覆った。
「テヒョン・・・頼むから帰ってきてくれ。」
そのまま、僕達はしばらく不安に包まれた沈黙に浸った。
もはや、テヒョンは手の届かない場所に行ってしまった。もう、どうしたらいいのかわからない。
その時、カウンターに置かれたナムジュンのスマホが振動しながら音を立てて、僕とナムジュンは一瞬飛びあがった。
ナムジュンがスマホの表示を見てつぶやく。
「テヒョン?」
ナムジュンの手が一瞬ためらう。さっき聞いた話の影響だろうか?自分がスマホに出なかったせいで、テヒョンが海に飛び込んだという話を聞いて、ナムジュンはかなりのショックを受けていた。
僕の心臓がどきどきと大きな音を立てている。頼む、ナムジュン。電話に出てくれ。
ナムジュンは一瞬の躊躇の後、素早くスマホを手に取って会話を始めた。
「テヒョナ?」
ナムジュンはスピーカーをオンにした。
「・・・・ヒョン。助けて・・・。」
ナムジュンと僕は目を見合わせた。いつものテヒョンだ!
「今どこにいるんだ?」
「海。どこだかわからないけど、どこかの海。」
「どうやって、そんな遠い所まで行ったんだ?」
「わからない。気が付いたら、ここにいたんだ。恐いよ。」
僕はナムジュンに言った。
「すぐに助けに行くって言ってやって。」
ナムジュンは頷いた。
「すぐに助けに行くぞ。動かないでそこで待ってろ。」
ナムジュンが電話を切るのと同時に、僕達は立ち上がって部屋を出た。
「どうして、テヒョンは正気に戻ったんですか?」
「今、朝日が昇ったからだと思う。昇ったばかりの太陽の光はパワーが強い。邪を払うんだ。だから悪魔の力が弱まったんだよ。でも、油断はできない。テヒョンの中に入り込んだ悪魔がまたテヒョンを支配してしまう。急ごう。」
ナムジュンはスマホの位置情報をチェックしている。
「テヒョンの奴、仁川にいます。」
「わかった。・・・そうだ、ナムジュン、急いでジミン達全員を起こしてくれる?彼らの力も必要だ。」
「わかりました。」
僕は車に乗り込むと、シートベルトを締めてハンドルを握った。最後のチャンスだ。自分とテヒョン。そしてナムジュン達の友情を信じよう。